夫に欠陥品と吐き捨てられた妃は、魔法使いの手を取るか?

里見

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本編

47、反逆を企む者

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十五で婚約して、十八で結婚した。それから四年、チェスティ王国への侵攻が順調に進んでいる。

デュラハンが後宮の門を汚したことにより、周辺諸国がざわついている。それに伴い、帝都に滞在していた貴族たちが、領地へと帰ってしまっていた。

今日、リュシアーナは、ピオヴァーニ伯爵邸に招待されていた。

日当たりの良い部屋に通されると、ブリジッタとアッシュリアがすでに席についている。

ブリジッタの夫は、エヴァリストと共にチェスティ王に向かっている。そのためか、屋敷の中は静かだった。

ブリジッタの侍女は、リュシアーナのラン同様、口の固い者ばかりで、密談には誂え向きの場所でもある。

「いらっしゃい」

「やあ」

ブリジッタとアッシュリアがリュシアーナに気づいた。リュシアーナは、挨拶を返して、侍女に引かれた椅子に座る。

「最近は忙しそうだね。父にも聞かれたよ」

アッシュリアが口火を切る。バーゼン伯爵令嬢の彼女だが、活動拠点は外国であり、ルカに呼ばれて帰国していた。

「バーゼン伯爵は、なんと?」

「第一皇子が辺境伯たちに連絡をとっているが、連絡口が領主代行になってるから、本当は誰が動いているのか?ってさ」

「私の父も同じことを聞いてきたわ」

アッシュリアの答えにブリジッタも同調する。ブリジッタの実家は、メリノ侯爵家だ。

二人とも父親が当主であり、歴史ある貴族の出身だ。

「領主代行はわたくしよ」

「だろうね。私もそう答えたら、なぜか肩を落としていたんだ」

どういう意味だろうか。

バーゼン伯爵家は、騎士団長のクローチェ伯爵に追随するように中立を貫いている。

「メリノ侯爵の方は?」

「特に反応はないわ」

ブリジッタは、淡々と答えた。メリノ侯爵もブリジッタ同様、顔には出ないタイプだ。本心はわからない。

「あの年代は何かを隠しているようだから、気持ち悪いね。まぁ、隠すというより、口にしてはいけない。禁忌のようなものだろうけれど」

リュシアーナたちの父親の世代は、貴族の当主として、経験豊富な者ばかりだ。そして、長年、皇帝と共にこの国を運営してきた。

(……禁忌。なにかあったかしら?)

リュシアーナは、父親を思い出しながら考えてみるが、特に思い当たるものはない。

「――アッシュリア、砦の補修の材料について教えてもらえるかしら」

リュシアーナは話題を変えた。先日、エヴァリストが用意するように言ってきた鉱石ついて尋ねる。

「なんだい?」

アッシュリアは、建築家だ。砦と屋敷だと勝手は違うだろうが、材質については詳しい。

「オルトマリア鉱石というのは、材料として一般的なものなの?」

リュシアーナが知る限り、一般的ではない。だが、エヴァリストがなぜ欲しがるのかは知っておきたかった。

「砦の補修にはまず使わないだろうね。というか、建物にもほとんど使わない。私が使うとしたら、装飾部分かな。加工しやすくて、独特な艶があるからね」

リュシアーナはますます不可解になる。チェスティ王国とは交戦中だ。意匠性よりも機能性が重視される。

「そういえば、質の良い人形に使われていたのではないかしら。オルトマリア鉱石には、普通の変色防止の薬だと長持ちしない性質があるわ」

ブリジッタも知っていたようだ。今度は人形で、侵攻には不必要なものだという。

建築学と薬学の専門家が揃っていたおかげで、またエヴァリストが何かを企んでいる可能性が高くなる。

「砦の補修ということは、もうヒル砦を取り返したの?」

ブリジッタの問いかけにリュシアーナは頷いた。

「びっくりするくらい早いねぇ。私なら確実に砦に仕掛けを施してるよ」

その仕掛けの解除にオルトマリア鉱石が必要なのだろうか。だが、書簡にはそれほど切迫した雰囲気はなかった。

「また策略を? 今回は、特別に何かをしている様子はなかったけれど」

リュシアーナの様子を見て、ブリジッタが言う。

ブリジッタの夫は、白狼騎士団の第一騎士だ。第一騎士がいつも通りの様子で、第二騎士のリシャルも特に何かを聞かされたわけではない。

――リュシアーナの考えすぎだろうか。

「辛気臭い顔をしなくてもあの子がなんとかしてくれるだろうさ。それより、第三皇子の皇子宮の改修が終わったんだ」

アッシュリアは、ルカが対処すると信じ込んでいるようだ。そして、テーブルの上に図面を広げた。

アッシュリアが期待した目で、リュシアーナとブリジッタを見ている。

しかし、リュシアーナが図面を見たところで、気づくものはない。ブリジッタも同様だ。

「気づかないかい? この皇子宮にも隠し通路を作ったんだ!」

最悪である。リュシアーナとブリジッタの目が据わった。

「皇子宮の地下にある独房の一つから、下水道に抜け出せるように設計したんだ。いやぁ、隠し通路というのは、いつ作ってもロマンがあるよねぇ……いたたっ」

語り出すアッシュリアの頬をリュシアーナとブリジッタで両側から引っ張る。

「……私だって勝手に作らないよ。依頼者の希望を叶えてるだけさ」

アッシュリアは頬をさすりながら言い訳した。ノリノリだったくせに。

「――楽しそうね」

そこに声がかかる。クラリーサがやってきたのだ。

クラリーサは、夫が外交官であるため、すぐに帝都を離れると思われたが、意外にも残り続けていた。

「遅かったわね」

ブリジッタがそう言って、席を勧める。クラリーサは図面を一瞥したが、何も言わなかった。アッシュリアが肩を落とす。

「先ほどカリナから連絡があったわ。シクルの王女様と手を組めたって」

クラリーサが言った。

カリナは、ベルティ辺境伯の夫人であるため、真っ先に帝都から引き上げていた。皇帝の暗殺計画は、順調に進んでいるようだ。

「わかったわ。……そろそろ、あの子から頼まれていることを教えてもらえるかしら?」

リュシアーナは、三人を見た。

「そうね。擦り合わせた方がいいと思うわ。リュシアーナにしか言っていないこともあるはずよ」

クラリーサはそれに賛同する。リュシアーナが玉座に座る。そこまでの道筋の全貌は、ルカしか見えていない。

だが、リュシアーナが首謀者なのだ。ルカに責任を負わせるつもりはない。

「わたくしには、三人の皇子から、皇位の委任状を得るよう言われたわ。その委任状を持って、わたくしに後ろ盾を与えると」

リュシアーナは最初にルカに言われたことを話す。

「後ろ盾とはなんだい?」

アッシュリアに問われて、リュシアーナは素直に答えた。

「……魔法使いの国の国主が、皇帝となったわたくしの後見人になるそうよ」

「驚くほど大きな魚を釣り上げたものねぇ」

クラリーサは楽しそうに笑っている。

アッシュリアとブリジッタは、魔法使いの国の国主について、その影響力がわからないのか、反応が薄い。

「私は新しい毒薬の開発を依頼されてるわ。すでに毒薬は完成していて、小動物で検証中よ」

次にブリジッタが明かした。薬学者である彼女には、やはりその分野の依頼がされている。毒薬は、皇帝を暗殺するためのものだろう。

「私は、第三皇子の皇子宮の改修だ。そして、もう一つ、ある建物の再建を依頼する予定だと聞いている。その建物と皇子宮の隠し通路を繋ぐんだとさ」

次に話したのは、アッシュリアだ。

「ある建物とは、後宮のこと?」

リュシアーナは、尋ねた。アッシュリアへの依頼も暗殺に繋がるのではないだろうか。

「おそらく?」

彼女は首を傾げながら答えた。明確には知らないらしい。

今の後宮は、デュラハンに門を汚されたが、再建するほどのことではない。

となれば、この後に後宮に何かが起こるのか。再建するほどの事件が――。

(むしろ、最初から後宮を狙っていたから、デュラハンの血で汚した……?)

「わたしは、カリナの分も聞いているわ」

最後にクラリーサが言う。

「わたしは外交で得られた情報の横流しと、各領地の貴族にわたしの息がかかった愛人を斡旋すること」

クラリーサの言葉にリュシアーナは目を瞬かせた。てっきり主要な貴族に嫁いでいる令嬢たちは、カヴァニス公爵に言われたからだと認識していた。

青薔薇会の繋がりで、リュシアーナに領地の情報を送ってくれたとばかり思っていたのだ。

(もしかして……彼女たちも自分の意志で、為せることを果たそうとしていたの?)

リュシアーナが思うよりもこの国を憂う女性は多く、味方がいたのかもしれない。

「カリナは、シクル王国の王女と手を組み、ベルティ辺境伯領から反乱を起こすこと」

次の言葉にリュシアーナは、はっと目を見開いた。

「反乱なんて、無茶だわ」

「カリナは、辺境伯領で自分の軍を育てているのよ。近隣のクズ領主たちを巻き込んで、蜂起する。メラーニア子爵含め、北東の領地は限界に近いもの」

メラーニア子爵は、課税が重くなったところだ。エヴァリストの援助もなかった。

反乱に加担する可能性は非常に高い。その上、他の領主たちも似たり寄ったりの状況だ。

だが、どれほど領地が困窮しようと、武力という面で見れば、勝算は低い。

帝都には、精鋭の騎士たちが揃っている。破閃が使える騎士のほとんどは、帝都にいるのだ。

そして、全員破閃が使える金翼騎士団が、皇帝の守りを固めている。

「反乱が成功すればよし。しなくても、敗退すれば、シクルの王女様が捕虜として後宮送りになる。それだけのことよ」

あまりにも特攻がすぎる。リュシアーナは、自分の首を賭けても、旧友たちの首まで賭けさせるつもりはなかった。

「今すぐやめさせて。そんなことはさせられないわ」

リュシアーナは、クラリーサに言い募る。だが、ここにいる三人は、誰も止めようとは言わなかった。

「無駄よ、リュシアーナ。もうすぐ始まるわ。いえ、もう始まったかも」

クラリーサは、うっすらと微笑んだ。


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