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第四章 王道をなぞれ!な学園編
第3話 陰キャムーブ
しおりを挟む放課後、帰り支度をする織理のもとに現れたのは匠だった。
「先約なければ一緒に帰ろー。で、どっか寄り道しよーぜ」
「いいよ、匠と帰るの久々だし」
「夏休みだったからね。ま、ちらほら会ってたから織理自体は久々じゃないんだけど」
夏休み、なんだかんだあったあの同棲を始めてすぐに夏休みになっていた。
だから約一ヶ月半ぶりの下校、夏休み前なら先約も何もなかったのに不思議なものだ。前々から織理と匠は帰りを共にする事が多かった。なんせ唯一の友人である。思えばどの様な馴れ初めだったかも今ではあやふやなくらいには、一緒にいる事が当たり前となっていた。
特に持ち帰るものもない、朝より軽くなった鞄を手に持ち匠と共に教室を出ようとする。すると、攪真から声をかけられた。
「織理、平和島と帰るんか?」
「攪真……」
ちょっとだけ昼間のことを思い出して反応に困ったが、本人に悟られてはいけないと顔を崩さずに頷く。これも攪真の名誉のためだ。
攪真は攪真で織理と帰れないのを残念に思っていた。家では二人きりになれることもない。出来るならこう言ったタイミングで二人きりになりたいのだが。とは言え匠を蹴ってまで帰ろうとは攪真も言えない。
そんなことを考えていると、攪真の背後から勢いよく手が伸びてきた。
「かーくまくん! 結菜と一緒に帰ろ?」
ぎゅ、とでも効果音がつきそうなほどの大胆な抱擁。背中から抱きしめられた攪真は驚いた顔をする。匠も織理も流石に目を丸くした。
織理と匠に気がつくと結菜もきょとんと目を丸くする。
「あれ、お話ししてたの? オタクくんと……なんだっけ、洗脳くんか。なんだか珍しい組み合わせだね」
オタクくんとは匠のこと、洗脳くんはそのまま織理の事だ。その呼ばれ方に二人は少し不快感を覚えた。
明らかに邪魔と言っている目線に、陰キャ匠は居心地が悪くなり織理の手を引く。
「俺たち帰るとこだから……行こ、織理……」
「うん……」
2人はそそくさと教室を離れる。
攪真は見送ることしかできなかった。そりゃあんなこと言われては居心地が悪いだろう、と思ったから。織理達には酷いことをしてしまった。攪真は結菜に向き直り、言動を諌め用と口を開く。
「結菜ちゃん、あんまクラスメイトをそないな風に言うのは」
「攪真くんやさしーね! でもあの子達いっつも暗いし、印象ないし、何より洗脳とか気味悪いし」
「……そないなこと言ったらあかんよ。さ、帰ろか」
攪真の言葉を遮ったそれに、うまく返す事ができなかった。――自分の能力も大概洗脳みたいなもんなんやけどな、その言葉は口にできなかった。結菜の言葉に対して反感を覚てしまうのに、あの様な言葉を直接言われることは避けたかった。だからこれ以上刺激するのも良くない、そう自分の気持ちを押し込んで一緒に帰る事にする。
本当は今すぐにでも織理を追いかけたいのに、それをした時に彼女が何をするのか分からない。だから今日は諦める、それしか攪真に取れる物がなかった。
――――
「あれ系の女の子怖いよなー……スクールカースト上位って感じの」
帰り道、振り返るかの様に匠はぼやく。オタク男子にとって苦手な部類の女、オタクに優しく無い方の不良混じりのギャル。自分からは絶対に話しかけない人種だった。今までは関わりがなかったが、攪真が織理に絡むことによって無駄に接点が生まれてしまったのだ。
それは織理も思う様で、言葉にはせずともうんざりした雰囲気が漂っている。織理は外見や素行から誤解されやすいが、決して大人しく無害で純粋な性格ではない。嫌いなものは嫌いだし、悪意には動じないだけで気弱なわけでもない。
「擾繰って女遊び激しいって噂はあったもんね。その関係かな、面倒くさ……」
ああ言う女を見ていると彼女欲しい! と叫ぶ気持ちも失せてくる。女の子は怖い。根っからの陰キャ匠だった。
「女遊び……」
織理はその言葉につい反応してしまう。――攪真そんなに女の子好きだったんだ。ふと思うのはそんな言葉だった。なんせ本当に告白されるまでは攪真に興味がなかったのだ。実地訓練で負かしてからやけに構ってくる、自分より弱いクラスメイト。故にそれまでの交友関係も、クラスでの立ち振る舞いもあまり見ていなかった。確かにクラスの中心には立っていたような気もするような、しないような……あの独特の訛りがあるからそう記憶にあるだけで、さもなくば本当に気に留まらなかっただろう。
しかしそんなに女の子好きなら、なんで男である自分に好意を向けているのだろう。――もしかして女だと思われてた? 織理は少し不満に思った。
彼はその見た目から稀に女と間違えられる男だった。そしてこぞって言われるのだ『なんだ男かよ……』と。自分の性別くらいしか確実なものはないと言うのに、それすら足蹴にされる事が嫌だった。
ともかく攪真の遍歴を聞くと自分は何に合致したのかが分からない。やっぱり女の子だと思われたのだろうか。
「織理なんか変なこと考えてない?」
匠は隣で黙る織理に声をかける。織理はハッとして匠を見た。
「匠、俺の事女の子だと思ったことある?」
「何言ってんだこいつ。いや無いけど、女装が似合いそうとかは思ってるけど男だとしか思ったことないよ」
言葉の途中に何か変な単語が混じったが匠は答える。その話題の飛躍の仕方に織理の脳内が何となくだが察せた。
「擾繰が女好きなのになんで自分に惚れてるんだか分からない的な?」
「うん」
――匠はエスパーなのだろうか。そんなに自分はわかりやすいのかと織理は複雑な気持ちになる。
しかし匠は真面目に何かを思い返していた。
「確か最初の動機は『強いのに弱い織理を守りたくなった』みたいなこと言ってた気がするんだよなぁ……」
その言葉は織理も匠伝てに聞いたことがある。咄嗟の言葉だったと聞いているからそれは本心だとしてどう言う解釈をしていいのだろう。織理の頭の中には更なる疑問が広がった。
「織理の事弟だとか言い張ってた時期あるし庇護欲が恋愛感情にすり替わったのか……?」
匠も頭を悩ませる。攪真のわかりやすい織理への好意を疑ったことはなかったが、いざ考えてみると理由というものはわからない。
勿論匠的には、分からなくても『恋愛なんて急に始まって急に終わるものでしょ』と言う価値観があるため気にしなくてもいいのだが、親友が悩んでいるとなれば一緒に考える。あとこの手のどうでもいい思考をするのが雑談には丁度いいのもある。
「そういえば……今日も俺の事弟みたいって言ってた」
「あいついつまでそれで誤魔化そうとしてるんだよ」
――弟。それは要するに自分のことを、面倒を見なくてはならない格下だと思っているからこその言葉だろう。だからその言葉自体は受け入れていない。
だがあの情けない姿は面白かった。織理は昼間を思い出して小さく笑う。
匠はそれをみて『俺何かおもろいこと言った?』となりつつもとりあえず一緒に笑った。
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