優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―

無玄々

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第四章 王道をなぞれ!な学園編

第5話 夢の中なら

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「ねぇ、攪真……俺、攪真のこと好き……だから……全部攪真のものにして?」

 蕩けた目で織理が言う。縋るように俺の腕を掴み、体を寄せる。あぁ、ついに織理が俺のものになってくれる。俺だけを好きでいてくれる……

「当然やろ……何があっても離さへん。織理、……全部俺のものにしたるからな」
「っ、あ……、ん……か、くま……好き……!」

 可愛い織理の顔に手を添えて顔を寄せる。白く滑らかな肌、琥珀色の瞳がこちらを見ている。

 だが頬は俺の手に溶けた。何も言わずに形を無くしていく織理をかき集めようと手のひらを握る。ぬるりとし感覚だけを残してそこには何もなくなった。

「なん、……で? こんな」

 ふとみれば周りの景色がおかしく見える。空は紫色、ここは家の中ではない。町行く人は同じ方向に向かっている。その先にはあるのは万里の長城のような建造物……

「でもこれが一番早いんだからさ」
「わかる。ここ来たらやっぱあれよね」
 でも帰り方はわかる。ここには旅行目的で来たのだから。だから織理と一緒に……



 ピピピという電子音と共に攪真は目を覚ました。何か妙な夢を見たような気がする。ただ言葉にしようとすると薄れていくそれは、暫くすると完全になんだったか思い出せない。ただ悪夢だった気がする。

 軽く支度を整えて部屋を出る。ほんのりと暖かい空気が流れている、朝食が用意されているのだろう。

 階段を降りリビングに入れば、キッチンに立つ在琉の姿があった。

「なんや在琉が朝飯作っとるんか」

 声をかけられた在琉は素っ気なく返す。

「嫌なら食べなくていいけど。今日はオレが1番に起きたから作ってるだけ」

 ということはまだ織理達は起きてないのか? 弦も織理も朝に強い方ではないので違和感はないが。

「起こしてこいよ、飯出来てるし」
「せやなぁ。助かるわ、あんがとさん」

 言われた通り二階へ上がり2人を起こしに行く。手前にあるのが織理の部屋、ノックしても返事はない。一度声をかけつつ扉を開ける。

 殺風景な部屋の中でベッドが膨らんでいる。

「織理、朝やで」

 布団をゆっくり剥がすと手足を丸めて眠る織理の姿があった。織理の長い髪がベッドに広がり波を描いている。――綺麗やなぁ。立っている時は体に隠れてあまり見えない後ろ髪。広がっていると神秘的に見える。

 そしてよく見ると普段つけている眼帯もはずされているようだった。敷布団に接地する側故によく見えないが、黒く変色した皮膚が見えた。

 ――織理の眼帯の下ってあんなんになっとったんか。風呂上がりですら、織理は眼帯をすぐにつけている為に見たことのないそこ。思えばなんで眼帯をつけているのかも攪真は知らない。能力者の世界では別に珍しいことでもないのだから気にしていなかった、というのが正解だが。

 少しゆすれば漸く織理は目を開けた。ぼんやりとした瞳が攪真を捉える、そして目が見開かれた。

「寝坊した、? え、なんでかくま?」
「落ち着け、遅刻するほどは寝坊しとらんから」

 慌てる様子の織理は珍しい、確かに普段人に起こされないのにこうなってしまうと焦る気持ちもわかる。

 立ちあがろうとした織理は枕元に置いてあった眼帯に気がつく。そして今更だが手で反面を隠した。それはもう何に焦っているのかわからなくなるほどに体が強張る。

「……背中側しかよく見えとらんかったし安心せえ。先に下言っとるから、早よ支度しや」

 攪真も何も触れないことにした。人のコンプレックスは色々だ、攪真にとって気にならないことも織理にとっては嫌なものなのだろう。そこを踏み入ってまでその眼帯の意味など聞く気にはならない。
 部屋を出て、改めて次は弦の部屋に向かう。廊下の最奥、こちらはノックしたら出てきた。

「おはよー……、ねっむいねー……」
「おはよう先輩。なんか……えらい眠そうですね」

 重たげな目、ぽやぽやした雰囲気が漂っている。普段の先輩に見慣れていると、この少し抜けた感じのする姿は不思議だ。ギャップ、と言うのだろうか。少し可愛い気もする。

「休み明けだからかな、もっと寝てたいんだけど……」

 少しふらふらしながら弦は攪真の横を過ぎた。

「あんた大丈夫か、転げ落ちるんやないの」

 流石にこれは怖すぎる。この人こんなに朝弱いのか、先程までの事など頭から抜けるほどに心配が勝る。階段を降りていく弦にひやひやしつつも、攪真はリビングへ向かうことにした。


 夏休みの間彼らは食卓を囲むことがなかった。起きる時間も食べる時間もバラバラで、わざわざ合わせる気がなかったのだ。だからただの食卓が妙に新鮮に映る。

 在琉の用意した朝食は思った以上にまともで、ブロッコリーと卵、ハムを混ぜ焼いた物と卵のスープ、そしてトーストが用意されていた。朝だからかあまり重くないものにしたのだろう。その気遣いが出来ることにも攪真は驚いていた。失礼だが。

 箸をとり、おかずをつまむ。少し味は薄いが物が物だから気にならない。攪真はちら、と織理に目を向けた。彼も目の前の皿を箸で突いている。
 ――織理の食べ方、なんから小動物みたいで可愛い。ちまちまと箸を進める姿はイメージ通りといえばイメージ通り。しかし実際見てみるとそんな感想を抱く。思えばカフェによることはあっても、食事を食べに行ったことはない。自分が外食をしないタイプ故とも言えるが、同棲を始めて今まで意識したこともなかった。

 そんなことを考えていると、わずかに皿の擦れる音が隣から聞こえた。さっさと食べ終えたのは在琉だ。他のメンバーを待つことなく席を立ち食器を持っていく。

「オレ先出ますから」

 時計を見ると確かにもういい時間になりかけている。片付けて外にで始めた方がいいだろう。攪真も残りを口に含んで手を合わせた。
 さっさと出て行った在琉を横目に食器を片付け攪真も出る準備を始める。

「2人はどうするんや、すぐ出れるか?」

 まだ食べ終わっていなそうな2人に声をかける。すると弦は僅かに目を伏せて否定した。そして織理を見る。

「俺は後からゆっくり行く。織理、攪真と一気に行く? 食器片付けとくから」

 弦の申し出に織理も首を振る。

「自分でやります……、ありがとう弦さん。攪真ごめん、後から行くね」

 別にそれは拒絶ではない。ただタイミングが合わないだけなのに。少し寂しく思いつつも、ただ「そうか」と返して家を出た。
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