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【3‐1】ステップアップ
レベルアップがしたいのです Ⅱ
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皆が起き揃った時は昼前だった。晴れているが、小雨が降ったせいもあって今日は空気が澄んでいる。
過ごしやすそうな空模様だが、いかんせん昼前。
皆が揃ったとき、やはり竜次は仲間だと再認識した。
ジェフリーは合流した竜次に挨拶をする。
「珍しく寝起きがよさそうだな」
竜次は少し照れているようだ。彼にそっと寄り添うキッドは表情も明るく、余計な口出しをしない。
竜次は小さく笑う。
「ジェフ、みんなも、やっぱり私はもっとお付き合いします。これからもよろしくお願いしますね?」
「兄貴がいないと俺を叱る奴がいないから困る」
「こういうときは、うれしいって素直に言ってほしかったですねぇ?」
挨拶を交し、着替えを済ませ、借り物の浴衣をマナカに返却する。
「姫姉様はお休みになられていますので、御用がありましたらお受けしますよ?」
サキだけは明確な用事があるみたいだったが、他の者は用と言われてもぱっとは思い付かない。
サキはマナカにお願いをした。
「僕はまた大図書館を利用したいです。鍵をお願いできませんか?」
「失礼ですが、大魔導士様、沙蘭に魔法を強化するものはありませんよ?」
マナカは首を傾げた。サキは首を横に振って否定した。
「違います。僕、せっかくなので杖で受け身を学びたくて。沙蘭の大図書館は、そういった武術の書物がたくさんありましたよね? 全部フィリップスに運ばれたわけではなかったみたいなので」
サキの言葉に竜次とジェフリー、マナカまでもが目を輝かせた。
竜次はサキの肩に手を置き、営業スマイルを超越した眩しい笑顔を見せた。
「サキ君、それは本よりも、実際に学ぶ方がいいですよ?」
「えっ? どういうことですか、先生?」
サキは難しく考え過ぎて、また簡単なことに気が付かない。
竜次が人差し指をビシッと立てながら説明しようとしたところ、ジェフリーが華麗に割り込んだ。
「百聞は一見に如かずってヤツだ。本で読んだだけで、いきなり実戦に持って行こうなんて無理に決まってる。こういうのは体で覚えた方がいい」
「お言葉ですがジェフ兄さん、このお話はわたくしがお受けした方がよろしいかと」
さらにマナカも割り込んだ。城の入口で騒がしく話しているうちに、会話に入れない者たちが不満を漏らす。
「サキばっかりいいなぁ。わたしもお稽古したいな?」
「ホントよね。あたしも自力アップなら励みたいわ」
サキばかりモテモテで女性陣が機嫌を悪くしている。
「え、格闘術やるなら混ぜてほしい」
「ワタシもデス。忘れてるので稽古付けてくださるとうれしいデスネ」
コーディはともかく、ローズも基礎の底上げには参加したい。
弟のジェフリーにおいしい所を持って行かれてしまった。いつの間にか埋もれてしまった竜次はマナカに質問をする。
「マナカ、あなた、仕事は大丈夫なのですか?」
マナカと言えば、城主、正姫の護衛だ。今は城の入り口にいるが、本来は仕事があるはず。年中無休ではないと思うが。
「光介が中におります。兄さん方はどうしますか? とりあえず、大図書館ではなく、道場の鍵をもらって来ますね?」
マナカがあまりにも淡々と、当たり前のように参加しようとしている。竜次は慌ててマナカを止めに入る。
「いえ、そうではなくて、なぜあなたがやる気満々なのかと。あなたは他にやることがあるのでは?」
城内へいったん下がろうとするマナカが、キョトンとしながら竜次に答える。
「稽古でしたら、兄さんたちが沙蘭を発たれてから、街の者と定期的にするようになりました。今や講習会まで行っているくらいです。見直す機会は兄さんたちのおかげでもありますよ。普段、縁がない方との手合わせは大変ためになりますゆえ、これもお仕事です」
答えてすぐ、マナカが城内へ下がった。本当に鍵を取りに行ったようだ。
竜次は呆れて両手を上げる。
「どうやら今日は、みんなで強化訓練になりそうですねぇ」
ジェフリーは楽観的な意見を言う。
「どうせフィリップスへ行くには夜行便なんだからいいんじゃないのか? 俺もリハビリしたいしな」
ジェフリーは肩を回した。まだ動かしづらそうだが、本人からしたら少しでも早く調子を取り戻したいだろう。
圭馬も呆れているようだ。
「現実離れした超人ばっかりなのによくやるよね。まだ強くなろうとするのかい?」
ショコラはもっと呆れているようだ。
「圭馬チャン、現実離れって言うたら、わしたちが言っても説得力がないのぉん」
「それはそうなんだけどさ。この人たちってホントに一般人だったのか疑うよね。その辺で平凡に暮らしてる街の人と何ら変わりないし」
圭馬が言いたいことは漠然とだが理解できない内容ではない。
ファンタジーなんかでよく目にする、『選ばれし者たち』のような気取りはまったくない。魔法や異常な化学などの一部は理解に苦しむし、混在するが、特別な世界でもないのだ。この世界は楽園でもないし、特にワクワクするような仕掛けでもない。
例外中の例外で、魔界はあったけれども。
一般的に思い描くファンタジーならば、もっと頻繁にモンスターと戦うのだろう。魔獣やモンスターなどといった敵が次々とあらわれ、討伐に励むに違いない。
この一行が相手にするのは、私欲に歪んだ人間。
邪神龍や、今だったら瘴気の魔物も相手として視野に入って来たが、対抗する手段はいくらでもあっていい。
マナカが道場の鍵を持って出て来た。これも仕事と言っていたが、本人は楽しそうだ。
「お待たせしました。こちらへどうぞ」
主にサキの強化訓練のようだが、皆が揃ってこれに便乗した。
案内された道場は中だけではなく、外の土壌もよく慣らされていた。確か、竜次とキッドはここで役人と志願者に武術を教えた。
ここなら多少荒っぽい動きをしても大丈夫だろう。
道場内は光が差し込んで清々しい。木造のいい香りが鼻を抜ける。用具倉庫にはあらゆる武具がしまい込んであるらしく、案内された。
木刀から球技用のボール、何に使うのかはわからないが何メートルもある棍棒らしきものまである。武器にも多様性が求められる世の中なら仕方ない。
「お使いの武器に近いものをお取りください。あ、武術棒はこちらです」
マナカがサキを奥に誘導した。ローズも追って行った。
ずらりと並んだ木刀の前で、竜次は長めのものを手に取る。
「木刀だけで何種類もありますね……っと、これくらいかな、長さとか重さも」
よく使い込まれた長めの木刀を握って確かめている。
旅路で持ち歩いている練習用の木刀とは比べ物にならないくらい勝手がいい。
ミティアはジェフリーと一緒に違うタイプの木刀を物色している。デートでもないのに、はしゃいでいた。
「決まったら、わたしたちは外に出た方がいいのかな?」
「ミティアの『舞い』は動きが大きいから、外に出て思いっきり動いた方がいいんじゃないか? その分腹も減って、メシがおいしく感じるかもしれない」
「わっ、ジェフリーが、わたしの相手をしてくれるの!? がんばるっ!!」
「で、だ……」
外に出ようという流れはわかったが、ミティアは木刀を三本も持っている。長いものはおそらく自分の持っている剣にあったものだろうが、短い剣二本は意図がわからない。ジェフリーは怪訝な表情で言う
「何でそんなに持っているんだ? 心変わりか?」
「えへへ、いい機会だから試そうかなって」
ミティアが小悪魔のように小さく笑う。こういう表情も可愛いのだが、彼女に剣術は計り知れない可能性を秘めている。ジェフリーは正直、これを機に何か化けそうな気がしていた。
まずは準備運動を開始する。
竜次とキッドも外で準備運動をしている。せっかくなので組み手を回そうとなった。
違う者同士で相手をすると、その分稽古になっていい。
準備運動で竜次がキッドに苦言を漏らした。
「あのぉ、クレア? それは、えっと……」
竜次が指摘をしたのは、足の運動だった。キッドは当たり前のように返す。
「屈伸運動ですよ? 足の運動は大切じゃないですか」
竜次は顔を赤くしながら近寄り、小声で具体的な指摘をした。
「スリットの入ったスカートはもうよしなさい」
「……っ!?」
キッドは顔を真っ赤にしながらポカポカと竜次に殴り掛かっている。
「どこ見てるんですかっ!!」
「見せている方がいけないんですって!!」
「すけべっ!! 変態っ!!」
「こ、こら、クレアったら……」
仲睦まじい恋人同士のようだ。すっかりその雰囲気になっている。
兄の竜次がキッドとやけにいちゃついているように思える。ジェフリーはあてられている気分だった。
「あいつら、何をしてるんだ?」
これにはミティアも首を傾げた。
「あの二人、やっぱり仲良し、だよね」
「さっさと結婚した方がいい。バカップルが!」
ジェフリーが吐き捨てた言葉を竜次が拾った。
「そのうちします。ご安心を」
顔を赤くしながらも、さらりと言い切ったため、他の三人の動作が固まった。
キッドは手を止め、呆気に取られている。
「あ、えっと、竜次さん?」
「えっ、宣言してはいけませんか?」
「そ、そうじゃなくて、あの……」
何が言いたいのか自分でもわからず、口をパクパクとさせながらキッドは動揺している。迷いのない突然の宣言に驚かない方がおかしい。
キッドの反応におかまいなく、竜次は前に出てジェフリーににっこりとしている。
「さ、お相手を願いましょうか?」
「軽くから頼む」
離脱するかもしれないと言っていたが、いつもの振る舞いにひとまず安心している。
今回のお見合い騒動を含め、吹っ切れたのかもしれない。これはこれでよかったのかもしれない。
道場の中では別のグループで組み手をするようになった。サキはマナカに向かい合って一礼した。
「よろしくお願いします」
サキがあまりに礼儀正しく、マナカは面食らった。
「で、ではまず、持ち方から入りましょうか」
サキはいつも真剣だが、今回は格段に違う。戦場と化した場合、自分自身で魔法以外も立ち回りたい。物理面でも最低限、自分の身を守りたい思いだった。
すでに魔法という優れたものに特化している。今から体力を付けて物理面を極めることは難しいにしても、ないよりは遥かにマシだろう。
特にこれからは厳しい情勢になる予想がされる。
何も言わないが、実はローズも同じ思いだった。ローズはいつもアドバイスぐらいしか手助けができていない。一歩離れた位置からいつも見ていることが多い。
ローズはサキの成長を見て自分にも何かできないかと模索している。今回も見守っている。
マナカはサキの姿勢が気になった。こんなにまじめな人は役人にもそうはいない。
「慣れて来たら、握力が付いて来ますのでまずは離さない意識を持ってください」
スポーツのラケットを使用する競技も該当するが、基本は手にしている物を離してはいけない。
サキにはもともとその意識はあったらしく、叩き込まれても離すことはなかった。
杖を弾かれたりはするが、魔法で杖のターンが望めるくらい都合がよくならないのだろうか。変にそういうところが現実的である。
「受け身も大丈夫みたいですね。もう少し足に体重を乗せてください。腕だけでは強打で負けてしまいます。骨を折ったり不意に気絶したりすることも考えられます」
「他に、具体的な対策はありますか?」
「そうですねぇ……」
サキはマナカの講習を聞きながら、早速実践しようとしている。いい心掛けだ。
実践と聞いてローズが前に出た。彼女も少し長めの棒を持っている。組み手の相手はサキだ。
「ほいほい、行くデスヨ?」
「はい、どうぞ!!」
ローズが上から、受け身状態のサキに向かって強打を繰り出した。乾いた音が道場に響き渡る。
サキは受け身のまま数歩後退した。ここが外だったらもう少し足元も余裕が出るかもしれないが、これも経験だ。
「腕が痛いです」
「先ほどの話だと、それを足で。腕はクッションにしかならないデス?」
「あ、なるほど。そういうことですね」
サキは早速試している。ローズがアドバイスを指摘する不思議なやり取りだ。
少し離れて、使い魔二匹とコーディが会話を交わしている。
「何か、まだ強くなるのかって思っちゃうよね。まぁ人間って強欲だから仕方ないか」
「私もこれから、こういう人が見られるのかわからないけどね」
「そっか、ドラグニー神族の混血だから、長生きしちゃうよね」
「むぅ、くだらない……」
自分で言っておいて、深く考えたくない。コーディは自分で言い伏せた。
ローズはなぜ大丈夫なのだろうか。ローズもアリューン神族の混血。もう百年は生きていると言っていたし、こんなにつらくなるようなことをして大丈夫なのだろうか?
生きるサイクルが違い過ぎる。いつか朽ちる命なのは一緒だが、あれほど神族を苦しめた人間にどうしてここまで思いが執着してしまうのだろうか。
長寿であるのは神族だけではない。使い魔たちもそうだ。ゆえに、気になることはたくさんある。
「のぉ、圭馬チャン? わしはずっと疑問に思っていたのだが、なぜ主と契約を交わしたのかなぁん?」
この鯖トラ猫、とぼけたふりをして、本音を聞こうとしている。
もちろんショコラが問うにはきちんとした理由があった。
「人間の友だち、おったのじゃろう?」
ショコラは例外だ。人間に干渉しすぎて魔界を追放された。
もともと人間が好き。人間の、特に魔導士にとっては身近な存在。
気持ちなど、本当はわかっているはず。それなのに、わざわざ圭馬の口から答えさせようとしているのだ。鬼畜以上に鬼畜かもしれない。
「始めは調べ物が面白そうだったからだよ。だけどさ、この人たちってその辺の人間とちょっと違うんだよね。うまく言えないんだけどさ」
「ほぉ……」
「ババァは理由がわかってて聞いて来るの!? ヤな奴ぅ~!!」
「わしらだって前世がある。人間だったかもしれないし、天空都市の者じゃったかもしれない。もしかしたら、神族だったかもわからんのぉ? のぉん、宇宙人だったりするかもしれんなぁ? とにかく、この身になってから長く人間と接していると、あぁ、こやつらは少し楽しそうじゃなってたまに会うのよねぇ?」
言いたいことを全て言われた。圭馬は耳を下げて少ししょげている。
「何だよぉ! わざわざ聞いておいて、この茶番……」
圭馬は毛繕いを始めてしまった。この様子は拗ねている。
コーディは何となくだが、ショコラの言っていることがわかる気がした。きっとローズが一緒にいる理由はこれも当てはまるに違いない。そんな考えごとをしているコーディに、ショコラは声を掛けた。
「何かを残そうとするのはいいなぁん。書物など、絶対に後世にまで残るからのぉん」
コーディは驚きと同時に、あぁそうかと言いたくなった。
自分が何を残そうとしているのか。そうだ、自叙伝と言っていた。旅をまとめたい。
これから待ち受ける事を、自分の境遇を。いずれ訪れる別れを嘆くのではなく、全てを残すために自分はここにいる。彼女の中で何かが吹っ切れた。こうしちゃいられない。いつまでも立ち止まって考えるには、人間の時間が短いのだ。
コーディは立ち上がり、パタパタと道場の床を踏み締めた。
「そろそろ私もやりたい」
コーディも格闘術で混ざるつもりだ。そのつもりでここに来た。
自分だって、みんなが生きて帰るための戦力になりたい。どこかの大魔導士に習って自分も頑張ろうと奮い立たせた。
外では順々に組み回しをしていた。仲間の太刀筋を知るなんてこんな機会は滅多にない。キッドはミティアと稽古を付けることはなかったし、とてもためになる。
回して行って、竜次とミティアの番になった。以前幻獣の森でミティアが操られて以来の手合わせになる。
「あの、わたし、先生に運動させてみたいです」
ミティアは短い木刀を二本、両手に持っている。ナイフや短剣の大きさだが、少し平べったい。竜次に運動させてみたい意図は、彼はほとんど動かなくても剣戟が強いため歩かないからだ。
「おや、私に運動をさせたいと?」
この医者が言うと一気にいやらしくなる。しかも、にやにやとだらしない。
「んー……禁断の関係も悪くないですねぇ」
竜次の言葉に反応したのはキッドだ。ぶるぶると拳を激しく震わせ、顔を真っ赤にしている。
それを見たジェフリーはキッドを抑止させようと試みる。
「キッド落ち着け。あれは組手だ。次に組んだときに話せばいいじゃないか」
「う、うっさいわね!! あんたには関係ないでしょ!?」
ジェフリーの視点からだと、キッドのリアクションが信じられない。いつからこんなに感情豊かになったのだろうか。ジェフリーの知るキッドはもっと人当たりが厳しく、何事も疑ってかかるくらいの警戒心。仲間とも打ち解けてくれない気質だった。それなのに、旅を経てその気質は和らぎ、思いやりのある優しい部分を知った。
キッドの様子を見て、竜次はからかうように笑う。
「妬いているクレアも可愛いですね」
竜次の気の緩んだ言い回しを聞き、ジェフリーは歯が浮いてしまいそうになった。キッドは、今度は拳ではなく、口をパクパクとさせながら唇を震わせていた。隣でこの変貌っぷりを眺めるのが少し面白い。
ミティアは竜次に手を振った。
「先生、守備でお願いします!」
「はーい、どうぞいらっしゃいな?」
ミティアの剣は力こそないが早さがある。それが急に短い剣になって、どう変化するのかある意味楽しみだった。動揺するキッドを尻目に、ジェフリーは食い入るようにミティアの動作を見ている。彼女は守りの構えをする竜次の剣に右の剣を叩き付けた。力押しはまずないが、これが面白い動きをした。
竜次は一歩も動かず、足で衝撃を抑え込みながら剣を引き、捻るように反撃に転じた。だがミティアの左手の剣が内側に入り込んだ。彼女の流れるような華麗な動きに見惚れてしまう。
「えぇっ!?」
竜次が驚くのも無理はない。風を斬った左手の剣が鼻先を過ぎて天を突いた。竜次の剣を舞って回避し、反撃に反撃で返した形になった。
もちろんそのあとの、右の剣は交わった刃をギリギリと捉えたまま封じている。
「あっ……!!」
ミティアが竜次の剣を抜けて内側に入ったまでよかった。だが、重心が足から押さえ付けられている右の剣に移動したことによって、竜次はミティアを下敷きにして前のめりに倒れてしまった。当然、誤解を生む体勢になってしまう。
「せ、せんせっ、うぅぅ」
「ええええええ、何ですか、これ……」
竜次がすぐに起き上がろうとするも、かなりの際どい状態だ。ミティアのカバースカートが広がり、太ももが露になっている。
「今退きます! 退きますのでっ!!」
倒されたこともそうだが、こんなに恥ずかしいことがあっていいのだろうか。慌てふためきながら竜次は先に立ち上がって、ミティアに手を貸した。
「驚きました。反撃に反撃で返すなんて」
「先生、ごめんなさい。痛くなかったですか?」
「転んだことに関しては大丈夫なのです。ミティアさんこそお怪我はないですか?」
「怪我はしてませんが、なんかいろいろ汚れて……」
お互いに土埃を払っている。予期せぬハプニングがあった。だが、ミティアが今までと違う動きをしたことに皆が驚いた。
ジェフリーも唸る戦術だ。
「今の戦い方は対人にはいいな。ただ、戦略を必要としないなら、いつもの方がいいと思う」
「た、試したかっただけなのっ!! それに、舞の剣なんて最近あんまり売ってないからお店で買えないし。多分、買っても脆いから」
ミティアが言うように実戦では課題が残る。モノにしたかったら、何か考えてもいい。例えば腕輪を作ってもらったのと同じ要領で、キャラメルシィに再び赴くか。それもこれから次第だが。
「しっかし、ミティアは回数熟せば、どんどん強くなりそうだな」
ジェフリーの言葉を聞きキッドは眉間にしわを寄せる。何とも言えない渋い顔をしている。悪い意味ではなさそうだ。
「この底力、ちょっともったいないわね」
二人はミティアをじっと見る。
ミティアはその視線に気が付き、恥ずかしそうにもじもじとしている。
「さ、最低限、自分の身は守りたいの。もともとそのために学校行っていたんだもの」
あくまでも護身と言い張った。ミティアが倒れられては一番困る。
ミティアはその先を考えていた。
「わたしが誰かを守るなんて……」
想像がつかない。ミティアはそんな顔をしている。だが、本当は守りたい人がいる。視線の先に。
「どうかしたか?」
「あ、ううん? 次、わたしとだっけ」
今度は短い方ではなく、普段使いに近い方を握っている。稽古、練習、そうかもしれないが、心が通じ合えた人とあらためて手合わせなんて少し複雑だ。お互いにそう思っているのが表情で汲み取れる。
「なんか、面と向かってって恥ずかしいね」
「べ、別に殺し合いをするわけじゃないんだから、気にする方がおかしい」
気にする方がおかしいとは言ったが、ジェフリーも気にしている。気持ちが通じ合ったからこそ言えるが、できたら対峙したくはない。
これは練習、自力アップのために稽古。言い聞かせながら、持っている剣を振り上げた。ジェフリーは特別変わったわけではない。魔法を使うようになったが、サキがいる以上は緊急と考えている。そこまで重要だとは思っていない。今最も重要なのは、大剣を振り回すのに支障がないように復帰することだ。
ミティアとジェフリーの刃がぶつかる。
カンカンッ!! パキッ!!
突然、奇妙な音がした。ミティアは手元を崩す。
「えええええっ!?」
ミティアは地面に手を付き、カバースカートを翻しながら後退した。持っていた細身の木刀に大きなヒビが走っている。
「そんなに強く扱ったかなぁ……」
「はははっ、ミティアは馬鹿力だったのか?」
「そ、そういうこと言わないでよぉ……」
緊張が解けてあざけ笑うジェフリーに対し、ミティアは頬を膨らませながら肩を落とした。一応借り物だったのだからマナカに断りくらいは入れておかねば。
「マナカさんに謝って来る。今日はどうしたんだろう? 何だか、冴えないね」
逆だ。誰も指摘を入れないが。
ミティアはとぼとぼと道場の中へ入って行った。靴を脱いで上がると、中でも打ち合いになっていた。乾いた木の音がカンカンと鳴る。
ミティアの存在は、皆の手を止めさせた。
サキが声をかける。
「あっ、ミティアさん」
マナカも手を休め、いったん退いた。
「おや、どうしました?」
ミティアは申し訳なさそうにしながら、手にしている物を見せる。
「すみません……」
「おぉ、これは……」
怒るどころか、マナカはにっこりと笑っている。
「粗末に扱われたのではなく、いい役目を終えましたね。それにしても、沙蘭の樫の木は質もいいはずなのでそうヒビは入りません。いいものを見た気がします」
「そ、そうなのですか?」
普通に使っていて壊れることはよくある。素材がいいため、それを見る機会は少ないらしい。マナカは珍しがっていた。
窓から差し込む日が眩しい。日が高くなったようだ。マナカは提案をした。
「さて、丁度いいですね。お昼ご飯でもいかがでしょうか?」
食べ物と言えばミティアが明るくなる。しょげていた彼女が声を弾ませる。
「お昼ご飯!」
時間と聞き、サキは懐中時計で時間を見る。おやつどきになる時間だった。
「わ、こんな時間だったんだ?」
時間を忘れて励んでいた。この稽古は、一行にとって実りの多いものだった。
マナカは沙蘭らしい食べ物を頼もうとしていた。
「若竹様のお寿司でも頼みましょうか。夜には行ってしまうのでしょう? こちらも会議であまりお相手できなかったので、これくらいは……」
マナカは一礼すると、笑顔で出て行った。本当に頼みに行ってしまった。
「ん、休憩?」
「やー、運動不足にはつらいデスネ」
コーディとローズが座り込んだ。皆も汗をかいている。
サキは座って休まず、この時間の有効活用を思いついた。
「頼むって出前ですよね? まだ時間がかかるのでしたら、試しにジェフリーさんと喧嘩をしてみようかな?」
サキは練習用の棒を持ったまま、外へ飛び出した。すれ違った顔がやけに無邪気で可愛らしく、ミティアはキョトンとしてしまった。
「お姉ちゃん、座ろう?」
コーディに道場の床を叩かれ、ミティアは並んで座った。彼女から誘って来るのは珍しい。
「サキ君は身に着けるスピードが速くてびっくりしますネ」
座りながら腰をトントンと叩くローズ、ため息をついた。そんなにサキに振り回されたのだろうか。
「あいつ、絶対おかしいよ。優れているのは魔法と頭の構造だけじゃないの?」
ぶつくさと言いながら足を延ばすコーディ。少し言葉遣いが雑に感じられた。
「んン? どしたデス、コーディ? ライバル心?」
「否定しない」
今日のコーディは荒れ模様だ。別に人に当たるわけではないものの、どうも虫の居所が悪いらしい。
ミティアはなぜかその執拗さが気になった。
「どうしてコーディはサキがそんなに気になるの?」
鋭い洞察力だ。狙っているのか天然なのか、本人に自覚はないようだがときどきこんな冴えたことを言うのが彼女。控えめなはずのコーディが慌てている。
「ききき……気になるって言うか、そのね、同い年なのに明らかにスペックが上じゃない!? なんか、悔しいからぎゃふんと言わせたくて……」
「ぎゃふん?」
「私だって何か抜かせるようなものがあるかもしれないじゃない?」
「コーディちゃんは作家さんじゃないの? 作家さんってすごいと思うんだけど?」
行き着いた場所はいつも作家。それでもコーディは納得していない。
「違うの!」
「コーディ、背伸びしたいお年頃デス?」
「ローズまで何を言い出すのよ」
身長の指摘かと思うほどの指摘に、コーディも返しが怒っているのがわかる。
「もしかして、ホの字?」
悪ふざけが過ぎて、圭馬まで便乗した。この言葉に対しては顔を真っ赤にして立ち上がった。
「や、やめてよ。そんなんじゃ……」
「ふあーっ、疲れたっ!!」
コーディの気まずさが救われた。髪を結った本業お医者さんが、靴脱ぎ場で情けなくばったりと倒れている。その背後には腰に手を当て、さっさと上がれと言わんばかりのキッド。今にも蹴飛ばしそうな勢いだ。
「竜次さん、ここ、邪魔でしょ!?」
「あっはは……」
仲がいい。悪いことではないのだが、これから先、支障が出ないか心配だ。
「あら、コーディちゃんどうしたの? 顔赤くない?」
キッドに指摘を受ける始末。興奮して起立していたコーディだったが、異様な空気になってしまい、再び注目の的になってしまう。
「みぎぃっ……ふぇあ?」
困惑する少女の体をしたコーディは、フカフカの胸と甘っぽい香りに包まれた。背後から抱き寄せられている。見上げると、ミティアがにこにことしていた。
「コーディちゃんは今日も可愛いなって話してたのっ!!」
変な庇われ方だ。気を遣ってくれているのはありがたいが、何だか恥ずかしい。頭をくしゃくしゃにされ、悩んだり怒ったり照れたりと忙しかったコーディは、ついにおとなしくなった。
突然むくりと起き上がって道場に上がって行く竜次。
「はぁ、マナカが行ってしまったので一休みしましょう」
今度は腰痛を訴える仕草をしている。ただの腰痛なのかは疑問だが。
「お兄ちゃん先生、年食ったねー……」
「ウサギさんに言われちゃうと元も子もない。人間なので年も食いますって」
圭馬は竜次に摘まみ上げられる。竜次が残留することによって、またこのやりとりが見れるのが微笑ましい、
「はーなーせー! 色ボケが移るー!!」
「むむっ、色ボケだって立派な絆要素ですよ!? ほら、みんなで協力。チームワークは大切なんですからねっ!」
竜次のお説教の仕方がいつもより自信満々だ。言っていることは確かなのだが、絆と言われるとどうだろうか。圭馬は口を尖らせた。
「絆とか、軽々しく言うもんじゃないよぉ。つながりを絆って言うんだから」
「私たちにはあるじゃないですか。もちろん、ウサギさんや猫ちゃんにだって、ねぇ?」
圭馬を摘まみながら、竜次はやはり自信満々に言う。ショコラにも視線が行った。
「のぉん? わしたちにもあるのかのぉ? 幻獣だしのぉ」
「ボクたちは幻獣だよ。契約って形で同行してるけど」
「主はどう思っているのかのぉん?」
特に圭馬は『友だち』について思う節があるせいで、そう言った話題には敏感だ。契約主のサキが、そんなに冷然としているとは思えないが。
澄んだ空気に乾いた木の音が響き渡る。
自信を持った手は突きが鋭い。訛った体には少々堪える。ぶつかり合う剣戟。サキはせっかく身に着けた棒術で、ジェフリーに戦いを挑んでいた。
「そこだっ!!」
ジェフリーが反撃を繰り出すと、身軽な大魔導士が身を引いて回避する。沙蘭の剣技よりは単純な動きなのだが、体格が違うせいで動きが読めない。ましてやサキは普段、肉弾戦をしない。
二人は間合いを取って向き合った。
ジェフリーを焦らせたと思い、サキは無邪気に笑う。
「えへへ……」
「使ってる杖を握ったら意外と振れないかもしれないぞ? あと、連れてる使い魔の重さを考えたらそんなに動けるとは思えないな」
「あっ!!」
「まさか、計算に入れていないな? まーた、簡単な見落としだぞ」
サキは小さく唸っている。指摘されたように、今の動作がまだロクに振ってもいない杖でもできるのか。使い魔二匹をカバンに押し込んだまま、同じ動きができるのかは保証できない。本当に見落としだ。
ジェフリーはそんなサキにアドバイスをする。
「守り専門なら、物理で秀でようとは思わない方がいい。守りが固まれば、サキにはもっと誇れるものがあるだろう?」
「そっか、そうですね」
どうも、サキは先走りが過ぎて、肝心なものを見落としがちになる。アイラは遠回しにそのことを注意したのかもしれない。『力に溺れるな』とは難しい。特に、サキにとっては探求心と向上心の強さから気が付くのが遅れがちになる。
何かを失う前に、立ち止まってもらうことを覚えてもらいたいとジェフリーは思った。だが、今は具体的な案がない。
ジェフリーは、落ち込ませないように褒めることにした。
「まぁ、筋はいい。お陰でいい練習になった。サキは頑張りすぎだと心配するくらいだぞ? あくまでも今日学んだことは、自分自身のため。誰かを守るのはお前の魔法だからな?」
サキは小難しく考えながら一人で頷き、納得している。
「うん。そうですね。欲張らないようにしないと。今度は魔法が疎かになっちゃいますね。それだけは回避したいです」
「ははは、サキは敵に回すと厄介だからな」
なぜかジェフリーに褒められるとうれしくて仕方がない。友だちだからなのかもしれないが、自分の父親と親しかった人がおそらく彼の父親、ケーシスだ。それもあってか、この偶然の縁はかけがえのないもの。必要以上に変な執着をしてしまうし、期待には応えたい。サキはジェフリーに言う。
「僕、ジェフリーさんと友だちになってよかったです」
「どうしたんだ? らしくない」
急にサキの視線が落ちた。ジェフリーは何事なのか心配してしまう。
いい意味であらためて思ったらしく、サキの顔は笑っていた。
「僕、一生かかってもできないような体験をしたんだなって。始まりはミティアさんとぶつかって、お師匠様がジェフリーさんとお話をつけたり、大図書館のお化けを追ったり、何だかすごかったですよね」
青空を仰いだと思ったら深呼吸をし出した。
「付いて来なければ、僕は年を待つまで大魔導士にはなれませんでした。もしかしたら、拾った母さんと一緒に名前だけで捕まって処刑されてしまっていたかもしれません」
思えば遠くまで来た。隣にいる友だちはかけがえのない人。
その気持ちはジェフリーも同じだった。
「俺もいい友だちを持ったと思う。昨日話したように、俺って友だちらしい人がいなかったから。魔導士狩りのせいで、親しい人を失うことにトラウマを感じていたのかもしれない」
サキはにっこりと笑う。
「新しいことするのって、すごく勇気がいりますよね」
「新しいことをし過ぎなお前が言うと、あんまり説得力がないな?」
小馬鹿にするように笑い合った。普通は年の差をハードルと考えるだろうが、感じたのは最初だけであとは難なく接している。ワッフルを食べたときも感じたが、変な所で気が合う。仲間と言うだけでは済まない関係。
「俺は死んでも友だち止めないからな?」
「僕だって。えへへ……」
旅の終わりが近いことを示すような振り返り。得たものを手放すつもりはない。
マナカが大きなやかんと何重かの漆器の寿司桶を持って帰って来た。曲芸師のような絶妙なバランスで持ち運んでいる。
道場の中でおやつ感覚のラフな食事の空気だ。
「さ、どうぞ、どうそ。間違っても国家予算ではないので、ご安心くださいませ」
真面目な性格のマナカに冗談を言われ、和やかな食事を交わす。小皿に分けたちらし寿司と握り寿司をいただいた。大きなやかんの中はほうじ茶だった。熱すぎず、飲みやすい。
マナカは竜次に向けて質問をする。
「次はどちらへ行かれるのですか?」
「フィリップスの予定です。縁談があったので、私は変装して歩かないと」
縁談は破断したが、なくなったとは言え、フィリップスのそこそこの権力の人と立派にいがみ合ったのだ。またあのうさん臭い伊達眼鏡とベレー帽の身形が始まる。お騒がせになったシスターと時間を移動する魔法使いによって、破断したのだがもしかしたら諦めてくれないかもしれないし、警戒するに越したことはない。
ジェフリーもマナカに言いたいことがあるようだ。わざわざ視線が合ってから言う。
「今度は長らく帰って来ない可能性がある。だから今のうちに言っておく。マナカや姫姉、光介にも本当に世話になった。何年も来てなかったのに、あの邪神龍の騒動があっても沙蘭はここまで綺麗に蘇ったし、本当にこの国は強くていい国だと思う。今度来たときは腰を下ろすかもしれない……って言っておけば、励みにはなるか?」
「おっとジェフ兄さん、そう言われては期待してしまいますよ?」
マナカも食事に混ざりながら、他愛のない話をしている。食事に混ざるのは初めてだが、とても話しやすい。国のトップである城主の側近、護衛、沙蘭で今一番強いかもしれないと言われている彼女だが、何も気取ることはなく、自慢もしない。国の自慢はするのだが、自分のことは控えめだ。
「竜兄さんは、次に帰国される際は式の準備でしょうか?」
マナカが視線を向けたのは、てっきりジェフリーと話していることで油断していた竜次だ。キッドとお皿の上の寿司ネタについて、にこやかに話していたところだった。
急に話を振られたので慌てているが、もう遅い。それに、皆は知っている。
「な、何のことでしょうか?」
何となくマナカには黙っていたかったのだろうか。それとも気を遣っているのかもしれない。マナカは合えて言及をせず、適当に流すことにした。なぜなら、どんなに言ったところで本人が認めなければただの迷惑だからだ。
「まぁ、そうですよね。沙蘭だって変わり行くのです。皆様だって、兄さん方だって変わって行きます」
マナカは遠回しだが、本当に言いたかったことを言う。
「いつでも帰って来られる場所はあるのですからね。ただ、ここに身を置いてくださるのかは、これから我々の頑張り次第なのでしょう。毎度のことながら、試されますね」
マナカは一行が何を背負っているのかを知らない。だが、察することはできた。
「何と戦っているのかはわかりませんが、しばらく帰って来ない可能性があるのでしたら、これから大きな戦いでもあるのでしょうね」
察しがいい。今までさほど干渉して来なかったが、義理の兄達が危険を冒してでも戦いたい何かがある。理由はわからないが追及して来ない。マナカはある程度は見逃していた。
今回は少し事情が違うせいもあって、別れが名残惜しい。
竜次はマナカの様子がおかしいと気づいた。もう一度、正姫たちにきちんと挨拶をするべきかと考えた。
「せっかくですからね。発つ前に城へ顔出しをしますよ」
「竜兄さん、まるで負け戦にでも行くようですよ? 気持ちだけ、お受け取りします」
「そんなつもりは……」
縁起でもないやり取りだ。マナカにとってはそれくらいの『予感』を察知したのかもしれない。マナカの口数は少なかった。
食べ終えて一息つくと、出発前に街中に繰り出した。マナカとはここでお別れ。最後まで気丈に振る舞っていた。彼女は城に戻ると言う。閉めた道場の前で一礼した。
今回の言いしっぺにもなったサキが前に出る。
「色々とご指導ありがとうございました。なかなかこういった機会がないので、とてもためになりました。また立ち寄った際にはお相手をしてください!」
サキがあまりにも礼儀正しく、マナカはまたも驚いていた。光介に爪の垢を煎じて飲ませたいくらいに思っていた。
「いえ、こちらこそ、大変ためになりました。またお越しください。兄さん方も、ね?」
鍵を腰の巾着にしまい込み、もう一度皆の顔を見る。さすがに少し寂しそうだったが、ここに留まることはできない。
「わたくしは城の警備と交代します。街中へ行くのでしたら、もしかしたら光介がいるかもしれません。よかったらあの子にも声をかけてあげてください。あなた方のこれからの旅に幸があらんことを……」
これ以上は別れがつらいと思ったのか、マナカは先に踵を返す。彼女は仕事があるのだから戻るだけ。これが彼女の日常。幸いにも退屈していないようだ。
沙蘭も、外部から狂暴化した野生動物の侵入を完全に防いでいるわけではない。荒れる外交、フィラノスもフィリップスも国王不在。これからどうなるかなどまだまだ見えない。その中で沙蘭の治安維持と正姫の支えになる仕事は目まぐるしいはずだ。
マナカにとって稽古は息抜きになってよかったかもしれない。気が滅入っている様子ではなかったが、彼女は真面目なのでどこかで爆発しないか心配だ。適度にガス抜きをしてもらいたい。
沙蘭の街でしか買えないものを重点的に買い足した。買ったものの一つに沙蘭の抹茶がある。本場の物は値が張るのを承知で皆で買った。好きだからだ。
現時点で武器の買い替えなどは視野になかったが、竜次がキッドに刃物のお手入れセットを買っていた。これもおそらくここでしか買えないものだ。キッドに渡した小刀の紅椿は沙蘭の職人が鍛錬してくれたもの。刃こぼれしたり錆びたりと手入れは大変だが、切れ味はそんじょそこらの剣とは格が違う。竜次の刀にも言えるが、いい得物はそれなりに持つことも大変なのだ。
女性陣がちりめんのポーチや小物に興味を示し、多少なり購入していた。独特の模様が入った七宝焼きなんかはここでしか買えないだろう。
雑貨屋のレジ横の籠に、以前は見受けられなかった『魔石セット入荷しました』というボードが下がっている。物流に力を入れるのかと目に見える変化に気が付いた。
あとは食料だろう。船の中でこの人数の食事を贅沢にするとかなり懐が痛い。いつかはご馳走になってもいいと思ったが、その余裕はない。
ローズが言うには、これからお金がかかると言っていた。少しでも抑えられるなら金銭面も厳しくしていきたい。もちろんすべてをセーブするのではなく、必要なものにはお金を叩けばいい。
ご飯屋さんに目を付けた。一行で何を買うのか相談したが、やはり沙蘭らしいものが人気になる。お寿司は先程ご馳走になったので、別のものがいい。
とりあえず竜次が選び、助六の詰め合わせを買った。巻き寿司といなり寿司が入っているので、種類は違うがまたもお寿司になった。どうせならこれと併せて別のものがいい。お惣菜を買い足そうとなり、また足を運ぶ。沙蘭は魚料理が多いため、いちいちショコラが敏感になる。猫だから魚が好きの誘惑が絶えない。
「あ、兄貴様!」
街中でわざわざ声をかけて来るのは知り合いに決まっている。この呼び方にも特徴がある。ジェフリーや竜次の義理の弟、光介だ。駆け寄って元気な挨拶をした。
「ちーーーッス!」
「あぁ、光ちゃん。マナカがよかったら声をかけろと言っていたのですよ。パトロールでしたか」
竜次はにっこりと挨拶をする。光介はマナカと違って気さくで明るいので、話すだけで楽しくなってしまう。
「そうっスよ。仕事と同時進行で城の新しい献立も考えてましてね!」
光介の口の端にソースらしきものが付着している。摘み食いをしたに違いない。仕事と言っているが。
ジェフリーが皆を代表して指摘を入れた。
「お前、その仕事中に何を食っていたんだ?」
ジェフリーが問い詰めると、光介は笑って誤魔化した。こういう愛嬌があるのが光介だし憎めない。
光介は竜次の手元の風呂敷から助六の詰め合わせが見えているので安心した。仕事の問い詰めではなく、食べ物の話だろうと白状した。
「ちゃんちゃん焼きッスよ。そこの鮭専門店の……」
未だに包帯が巻かれた右手、その人差し指がすぐそこの裏通りを指した。出店や茶屋が並び、甘味処に紛れてわからなかった。
竜次は小さく頷き笑った。
「光ちゃんのおすすめなら、晩御飯に買おうかな」
「あぁ、そっか。夜行便で出ちゃうんスよね?」
「実はそうなんですよ」
食べる物の選択肢が豊富な沙蘭で、わざわざお弁当を買うなんて何かあるときだ。食べに行く方が新鮮でおいしいものが多い。
キッドが間をすり抜けてぱたぱたと走って行った。
「あたし、大きいの、注文しておくわ。せっかくだから、話してあげて」
「あぁ、クレア、お金……」
よくできた弟、サキが一礼してキッドを追い掛けた。手には財布を持っているので、立て替えておくサインだ。
「サキ君……ありがたいですけど」
竜次は目をぱちぱちとさせる。
無言で席を外すコーディとローズ。ミティアはタイミングを損ねたのか、行くか迷ってジェフリーの服の裾を摘んでいる。
ジェフリーは『どうしよう』と目で訴えるミティアを自分の背後に押し込んだ。そのあとで、あらためて言う。
「今度はしばらく帰れないかもしれないから、今のうちに言っておく。たびたび帰って来はいたが、世話になったな」
ジェフリーは右手を出そうとしていったん引っ込め、わざと左手を差し出した。握手のつもりが、怪我をしている光介を気遣った。光介はそれにかまわず、両手で握手をして笑う。
「フラグは立てない方がいいっスよ!」
「ははっ、それもそうか」
「俺っちは兄貴たちの旅の事情とか、目的とか、あんまり知りませんけどね。何となく、野生動物の凶暴化とか、そういった根本的な原因と戦ってるんじゃないスか?」
「いやだから、そんな陽気なキャラで鋭いことをしれっと言うなよ」
光介は苦笑いをするジェフリーの手を解いて、竜次にも向き合った。
「沙蘭は俺っちとマナカ姉に任せてください」
「光ちゃん……」
「湿っぽいのは苦手なんスよ。こういうのは、明るく見送る方がいいに決まってます」
光介が言うことは明るい。実際に街の者には慕われている。マナカとはまた違うが、人望は厚い。それもこの人柄のお陰かもしれない。
光介は何かを察したのか、ミティアにも声をかけた。
「お連れ様も、沙蘭はいつでも来ていいんですから。帰りたいって駄々をこねて、兄貴たちを困らせてもいいんですよ!」
「わぁ、ありがとうございます」
ミティアにも声をかけるとはなかなかの気遣いだ。
兄弟は顔を見合わせながら笑い合う。
「ミティアさんに駄々こねられたら、何でも言うことを聞いてしまいそうですね」
「いや、まったくそうなんだよな……」
ミティアの大きくてくりっとした可愛らしい目が二人を交互に見る。この小動物のような可愛らしさは二人もコロッとやられてしまう。
光介はへらへらと笑う。
「俺っちは兄貴たちを羨ましいとは思いますけど、そこまで危険なことは金を積まれてもやりたいとは思わないっス。また会えるなら、今度は旅行でも組んで来てください。沙蘭を一周するだけでも二日は楽しめますから。そうだ、温泉でも掘る計画でも立てれば観光産業にはいいかもしれないっスね」
これも光介らしい一面だ。決して根本まで不真面目ではない。今はわざと明るく振る舞っているのがわかる。本当は寂しいのだ。
竜次は温泉の話に目を輝かせた。
「温泉が掘れたら、私は沙蘭で暮らしちゃいますよ!? 自室のある北殿に引いちゃおうかな」
「おっ、マジですか!? 俺っち本気出しちゃいますよ! こうしちゃいられない。仕事に戻って今夜の会議にも持って行きます。姫姉、マジになるかもしれないっスね」
光介は一礼し、笑顔で踵を返した。根はしっかりしているのだから、彼はきっと本気で温泉掘りを計画するだろう。期待が高まる楽しみができてしまい、名残惜しいよりも楽しみが先立った。
ジェフリーは竜次の言動に呆れていた。
「あんな適当なこと、言いやがって……」
「おや? 私は本気です。温泉のあるここなら、一生暮らしていい」
「キッドが何て言うだろうな」
ジェフリーは拗ねるような悪態を取った。だが、刺すようなミティアの視線にすぐ気が付いた。この威圧は竜次よりも攻撃力があって困る。
ジェフリーは深いため息をついた。
「はぁ……俺も考えどきか?」
ミティアは服を摘まんでいた程度だったのに、いつの間にか腕を組んでいる。柔らかくて暖かい体が密着していた。ジェフリーのため息の理由はこれもある。その光景に竜次は苦笑した。
「見せ付けてくれますねぇ」
「別に……」
そんなんじゃないと言いかけて、言いきったらミティアを傷付けることに気が付いて呑み込んだ。ジェフリーは言葉に気を付けるように意識をしている。
「ジェフは定まらない将来が最大の課題ですよね。落ち着いたらでもいいでしょうけれど、身の振り方も考えてくださいな」
「まぁ、そろそろ何か考えてもいいかもしれないけど」
ジェフリーは宙ぶらりんのままだ。金遣いが荒い点もそうだが、大人の意識を持つべきかもしれない。一方で一度は落ちぶれた竜次は元々がいいのだから、いくらでも立ち直れたし独り立ちもできる。医者と言うスキルだって、今は活かせている。
ジェフリーは剣術学校を卒業している。そのスキルを活かし、今からどこかの兵士や騎士団に所属することは考えてしなかった。その仕事を選んでしまったら、身を捧げて守るのは本当に大切なミティアではない。もちろんそれを生き甲斐にしている者だっているのだから全ては否定しない。
身の振り方の選択を迫られている気がした。
過ごしやすそうな空模様だが、いかんせん昼前。
皆が揃ったとき、やはり竜次は仲間だと再認識した。
ジェフリーは合流した竜次に挨拶をする。
「珍しく寝起きがよさそうだな」
竜次は少し照れているようだ。彼にそっと寄り添うキッドは表情も明るく、余計な口出しをしない。
竜次は小さく笑う。
「ジェフ、みんなも、やっぱり私はもっとお付き合いします。これからもよろしくお願いしますね?」
「兄貴がいないと俺を叱る奴がいないから困る」
「こういうときは、うれしいって素直に言ってほしかったですねぇ?」
挨拶を交し、着替えを済ませ、借り物の浴衣をマナカに返却する。
「姫姉様はお休みになられていますので、御用がありましたらお受けしますよ?」
サキだけは明確な用事があるみたいだったが、他の者は用と言われてもぱっとは思い付かない。
サキはマナカにお願いをした。
「僕はまた大図書館を利用したいです。鍵をお願いできませんか?」
「失礼ですが、大魔導士様、沙蘭に魔法を強化するものはありませんよ?」
マナカは首を傾げた。サキは首を横に振って否定した。
「違います。僕、せっかくなので杖で受け身を学びたくて。沙蘭の大図書館は、そういった武術の書物がたくさんありましたよね? 全部フィリップスに運ばれたわけではなかったみたいなので」
サキの言葉に竜次とジェフリー、マナカまでもが目を輝かせた。
竜次はサキの肩に手を置き、営業スマイルを超越した眩しい笑顔を見せた。
「サキ君、それは本よりも、実際に学ぶ方がいいですよ?」
「えっ? どういうことですか、先生?」
サキは難しく考え過ぎて、また簡単なことに気が付かない。
竜次が人差し指をビシッと立てながら説明しようとしたところ、ジェフリーが華麗に割り込んだ。
「百聞は一見に如かずってヤツだ。本で読んだだけで、いきなり実戦に持って行こうなんて無理に決まってる。こういうのは体で覚えた方がいい」
「お言葉ですがジェフ兄さん、このお話はわたくしがお受けした方がよろしいかと」
さらにマナカも割り込んだ。城の入口で騒がしく話しているうちに、会話に入れない者たちが不満を漏らす。
「サキばっかりいいなぁ。わたしもお稽古したいな?」
「ホントよね。あたしも自力アップなら励みたいわ」
サキばかりモテモテで女性陣が機嫌を悪くしている。
「え、格闘術やるなら混ぜてほしい」
「ワタシもデス。忘れてるので稽古付けてくださるとうれしいデスネ」
コーディはともかく、ローズも基礎の底上げには参加したい。
弟のジェフリーにおいしい所を持って行かれてしまった。いつの間にか埋もれてしまった竜次はマナカに質問をする。
「マナカ、あなた、仕事は大丈夫なのですか?」
マナカと言えば、城主、正姫の護衛だ。今は城の入り口にいるが、本来は仕事があるはず。年中無休ではないと思うが。
「光介が中におります。兄さん方はどうしますか? とりあえず、大図書館ではなく、道場の鍵をもらって来ますね?」
マナカがあまりにも淡々と、当たり前のように参加しようとしている。竜次は慌ててマナカを止めに入る。
「いえ、そうではなくて、なぜあなたがやる気満々なのかと。あなたは他にやることがあるのでは?」
城内へいったん下がろうとするマナカが、キョトンとしながら竜次に答える。
「稽古でしたら、兄さんたちが沙蘭を発たれてから、街の者と定期的にするようになりました。今や講習会まで行っているくらいです。見直す機会は兄さんたちのおかげでもありますよ。普段、縁がない方との手合わせは大変ためになりますゆえ、これもお仕事です」
答えてすぐ、マナカが城内へ下がった。本当に鍵を取りに行ったようだ。
竜次は呆れて両手を上げる。
「どうやら今日は、みんなで強化訓練になりそうですねぇ」
ジェフリーは楽観的な意見を言う。
「どうせフィリップスへ行くには夜行便なんだからいいんじゃないのか? 俺もリハビリしたいしな」
ジェフリーは肩を回した。まだ動かしづらそうだが、本人からしたら少しでも早く調子を取り戻したいだろう。
圭馬も呆れているようだ。
「現実離れした超人ばっかりなのによくやるよね。まだ強くなろうとするのかい?」
ショコラはもっと呆れているようだ。
「圭馬チャン、現実離れって言うたら、わしたちが言っても説得力がないのぉん」
「それはそうなんだけどさ。この人たちってホントに一般人だったのか疑うよね。その辺で平凡に暮らしてる街の人と何ら変わりないし」
圭馬が言いたいことは漠然とだが理解できない内容ではない。
ファンタジーなんかでよく目にする、『選ばれし者たち』のような気取りはまったくない。魔法や異常な化学などの一部は理解に苦しむし、混在するが、特別な世界でもないのだ。この世界は楽園でもないし、特にワクワクするような仕掛けでもない。
例外中の例外で、魔界はあったけれども。
一般的に思い描くファンタジーならば、もっと頻繁にモンスターと戦うのだろう。魔獣やモンスターなどといった敵が次々とあらわれ、討伐に励むに違いない。
この一行が相手にするのは、私欲に歪んだ人間。
邪神龍や、今だったら瘴気の魔物も相手として視野に入って来たが、対抗する手段はいくらでもあっていい。
マナカが道場の鍵を持って出て来た。これも仕事と言っていたが、本人は楽しそうだ。
「お待たせしました。こちらへどうぞ」
主にサキの強化訓練のようだが、皆が揃ってこれに便乗した。
案内された道場は中だけではなく、外の土壌もよく慣らされていた。確か、竜次とキッドはここで役人と志願者に武術を教えた。
ここなら多少荒っぽい動きをしても大丈夫だろう。
道場内は光が差し込んで清々しい。木造のいい香りが鼻を抜ける。用具倉庫にはあらゆる武具がしまい込んであるらしく、案内された。
木刀から球技用のボール、何に使うのかはわからないが何メートルもある棍棒らしきものまである。武器にも多様性が求められる世の中なら仕方ない。
「お使いの武器に近いものをお取りください。あ、武術棒はこちらです」
マナカがサキを奥に誘導した。ローズも追って行った。
ずらりと並んだ木刀の前で、竜次は長めのものを手に取る。
「木刀だけで何種類もありますね……っと、これくらいかな、長さとか重さも」
よく使い込まれた長めの木刀を握って確かめている。
旅路で持ち歩いている練習用の木刀とは比べ物にならないくらい勝手がいい。
ミティアはジェフリーと一緒に違うタイプの木刀を物色している。デートでもないのに、はしゃいでいた。
「決まったら、わたしたちは外に出た方がいいのかな?」
「ミティアの『舞い』は動きが大きいから、外に出て思いっきり動いた方がいいんじゃないか? その分腹も減って、メシがおいしく感じるかもしれない」
「わっ、ジェフリーが、わたしの相手をしてくれるの!? がんばるっ!!」
「で、だ……」
外に出ようという流れはわかったが、ミティアは木刀を三本も持っている。長いものはおそらく自分の持っている剣にあったものだろうが、短い剣二本は意図がわからない。ジェフリーは怪訝な表情で言う
「何でそんなに持っているんだ? 心変わりか?」
「えへへ、いい機会だから試そうかなって」
ミティアが小悪魔のように小さく笑う。こういう表情も可愛いのだが、彼女に剣術は計り知れない可能性を秘めている。ジェフリーは正直、これを機に何か化けそうな気がしていた。
まずは準備運動を開始する。
竜次とキッドも外で準備運動をしている。せっかくなので組み手を回そうとなった。
違う者同士で相手をすると、その分稽古になっていい。
準備運動で竜次がキッドに苦言を漏らした。
「あのぉ、クレア? それは、えっと……」
竜次が指摘をしたのは、足の運動だった。キッドは当たり前のように返す。
「屈伸運動ですよ? 足の運動は大切じゃないですか」
竜次は顔を赤くしながら近寄り、小声で具体的な指摘をした。
「スリットの入ったスカートはもうよしなさい」
「……っ!?」
キッドは顔を真っ赤にしながらポカポカと竜次に殴り掛かっている。
「どこ見てるんですかっ!!」
「見せている方がいけないんですって!!」
「すけべっ!! 変態っ!!」
「こ、こら、クレアったら……」
仲睦まじい恋人同士のようだ。すっかりその雰囲気になっている。
兄の竜次がキッドとやけにいちゃついているように思える。ジェフリーはあてられている気分だった。
「あいつら、何をしてるんだ?」
これにはミティアも首を傾げた。
「あの二人、やっぱり仲良し、だよね」
「さっさと結婚した方がいい。バカップルが!」
ジェフリーが吐き捨てた言葉を竜次が拾った。
「そのうちします。ご安心を」
顔を赤くしながらも、さらりと言い切ったため、他の三人の動作が固まった。
キッドは手を止め、呆気に取られている。
「あ、えっと、竜次さん?」
「えっ、宣言してはいけませんか?」
「そ、そうじゃなくて、あの……」
何が言いたいのか自分でもわからず、口をパクパクとさせながらキッドは動揺している。迷いのない突然の宣言に驚かない方がおかしい。
キッドの反応におかまいなく、竜次は前に出てジェフリーににっこりとしている。
「さ、お相手を願いましょうか?」
「軽くから頼む」
離脱するかもしれないと言っていたが、いつもの振る舞いにひとまず安心している。
今回のお見合い騒動を含め、吹っ切れたのかもしれない。これはこれでよかったのかもしれない。
道場の中では別のグループで組み手をするようになった。サキはマナカに向かい合って一礼した。
「よろしくお願いします」
サキがあまりに礼儀正しく、マナカは面食らった。
「で、ではまず、持ち方から入りましょうか」
サキはいつも真剣だが、今回は格段に違う。戦場と化した場合、自分自身で魔法以外も立ち回りたい。物理面でも最低限、自分の身を守りたい思いだった。
すでに魔法という優れたものに特化している。今から体力を付けて物理面を極めることは難しいにしても、ないよりは遥かにマシだろう。
特にこれからは厳しい情勢になる予想がされる。
何も言わないが、実はローズも同じ思いだった。ローズはいつもアドバイスぐらいしか手助けができていない。一歩離れた位置からいつも見ていることが多い。
ローズはサキの成長を見て自分にも何かできないかと模索している。今回も見守っている。
マナカはサキの姿勢が気になった。こんなにまじめな人は役人にもそうはいない。
「慣れて来たら、握力が付いて来ますのでまずは離さない意識を持ってください」
スポーツのラケットを使用する競技も該当するが、基本は手にしている物を離してはいけない。
サキにはもともとその意識はあったらしく、叩き込まれても離すことはなかった。
杖を弾かれたりはするが、魔法で杖のターンが望めるくらい都合がよくならないのだろうか。変にそういうところが現実的である。
「受け身も大丈夫みたいですね。もう少し足に体重を乗せてください。腕だけでは強打で負けてしまいます。骨を折ったり不意に気絶したりすることも考えられます」
「他に、具体的な対策はありますか?」
「そうですねぇ……」
サキはマナカの講習を聞きながら、早速実践しようとしている。いい心掛けだ。
実践と聞いてローズが前に出た。彼女も少し長めの棒を持っている。組み手の相手はサキだ。
「ほいほい、行くデスヨ?」
「はい、どうぞ!!」
ローズが上から、受け身状態のサキに向かって強打を繰り出した。乾いた音が道場に響き渡る。
サキは受け身のまま数歩後退した。ここが外だったらもう少し足元も余裕が出るかもしれないが、これも経験だ。
「腕が痛いです」
「先ほどの話だと、それを足で。腕はクッションにしかならないデス?」
「あ、なるほど。そういうことですね」
サキは早速試している。ローズがアドバイスを指摘する不思議なやり取りだ。
少し離れて、使い魔二匹とコーディが会話を交わしている。
「何か、まだ強くなるのかって思っちゃうよね。まぁ人間って強欲だから仕方ないか」
「私もこれから、こういう人が見られるのかわからないけどね」
「そっか、ドラグニー神族の混血だから、長生きしちゃうよね」
「むぅ、くだらない……」
自分で言っておいて、深く考えたくない。コーディは自分で言い伏せた。
ローズはなぜ大丈夫なのだろうか。ローズもアリューン神族の混血。もう百年は生きていると言っていたし、こんなにつらくなるようなことをして大丈夫なのだろうか?
生きるサイクルが違い過ぎる。いつか朽ちる命なのは一緒だが、あれほど神族を苦しめた人間にどうしてここまで思いが執着してしまうのだろうか。
長寿であるのは神族だけではない。使い魔たちもそうだ。ゆえに、気になることはたくさんある。
「のぉ、圭馬チャン? わしはずっと疑問に思っていたのだが、なぜ主と契約を交わしたのかなぁん?」
この鯖トラ猫、とぼけたふりをして、本音を聞こうとしている。
もちろんショコラが問うにはきちんとした理由があった。
「人間の友だち、おったのじゃろう?」
ショコラは例外だ。人間に干渉しすぎて魔界を追放された。
もともと人間が好き。人間の、特に魔導士にとっては身近な存在。
気持ちなど、本当はわかっているはず。それなのに、わざわざ圭馬の口から答えさせようとしているのだ。鬼畜以上に鬼畜かもしれない。
「始めは調べ物が面白そうだったからだよ。だけどさ、この人たちってその辺の人間とちょっと違うんだよね。うまく言えないんだけどさ」
「ほぉ……」
「ババァは理由がわかってて聞いて来るの!? ヤな奴ぅ~!!」
「わしらだって前世がある。人間だったかもしれないし、天空都市の者じゃったかもしれない。もしかしたら、神族だったかもわからんのぉ? のぉん、宇宙人だったりするかもしれんなぁ? とにかく、この身になってから長く人間と接していると、あぁ、こやつらは少し楽しそうじゃなってたまに会うのよねぇ?」
言いたいことを全て言われた。圭馬は耳を下げて少ししょげている。
「何だよぉ! わざわざ聞いておいて、この茶番……」
圭馬は毛繕いを始めてしまった。この様子は拗ねている。
コーディは何となくだが、ショコラの言っていることがわかる気がした。きっとローズが一緒にいる理由はこれも当てはまるに違いない。そんな考えごとをしているコーディに、ショコラは声を掛けた。
「何かを残そうとするのはいいなぁん。書物など、絶対に後世にまで残るからのぉん」
コーディは驚きと同時に、あぁそうかと言いたくなった。
自分が何を残そうとしているのか。そうだ、自叙伝と言っていた。旅をまとめたい。
これから待ち受ける事を、自分の境遇を。いずれ訪れる別れを嘆くのではなく、全てを残すために自分はここにいる。彼女の中で何かが吹っ切れた。こうしちゃいられない。いつまでも立ち止まって考えるには、人間の時間が短いのだ。
コーディは立ち上がり、パタパタと道場の床を踏み締めた。
「そろそろ私もやりたい」
コーディも格闘術で混ざるつもりだ。そのつもりでここに来た。
自分だって、みんなが生きて帰るための戦力になりたい。どこかの大魔導士に習って自分も頑張ろうと奮い立たせた。
外では順々に組み回しをしていた。仲間の太刀筋を知るなんてこんな機会は滅多にない。キッドはミティアと稽古を付けることはなかったし、とてもためになる。
回して行って、竜次とミティアの番になった。以前幻獣の森でミティアが操られて以来の手合わせになる。
「あの、わたし、先生に運動させてみたいです」
ミティアは短い木刀を二本、両手に持っている。ナイフや短剣の大きさだが、少し平べったい。竜次に運動させてみたい意図は、彼はほとんど動かなくても剣戟が強いため歩かないからだ。
「おや、私に運動をさせたいと?」
この医者が言うと一気にいやらしくなる。しかも、にやにやとだらしない。
「んー……禁断の関係も悪くないですねぇ」
竜次の言葉に反応したのはキッドだ。ぶるぶると拳を激しく震わせ、顔を真っ赤にしている。
それを見たジェフリーはキッドを抑止させようと試みる。
「キッド落ち着け。あれは組手だ。次に組んだときに話せばいいじゃないか」
「う、うっさいわね!! あんたには関係ないでしょ!?」
ジェフリーの視点からだと、キッドのリアクションが信じられない。いつからこんなに感情豊かになったのだろうか。ジェフリーの知るキッドはもっと人当たりが厳しく、何事も疑ってかかるくらいの警戒心。仲間とも打ち解けてくれない気質だった。それなのに、旅を経てその気質は和らぎ、思いやりのある優しい部分を知った。
キッドの様子を見て、竜次はからかうように笑う。
「妬いているクレアも可愛いですね」
竜次の気の緩んだ言い回しを聞き、ジェフリーは歯が浮いてしまいそうになった。キッドは、今度は拳ではなく、口をパクパクとさせながら唇を震わせていた。隣でこの変貌っぷりを眺めるのが少し面白い。
ミティアは竜次に手を振った。
「先生、守備でお願いします!」
「はーい、どうぞいらっしゃいな?」
ミティアの剣は力こそないが早さがある。それが急に短い剣になって、どう変化するのかある意味楽しみだった。動揺するキッドを尻目に、ジェフリーは食い入るようにミティアの動作を見ている。彼女は守りの構えをする竜次の剣に右の剣を叩き付けた。力押しはまずないが、これが面白い動きをした。
竜次は一歩も動かず、足で衝撃を抑え込みながら剣を引き、捻るように反撃に転じた。だがミティアの左手の剣が内側に入り込んだ。彼女の流れるような華麗な動きに見惚れてしまう。
「えぇっ!?」
竜次が驚くのも無理はない。風を斬った左手の剣が鼻先を過ぎて天を突いた。竜次の剣を舞って回避し、反撃に反撃で返した形になった。
もちろんそのあとの、右の剣は交わった刃をギリギリと捉えたまま封じている。
「あっ……!!」
ミティアが竜次の剣を抜けて内側に入ったまでよかった。だが、重心が足から押さえ付けられている右の剣に移動したことによって、竜次はミティアを下敷きにして前のめりに倒れてしまった。当然、誤解を生む体勢になってしまう。
「せ、せんせっ、うぅぅ」
「ええええええ、何ですか、これ……」
竜次がすぐに起き上がろうとするも、かなりの際どい状態だ。ミティアのカバースカートが広がり、太ももが露になっている。
「今退きます! 退きますのでっ!!」
倒されたこともそうだが、こんなに恥ずかしいことがあっていいのだろうか。慌てふためきながら竜次は先に立ち上がって、ミティアに手を貸した。
「驚きました。反撃に反撃で返すなんて」
「先生、ごめんなさい。痛くなかったですか?」
「転んだことに関しては大丈夫なのです。ミティアさんこそお怪我はないですか?」
「怪我はしてませんが、なんかいろいろ汚れて……」
お互いに土埃を払っている。予期せぬハプニングがあった。だが、ミティアが今までと違う動きをしたことに皆が驚いた。
ジェフリーも唸る戦術だ。
「今の戦い方は対人にはいいな。ただ、戦略を必要としないなら、いつもの方がいいと思う」
「た、試したかっただけなのっ!! それに、舞の剣なんて最近あんまり売ってないからお店で買えないし。多分、買っても脆いから」
ミティアが言うように実戦では課題が残る。モノにしたかったら、何か考えてもいい。例えば腕輪を作ってもらったのと同じ要領で、キャラメルシィに再び赴くか。それもこれから次第だが。
「しっかし、ミティアは回数熟せば、どんどん強くなりそうだな」
ジェフリーの言葉を聞きキッドは眉間にしわを寄せる。何とも言えない渋い顔をしている。悪い意味ではなさそうだ。
「この底力、ちょっともったいないわね」
二人はミティアをじっと見る。
ミティアはその視線に気が付き、恥ずかしそうにもじもじとしている。
「さ、最低限、自分の身は守りたいの。もともとそのために学校行っていたんだもの」
あくまでも護身と言い張った。ミティアが倒れられては一番困る。
ミティアはその先を考えていた。
「わたしが誰かを守るなんて……」
想像がつかない。ミティアはそんな顔をしている。だが、本当は守りたい人がいる。視線の先に。
「どうかしたか?」
「あ、ううん? 次、わたしとだっけ」
今度は短い方ではなく、普段使いに近い方を握っている。稽古、練習、そうかもしれないが、心が通じ合えた人とあらためて手合わせなんて少し複雑だ。お互いにそう思っているのが表情で汲み取れる。
「なんか、面と向かってって恥ずかしいね」
「べ、別に殺し合いをするわけじゃないんだから、気にする方がおかしい」
気にする方がおかしいとは言ったが、ジェフリーも気にしている。気持ちが通じ合ったからこそ言えるが、できたら対峙したくはない。
これは練習、自力アップのために稽古。言い聞かせながら、持っている剣を振り上げた。ジェフリーは特別変わったわけではない。魔法を使うようになったが、サキがいる以上は緊急と考えている。そこまで重要だとは思っていない。今最も重要なのは、大剣を振り回すのに支障がないように復帰することだ。
ミティアとジェフリーの刃がぶつかる。
カンカンッ!! パキッ!!
突然、奇妙な音がした。ミティアは手元を崩す。
「えええええっ!?」
ミティアは地面に手を付き、カバースカートを翻しながら後退した。持っていた細身の木刀に大きなヒビが走っている。
「そんなに強く扱ったかなぁ……」
「はははっ、ミティアは馬鹿力だったのか?」
「そ、そういうこと言わないでよぉ……」
緊張が解けてあざけ笑うジェフリーに対し、ミティアは頬を膨らませながら肩を落とした。一応借り物だったのだからマナカに断りくらいは入れておかねば。
「マナカさんに謝って来る。今日はどうしたんだろう? 何だか、冴えないね」
逆だ。誰も指摘を入れないが。
ミティアはとぼとぼと道場の中へ入って行った。靴を脱いで上がると、中でも打ち合いになっていた。乾いた木の音がカンカンと鳴る。
ミティアの存在は、皆の手を止めさせた。
サキが声をかける。
「あっ、ミティアさん」
マナカも手を休め、いったん退いた。
「おや、どうしました?」
ミティアは申し訳なさそうにしながら、手にしている物を見せる。
「すみません……」
「おぉ、これは……」
怒るどころか、マナカはにっこりと笑っている。
「粗末に扱われたのではなく、いい役目を終えましたね。それにしても、沙蘭の樫の木は質もいいはずなのでそうヒビは入りません。いいものを見た気がします」
「そ、そうなのですか?」
普通に使っていて壊れることはよくある。素材がいいため、それを見る機会は少ないらしい。マナカは珍しがっていた。
窓から差し込む日が眩しい。日が高くなったようだ。マナカは提案をした。
「さて、丁度いいですね。お昼ご飯でもいかがでしょうか?」
食べ物と言えばミティアが明るくなる。しょげていた彼女が声を弾ませる。
「お昼ご飯!」
時間と聞き、サキは懐中時計で時間を見る。おやつどきになる時間だった。
「わ、こんな時間だったんだ?」
時間を忘れて励んでいた。この稽古は、一行にとって実りの多いものだった。
マナカは沙蘭らしい食べ物を頼もうとしていた。
「若竹様のお寿司でも頼みましょうか。夜には行ってしまうのでしょう? こちらも会議であまりお相手できなかったので、これくらいは……」
マナカは一礼すると、笑顔で出て行った。本当に頼みに行ってしまった。
「ん、休憩?」
「やー、運動不足にはつらいデスネ」
コーディとローズが座り込んだ。皆も汗をかいている。
サキは座って休まず、この時間の有効活用を思いついた。
「頼むって出前ですよね? まだ時間がかかるのでしたら、試しにジェフリーさんと喧嘩をしてみようかな?」
サキは練習用の棒を持ったまま、外へ飛び出した。すれ違った顔がやけに無邪気で可愛らしく、ミティアはキョトンとしてしまった。
「お姉ちゃん、座ろう?」
コーディに道場の床を叩かれ、ミティアは並んで座った。彼女から誘って来るのは珍しい。
「サキ君は身に着けるスピードが速くてびっくりしますネ」
座りながら腰をトントンと叩くローズ、ため息をついた。そんなにサキに振り回されたのだろうか。
「あいつ、絶対おかしいよ。優れているのは魔法と頭の構造だけじゃないの?」
ぶつくさと言いながら足を延ばすコーディ。少し言葉遣いが雑に感じられた。
「んン? どしたデス、コーディ? ライバル心?」
「否定しない」
今日のコーディは荒れ模様だ。別に人に当たるわけではないものの、どうも虫の居所が悪いらしい。
ミティアはなぜかその執拗さが気になった。
「どうしてコーディはサキがそんなに気になるの?」
鋭い洞察力だ。狙っているのか天然なのか、本人に自覚はないようだがときどきこんな冴えたことを言うのが彼女。控えめなはずのコーディが慌てている。
「ききき……気になるって言うか、そのね、同い年なのに明らかにスペックが上じゃない!? なんか、悔しいからぎゃふんと言わせたくて……」
「ぎゃふん?」
「私だって何か抜かせるようなものがあるかもしれないじゃない?」
「コーディちゃんは作家さんじゃないの? 作家さんってすごいと思うんだけど?」
行き着いた場所はいつも作家。それでもコーディは納得していない。
「違うの!」
「コーディ、背伸びしたいお年頃デス?」
「ローズまで何を言い出すのよ」
身長の指摘かと思うほどの指摘に、コーディも返しが怒っているのがわかる。
「もしかして、ホの字?」
悪ふざけが過ぎて、圭馬まで便乗した。この言葉に対しては顔を真っ赤にして立ち上がった。
「や、やめてよ。そんなんじゃ……」
「ふあーっ、疲れたっ!!」
コーディの気まずさが救われた。髪を結った本業お医者さんが、靴脱ぎ場で情けなくばったりと倒れている。その背後には腰に手を当て、さっさと上がれと言わんばかりのキッド。今にも蹴飛ばしそうな勢いだ。
「竜次さん、ここ、邪魔でしょ!?」
「あっはは……」
仲がいい。悪いことではないのだが、これから先、支障が出ないか心配だ。
「あら、コーディちゃんどうしたの? 顔赤くない?」
キッドに指摘を受ける始末。興奮して起立していたコーディだったが、異様な空気になってしまい、再び注目の的になってしまう。
「みぎぃっ……ふぇあ?」
困惑する少女の体をしたコーディは、フカフカの胸と甘っぽい香りに包まれた。背後から抱き寄せられている。見上げると、ミティアがにこにことしていた。
「コーディちゃんは今日も可愛いなって話してたのっ!!」
変な庇われ方だ。気を遣ってくれているのはありがたいが、何だか恥ずかしい。頭をくしゃくしゃにされ、悩んだり怒ったり照れたりと忙しかったコーディは、ついにおとなしくなった。
突然むくりと起き上がって道場に上がって行く竜次。
「はぁ、マナカが行ってしまったので一休みしましょう」
今度は腰痛を訴える仕草をしている。ただの腰痛なのかは疑問だが。
「お兄ちゃん先生、年食ったねー……」
「ウサギさんに言われちゃうと元も子もない。人間なので年も食いますって」
圭馬は竜次に摘まみ上げられる。竜次が残留することによって、またこのやりとりが見れるのが微笑ましい、
「はーなーせー! 色ボケが移るー!!」
「むむっ、色ボケだって立派な絆要素ですよ!? ほら、みんなで協力。チームワークは大切なんですからねっ!」
竜次のお説教の仕方がいつもより自信満々だ。言っていることは確かなのだが、絆と言われるとどうだろうか。圭馬は口を尖らせた。
「絆とか、軽々しく言うもんじゃないよぉ。つながりを絆って言うんだから」
「私たちにはあるじゃないですか。もちろん、ウサギさんや猫ちゃんにだって、ねぇ?」
圭馬を摘まみながら、竜次はやはり自信満々に言う。ショコラにも視線が行った。
「のぉん? わしたちにもあるのかのぉ? 幻獣だしのぉ」
「ボクたちは幻獣だよ。契約って形で同行してるけど」
「主はどう思っているのかのぉん?」
特に圭馬は『友だち』について思う節があるせいで、そう言った話題には敏感だ。契約主のサキが、そんなに冷然としているとは思えないが。
澄んだ空気に乾いた木の音が響き渡る。
自信を持った手は突きが鋭い。訛った体には少々堪える。ぶつかり合う剣戟。サキはせっかく身に着けた棒術で、ジェフリーに戦いを挑んでいた。
「そこだっ!!」
ジェフリーが反撃を繰り出すと、身軽な大魔導士が身を引いて回避する。沙蘭の剣技よりは単純な動きなのだが、体格が違うせいで動きが読めない。ましてやサキは普段、肉弾戦をしない。
二人は間合いを取って向き合った。
ジェフリーを焦らせたと思い、サキは無邪気に笑う。
「えへへ……」
「使ってる杖を握ったら意外と振れないかもしれないぞ? あと、連れてる使い魔の重さを考えたらそんなに動けるとは思えないな」
「あっ!!」
「まさか、計算に入れていないな? まーた、簡単な見落としだぞ」
サキは小さく唸っている。指摘されたように、今の動作がまだロクに振ってもいない杖でもできるのか。使い魔二匹をカバンに押し込んだまま、同じ動きができるのかは保証できない。本当に見落としだ。
ジェフリーはそんなサキにアドバイスをする。
「守り専門なら、物理で秀でようとは思わない方がいい。守りが固まれば、サキにはもっと誇れるものがあるだろう?」
「そっか、そうですね」
どうも、サキは先走りが過ぎて、肝心なものを見落としがちになる。アイラは遠回しにそのことを注意したのかもしれない。『力に溺れるな』とは難しい。特に、サキにとっては探求心と向上心の強さから気が付くのが遅れがちになる。
何かを失う前に、立ち止まってもらうことを覚えてもらいたいとジェフリーは思った。だが、今は具体的な案がない。
ジェフリーは、落ち込ませないように褒めることにした。
「まぁ、筋はいい。お陰でいい練習になった。サキは頑張りすぎだと心配するくらいだぞ? あくまでも今日学んだことは、自分自身のため。誰かを守るのはお前の魔法だからな?」
サキは小難しく考えながら一人で頷き、納得している。
「うん。そうですね。欲張らないようにしないと。今度は魔法が疎かになっちゃいますね。それだけは回避したいです」
「ははは、サキは敵に回すと厄介だからな」
なぜかジェフリーに褒められるとうれしくて仕方がない。友だちだからなのかもしれないが、自分の父親と親しかった人がおそらく彼の父親、ケーシスだ。それもあってか、この偶然の縁はかけがえのないもの。必要以上に変な執着をしてしまうし、期待には応えたい。サキはジェフリーに言う。
「僕、ジェフリーさんと友だちになってよかったです」
「どうしたんだ? らしくない」
急にサキの視線が落ちた。ジェフリーは何事なのか心配してしまう。
いい意味であらためて思ったらしく、サキの顔は笑っていた。
「僕、一生かかってもできないような体験をしたんだなって。始まりはミティアさんとぶつかって、お師匠様がジェフリーさんとお話をつけたり、大図書館のお化けを追ったり、何だかすごかったですよね」
青空を仰いだと思ったら深呼吸をし出した。
「付いて来なければ、僕は年を待つまで大魔導士にはなれませんでした。もしかしたら、拾った母さんと一緒に名前だけで捕まって処刑されてしまっていたかもしれません」
思えば遠くまで来た。隣にいる友だちはかけがえのない人。
その気持ちはジェフリーも同じだった。
「俺もいい友だちを持ったと思う。昨日話したように、俺って友だちらしい人がいなかったから。魔導士狩りのせいで、親しい人を失うことにトラウマを感じていたのかもしれない」
サキはにっこりと笑う。
「新しいことするのって、すごく勇気がいりますよね」
「新しいことをし過ぎなお前が言うと、あんまり説得力がないな?」
小馬鹿にするように笑い合った。普通は年の差をハードルと考えるだろうが、感じたのは最初だけであとは難なく接している。ワッフルを食べたときも感じたが、変な所で気が合う。仲間と言うだけでは済まない関係。
「俺は死んでも友だち止めないからな?」
「僕だって。えへへ……」
旅の終わりが近いことを示すような振り返り。得たものを手放すつもりはない。
マナカが大きなやかんと何重かの漆器の寿司桶を持って帰って来た。曲芸師のような絶妙なバランスで持ち運んでいる。
道場の中でおやつ感覚のラフな食事の空気だ。
「さ、どうぞ、どうそ。間違っても国家予算ではないので、ご安心くださいませ」
真面目な性格のマナカに冗談を言われ、和やかな食事を交わす。小皿に分けたちらし寿司と握り寿司をいただいた。大きなやかんの中はほうじ茶だった。熱すぎず、飲みやすい。
マナカは竜次に向けて質問をする。
「次はどちらへ行かれるのですか?」
「フィリップスの予定です。縁談があったので、私は変装して歩かないと」
縁談は破断したが、なくなったとは言え、フィリップスのそこそこの権力の人と立派にいがみ合ったのだ。またあのうさん臭い伊達眼鏡とベレー帽の身形が始まる。お騒がせになったシスターと時間を移動する魔法使いによって、破断したのだがもしかしたら諦めてくれないかもしれないし、警戒するに越したことはない。
ジェフリーもマナカに言いたいことがあるようだ。わざわざ視線が合ってから言う。
「今度は長らく帰って来ない可能性がある。だから今のうちに言っておく。マナカや姫姉、光介にも本当に世話になった。何年も来てなかったのに、あの邪神龍の騒動があっても沙蘭はここまで綺麗に蘇ったし、本当にこの国は強くていい国だと思う。今度来たときは腰を下ろすかもしれない……って言っておけば、励みにはなるか?」
「おっとジェフ兄さん、そう言われては期待してしまいますよ?」
マナカも食事に混ざりながら、他愛のない話をしている。食事に混ざるのは初めてだが、とても話しやすい。国のトップである城主の側近、護衛、沙蘭で今一番強いかもしれないと言われている彼女だが、何も気取ることはなく、自慢もしない。国の自慢はするのだが、自分のことは控えめだ。
「竜兄さんは、次に帰国される際は式の準備でしょうか?」
マナカが視線を向けたのは、てっきりジェフリーと話していることで油断していた竜次だ。キッドとお皿の上の寿司ネタについて、にこやかに話していたところだった。
急に話を振られたので慌てているが、もう遅い。それに、皆は知っている。
「な、何のことでしょうか?」
何となくマナカには黙っていたかったのだろうか。それとも気を遣っているのかもしれない。マナカは合えて言及をせず、適当に流すことにした。なぜなら、どんなに言ったところで本人が認めなければただの迷惑だからだ。
「まぁ、そうですよね。沙蘭だって変わり行くのです。皆様だって、兄さん方だって変わって行きます」
マナカは遠回しだが、本当に言いたかったことを言う。
「いつでも帰って来られる場所はあるのですからね。ただ、ここに身を置いてくださるのかは、これから我々の頑張り次第なのでしょう。毎度のことながら、試されますね」
マナカは一行が何を背負っているのかを知らない。だが、察することはできた。
「何と戦っているのかはわかりませんが、しばらく帰って来ない可能性があるのでしたら、これから大きな戦いでもあるのでしょうね」
察しがいい。今までさほど干渉して来なかったが、義理の兄達が危険を冒してでも戦いたい何かがある。理由はわからないが追及して来ない。マナカはある程度は見逃していた。
今回は少し事情が違うせいもあって、別れが名残惜しい。
竜次はマナカの様子がおかしいと気づいた。もう一度、正姫たちにきちんと挨拶をするべきかと考えた。
「せっかくですからね。発つ前に城へ顔出しをしますよ」
「竜兄さん、まるで負け戦にでも行くようですよ? 気持ちだけ、お受け取りします」
「そんなつもりは……」
縁起でもないやり取りだ。マナカにとってはそれくらいの『予感』を察知したのかもしれない。マナカの口数は少なかった。
食べ終えて一息つくと、出発前に街中に繰り出した。マナカとはここでお別れ。最後まで気丈に振る舞っていた。彼女は城に戻ると言う。閉めた道場の前で一礼した。
今回の言いしっぺにもなったサキが前に出る。
「色々とご指導ありがとうございました。なかなかこういった機会がないので、とてもためになりました。また立ち寄った際にはお相手をしてください!」
サキがあまりにも礼儀正しく、マナカはまたも驚いていた。光介に爪の垢を煎じて飲ませたいくらいに思っていた。
「いえ、こちらこそ、大変ためになりました。またお越しください。兄さん方も、ね?」
鍵を腰の巾着にしまい込み、もう一度皆の顔を見る。さすがに少し寂しそうだったが、ここに留まることはできない。
「わたくしは城の警備と交代します。街中へ行くのでしたら、もしかしたら光介がいるかもしれません。よかったらあの子にも声をかけてあげてください。あなた方のこれからの旅に幸があらんことを……」
これ以上は別れがつらいと思ったのか、マナカは先に踵を返す。彼女は仕事があるのだから戻るだけ。これが彼女の日常。幸いにも退屈していないようだ。
沙蘭も、外部から狂暴化した野生動物の侵入を完全に防いでいるわけではない。荒れる外交、フィラノスもフィリップスも国王不在。これからどうなるかなどまだまだ見えない。その中で沙蘭の治安維持と正姫の支えになる仕事は目まぐるしいはずだ。
マナカにとって稽古は息抜きになってよかったかもしれない。気が滅入っている様子ではなかったが、彼女は真面目なのでどこかで爆発しないか心配だ。適度にガス抜きをしてもらいたい。
沙蘭の街でしか買えないものを重点的に買い足した。買ったものの一つに沙蘭の抹茶がある。本場の物は値が張るのを承知で皆で買った。好きだからだ。
現時点で武器の買い替えなどは視野になかったが、竜次がキッドに刃物のお手入れセットを買っていた。これもおそらくここでしか買えないものだ。キッドに渡した小刀の紅椿は沙蘭の職人が鍛錬してくれたもの。刃こぼれしたり錆びたりと手入れは大変だが、切れ味はそんじょそこらの剣とは格が違う。竜次の刀にも言えるが、いい得物はそれなりに持つことも大変なのだ。
女性陣がちりめんのポーチや小物に興味を示し、多少なり購入していた。独特の模様が入った七宝焼きなんかはここでしか買えないだろう。
雑貨屋のレジ横の籠に、以前は見受けられなかった『魔石セット入荷しました』というボードが下がっている。物流に力を入れるのかと目に見える変化に気が付いた。
あとは食料だろう。船の中でこの人数の食事を贅沢にするとかなり懐が痛い。いつかはご馳走になってもいいと思ったが、その余裕はない。
ローズが言うには、これからお金がかかると言っていた。少しでも抑えられるなら金銭面も厳しくしていきたい。もちろんすべてをセーブするのではなく、必要なものにはお金を叩けばいい。
ご飯屋さんに目を付けた。一行で何を買うのか相談したが、やはり沙蘭らしいものが人気になる。お寿司は先程ご馳走になったので、別のものがいい。
とりあえず竜次が選び、助六の詰め合わせを買った。巻き寿司といなり寿司が入っているので、種類は違うがまたもお寿司になった。どうせならこれと併せて別のものがいい。お惣菜を買い足そうとなり、また足を運ぶ。沙蘭は魚料理が多いため、いちいちショコラが敏感になる。猫だから魚が好きの誘惑が絶えない。
「あ、兄貴様!」
街中でわざわざ声をかけて来るのは知り合いに決まっている。この呼び方にも特徴がある。ジェフリーや竜次の義理の弟、光介だ。駆け寄って元気な挨拶をした。
「ちーーーッス!」
「あぁ、光ちゃん。マナカがよかったら声をかけろと言っていたのですよ。パトロールでしたか」
竜次はにっこりと挨拶をする。光介はマナカと違って気さくで明るいので、話すだけで楽しくなってしまう。
「そうっスよ。仕事と同時進行で城の新しい献立も考えてましてね!」
光介の口の端にソースらしきものが付着している。摘み食いをしたに違いない。仕事と言っているが。
ジェフリーが皆を代表して指摘を入れた。
「お前、その仕事中に何を食っていたんだ?」
ジェフリーが問い詰めると、光介は笑って誤魔化した。こういう愛嬌があるのが光介だし憎めない。
光介は竜次の手元の風呂敷から助六の詰め合わせが見えているので安心した。仕事の問い詰めではなく、食べ物の話だろうと白状した。
「ちゃんちゃん焼きッスよ。そこの鮭専門店の……」
未だに包帯が巻かれた右手、その人差し指がすぐそこの裏通りを指した。出店や茶屋が並び、甘味処に紛れてわからなかった。
竜次は小さく頷き笑った。
「光ちゃんのおすすめなら、晩御飯に買おうかな」
「あぁ、そっか。夜行便で出ちゃうんスよね?」
「実はそうなんですよ」
食べる物の選択肢が豊富な沙蘭で、わざわざお弁当を買うなんて何かあるときだ。食べに行く方が新鮮でおいしいものが多い。
キッドが間をすり抜けてぱたぱたと走って行った。
「あたし、大きいの、注文しておくわ。せっかくだから、話してあげて」
「あぁ、クレア、お金……」
よくできた弟、サキが一礼してキッドを追い掛けた。手には財布を持っているので、立て替えておくサインだ。
「サキ君……ありがたいですけど」
竜次は目をぱちぱちとさせる。
無言で席を外すコーディとローズ。ミティアはタイミングを損ねたのか、行くか迷ってジェフリーの服の裾を摘んでいる。
ジェフリーは『どうしよう』と目で訴えるミティアを自分の背後に押し込んだ。そのあとで、あらためて言う。
「今度はしばらく帰れないかもしれないから、今のうちに言っておく。たびたび帰って来はいたが、世話になったな」
ジェフリーは右手を出そうとしていったん引っ込め、わざと左手を差し出した。握手のつもりが、怪我をしている光介を気遣った。光介はそれにかまわず、両手で握手をして笑う。
「フラグは立てない方がいいっスよ!」
「ははっ、それもそうか」
「俺っちは兄貴たちの旅の事情とか、目的とか、あんまり知りませんけどね。何となく、野生動物の凶暴化とか、そういった根本的な原因と戦ってるんじゃないスか?」
「いやだから、そんな陽気なキャラで鋭いことをしれっと言うなよ」
光介は苦笑いをするジェフリーの手を解いて、竜次にも向き合った。
「沙蘭は俺っちとマナカ姉に任せてください」
「光ちゃん……」
「湿っぽいのは苦手なんスよ。こういうのは、明るく見送る方がいいに決まってます」
光介が言うことは明るい。実際に街の者には慕われている。マナカとはまた違うが、人望は厚い。それもこの人柄のお陰かもしれない。
光介は何かを察したのか、ミティアにも声をかけた。
「お連れ様も、沙蘭はいつでも来ていいんですから。帰りたいって駄々をこねて、兄貴たちを困らせてもいいんですよ!」
「わぁ、ありがとうございます」
ミティアにも声をかけるとはなかなかの気遣いだ。
兄弟は顔を見合わせながら笑い合う。
「ミティアさんに駄々こねられたら、何でも言うことを聞いてしまいそうですね」
「いや、まったくそうなんだよな……」
ミティアの大きくてくりっとした可愛らしい目が二人を交互に見る。この小動物のような可愛らしさは二人もコロッとやられてしまう。
光介はへらへらと笑う。
「俺っちは兄貴たちを羨ましいとは思いますけど、そこまで危険なことは金を積まれてもやりたいとは思わないっス。また会えるなら、今度は旅行でも組んで来てください。沙蘭を一周するだけでも二日は楽しめますから。そうだ、温泉でも掘る計画でも立てれば観光産業にはいいかもしれないっスね」
これも光介らしい一面だ。決して根本まで不真面目ではない。今はわざと明るく振る舞っているのがわかる。本当は寂しいのだ。
竜次は温泉の話に目を輝かせた。
「温泉が掘れたら、私は沙蘭で暮らしちゃいますよ!? 自室のある北殿に引いちゃおうかな」
「おっ、マジですか!? 俺っち本気出しちゃいますよ! こうしちゃいられない。仕事に戻って今夜の会議にも持って行きます。姫姉、マジになるかもしれないっスね」
光介は一礼し、笑顔で踵を返した。根はしっかりしているのだから、彼はきっと本気で温泉掘りを計画するだろう。期待が高まる楽しみができてしまい、名残惜しいよりも楽しみが先立った。
ジェフリーは竜次の言動に呆れていた。
「あんな適当なこと、言いやがって……」
「おや? 私は本気です。温泉のあるここなら、一生暮らしていい」
「キッドが何て言うだろうな」
ジェフリーは拗ねるような悪態を取った。だが、刺すようなミティアの視線にすぐ気が付いた。この威圧は竜次よりも攻撃力があって困る。
ジェフリーは深いため息をついた。
「はぁ……俺も考えどきか?」
ミティアは服を摘まんでいた程度だったのに、いつの間にか腕を組んでいる。柔らかくて暖かい体が密着していた。ジェフリーのため息の理由はこれもある。その光景に竜次は苦笑した。
「見せ付けてくれますねぇ」
「別に……」
そんなんじゃないと言いかけて、言いきったらミティアを傷付けることに気が付いて呑み込んだ。ジェフリーは言葉に気を付けるように意識をしている。
「ジェフは定まらない将来が最大の課題ですよね。落ち着いたらでもいいでしょうけれど、身の振り方も考えてくださいな」
「まぁ、そろそろ何か考えてもいいかもしれないけど」
ジェフリーは宙ぶらりんのままだ。金遣いが荒い点もそうだが、大人の意識を持つべきかもしれない。一方で一度は落ちぶれた竜次は元々がいいのだから、いくらでも立ち直れたし独り立ちもできる。医者と言うスキルだって、今は活かせている。
ジェフリーは剣術学校を卒業している。そのスキルを活かし、今からどこかの兵士や騎士団に所属することは考えてしなかった。その仕事を選んでしまったら、身を捧げて守るのは本当に大切なミティアではない。もちろんそれを生き甲斐にしている者だっているのだから全ては否定しない。
身の振り方の選択を迫られている気がした。
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「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
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