トレジャーキッズ ~救いしもの~

著:剣 恵真/絵・編集:猫宮 りぃ

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集う星たち

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「金払ってんだからしっかり働けよ」
 商会場で先に説明を聞いていたのはジェフリーとコーディ。どうも空気が悪い。聞くところによると、最近はギルドで仕事を請け負ってくれる人が少なくなったらしい。
 大金を積んでやっと用心棒を掴んだはいいが、目つきの悪いジェフリーと、子どもの外見のコーディだ。反応はよくなかったし、歓迎はされなかった。だが、コーディの名前はそこそこ知名度があるらしく、商会の中でも知っている者は少ないがいた。
 商会場はテントのようなものが張られた簡素な造りだ。詰め所と言っていい。外には荷馬車、関係者もいるがみんなピリピリしている。
 ボブカットの金髪女性が息を切らせ、合流した。
「あぁ、いた!!」
 コーディが目を真ん丸にして見上げる。
 頭には帽子ではなく編みこまれた赤いヘアバンド。暖かそうなマントを羽織り、灰色の縦縞をしたセーターに黒いレギンスを着ているキッドだ。腰には矢筒と小太刀、左手にいつもの弓を持っている。
「ごめん、ちょっと時間かかったわ。着方、これであってるかわからないけど」
 縦縞のセーターが胸を強調する。間違いなく竜次の趣味だ。
「暖かそうだね……」
「スリットの入ったスカートより動きやすいんじゃないか?」
 誉め言葉と言うか、何か言わないと怒られそうだと判断した。ジェフリーとコーディははもともと反応が薄いタイプだ。それでもキッドは反応されたことがうれしいらしく、照れながら首の後ろを掻いている。
「ほとんど竜次さんの趣味なのよね。でも、おかしくないならよかったわ」
 やはりそうだったかと吐きそうになって、呑み込んで黙り込んだ。本人が嫌がっていないのだからそっとしておこう。二人はアイコンタクトで頷き合った。
 
 ジェフリーが遅れて来たキッドに向けて説明をする。
「今夜の荷馬車は三つ。街道の半分までで、半分から先はノア側の警備がいるらしい。だから、二つめの馬車に俺が乗り込んで途中で降りる。二人は先に行って潜んでいてくれると助かる」
「なるほどね。あたしたちは中間地点付近にいて、無事に馬車が通過するのを待っていればいいんでしょ?」
「キッドは目がいいし、コーディは少し高い所から見渡せるだろうからな」
 言い合いもせず、きちんとした作戦会議ができた。これまでもこの調子だったらどんなによかっただろうか。ジェフリーも余計なことを言わなくなったし、キッドも人の話をよく聞くようになった。これも成長なのだろうか。
 あれほど口喧嘩をしていたのが、懐かしく感じるときが来るのかもしれない。
 作戦の通り、キッドとコーディは先に行って潜伏していることになった。普通なら時期に夜になるのに、女子どもだけで出歩かせるなど考えられない。この二人は逞しいので例外だ。
 
 荷馬車の荷台に乗るのは心地が悪かった。人を乗せるならもう少し配慮があるかもしれないが、積み荷の隙間に無理矢理乗せてもらっているので狭くて仕方がない。ジェフリーは木箱に挟まれて窮屈だった。
 しかも生き物が一緒に乗っている。鉄の網籠に鶏が犇めいていた。木箱からはヒヨコの鳴き声がする。そして家畜臭い。動物臭い。羽根も埃も立って居心地は最悪だ。
 もう窃盗団なんてどうでもいいと思えるくらいに早くここから解放されたい。森の中に入って数分。隙間から見えるだけでも日の光はなく、薄暗いのがわかる。道が悪くなって揺れがひどくなった。虫の声が多くなり、街道に入ったのがわかる。今のところ襲撃はない。
 ピヨピヨとコッコッコッと耳が痛い中で息を潜める。どうしても家畜の鳴き声で緊張が解けてしまいそうだ。だいたいこういう依頼は最初に大本には遭遇しないだろう。そんないい加減なことを思っていた矢先、ガクンと大きく揺れて馬車は止まった。まだ中腹には程遠いはずだ。
 ジェフリーは耳を澄ませた。
「様子がおかしい……」
 衝撃があったことにより、一層家畜がうるさく鳴き出した。独り言ものまれてしまいそうだ。ジェフリーは、荷に被せられている布の隙間から外を覗き見た。馬車を降りた商人がランタンを片手にうろうろとしている。後発の荷馬車が道から脱輪し、路肩からはみ出しているのが見えた。
 積み荷が重いとありがちなことだ。
 ジェフリーは脱輪を手伝う仕事は含まれているのだろうかと疑問に思った。とりあえず声がかかるまで、おとなしくしていようと決め込んだ。
 ガサガサっと木々が大きく揺れる音が開いたと思ったら、馬が悲鳴を上げている。
 次に聞こえたのは、商人の慌てふためく声。遭遇しないだろうと思っていた者に遭遇した。作戦は大きく崩れた。
 窃盗団だ。ジェフリーは耳で確認した。
「積み荷を置いて行ってもらおうか!!」
「今日はこんなに積み荷があるなんてラッキーですな」
 ジェフリーは荷から出るタイミングを見計らっていた。それよりも先に、商会の人にいびられてしまった。
「用心棒さん、仕事してくれっ!!」
 引き寄せて人数の把握や誰が偉いのかを見極めるつもりが、馬を打つ鞭で外に出るのを急かされた。ジェフリーは舌打ちしそうになったが、ため息へと替える。
 外に出た。負傷した馬と、窃盗団と思わしきものが三人、見える範囲で把握できた。あまり有利な状況ではない。
 歯の欠けた、いかにも下っ端の男が下品に笑う。
「ひっひっ、今日の用心棒も弱そうですね」
 背後からは期待と不安の入り混じった商人たちの視線。重要なことでなければさっさと済ませたい。とりあえず相手の力量を見るかと、ジェフリーは少々無謀な賭けに出た。剣の柄に手をかける。
「来いよ!」
 ジェフリーはお得意の目つきの悪さと鼻で笑う。窃盗団はこの挑発にまんまと乗って来た。これくらいわかりやすいと、もしかしたら一人でも簡単に片付くかもしれない。
 ジェフリーは馬車から離れ、脇道に身を乗り出した。身を低く構えた途端、背後から左の頬を鋭い風が抜ける。抜けたものはクロスボウの矢だった。鉄の矢が近場の木に突き刺さる。つまり、体を低くしていなかったら、肩か、悪くて心臓を射抜かれたかもしれない状況だ。
「厄介なのがいるじゃないか」
 身近にも弓矢を使う人間がいるが、敵に回るとこうも厄介だとは思わなかった。ジェフリーは手を引いてポーチに忍ばせる。取り出したのは黄色い魔石だ。覚えている魔法は少ないが、一掃するのにはちょうどいい。
 いったん前方の刃物を持った者たちを無視し、魔石を弾きながら背後を振り返る。
「ライトニングブレイド!!」
 稲光と轟音が走り抜け、数十メートル先で大きく爆発した。大岩に当たって砕けたらしく、バラバラと小石が空から落ちる。突き刺さった地面には、雷とまとった剣が辺りをほんのりと照らす。
 威嚇のために放ったが、窃盗団の恐怖に満ちた表情と声が場の空気を完全に狂わせた。
「今日の用心棒はやばい奴じゃないっすか!!」
「お、俺はこんな奴の相手はごめんだ。お頭様、助けてくれーっ!!」
「いやだぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 窃盗団は呆気なく逃走した。いや、これくらいでよかったのだが、どうも呆気ない。ジェフリーは残党がいないか、周辺に目を凝らしながら言う。
「もしかして、終わりか?」
 ジェフリーは馬車へ足を戻した。荷台の縁に腰掛け、深く息をついた。身体的な疲労はそこまでないが、神経を使ったようだ。ジェフリーが休んでいると、商会の人たちがひそひそと話をしている。
「す、すごい……」
「会長、ウチで正規として雇いましょうよ」
「そいつはいい!」
 思わぬ働きぶりだったのか、働けといびり急かしていたくせに今度は正規で雇いたいと言う。耳にしたジェフリーは、都合がいい解釈に吐き気がした。
「悪いけど、今はそういうことを考える気分じゃない」
 申し出はいったん断った。安定した収入と仕事が得られるのに断るなんて……と、口々に言われた。再出発しようと、商会の人たちは馬車を整えていた。そこへ、この先で待ち構えているはずのキッドとコーディが駆け付けた。二人とも、驚いた顔をしている。
「な、なんか野蛮な人たちが豪速で逃げて行ったわよ?」
「光ったし、ジェフリーお兄ちゃん魔法でも使ったの?」
 察しがいい二人だ。合流するなり、ジェフリーを心配した。
 キッドはジェフリーに指摘を入れた。
「あんた、怪我してるじゃない」
「えっ?」
 ジェフリーは矢を受けそうになったのを思い出した。
「ちょっと、他にもどっかに当たってない? クロスボウを持っていた奴がいたから、それね? 当たったらすごく痛むのよ!? つか、頬でよかったけど、首や頭に刺さったらどうするのよ!? それでなくても左だったんだから心臓だったかもしれないわ」
 キッドは真剣な目で心配している。
 ジェフリーは体のあちこちをべたべたと触られ、確認されていた。こんなに心配されることは今までになかったので、気持ち悪い。
「俺は大丈夫だって」
「少なくとも頬っぺたは怪我をしたでしょ。大きい怪我をしたら、ミティアがまた泣くじゃない。竜次さんだって心配するわよ!?」
「こんなの大した怪我じゃない」
「甘いわね、あんた。毒とか、痺れ薬とか塗ってあったらどうすんの!?」
「だから気を付けるって」
 変な言い合いだ。いつもとは違う。喧嘩は喧嘩でも、こういう喧嘩はしたことがない。
 ジェフリーは身を案じてくれているのはわかっていても、素直に受け取ることができなかった。どうもくすぐったい。
 馬車を引いていた男がジェフリーに木箱を差し出した。
「今日はご苦労さん。これ、換金して傷薬にでもしてくれや。明日も別の荷が出るから、よろしくな」
 今日はもうこれで帰っていいようだ。男が渡してきたのは、光沢のある重々しい紐で括ってある桐の小箱だ。報酬は明日もらうはずだが、ジェフリーの働きぶりを気に入ったようだ。ありがたくもらったが、中身が何なのかわからない。とりあえず持って帰ろうとジェフリーはジャケットを上げ、腰に挟み入れた。
 街道にいても綺麗な星空が見えるくらいしかいいことがない。三人は馬車の轍を辿りつつフィリップッスの街に戻った。
 帰って皆で食卓を囲むはずだが、しっかり働いてしまった。ジェフリーは一行の食事を作る役割だが、何も作る気力がない。
 コーディがローズの家のドアを開ける。
「ただいまーっ」
 頭から煙っを噴きそうな勢いで、ローズが書き物を頑張っていた。一心不乱に製図を書いているローズに代わって、ハーターがひらひらと手を振って出迎えた。
「おぉ、おかえり。まさかキミたちが一番初めに帰って来ようとは!!」
 もうかなりの時間だと思ったが、三人が一番初めに帰って来たとのこと。
「俺たちが一番? サキや兄貴は?」
 ジェフリーは桐の箱をテーブルの上に置いて、身を軽くしようとする。剣を外そうとして、サキたちが帰って来ないことが気になった。
 ハーターは玄関を気にするジェフリーをじろじろと見る。怪我にも気が付いた。
「おぉ、漢の勲章でも作って来たのかい?」
「そ、そんなんじゃないって!」
 ジェフリーは玄関脇の姿見の鏡を見る。もう血は出ていないが赤くなっている。瘡蓋にはなってしまうかもしれない。それよりも、まだ帰らない仲間を探しに行くべきだ。ジェフリーは軽く断りを入れる。
「帰ってないなら、少し様子を見に行く」
 誰か一緒に行くかと思った。だが、キッドはマントを外して首を回した。
「あたしはパス。慣れない格好で疲れたわ」
 椅子に座ってローズが何を書いているのかじっと見ている。難しい文字は読めないが、図や簡単な文字なら読めるらしく、興味を抱いているようだ。
 キッドはともかく、コーディはどうだろうか。ジェフリーは一応声をかける。
「コーディは行くのか?」
「んー、そうだね。ミティアお姉ちゃんが遅いのは気になるかな。お花屋さんって夜には閉まるじゃない? そんなに遅くならないと思っていたんだけど、誰かと一緒かな?」
 竜次はどこかで遊んでしまいそうだと予想がついたが、ミティアが遅いのは心配だ。一緒にいる可能性はある。サキは仕事の内容が内容だし、遅くなるかもしれないと予想はできた。
 ジェフリーとコーディはフィリップスの街中に出た。夜はこれからだが、明るくなっていた繁華街に足を運んだ。


 サキが残りの一つの段ボールを部屋の外に運んだ。
「これで最後のですね。やっと終わったぁ!」
 一息ついていると、摘まれた段ボールの影に、ドレスを着た女の子を発見する。まだ幼いし、ウサギのぬいぐるみを抱きかかえて座っていた。
 サキは声をかけた。
「あれ? どうしたのかな?」
 女の子はそっぽを向いた。その様子に首を傾げていると、レナードが声を上げた。
「ルミナスお嬢様、こんな場所で何をなさっておいでですか」
「じぃや!!」
 女の子はルミナスという名前のようだ。レナードの足元にしがみ付いた。一体どういうことだろうか。サキは口を出さずに見守った。
「じぃや、いってしまうの?」
「これもお仕事ですので」
「やぁっ!! おともだち、フランソワしかいなくなっちゃう」
 荷物をまとめているのだから、この幼い頭でもわかるのだろう。そして、ルミナスと呼んでいたこの女の子はおそらく……と、サキの頭の中でお得意の情報整理が始まった。

 昼間、貴族たちの立ち話を耳にした。
 この国には現状トップが不在。その政権争いで何だか金遣いの荒そうな人と、このルミナスという女の子が争う形になっている。血筋のせいなのだろうが、何とも不憫だ。レナードが去れば、この女の子の味方は城にはいなくなってしまう。
 そしてきっと、ルミナスは竜次のお見合い相手だった。理解が追い付くと、身の毛がよだつ。

 考えごとをしていると、圭馬が小声で声をかけた。
「キミさ、何か嫌なこと考えてないよね?」
 カバンの隙間から、圭馬が恨めしそうな目で見ている。サキは軽く首を振り、小声で答えた。
「ここでは何もしません。いったんこの話は持ち帰って、誰かに相談した方がいいと思います」
「早まらないでくれてよかったよ」
 サキはそこまで子どもではない。体格や社会的には子ども扱いされても仕方ないが、頭はそんなことはないと思っていた。ただ、慎重にならないとここは城。しかも国が掛かっている複雑な状況だ。
 目的は変わっていないが、この二人を引き離すのを手伝った形になった。サキは罪悪感を抱いた。
 レナードはルミナスを気にかけている。
「ルミナスお嬢様、フランソワが汚れておいでですよ。よく見たら、ドレスも。いかがされましたか? メイドは?」
「メイドはうそつきできらい! フランソワ、いじめられた。あたしといっしょ」
「お嬢様……」
 サキはこの場にいづらくなってしまった。その空気を汲み取ったのか、レナードがサキに向き直った。
「申し訳ございません。本日はこの辺りでお引き取り願えますでしょうか?」
 レナードは悪くないのに、気を遣って謝っている。どうしても解せない。だが、ここは引き下がるべきだとサキは思った。
「わかりました。僕は明日も来ます。どうしても色々と諦められないので」
 サキは焦りを抑えつつ、表情を強張らせた。ついつい怖い顔になってしまう。その表情を見て、ルミナスが反応した。
「あなた、じぃやをいじめるわるいひと?」
 この女の子にはそう見えるらしい。今のサキには気の利いたことを言える余裕がなかった。代わりに苦笑いをしながらルミナスの頭を撫でる。ブロンドの綺麗な髪の毛だ。
「ごめんね、邪魔して」
「あ、わるいひとじゃない?」
 この純粋な目にはそう映ったらしく、警戒はすぐに解かれた。長居してこの時間を奪うのが悪い。サキは軽く礼をして、自分で城の外へ足を運んだ。
 悔しいが、今日は手ぶらだ。とぼとぼと門を抜け、街中へ戻った。空はすっかり暗くなり、懐中時計に目をやると遅くなってしまったように思える。
「はぁ、疲れたなぁ」
 身体的な疲労ではなく、精神面でもいたたまれなくなってしまった。サキがこんなに落ち込むの無理はない。依頼の話だけでも聞きに行くつもりが、とても話ができる状況ではなかった。とても厄介な背景がある。残念ながら、サキにはどうすることもできない。
 カバンから使い魔たちの声がした。まずはショコラからだ。
「剣神様にご相談なさってはいかがかのぉん?」
「ボクもそれがいいと思う。ちょっとキミが背負うには、荷が重すぎると思うよ」
 圭馬まで心配をしている。とんだ大事になりかねないが、そうならないためにもここはちゃんと相談した方がいいだろう。
 サキは小さく頷きながらとぼとぼと歩く。
「国のこととかよくわかっていなくて、僕がうっかり変なことをして騒ぎになったら大変ですね。慎重になった方がいいような気もします」
 とはいえ、どっと疲れが押し寄せる。肩を落としながら道を歩いていると突然声を掛けられた。
「大魔導士さんよ。なんつーツラして歩いてるんだ?」
「サキーっ!!」
 聞き覚えのある女性の声もする。声のした方へ顔を上げると、閉店後の花屋の前で、トートバッグを持ったミティアと壱子、そしてケーシスが立ち話をしていた。
 まずサキはミティアが働いていたことに驚いた。
「えっ、本当にミティアさん、働いていたんですか? お花屋さんだなんて……」
 サキは素通りしそうになって足を戻した。

 花屋なんて、ミティアにぴったりだ。可憐で、おしとやかになっていくのは、大歓迎だ。少なくとも剣を持って戦うよりはずっといい。
 自分が一目惚れをした人が、どんどん可愛らしくなっていく。サキは妄想をしながらにやにやとしてしまった。

 ミティアの顔がサキの目前に迫る。
「おかえりなさい」
「た、ただいまです!」
 サキは気まずくなり、視線を逸らす。ケーシスと壱子に挨拶をした。
「えぇっと、お久しぶりでもないような気がしますが、その節はどうもお世話になりました」
 壱子が応え、一礼する。相変わらずぴしっとした燕尾服に整えられた髪の毛、腰には物騒な鋏が下げられている。
「ごきげんうるわしゅう、なんちゃって。ショタは貴重な妄想資源ですからね」
 にんまりと怪しくも含みのある笑いだ。この人に深く関わると、変なことをされないか心配になる。腕は確かなのかもしれないが。
 ミティアは笑顔でサキを気遣う。
「サキはお仕事、どうだった?」
 澱みのない可愛らしい笑顔、ミティアの笑顔を見ると何だかホッとする。少し元気になれたかもしれないが、サキは苦笑いで返すしかなかった。
「今日はあんまり進捗しなかったというか、まだお仕事の本題も話せていませんが、会っては来ました」
 サキの言葉に反応したのはケーシスだった。
「会って来た? お前、城の方から来たよな。もしかして爺さんの家庭教師の仕事でも請けに行ったのか?」
 サキはなぜ知っているのかと言いそうになった。だが、壱子が情報屋なのだからギルドの情報を多少は知っているだろう。どんな依頼が出回っているのかくらいは把握しているはずだ。サキは軽く頷いて応える。すると、ケーシスは無精ひげをいじりながら顔をしかめる。
「ついてねぇなぁ。あの爺さん、城を追い出される寸前なんだろ?」
「まるで地獄耳ですね」
「まぁ、あの爺さんには恩があるからな。それに、悪いことをしちまったし」
 サキの反応を見て、ケーシスは眉間のしわを増やす。
 サキは疑問を持った。ケーシスは自分が知っていない事情を知っているのだろうか。
「どういうことですか? 差し支えなければ、知りたいです」
「あぁ、まぁ俺がほっつき歩いて裏でルーの野郎を探っていたときだ。沙蘭が邪神龍に襲われちまった事件があったわけだが」
「あぁ……」
 沙蘭で邪神龍に遭遇したことは忘れられない。スプリングフォレストを抜けてクタクタだったのに、街中の惨劇を見てそして戦った。
「爺さんの息子夫婦と、ちょうどお前くらいの孫ガキがそのときに亡くなってる」
「えっ……」
「なぜこの国が沙蘭の復興と再建に尽力していたか、理由はもうわかるな? ま、王子も姫子に惚れてたみたいだし、その要素もあるだろうが」
 仕組まれたような気分だ。サキはかぶりを振りながら踏み込んだ話をする。
「あの、汚い話ですみません。レナードさんがお城を追い出されそうになっているのは本当です。僕、それは肩身が狭いから出て行くのだと思って手伝っちゃったんです。やっぱり違っていたのですね」
「やっぱり?」
「お金遣いの荒い人とまだ子どもの女の子が次の王権を握るのを争っているって。その、お城にいた貴族の人が言っていたのを聞いたので」
「腐ったミカンでも見たのか?」
 ケーシスは腐ったミカンと言ったが、この時点でサキは理解できていなかった。
 話について行けず、ミティアが口を窄めている。自分が踏み込めない難しい話をしていたのだから、この反応も理由がつく。そこで壱子が板チョコを差し出した。
「これ、最近ケーシス様がドハマりしているルビーチョコでございますよ。お仕事でお疲れでしょう?」
「わぁっ、ありがとうございます」
 食べ物を出せばミティアを鎮められる考えは間違ってはいない。だが、うまく餌付けされているように見えなくもない。ミティアは輝いた目でパッケージを眺めていた。外の箱だと言うのに、キラキラと高級感のある加工がされてあるのは、横目で見ていたサキでも把握できた。
 ケーシスは誰を指すのか、しばらく考えてから答える。
「金遣いの荒い……って言うと、マイテか。あいつ、沙蘭は古臭いって馬鹿にしてたハゲダルマじゃねぇか。フィリップスが滅ぶぞ」
 サキから見たケーシスの素性はわからないが、この人が言うと迫力がある。
「あの、こういうのって、どうにかなったりしませんよね?」
 質問に対し、ケーシスの態度が大きく変わった。
「お前、貴族でも関係者でもないだろ? そもそも一般人が、城の腐った情勢に対してどんな発言権があるんだ。お前はガキだろ」
「そ、そうですけど」
「人情に厚いのは大いにかまわねぇが、やっていいことと悪いことはわきまえろ。何でも人助けをしていいってモンじゃねぇぞ」
 安易に思ってはいたが、確かにこの人が言っていることは正しい。サキは社会の仕組みは難しいと打ちひしがれそうだ。だが、その言葉の中で違和感が生じたので試しに聞いてみる。
「だから先生はこういうことに口出しができる。お見合いを仕組んだ理由ですか?」
「……ッ!?」
 ケーシスの表情が引きつった。どうしてそれを、とでも言いたそうだ。壱子がすかさずフォローに入る。
「ケーシス様、お顔が台無しでございますよ」
「そのフォローは要らねぇ。顔も悪いし目つきも悪い」
 ポーカーフェイスを貫けばやり過ごせたかもしれない。だが、ケーシスにとっては完全な不意打ちだった。そんな余裕はない。サキは軽く毒突いた。
「先生、困っていましたよ? それに、先生にはもう好きな人がいるんですから!」
「お前は爺さんと竜次、どっちの味方なんだよっ!?」
「うっ……」
 目先のことで喧嘩をするとすぐに返り討ちに遭う。サキはそれでも不満そうだ。
「り、両方の味方です!!」
「何だぁ、それ」
 強がってみせるも言い合いになった。
 知らないうちにミティアがじっと見ている。
 ケーシスはハッとしながら視線を逸らす。
「じー……」
 ミティアの必殺上目遣いだ。物欲しそうに見つめるこの仕草は誰もが一度は翻弄された。もちろんケーシスにも効果は抜群。
「その目で見るな」
「ケーシスさんなら、何とかできる方法、ありますよね?」
「さぁな」
「あるんだ?」
 ケーシスの機嫌がどんどん悪くなる。一方で、ミティアはケーシスの手を握ってせがんだ。ケーシスは目を合わせないままサキに言う。
「この姉ちゃんの保護者、ウチの馬鹿息子を連れて来い!! 壱子でもいいっ!!」
 壱子もサキもこれに従おうとはしない。苦笑いではあるが、ミティアを応援したくなる。ケーシスはミティアと目を合わせないように必死だ。手を振り払うも、ミティアはすぐに掴み直す。
「ケーシスさん、力を貸してください」
「あぁったく……」
「お願い! ね!っ?」
 どんどん甘え上手になって行くミティアを見て、ジェフリーが将来苦労しそうだとサキはほんのり思った。不思議なことに、彼女が甘えるのを見ても嫌な気分はしない。仕舞にはケーシスに抱き着いている。折れるのも時間の問題だ。
 ケーシスは、引っ付いているミティアを剝がそうとする。
「いい加減にしとけ。誰かに見られたら誤解されるぞ」
 ケーシスがミティアを突き離そうと取っ組み合いになる。ケーシスは勢いよく、ミティアの両肩を掴んだ。その過程でサキの背後を見て気が付いた。
 見覚えのある姿だ。
「ジェフリーさぁんっ!!」
 サキの腰カバンからショコラが顔を出す。逆の隙間から、ちゃっかり圭馬が顔を出して今までの一部始終を見て言った。
「おー、修羅場じゃん」
 この場の雰囲気を楽しむ圭馬。やはり性格が悪い。視線の先には唖然とするジェフリーとコーディ。何だか変なことになって来た。
「おや?」
 どうして悪いことには悪いことが重なるのだろうか。
 繁華街へ抜ける道から、手提げの紙袋と小さいブーケを持った竜次が歩いて来た。一同鉢合わせる。ミティアに抱き着かれているケーシスを見て、竜次もまた唖然としていた。
 まずコーディとジェフリーが口を開いた。
「どっから突っ込んだらいいのか、わからないんだけど」
「同感だ」
 次いで、ミティアがケーシスから離れ、向き直った。
「ジェフリーもコーディちゃんもお帰りなさい。先生もお疲れ様」
 ミティアだけはにこにことしている。ケーシスは気まずそうにしながら、シャツとネクタイを直した。彼女はこんな性分だったとお思い出した。変な空気すら和む。
 雰囲気に呑まれないうちに、竜次が口を開いた。
「何をしていたのですか?」
 サキも壱子もいるし、偶然だろうか。竜次はケーシスを怪しく思った。
 ケーシスはにやりと笑う。
「少なくともパパ活じゃねぇなぁ」
 ケーシスの質の悪い冗談を、壱子が鋭い指摘で押し殺した。
「ケーシス様、話がややこしくなりますので、黙っていていただけますか?」
 代わりに壱子はことの入りだけを話す。
「わたくしたちはちょうど、こちらの花屋の閉店の時間に通りがかっただけです。そうしたら、ミティアお嬢様にばったりと。なぜ彼女がこちらにいたのかなど、話し込んでいたら次に現れたのは大魔導士様でして」
 壱子がサキに手を添える。横でミティアが何度も頷いていたので、この流れは合っているようだ。同調するようにサキは言う。
「僕は仕事の話と、ちょっとした相談に乗ってもらっていました」
 ケーシスは相談を聞いていたはずなのに、他人事のようにとぼけた。
「随分と厄介なことに首を突っ込んでいやがるな」
 またも壱子は抑制した。
「ケーシス様が一番厄介な存在だと思われますが?」
 それでもジェフリーは納得していない。ケーシスに疑いの眼差しを突き刺さす。
 ジェフリーの目つきを見て、コーディが指摘をした。
「ジェフリーお兄ちゃん、顔が怖いよ」
「顔が悪いのはもともとなんだが……」
 ジェフリーはひどい顔をしているのを指摘されても、お決まりの悪い口で返した。顔の話になって、ミティアが目を真ん丸くしながらジェフリーに歩み寄った。
「な、何だよ?」
「怪我をしてる。お仕事のせい?」
「あぁ、大したことないって」
 話が散らかってしまった。
 ミティアが離れたので、ケーシスが逃走を計ろうとする。慌てて竜次が引き止めようとする。
「お、お父様、ちょっと!!」
「悪いな、コッチも仕事が残ってる。しばらく滞在はするけど、またな!」
「えぇっ?」
 ケーシスは竜次の横を抜け、繁華街の方へ走って行った。完全に逃亡者だ。何の仕事中なのだろうか。
 壱子が呆れながらため息をつき、謝った。
「はぁ、都合が悪くなると逃げちゃうのはよくなりませんね。せっかくよい行いをしても、これでは悪党と変わりませんのに」
 壱子はさらに一礼をする。
「申し訳ございません。仕事の内容は言えませんが、近々大きなことが起きると思われます。お覚悟くださいませ」
 言ってからケーシスを追うとするが、壱子は言い忘れがあるようだ。背筋を伸ばし、右手の人差し指を立てる。
「わたくしたちに会ったこと、ラシューブライン先生には内緒でお願いしますね。いい顔はしないと思われますので」
 これに応えたのはジェフリーだ。軽く手を振りながら言う。
「あぁ、まぁそうだろうな。博士のお兄さんだし」
「そういうことです。では、今日はここで。何かございましたらわたくしはギルドにいる率が高いと思いますので、コソコソとしています」
 ケーシスはローズにとって男女の仲にもなったことがある相手。その兄のハーターがいい顔をするはずがないのは、ジェフリーでも把握できた。
 壱子はそそくさと駆けて行く。
 見えなくなったところで、ミティアのお得意が始まった。
「あっ、いけない!」
 驚く四人を前に、ミティアは肩を落とす。
「またケーシスさんに懐中時計を返すの、忘れちゃった」
 何かと思ったら、また懐中時計の話だった。だが、用事があったのはミティアだけではなかった。サキまでため息をついて肩を落としている。
「聞きたいことや、助言をいただきたかったのに逃げられちゃった」
 ミティアはともかく、サキがこんなにがっかりしているのも珍しい。
 コーディは眉間にシワを作って口を尖らせる。
「なんか私たち、邪魔した?」
 色んな感情が入り混じってパニックにでもなりそうだ。収拾がつかない。ジェフリーは明らかに面倒だと顔に出ていた。そんなジェフリーに竜次が質問をする。
「あの、とりあえず戻りませんか? と言うか、お二人だけですか? クレアは一緒では?」
 竜次はこの場にキッドが不在なのを気にしている。一緒に行動していたはずだ。
「今日の分は終わった。キッドは慣れない格好で疲れたって」
「あぁ、なるほど。よかった。何かあったらどうしようかと思いました」
 キッドを案じるのはわかったが少し過保護なのが目に余る。そのうち落ち着くとは思いたい。これはジェフリーに対しても長らくそうだったのだから、竜次の癖なのかもしれない。
 帰り道、ミティアはずっとジェフリーの左頬が気になり、サキは落ち込んで、コーディと竜次が微妙な空気を存分に堪能した。今夜はこのモヤモヤが解消するまで眠れないかもしれない。途中、適当にファーストフードを買い込んだ。結局、ジェフリーは、何か作る元気もなく、また適当なご飯になってしまった。

 竜次がローズ宅の扉を開く。
「ただいま。おや?」
 カウンター前の机で熱心にペンを走らせるローズと、その手前のキッドに驚いた。
「で、これが終わったら次はこの文字を練習しよう」
「わかりました。あ、みんな、おかえり!」
 キッドが教科書とノートで文字を練習している。ここに本場の先生がいたのだった。ハーターも顔を上げる。
「おっかえりぃ、ってみんな揃っているのかい? この広い王都ですごい集結だね」
 ハーターが指摘するように、この広い王都の街で集結できるなどなかなかの確率だ。

 竜次は買って来た物をテーブルに置き、花を挿せる花瓶のようなものを探す。キッドは作業の手を止めて見上げる。
「竜次さん、お花なんてどうしたんですか?」
「ミティアさんのお仕事を眺めていたついでです。綺麗でしょう?」
「へぇ、お花なんて愛でないからなぁ」
 竜次は包装を解き、ジャムの瓶に水を入れて花を挿した。
 説かれた包装から、コブ結びになっているリボンをミティアが摘まみ上げる。
「うまくできなかったなぁ。これで練習しようかな?」
「練習すればうまくなりますよ。さ、クレアもお勉強は閉まって、ローズさんもご飯を食べましょう?」
 手が空いたものが人数分の飲み物や残り物を広げ、食事の準備をする。
 スペースがなくなる前に、ジェフリーが報酬を置いた。
「そう言えば、こんな物をもらったんだが?」
 ジェフリーは食卓に桐の箱を置いた。中を開けると、しおれかけのニンジンが大小、二本入っている。
 キッドの腑抜けた声が疑問に拍車をかけた。
「何、これ?」
 ジェフリーにもわからない。商会の人がくれたのだから、いいものではないかと想像はできる。この中で知っている人がいないかという意図だった。
「換金して傷薬にでもしてくれって言われたけど、怪我は大したことないから別に」
 一同注目する中、誰も言葉を発しない。
 テーブルの下にいた圭馬が這い上がって来た。
「うわっ、黄金ニンジンじゃんっ!!」
 ローズが小さい方を摘まみ上げる。
「おぉ、そデス。でもなんか、縮んでませんデス? 前にけーま君にお持ちしたのはもっと新鮮なものだったと思いますケド?」
 見覚えがあるとはいえ、少なくとも新鮮ではないようだ。水気は飛んで、むしろカラカラだ。
 ハーターがまじまじと見ている。心当たりがあるようだ。
「あ、こりゃあ、漢方用じゃないかな?」
 圭馬がぴょんぴょんと跳ねた。ハーターと謎の掛け合いが始まる。
「漢方でも何でもいいから、食べたい!」
「ウサギさん、食べたら元気になってしまうんじゃないかい?」
「一日、魔力供給なくても人の姿を保てるかもね」
「じゃあ人間が食べたらもっと大変だ」
「ぜ・つ・り・ん!! になっちゃうかもしれないよっ!!」
 ハーターとの掛け合いにコーディとジェフリーがずっこけそうになっている。きょとんとした親友コンビは、圭馬の言い放った『ぜつりん』の意味がわかっていないらしい。
 異様な空気に圭馬が勢いを増す。振り返って、お決まりのように竜次に絡んだ。
「お兄ちゃん先生が食べたら?」
 突然話を振られ、竜次は困惑した。だが、律儀に答えている。ちょっとした茶番だ。
「どどど、どうして私が!? いえ、私はそんなものに頼らなくても……って何を言わせるんですかっ!?」
 竜次が圭馬を摘まみ上げる。
「まったく、おさかんなウサギさんですね」
「いやぁ、お兄ちゃん先生に褒められるといよいよだなぁ」
 竜次はサラダの上に乗っていたカットトマトを押し付ける。
「トマト嫌い、動物虐待だーっ!!」
 圭馬の弱点を掴んだのか、謎の攻防が繰り広げられている。
 ミティアが隣のキッドに気になったことを聞いている。
「ねぇ、キッドはハーター先生から何を勉強していたの?」
 ハーターから何を教わっていたのか、気になった。
「先生に言葉の読み書きを教わっていたのよ。さすが学校の先生、わかりやすい教え方だから、どんどんのめり込んで行ってしまうわね」
「キッドが勉強をしているなんて、びっくりしたよ」
「えへへ……」
 キッドは照れながらツナサラダに手を付ける。同タイミングで膝にショコラが登って来た。手に取って食べさせるが、キッドはあることに気が付いた。
「あぁっ、セーターに毛が! おばあちゃん。また抜け毛が増えたんじゃない?」
「のぉん?」
 キッドが身を引いたタイミングで視線に気が付く。竜次の和む視線に。あまりにじっと見ているので、ミティアも追ってしまった。
 ミティアはまた気になることを口にする。
「そうだ。キッドの服って先生が選んだんですよね? これってどうして?」
 ミティアもこの点は疑問に思っているらしい。キッドに限ってはおしゃれとは無縁だと思っていたにも関わらず、この変わりようだ。
 おしゃれに無頓着なコーディも興味を抱いている。
「さっき暗くてあんまり見れなかったけど、そのヘアバンド、お姉ちゃん、金髪だからよく似合うね?」
 コーディも髪の毛は気になるようだ。
 竜次はいつの間にか圭馬を解放し、こぶしを振り上げて自信満々にキッドを褒める。
「動きやすくて、可愛らしくて、いいじゃないですか。これで田舎娘だなんて言わせませんよ! クレアの魅力的な部分をもっと引き延ばしたら、このチョイスになってしまいました。後悔はしていません。今のクレアは世界一可愛いですから」
 キッドは顔から煙が出も出そうなくらい、顔を赤くして恥ずかしがっている。
 ハーターが竜次の力説に同調した。
「めちゃめちゃ趣味がいいっ!! 縦セーター最ッ高!!」
「わかってくれるなんて、ハーター先生、さすがですっ!!」
 先生と先生の間で硬く熱い握手が交わされた。間に挟まれたジェフリーは呆れて肘を着きながらエビグラタンを口にしていた。おいしいものを食べているはずなのに、なぜかおいしそうに見えない。
 ローズが指摘を入れた。
「ジェフ君、顔……」
「博士、顔は悪いんだから勘弁してくれ」
「ほむ。ほいじゃ、その悪い顔に。えいっ!!」
「いっ!!」
 ローズに不意を突かれ、ジェフリーは頬にテープ状の絆創膏を貼られた。掠っただけだと言っていたが、いざ貼られると大袈裟に見えて仕方ない。
「こんなの、いいのに」
「次はもっと大きな怪我をして来るつもりデス?」
「そんなつもりは、ないったら」
 怒ってはいないが、ローズに注意を受けた。ジェフリーは拗ねるように視線を逸らす。
 だが、ミティアの悲しそうな視線がジリジリと精神を攻撃していた。
 ジェフリーは観念するように言う。
「相手にボウガンを持ってたいた奴がいただけだ。掠っただけで当たってないんだからそんなに心配することはない!」
 あまりに危機感がないとキッドは憤慨する。
「馬鹿ね。ボウガンは、撓るタイプの弓矢と違って真っすぐにしか飛ばないから、当たったらすごく痛いのよ? 心臓ブチ抜かれることだってあるんだから」
 不穏な空気になって、ミティアが食べる手を止めている。キッドが指摘したことが効いてしまったようだ。
「あぁぁぁ、ごめんったら。えっとほら、あたしも一緒だから大丈夫よ。こいつの面倒はあたしが見ておくから! ね、ねぇ?」
 キッドが珍しく地雷を踏んだ。食事どきなのに、あまりいい話ではなかったのを猛省している。
 それとは別に、いまだに食事中に一言も話さない者がいた。
 目の前に置かれているスープにも、クルトンの乗ったサラダにも、取り分けてもらったグラタンにも手を付けていないサキ。こんなになるまで疲弊しているのは珍しい。
「おーい、サキ君?」
 竜次が目の前で手を上下させた。これでやっと我に返ったらしい。
「あ、すみません。ずっと考えごとをしていて。食べます、食べます」
 やっとフォークを取ったと思ったら、暖かかったはずのものはしっかり冷めてしまっている。やはりおいしそうに食べていない。
 見かねたハーターが世話を焼く。
「スープ、入れ直してあげるね」
「あ、すみません」
「謝ってばかりではいけないよ。大魔導士クン」
 ハーターはスープマグを持っていったん引き下がる。すぐに暖かい湯気の立ったものに入れ直した。サキに元気がないのを察してなのか、スープに細工がされてある。
「な、何だか、具が多い気が?」
 サキはスプーンではなくフォークですくおうとした。だが、八割以上具だ。汁が少ないが野菜が甘くておいしい。思わずサキは笑ってしまった。
 ハーターの作戦は成功だ。教師だったのだから、相手に寄り添う心を持っている。生徒指導だったせいもあるが、困っている人を放ってはいけない性分のようだ。
「少しは笑ってくれたね」
「気を遣わせてしまって、すみません」
「キミ、謝ってばかりだね」
「うぅっ」
 どうも今日は冴えない。サキ自身でわかっていて持ち直そうと試みる。
「食べないと頭回らないよなぁ。よしっ」
 もぐもぐと一気に食べ始め、一人で空回りしているような感じになって異様だ。サキはとりあえず食事だけでも摂ることを選んだ。
 忘れた頃に喋り出す圭馬。
「ねぇ、黄金ニンジン、どうするの? ボク、食べたいよぉ」
 箱を片付けていなかった。ジェフリーは圭馬を受け流す発言をする。
「何かいい加工方法でも見付かればな」
 ジェフリーは箱を閉じて紐で結んだ。圭馬にあげることはひとまずない。だが、何に加工したらいいのだろうか。時間があったら調べてみるのもいいかもしれない。ジェフリーは悩ましく思った。果たして、圭馬にそこまでの力を借りなくてはいけない状況は来るのだろうか。

 食後のアフタータイム。お風呂の順番を待ちつつ、個々で自由な時間を過ごす。
 ジェフリーが圭馬とショコラを風呂に連れて行った。抜け毛が心配だが、雑ながら面倒見はいいので心配はいらないだろう。
 男性の寝室ではサキが思い悩んでいた。そう、目の前には竜次がいる。だが、竜次は作業中だ。終わる気配もないので声をかけた。
「あの、先生」
「ん? どうしました?」
 ベッド脇でちょっとした作業を繰り広げていた竜次に、サキが思い詰めた表情で話しかける。竜次はレースと色画用紙を組み合わせて、どうやったらきれいに見えるかを試行錯誤していた。
「先生、暇じゃないですよね?」
 シートとリボン、ラメチップなんかも広げているが、竜次は顔を上げた。
「おやおや、行き詰った顔していますね」
 チラリと見ただけなのに、ほんのり笑って片付ける。でも、ざっとしか片付けないで、飛ばないように手頃な本を置いて起立した。人が作業中でも話しかける。何かあるに違いない。
「出ますか? 何かお話したいのでしょう?」
「先生って、こんなに人の気持ちを汲み取ってくれる人だったかな……?」
「おや、褒めてくれていますか? 認めてもらえるのはうれしいですね」
 竜次は小さくと笑いながら、ベルトも腰カバンも外し、おもむろにシャツを脱ぎ出した。何かと思ったが、長袖のシャツに着替えている。肘から先に広がりがあって、長袖なのに剣を振るのも邪魔にならなくてよさそうな格好だ。
 多分キッドの服を買った際に、一緒に買ったのだろう。彼の服装も暖かそうだ。
「この街なら任せてください。何て言っても、網羅して地図の更新をしたのでね」
 竜次は伊達眼鏡にベレー帽、髪の毛を結って腰に剣を下げる。剣は念のためだ。
 二人はトントンと乾いた木の階段を下がる。
 カウンターの前のテーブルでまたも熱心に勉強しているキッド。一緒になってミティアも手を貸している。ハーターはローズの面倒も見ているのだから、ものすごく視野が広いタイプの人だ。教師とはこんなものだろうか。
 出かけようとしている竜次とサキに気付き、声をかけたのはコーディだ。
「ん? お出かけ?」
 また何か文章をしたためているらしく、万年筆を握っていた。サキがあれほど落ち込んでいたのだから、凝った話をするのだろうと察している。
 応えたのは竜次だ。小さく頷いて答えた。
「えぇ、人生相談と、ちょっとお散歩です」
「ず、ずいぶん重いね」
「コーディちゃんに言われると、私は重要なことをしようとしている意識が高まっていいですね」
 竜次のにこにこ顔を見て、コーディは呆れながら原稿に目を戻した。
 外出と聞き、真面目に心配する者もいた。ハーターだ。
「寒いから気を付けるんだよ。早ければ、もうどこか凍っているかもしれないからね」
 ハーターは軽く手を振って見送った。

 サキと竜次は夜の街へ出る。街外れの歓楽街からは女性たちの笑い声がする。静かなのでどこが歓楽街なのかはすぐにわかった。
 空気が冷たい。空には星も月も見える。澄んだ空気のお陰で星がやけに多く感じた。
 竜次はひとけの少ない方へ案内する。
「さっきチェックしました。この先の王都の学校から、住宅街に抜ける道の途中に大きな橋があって、そこから見える景色が綺麗なんですよ!」
 歩きながら話をする。竜次が明るいので助かるくらいだ。なぜか話しやすい。サキも話が切り出しやすかった。
「あの、先生って、貴族に対して、発言権がありますか?」
「んん? どうしました? 今の私は一般人と同じ権力しかないですよ?」
 サキは黙った。冷たい空気を更に意識してしまうくらいの沈黙。
 竜次は答えが悪かったことをすぐに把握した。言葉を探す。
「うーん、貴族に対しての発言権はあるかもしれませんけど。一応沙蘭の者ですから。こういうの、腐っても鯛とか言うのでしょうけれど。こんな話をするってことは、お城で何かあったのですね?」
 竜次にしては鋭い。彼にはまだ何も話していないのだが、いつからこんなに人のことを考えるようになったのだろうか。サキは思い当たる節に自分の姉を予想した。
 竜次はサキの顔をうかがいながら言う。
「国の事情に干渉するのは、あまりよくないかもしれませんね」
 まだ何も本題を話していないのに、先に釘を打たれた。そう言われるとサキは黙ってしまう。
 竜次は足を止めて向き合った。
「え、もしかして、当たりですか?」
 何とも言えない空気になってしまい、竜次は慌てている。サキの心の闇をどうやったら払えるだろうか。
 サキは自分が思っていることを打ち明けた。
「僕が発言権もない一般人なのはわかっています。でも、目の前で起きていることを放ってはおけないです。どうして、世の中には人を陥れたり、いじわるをしたりする人がいるんだろう」
「サキ君……」
「一生懸命頑張っていた人がいるのに、何も力になれないんです。こんなにもどかしくて、何もできないなんて」
 サキは腕を抱え込み、寒さに凍えるように縮こまった。
「こんなの嫌だ。どうして、みんなで笑っていられないんですか。誰かが一方的に悲しむなんて耐えられない。僕も、優等生になるまでの道のりは険しく、名前のせいでいじめられたこともありました。だから、逃げられない状況で、周りの人から冷たくされることを知っています」
「落ち着きなさいっ!! サキ君が気に病んでどうするつもりですか!?」
 竜次はサキの肩を掴み、顔を覗き込む。希望を持った若者が世の中の厳しさに挫かれた。誰もが一度は通る道。だがサキにはそれが大きかったようだ。
 サキは目を見開いて我に返った。心の病はこんなにも蝕んでいる。
「先生?」
「負けちゃダメ。さっ、詳しい話をお聞かせください?」
 公園のような散歩道で適当に腰を掛け、二人は話し込む。街灯もあるので明るい。手入れの行き届いた植木や花壇がせめてもの癒しだ。
 サキは城であったことを事細かに話した。自分が見たもの、城で起きている出来事、それからフランソワと言うぬいぐるみを持った女の子の話もした。女の子の話をすると、竜次が顔をしかめている。
「その女の子、私も城の庭先で会いましたよ? あの、もしかしてですが、その子って私のお見合い相手だった子じゃ?」
「多分ですが、その件に関しては、先生のお父様が仕組んだものかと」
「へっ?」
 真剣に話を聞いていた竜次が、表情を崩す。話がやっとつながると額に手を付き、大きなため息をついた。
「うわぁ、お父様ったら、やってくれたなぁ」
 竜次は苦笑いをしながら、ずり落ちた伊達眼鏡を上げている。
 サキはケーシスに会った際にその件に触れていた。覚えがある。
「認めてくれたわけではありませんが、聞いたら表情を崩されましたので、そうなのかと思いました」
「なるほど。お父様はともかく、壱子様なら、お城の人や少ない側近にもそういう情報を広められるかもしれませんからね。だから、ちょっと騒いだだけで、お見合いがなくなったのですか」
 船に乗って付き添いで来ていたフィリップスの者だって、もしかしたら大半が女の子の味方ではなかったかもしれない。考えると気分が悪くなる。
 話を聞いていて、竜次は他人事とは思えなくなってしまった。
「こっちまで落ち込んじゃいますね」
「ご、ごめんなさい。先生を巻き込みたいわけではないんですけど」
「うーん、ちょっと探ってみるかな」
「えっ、だって先生、国のことに干渉はしないって」
「王権には興味がないので、そういう干渉はしません。ですが、今のところこれと言っていい道を示すこともできませんので明日から私も一緒に行きましょう」
 聞き間違いかと思ってサキが首を傾げた。だが、竜次は大きく頷いてにっこりとしている。
「家庭教師が一人とは限らないでしょう?」
「で、でも、先生は顔が知れ渡っているんじゃ? 今の変装で一般人になることはできても、お城の人たちはわかってしまうのでは?」
 鋭い指摘をされ、竜次は考え込んで唸っている。それも一瞬だった。
「そうですね。ちょうどいい。今日入ったお金で何とかします」
 こんなに転機の利く人間だったのかは疑問だ。何か手があるようだ。サキは竜次を心から尊敬した。
「よかった。先生に相談して」
 サキのホッとした表情に、竜次もつられてホッとしている。とりあえず落ち着いてくれてよかったというところだ。
「やっと笑ってくれた。よかったぁ」
「えぇっ?」
「もぅ、ずっと落ち込んでいて、そんなに幸薄い顔をされてたら心配しちゃいますよ」
「ご、ごめんなさ……むむっ」
 サキはまた謝ろうとして、帽子が潰れそうな程頭をくしゃくしゃと撫でられた。
 竜次は必要以上に世話を焼く。サキに頼ってもらえたのがうれしかったようだ。
「ダメダメっ!! そんなに心が病んでいたら、今度はサキ君が幻を見ちゃいますよ!?」
「あっ、そうだ」
 サキはことの重大さに気が付かされた。もう少しで深い闇に堕ちてしまいそうだった。
 竜次はわかっていて、最後までサキに付き合おうというのだ。少々空回りが過ぎるのだが、それでも相手に寄り添う意識は持っている。
「心の病は、簡単には治らないですからね。また、苦しかったら言ってくださいね。全部どうにかできるとは限りませんけど」
 サキは目尻に涙を浮かべる。気が楽になったが、こんなに自分が無力だとは思わなかった。まだまだ自分は子どもなのだと自覚した。
 竜次は世話焼きのついでにお兄さんぶっている。
「しょうがない子ですね。もう、泣かないの。そんなに泣いていたら、本当に悲しいときに泣けなくなってしまいますよ?」
「僕、まだまだ知らないことがいっぱいですね。いくら勉強ができても、世の中に溶け込もうとするのは難しいです。苦労もいっぱいするんですね」
 泣き止もうと必死だ。目を擦って顔を上げる。
 話がひと段落し、再び夜道を歩いた。話の熱を冷ますような夜風が気持ちいい。
 綺麗な景色が見えると言っていた大きな橋に来て二人は足を止めた。
 とんでもない先客がいる。

 金髪で少し長い髪を宝玉の髪飾りで左にまとめ、赤いマントを身に着けている、魔法使いのルシフだ。橋の淵に肘を着き、考えごとをしている様子だった。こちらの存在に気が付いたのか、顔を上げて向き直る。
 竜次とサキは身構えてしまった。声をかけたのはサキだった。
「ルシフ、さん?」
 サキは圭馬から聞いた名前を言ってみた。
 ルシフはは警戒されていることに対し、軽く肩を落とした。睨み合う形になって、どうしようとなっている。
 サキを庇い、竜次が前に出る。腰に下がっている剣を抜こうものなら、街中で戦うことになってしまうがどうもその様子はない。
 どちらかと言うと、ルシフは困っている様子だ。
「意外でした」
 ルシフは静かに口を開く。
「この世界には猛者がいないのですね。あなた方がそうだとは思わなかった」
 話をする雰囲気になり、竜次は警戒を緩めた。出会ってしまったのだから、質問をする。
「こちらに滞在されているのは偶然でしょうか? それとも、また私たちをつけていたのでしょうか?」
「偶然も偶然です。とてもいい意味ではないですが」
 竜次より少し下、ジェフリーと同じくらいの年なのだろうが、この威圧感と落ち着きには驚かされる。偶然と言っているのだからそうなのだろう。仕掛けられたこともあるゆえに、完全に信じることはできない。
 緊張が走る。だが、争うつもりなら、竜次とサキだけで手薄な状態だ。気付いた時点で不意打ちもできたはずだ。もう少し探ってみよう。竜次はとあることに気が付いた。
「お連れ様は? 妹さん、でしたっけ」
 竜次が尋ねると、ルシフの視線が泳いだ。この様子は冷静を欠いている。苦虫を噛み潰したような表情で、橋の下の小川に視線を落とした。彼が見る小川には、晴れた月と綺麗な星空を映している。
 ルシフが重い口をやっと開いたと思ったら、悔しそうにかぶりを振った。
「さらわれたのです。ルッシェナ・エミルト・セミリシアに」
 竜次とサキが顔を見合わせる。あれだけの強さと戦略を持っていながら、妹がさらわれたと言うのだから、とても冷静ではいられないだろう。
「彼は今、地上で駒を探しています。気を付けた方がいいですよ」
 ルシフはそう言い告げると、去ろうとする。
 竜次はあえて呼び止めた。
「お困りではないのですか?」
 ルシフは足を止めた。背中を向けた状態で言う。
「私の目的は、世界の終わりを阻止する者を邪魔することではないです。時間干渉者にしかるべき措置を施すことです」
 ルシフは意味深なことを告げ、去って行った。
 サキは呆然としていた。
「先生、あの人を追った方がいいんじゃ?」
 普通ならその考えにいたる。だが、竜次は首を振った。
「彼に歩み寄る姿勢がなかった。ですが、焦ってはいるみたいでしたね。大きな目的があるみたいでした。妹を見捨てても成し遂げたい目的がね」
「そんなっ、だって相手は……」
 サキは食い下がろうとするが、ギルドでの依頼が頭を過った。ぞっとする。誰かを犠牲にしても結果を成さねばならないなんて。
 竜次はサキの背中をポンと叩く。
「私たちに今、他人をかまえる余裕はありません。足元を崩される前に体制を整えないといけません。誰も欠けないために、ね」
「そうだ。僕だって、本当はお城で奮起している場合じゃないですね」
「今回は分が悪いのですから仕方ないです。サキ君がちゃんと独り立ちできるように、最初はサポートします」
 心強い。少なくとも、こういうところは自分より先輩だ。サキは、言い出せなかった本音を打ち明けた。
「先生が沙蘭に残ってたら、僕は押し潰されていました。本当に、先生がいてくれてよかった」
 竜次はキョトンとしている。サキからそんな言葉をもらうとは、想像していなかったようだ。
 竜次はここで気を緩めないように気持ちを切り替えた。
「とりあえず、あの魔法使いのことは頭の片隅に置いておきましょう。急を要するようでしたら、再びこちらに声をかけて来ますよ。少し話してわかりましたが、今は少なくとも敵ではないようですね」
 竜次は笑顔で話をまとめる。
 おそらく笑っていられるのは今だけだ。
 竜次はサキに緊張を持たせる。
「信じたわけではありませんが、忠告は受け止めておきましょう。少なくとも、しばらくは一人で行動してはいけませんね」
 仕事を請け負って、一人で行動しなくてはいけないのはミティアだ。残念だが仕方がない。
 サキは使い魔と行動をともにしているし、明日から竜次も付き添う。どうしても個々で行動をしていると誰かが手薄になる。この話は皆でするしかない。
「ミティアさん、悔しがるかな」
「可愛かったんですけどね、エプロン姿」
 ルシフはルッシェナが地上にいると言っていたが、この街にいるとは限らない。
 この星空を何も考えずに見る日は来るのだろうか。橋の上から見る街のぼんやりとした明かりと澄んだ星空を見ながら、サキと竜次は冷たい空気を堪能した。
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