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【3-4】親交を深める
赤い闇の中で見た光 Ⅰ
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「クソみたいに晴れてあちぃな……これじゃ花がすぐしおれちまう」
ある夏の晴れた日、フィラノスの町外れで若い男女が狭い道を歩いていた。男はワイシャツにネクタイ、四角い眼鏡を掛けていた。手には仏花の束を持っている。
その男の隣を歩くのは、燕尾服のベストを着た女性だ。黒髪に灰色のメッシュを入れた変わった髪質をしていて、腰には剣に似せた鋏を差している。
建て替え工事をしている大きな孤児院を抜け、奥を目出した。風があるせいで、建て替えの安全シートがぱたぱたと鳴る。
辿り着いた先は墓地だ。男はとある墓石の前に先に立って、花を手向けた。
女性は確認するように質問をした。
「こちら、墓石に何も刻まれておりませんが?」
「買ったばっかりでツヤッツヤのピッカピカなんだから、刻むも何もねぇんだよ」
「では、中は空ではございませんか?」
「っせーなぁ! 気持ちの問題だよ、キ・モ・チ!」
「そう、ですね」
二人は揃って手を合わせる。この黙祷の間に、遠くで賑わう音と声がした。
気持ちも具えた所で、男は街中に目を向ける。
「やけに賑やかだな」
女はベストから手帳を引っ張り出し、情報の開示をした。
「えぇと、本日は教会で子どもたちの合唱会だそうですよ」
「うっわ。いいねぇ、平和で!!」
「アカペラ、ゴスペルなど、参加されてはいかがですか?」
「あほくせぇ!」
男性は耳に小指を突っ込みながら歩く。女性はせっかく情報を拾ったのに一蹴されてしまい、顔で機嫌を崩したサインをする。だが、男はこれを無視して歩き続けた。
騒がしいのは合唱会だけではないと気が付いた。
次に二人が見たのは、血の惨劇。目の前を血飛沫が舞っていた。
血の海に伏せる若い女性、腕の中では赤子が泣いていた。だが間もなくこと切れた。
「なっ……」
男の視線の先には黒ずくめのフードマントを深く被った『人』が立っていた。血に染ったダガーナイフを持っている。
「ケーシス様、おさがりください!!」
女性は果敢にも立ち向かおうとする。だが、ケーシスは燕尾服を掴んで止めさせた。フードマントを被った者が次の獲物を狙って屋根に昇った。すぐに目で追えなくなった。
ケーシスは低い声で言う。
「壱子、あれはプロだ。まともに相手をしたら剣を抜く前に足の一本もやられる。若い女を狙っているみたいだな。気色悪い賊か? 野盗にしては手際がよすぎる」
ケーシスの視線の先にはもう一人、足をもがれて背中から一突きされた若い女性が横たわっていた。惨い殺し方だ。
壱子はケーシスの心情が読めず、眉間にしわを寄せる。
「ケーシス様、人が殺されていてよく平気ですね」
「俺が人殺しだからな」
「も、申し訳ございません」
「ひとつ言っておくが、この街には知り合いが多い。平気じゃねぇよ! どこに住んでいたか、ほじくり出してる。身内を優先しようとしている。俺は腐った頭をしてるさ」
話している間に二つ、三つ、若い女性の悲鳴が聞こえた。
「気を付けろ。お前も一応、若い女性の部類だ」
「……はい」
狙っている対象は定かではないが、若い女性だというのはわかった。二人は街外れから街の主要部へ向かう。
大通りに出る道中で、斬殺された若い女性と子どもを十人は見ている。知っている面ではないか、ケーシスは気にしながら歩いた。
壱子も耳を澄ませ、警戒しながら歩く。
「ケーシス様?」
「あぁ、気付いたか?」
「明るい髪色をした女性ばかりですね。ブロンドとか金色とか」
血の海に沈む女性は明るい髪色をした者が多い。子どもは引き離されて別途で殺されている。母親に手を伸ばして息絶えたと思われる子どもが目立った。
ケーシスは焦っていた。思い出の多いこの街で、惨劇が起ころうとは思いもしなかった。
「誰だ、こんなクソみてぇなこと、すんのはよ!!」
「お言葉ですが、クソみてぇではなく、クソです」
壱子も気が立っているのか、棘のある言い方だ。
ケーシスは舌打ちをしながら大通りの方を見た。快晴の空に星が瞬くような閃光が走る。そして、音もした。ケーシスと壱子は音のした方へ向かった。
この状況で魔法を奮って戦っている女性を目にした。
壱子はケーシスに指示を仰ぐ。
「ケーシス様!!」
「手を貸せ! 何としてもあの女を守って、話を聞くぞ!!」
猛ダッシュで噴水広場に出た。怪我をした子どもを背中に負ぶって、魔法で戦っていたのは緑がかった金髪でふんわりとした髪型の女性だ。魔法学校の教師なのか、背負った子どもで見づらいが長いマントが見える。
「どうしよう。魔石なんてそんなに持ってないよ」
追手は二人、うち一人は放った魔法が当たったら動けなくなり、そのまま薬らしきものを飲んで自害した。
ケーシスはこの女性が知っている人だと確証した。
「ユッカ!!」
息を切らせる女性の前にケーシスが割って入る。
「ケーシス君!? う、うそ! どうしてここに!?」
「お前こそ、何でもたついてこんな所で。逃げるならさっさと逃げろ」
「が、学校、終わるのが遅かったから。それにまだ、教会にはリズ君とエルがいるはずなの!!」
話の最中だが、フードのマントをかぶった暗殺者が襲い掛かって来た。ケーシスは囮、壱子が前に入って暗殺者の脇腹を削いだ。
それを見たケーシスが叫ぶ。
「馬鹿、殺らねぇのか!!」
「そ、そんな無茶を!」
暗殺者は退いたが、やはり薬を飲んで血を吐き、自害した。少しでも動けなくなったり、怪我をしたり、正体が暴かれそうになるとそうするように仕込まれた完全なプロだ。ケーシスは暗殺者のフードを剥ぎ、身に付けているものを探る。だが、物騒な武器以外は何も出て来なかった。自害用の薬はいくつか支給されているらしいが興味がない。
ユッカと呼ばれた女性は、ケーシスとの遭遇に驚いた。
「ケーシス君、フィラノスに帰って来ていたなんて」
「たまたまいただけだ。それよりこいつはどうなっているんだ!? あいつらは何者だ?」
ケーシスの問いに、ユッカは首を横に振ってわからないと答えた。だが、心当たりはあるようだ。
「こうなったのはあたしのせいかもしれない。もうダメかも」
「追い詰められた人間は、考えるのを疲れたらマイナスにシフトする。金髪の美女が狙いらしい。そのマント、ガキごとすっぽり被って逃げろ」
「で、でもあたし!!」
壱子が手伝ってユッカのマントを引く。そのまま子どもごと包み、ほっかむりのようにして結んだ。辺りにひとけがないのを確認して、ケーシスはユッカの背中に目を向けた。
「お前のガキか? ひっでぇな」
「学校のステンドグラスが砕けて、この子は真下にいたの」
緑掛かった金髪でユッカによく似ている女の子だ。意識はあるのかもしれないが、恐怖に染まった顔は上げず、泣き腫らした目は開けてはくれない。いや、ガラスを被ったせいで開けられないのだ。女の子は太ももから流血している。ユッカは手当てもせずに背負って逃げていたようだ。
ケーシスはしゃがんで女の子の足を診る。
「クソ美人だな。だがこの足はまずい。このままだと、もがないといけねぇぞ」
「わ、わかってる。でもあたし、手当てなんて! 魔法で傷を浅くすることはできるけど」
「壱子、ハンカチいっぱいよこせ」
周囲を警戒していた壱子が呼ばれ、ベストの内側から綺麗な紙袋を取り出した。中から白いハンカチが数枚も出される。
ケーシスは手際よく処置を施す。傷口に当てるもの、直に傷口を縛るもの、そして傷口の上下にきつめに巻かれた。
「ありがとう、ケーシス君。立派なお医者さんね」
「どうだかな。とりあえずの応急処置だ。ちゃんとした医者に診せないと、傷口が膿んで切断しないといけなくなる」
「わ、わかった」
壱子が施した格好は頭までマントを被る。緊急にして、カムフラージュはこんなものだろう。
ケーシスはユッカが丸腰であることに気が付いた。学校の先生だとは知っているが、フィラノスは治安がいい。ましてや、剣や杖などの武器なんて持っていたら注目されかねない。
ケーシスはポケットを探った。
「ほらよ」
「えっ、えぇっ?!」
ケーシスはユッカに巾着袋を二つ持たせた。片方は金だ。片方はカチカチと軽い音がする。背中の女の子を軽くジャンプして上げ、直しながらケーシスを見上げる。
「転べる金はともかく、逃げるのはお前のアシだ。俺が持っている魔石が全部入ってる。教会へは俺が行ってやるから」
「どうして、こんな……」
「早く行け!! フィラノス自体がもうだめかもしれねぇ。街を出て、川を頼りに南へ抜けろ。たまーにワニが出るがまぁ大丈夫だろ」
「ケーシス君、ありがとう。どうやってお礼をすればいいか……」
「生きてさえいれば、また会える。リズと下のガキは俺に任せろ。まずはお前とその子が生き残ることを考えるんだ!」
「ケーシス君……」
「さっさと行け!!」
ユッカは深く頭を下げ、街の外へ走って行った。
走り去ったのを確認し、壱子は口を開く。
「安全圏までご一緒されてもよろしかったでしょうに」
「まだあいつの旦那がこの街に残ってる。俺の数少ない友だちだ」
「学生時代のですか?」
再び緊張感を持つ。ケーシスは壱子の質問に肝心なことを思い出した。
「学生……おい、ユッカは魔法学校の話をしていなかったか?」
壱子の言葉にケーシスが過敏な反応を見せる。血の色に染まった噴水にもたれて魔法学校の制服をまとった男女が倒れている。金髪ではないが、亡くなっていた。こうなるともはや無差別だ。
「『あいつ』はどうした」
「はっ!! ジェフリー坊ちゃん!!」
十二歳かそこらの自分の血を分けた子の存在を思い出した。産まれて抱っこしたきりで、成長した頭を一度も頭を撫でたこともなかった息子の存在を。
沙蘭ではなく、この街にいたはずだ。
「教会で何かあるつってたな……」
「ケーシス様、急ぎましょう!!」
二人は教会へ向かう。途中見受けられた法則性のあった遺体が無差別になっている。これを見て、余計なことを考えるのをやめた。
ある夏の晴れた日、フィラノスの町外れで若い男女が狭い道を歩いていた。男はワイシャツにネクタイ、四角い眼鏡を掛けていた。手には仏花の束を持っている。
その男の隣を歩くのは、燕尾服のベストを着た女性だ。黒髪に灰色のメッシュを入れた変わった髪質をしていて、腰には剣に似せた鋏を差している。
建て替え工事をしている大きな孤児院を抜け、奥を目出した。風があるせいで、建て替えの安全シートがぱたぱたと鳴る。
辿り着いた先は墓地だ。男はとある墓石の前に先に立って、花を手向けた。
女性は確認するように質問をした。
「こちら、墓石に何も刻まれておりませんが?」
「買ったばっかりでツヤッツヤのピッカピカなんだから、刻むも何もねぇんだよ」
「では、中は空ではございませんか?」
「っせーなぁ! 気持ちの問題だよ、キ・モ・チ!」
「そう、ですね」
二人は揃って手を合わせる。この黙祷の間に、遠くで賑わう音と声がした。
気持ちも具えた所で、男は街中に目を向ける。
「やけに賑やかだな」
女はベストから手帳を引っ張り出し、情報の開示をした。
「えぇと、本日は教会で子どもたちの合唱会だそうですよ」
「うっわ。いいねぇ、平和で!!」
「アカペラ、ゴスペルなど、参加されてはいかがですか?」
「あほくせぇ!」
男性は耳に小指を突っ込みながら歩く。女性はせっかく情報を拾ったのに一蹴されてしまい、顔で機嫌を崩したサインをする。だが、男はこれを無視して歩き続けた。
騒がしいのは合唱会だけではないと気が付いた。
次に二人が見たのは、血の惨劇。目の前を血飛沫が舞っていた。
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「なっ……」
男の視線の先には黒ずくめのフードマントを深く被った『人』が立っていた。血に染ったダガーナイフを持っている。
「ケーシス様、おさがりください!!」
女性は果敢にも立ち向かおうとする。だが、ケーシスは燕尾服を掴んで止めさせた。フードマントを被った者が次の獲物を狙って屋根に昇った。すぐに目で追えなくなった。
ケーシスは低い声で言う。
「壱子、あれはプロだ。まともに相手をしたら剣を抜く前に足の一本もやられる。若い女を狙っているみたいだな。気色悪い賊か? 野盗にしては手際がよすぎる」
ケーシスの視線の先にはもう一人、足をもがれて背中から一突きされた若い女性が横たわっていた。惨い殺し方だ。
壱子はケーシスの心情が読めず、眉間にしわを寄せる。
「ケーシス様、人が殺されていてよく平気ですね」
「俺が人殺しだからな」
「も、申し訳ございません」
「ひとつ言っておくが、この街には知り合いが多い。平気じゃねぇよ! どこに住んでいたか、ほじくり出してる。身内を優先しようとしている。俺は腐った頭をしてるさ」
話している間に二つ、三つ、若い女性の悲鳴が聞こえた。
「気を付けろ。お前も一応、若い女性の部類だ」
「……はい」
狙っている対象は定かではないが、若い女性だというのはわかった。二人は街外れから街の主要部へ向かう。
大通りに出る道中で、斬殺された若い女性と子どもを十人は見ている。知っている面ではないか、ケーシスは気にしながら歩いた。
壱子も耳を澄ませ、警戒しながら歩く。
「ケーシス様?」
「あぁ、気付いたか?」
「明るい髪色をした女性ばかりですね。ブロンドとか金色とか」
血の海に沈む女性は明るい髪色をした者が多い。子どもは引き離されて別途で殺されている。母親に手を伸ばして息絶えたと思われる子どもが目立った。
ケーシスは焦っていた。思い出の多いこの街で、惨劇が起ころうとは思いもしなかった。
「誰だ、こんなクソみてぇなこと、すんのはよ!!」
「お言葉ですが、クソみてぇではなく、クソです」
壱子も気が立っているのか、棘のある言い方だ。
ケーシスは舌打ちをしながら大通りの方を見た。快晴の空に星が瞬くような閃光が走る。そして、音もした。ケーシスと壱子は音のした方へ向かった。
この状況で魔法を奮って戦っている女性を目にした。
壱子はケーシスに指示を仰ぐ。
「ケーシス様!!」
「手を貸せ! 何としてもあの女を守って、話を聞くぞ!!」
猛ダッシュで噴水広場に出た。怪我をした子どもを背中に負ぶって、魔法で戦っていたのは緑がかった金髪でふんわりとした髪型の女性だ。魔法学校の教師なのか、背負った子どもで見づらいが長いマントが見える。
「どうしよう。魔石なんてそんなに持ってないよ」
追手は二人、うち一人は放った魔法が当たったら動けなくなり、そのまま薬らしきものを飲んで自害した。
ケーシスはこの女性が知っている人だと確証した。
「ユッカ!!」
息を切らせる女性の前にケーシスが割って入る。
「ケーシス君!? う、うそ! どうしてここに!?」
「お前こそ、何でもたついてこんな所で。逃げるならさっさと逃げろ」
「が、学校、終わるのが遅かったから。それにまだ、教会にはリズ君とエルがいるはずなの!!」
話の最中だが、フードのマントをかぶった暗殺者が襲い掛かって来た。ケーシスは囮、壱子が前に入って暗殺者の脇腹を削いだ。
それを見たケーシスが叫ぶ。
「馬鹿、殺らねぇのか!!」
「そ、そんな無茶を!」
暗殺者は退いたが、やはり薬を飲んで血を吐き、自害した。少しでも動けなくなったり、怪我をしたり、正体が暴かれそうになるとそうするように仕込まれた完全なプロだ。ケーシスは暗殺者のフードを剥ぎ、身に付けているものを探る。だが、物騒な武器以外は何も出て来なかった。自害用の薬はいくつか支給されているらしいが興味がない。
ユッカと呼ばれた女性は、ケーシスとの遭遇に驚いた。
「ケーシス君、フィラノスに帰って来ていたなんて」
「たまたまいただけだ。それよりこいつはどうなっているんだ!? あいつらは何者だ?」
ケーシスの問いに、ユッカは首を横に振ってわからないと答えた。だが、心当たりはあるようだ。
「こうなったのはあたしのせいかもしれない。もうダメかも」
「追い詰められた人間は、考えるのを疲れたらマイナスにシフトする。金髪の美女が狙いらしい。そのマント、ガキごとすっぽり被って逃げろ」
「で、でもあたし!!」
壱子が手伝ってユッカのマントを引く。そのまま子どもごと包み、ほっかむりのようにして結んだ。辺りにひとけがないのを確認して、ケーシスはユッカの背中に目を向けた。
「お前のガキか? ひっでぇな」
「学校のステンドグラスが砕けて、この子は真下にいたの」
緑掛かった金髪でユッカによく似ている女の子だ。意識はあるのかもしれないが、恐怖に染まった顔は上げず、泣き腫らした目は開けてはくれない。いや、ガラスを被ったせいで開けられないのだ。女の子は太ももから流血している。ユッカは手当てもせずに背負って逃げていたようだ。
ケーシスはしゃがんで女の子の足を診る。
「クソ美人だな。だがこの足はまずい。このままだと、もがないといけねぇぞ」
「わ、わかってる。でもあたし、手当てなんて! 魔法で傷を浅くすることはできるけど」
「壱子、ハンカチいっぱいよこせ」
周囲を警戒していた壱子が呼ばれ、ベストの内側から綺麗な紙袋を取り出した。中から白いハンカチが数枚も出される。
ケーシスは手際よく処置を施す。傷口に当てるもの、直に傷口を縛るもの、そして傷口の上下にきつめに巻かれた。
「ありがとう、ケーシス君。立派なお医者さんね」
「どうだかな。とりあえずの応急処置だ。ちゃんとした医者に診せないと、傷口が膿んで切断しないといけなくなる」
「わ、わかった」
壱子が施した格好は頭までマントを被る。緊急にして、カムフラージュはこんなものだろう。
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ケーシスはポケットを探った。
「ほらよ」
「えっ、えぇっ?!」
ケーシスはユッカに巾着袋を二つ持たせた。片方は金だ。片方はカチカチと軽い音がする。背中の女の子を軽くジャンプして上げ、直しながらケーシスを見上げる。
「転べる金はともかく、逃げるのはお前のアシだ。俺が持っている魔石が全部入ってる。教会へは俺が行ってやるから」
「どうして、こんな……」
「早く行け!! フィラノス自体がもうだめかもしれねぇ。街を出て、川を頼りに南へ抜けろ。たまーにワニが出るがまぁ大丈夫だろ」
「ケーシス君、ありがとう。どうやってお礼をすればいいか……」
「生きてさえいれば、また会える。リズと下のガキは俺に任せろ。まずはお前とその子が生き残ることを考えるんだ!」
「ケーシス君……」
「さっさと行け!!」
ユッカは深く頭を下げ、街の外へ走って行った。
走り去ったのを確認し、壱子は口を開く。
「安全圏までご一緒されてもよろしかったでしょうに」
「まだあいつの旦那がこの街に残ってる。俺の数少ない友だちだ」
「学生時代のですか?」
再び緊張感を持つ。ケーシスは壱子の質問に肝心なことを思い出した。
「学生……おい、ユッカは魔法学校の話をしていなかったか?」
壱子の言葉にケーシスが過敏な反応を見せる。血の色に染まった噴水にもたれて魔法学校の制服をまとった男女が倒れている。金髪ではないが、亡くなっていた。こうなるともはや無差別だ。
「『あいつ』はどうした」
「はっ!! ジェフリー坊ちゃん!!」
十二歳かそこらの自分の血を分けた子の存在を思い出した。産まれて抱っこしたきりで、成長した頭を一度も頭を撫でたこともなかった息子の存在を。
沙蘭ではなく、この街にいたはずだ。
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