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【3‐6】一致団結
想いよ、つながれ
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コツコツと靴底の音が止まる。
ケーシスは嫌悪感むき出しの表情だ。ケーシスのフェアリーライトと、竜次が持つランタンでその人物を知った。
茶色いロングマントに身を包んだ赤髪の忌むべき男、ルッシェナ・エミルト・セミリシアだ。敵という簡単な言葉で済ませられない相手である。
竜次も歯を軋ませた。
ルッシェナは竜次とケーシスを見て、鼻で笑った。
「まぁ、親子揃って怖い顔をしますね。無理もありません、か」
「生きていたのですね」
「人を斬ったことのない剣神が言えた口でしょうか?」
相変わらず人の痛いところを平気で武器にする。ルッシェナが指摘したように、竜次に人を斬る覚悟などない。腕を斬り落とした程度。ルッシェナの最期を見たのは竜次だけではない。コーディもそうだった。
「どうして!? サキと海に沈めたはずなのに!!」
コーディはサキを抱えて上空から強烈な一撃を与えた。その際にルッシェナは海に沈んだはずだ。
ルッシェナはこれも鼻で笑った。
「海に、ねぇ? その気になれば魔法で海底も歩けるというのに、考えが浅はかですよ」
「うっ、嘘でしょ!! 気色悪い趣味だけじゃなくて不死身なの!?」
「不死身……そうですね。なろうと思っていますよ? だって、わたしは神になりたいのですから」
「気持ち悪い!! こんな神様が統べる世界なんて絶対住みたくない」
「そうでしょうね。ですから、在るべき姿に戻して、またゼロから創ればいいのです」
「は、はぁ? 何言って……」
コーディらしい踏み込んだけん制だが、思わぬところでルッシェナの真の目的まで見えてしまった。
ルッシェナは言ってからキッドを招く。操っているのだから、逆らえるはずがない。マントから覗く手は人の手をしていなかった。指も爪も長く大きい異形の手だ。
キッドは声を震わせる。かつて知っていた手ではない。
「ルッシェナさん……」
「震えなくてもいいのに」
ルッシェナはキッドを抱き寄せ、見せ付けるように竜次に向き直る。
当然だが、竜次は憤慨した。拳を震わせ、噛みつくような勢いで訴える。
「クレアを放して!! 元に戻して!! 彼女を傷つけたら、私が許さないッ!!」
「いい顔ですね、剣神。あなたが苦しみ、悲しむ表情にゾクゾクします。未熟でいたいけな大魔導士を挫くよりも興奮してしまいますよ」
どこかのウサギが言っていた『サディストで変態』がこれほど相応しい人物はいるだろうか。
ケーシスは指に白い魔石を挟んだ。この状況の打開を試みようとした。だが、その試みはルッシェナに砕かれた。
「嫌だな、ケーシスさん。ケーシスさんみたいな中途半端な人が、わたしより魔力があると思っているのですか? 無駄遣いをする暇があったら、わたしを討つ手をお考えになった方がいいと思いますよ」
「……嫌な野郎だ」
「ケーシスさん、あなたにはまだ使い道があるのです。御同行を願えますか?」
「断る。俺はカワイ子ちゃんとしか、デートしたかねぇの!!」
茶番のようなやり取りが続くのかと思われた。だが、流れは急に変わる。
「見目麗しい、愛しのお子さんが待っているというのに」
「なん、だと……ルー、お前、まさか本当に!?」
強気だったケーシスが怯んだ。ルッシェナは狂気をまとった笑みを零す。こうなってしまえば、あとは精神が崩れるのを待つだけ。
ルッシェナはキッドの顎を持ち上げる。手はまるで魔人のような手だ。キッドは涙を浮かべ、必死に訴える。
「や、やめて!! 嫌、こんな……」
「ねぇキッド。わたしたち、何度も愛し合った仲じゃないか。どうしてそんな目でわたしを見るんだい?」
傷口を抉るような発言だ。キッドのトラウマ、過去、かつての想い人。だが、今は違う。キッドは激しく首を振って抵抗した。
「あたしは、もう……ルッシェナさんを、好きじゃないです!! こんなこと、間違ってるっ!! お願い、こんなことやめて!!」
キッドは悲痛な声を上げる。だが、その訴えはルッシェナの心には届かない。なぜなら、彼にとってキッドは都合のいい駒だからだ。
「そうだキッド。キッドが剣神を殺せばいい。残念ながら天空都市の女神様は、剣神を要らないと言っていた。だから邪魔で目障りなんだ。残りも始末したら、ちゃんと君も自分で死んでね? こんなに都合のいい女性を捨てるのはもったいないけど」
「なっ、えっ!! ルッシェナさん!?」
ルッシェナは微笑み、キッドの首に触れた。駒であるキッドへの命令だ。蹂躙の首輪が光を増した。
キッドが見たのは狂気に満ちたルッシェナの顔だった。体が命令を遂行しようと竜次へ向き直る。
「り、竜次さ……」
「クレア、こんな……」
小太刀を握ったキッドが竜次に切り掛かった。竜次は受け身を取っているが、真剣が刃こぼれしそうだ。あまりの激しさに火花が散る。
「こんなの嫌……」
「クレア、今だけです。私と手合わせをしていると思えばいいだけ。絶対に何とかなります。何か手があるはずですから!!」
交わる太刀の向こうでキッドが咽び泣く。揺れる肩、零れる涙、見ていられない。竜次は自分なりの励ましの言葉をかけた。
「おじさん、魔法の解除ってどうすればいいの?」
コーディも現状を打開したく思うが、どちらかと言うと彼女は魔法に疎い。多少の魔法は身に付けたが、毛が生えたようなものだ。専門ではない。
この場にいる人間では手が限られる。ケーシスはコーディの質問に答えた。
「一般的な解除は魔法による相殺だ。だが術主の魔力が高いと、いくらコッチが必死になっても解くことは不可能だ。もう一つは掛けられた命令を遂げること。ま、これは最悪だな。あの野郎、姉ちゃんの手を汚すだけ汚して自害しろって言っていたな」
「おじさん、その割にはやけに落ち着いてない?」
コーディとケーシスがルッシェナに向き合った。話を聞いていたルッシェナの方からヒントを繰り出す。
「おや、作戦会議ですか? でも方法はもう一つありましたよね?」
「そいつが最優先候補だ」
「わかりやすくて助かります。少し本気を出しましょう。大魔導士には油断してしまったのでね」
ルッシェナの茶色いマントが翻った。両手は魔人のように禍々しく、見ただけで恐怖を抱く異形だ。
ケーシスは馬鹿にするように鼻で笑ったが、実は少し安心もしていた。
「ついに人を捨てたか、堕ちたモンだな」
「あなたのお子さんに腕を切り落とされてしまったのですから、再生まではできませんのでね。自我を保ったままキメラになるの、難しいんですよ。お薬の加減や体との相性。知っていますよね、ケーシスさん?」
「本当に悪趣味だな……」
すぐそこでは竜次とキッドが打ち合いになっている。剣戟の音を聞きながら、ケーシスも紺色のコートを翻す。シャリーンと鞘から金属の擦れる音がした。ケーシスは両手に一本ずつ短めの小太刀を持っている。
「いいですね。見られると思っていませんでした。沙蘭の武神よ……」
「てめぇをぶっ倒せばあの魔法は解けるんだ。そりゃあこうもしねぇとな?」
「どうせ誰も助けに来ないのですから、この演出は悪くないですね」
「何だと……」
ルッシェナは口角を上げ、残念そうに眉を下げる。
「使えるモノは使う主義です。あなたを奪取したあと、先輩と大魔導士、それから女神様が最も御所望のジェフリーを回収すれば場は整います」
「欲張り過ぎだろうが」
「先輩とケーシスさんはすぐに用済みになりますがねぇ」
睨み合っているが、この間にコーディがタイミングをうかがっている。しっかりと会話にも耳を傾けながら。
「どちらかが持っているのでしょう? 最後のおひとつ、どこに隠しましたか?」
「……!!」
話のつながりがわかってしまい、思わずコーディは息を飲んで目を丸くした。この反応が引き金になってしまった。ルッシェナの視線がコーディに向かう。
「ほぅ、知っているのですね。ならば、あなたでもいい」
「えっ……」
ルッシェナは豪速で間合いを詰め、コーディに迫った。魔人のような大きな手が反り返る。
「馬鹿野郎!! そいつは関係ねぇッ!!」
ケーシスも追って間合いを詰める。
コーディは飛べる利点を生かした。抜群の回避で上に逃げる。ルッシェナの手がぐしゃりと沈み、石壁が崩れた。危うく逃れたコーディ。早く飛ぶ事は難しいが、これくらいなら危険を回避できる。いつもそのはずだった。
二刀流のケーシスがルッシェナのマントを捉えた。抜ける太刀筋に違和感があった。頭上を赤い影が走る。
「はぁぁぁッ!?」
ケーシスの頭上で大きく羽ばたく音がする。赤い翼が見えた。
「飛べるのはドラグニー神族だけだと思いましたか?」
ルッシェナは翼で飛び、振り上げた手がコーディを捉えている。コーディは鷲掴みにされ、苦しそうだ。
「うぁぐ……ひぁぁ!!」
「可愛い声で鳴きますねぇ。いたぶり甲斐がありそうです」
「変態ッ!!」
「見た目より幼い体ですねぇ? 細くて簡単に握り潰せてしまいますよ」
コーディの細い体がギリギリと締め付けられ、爪が細い体にめり込む。血が流れ、石床を点々と滴る。
「あああぁっ……うぅっ」
「あなたは知っているのでしょう? ドラゴンブラッドの媒体の在り処」
「知らない!! 知っていても言わないっ!!」
やはりルッシェナが求めていたものは禁忌の媒体だった。
コーディは走り抜ける痛覚に耐えながら馬鹿にするように笑って見せる。言うはずがない。
ケーシスは先ほど握っていた魔石を元に、光の魔法を放つ。
「メガレイ!!」
相手は飛んでいるのだから格好の標的だった。そのはずだったのに、ルッシェナはノーモーションでケーシスの魔法を打ち消した。魔法障壁があらかじめ張ってあるとでも言うのだろうか。
ケーシスは嫌悪感をむき出しにしながらルッシェナに言う。
「テメェ、チートもいい加減にしやがれ!」
「何を言っているのですか、ケーシスさんが弱いだけですよ? それとも、今のわたしに敵うとでも思いましたか?」
ルッシェナは血塗れのコーディを握りながらケーシスを見下す。彼女の翼は自らで翔く気力がなく、ぐったりとしていた。握る手に力が込められ、体の軋む音がする。
「ああああああああぁぁぁっ……!!」
コーディが悲鳴を上げる。足も首も反らせ、ぐりっと嫌な音がした。そんな人道を外れたいたぶりを、この者が黙っているはずがない。コーディを握り潰す勢いだったルッシェナの肩を、弾丸が貫いた。乾いた音が響く。
「許さない!! あなただけは、絶対に!!」
ダメージの正体は竜次のマスケット銃だ。魔法がだめだとしても、物理は効くというのがわかった。
だが、竜次にも余裕はない。利き手ではない左手で刀を握り、キッドの剣戟を防いでいたのだ。
「小癪なまねを。あなたは一度ではなく、二度もわたしに傷を付けた。その代償は死をもって償っていただきましょうか」
「私は死なない!」
「剣神よ、あなたは死にたかったのでしょう? 旅を経て、仲間もできて友情も育み、家族との絆も取り戻した。まぁ、そうでしょうけども、都合がよすぎると思いませんか?」
ルッシェナは手の中のコーディをケーシスに叩き落とした。暗がりの素早い行動、不利が続いた。突然の不意打ちにケーシスは回避できない。
「は、反則だろ、そういうの……クソが!!」
降って来たコーディと壁に挟まれ、ケーシスの背中に激痛が走る。あまりの勢いに石壁が崩れた。傷を負っているのに豪速で投げるなど、どんな反則だろうか。ケーシスは気絶しそうな激痛を感じ、体の異常を感じていた。かろうじて動く首から上、目だけはルッシェナを追っていた。どうせなら、このまま気絶してしまえばよかったのに。
どうして高望みをしてしまったのだろう。何を期待していたのだろう。ケーシスは遠退く意識に問い掛ける。
混沌に飲まれそうな意識の中で剣を振っても当たるはずがない。ざわめく大樹、粉のようなものが降って来た。
これ以上ジェフリーの反応が鈍るのは困る。ショコラはサポートを決意した。
「ジェフリーさぁん、静電気を発生させるのぉ!!」
「そ、そんなのでいいのか!? それくらいの魔法なら俺にもできるぞ。えーっと、プラズマリッド!!」
ジェフリーは左の人差し指で適当に線を描いて泳がせた。こんな小さい魔法くらいなら魔石を使わずとも放つことに負担がなく、体も覚えている。なぜなら学生時代、静電気で気に入らないグループリーダーにイタズラをしていたからだ。低コストで、疲れない。当時、ジェフリーが魔法学校に在籍していたことを知る者は少なかった。生意気な彼にとっては都合のいい魔法だ。
ベルは顔をしかめる。確実には言えないが、嫌な顔をしているのだと察せた。降った粉が放った静電気に引き寄せられる。薄暗い中に降り注ぐ粉が静電気によって引き寄せられ、視界が晴れた。
向かい合ってベルと戦っていたハーターは視界が晴れて驚いた。
「えっ、ちょっとすごいことをしてないかい!?」
「ハーさん!! よそ見しないでベルを討つのぉ!!」
いわゆる状態異常を回避したことによって生まれた余裕、ショコラは気を引き締めるように強く言った。その意識は一瞬だけ、大樹を含め石壁が大きく崩れた。揺れが不安定な足元を崩れさせる。
激しい揺れにハーターはあらゆる方向へ懐中電灯を向ける。
「こ、今度は一体何が!?」
ベルの背後から赤く大きな影が見えた。ベルも突然の来訪者に驚いている。
「ルッシェナ様、これは!?」
ベルが名を呼んで正体に気付いた。ハーターの懐中電灯とジェフリーのフェアリーライトがその姿を捉える。赤い翼に赤い髪、人としての面影が乱れたマントが覗く。
ハーターは異常なプレッシャーを感じ、剣を握る手を震わせた。
「出ちゃったよ、『大ボス』が!」
さすがにふざけていられない。目で見るものはほとんど人の姿ではない。ドラグニー神族の特徴とは比べ物にならない、悪魔のような赤く大きな翼、人の者ではない腕、魔人かキメラにでもなったのだろうか。
ジェフリーはルッシェナと睨み合う。
「あんた、ついに人であることを辞めたのか」
「誰かさんと同じことを言いますね、ジェフリー」
「それが誰なのか、わかった俺も気色が悪い」
壁が崩れたことで風の流れができた。意識が遠退きそうな睡魔が幾分かマシになって軽い冗談まで言えた。ジェフリーも向かい合って、ルッシェナの面妖と異形さを目に現実ではなく夢ではないかと疑った。ここまで目に刺激を受けると、かえって目も覚める。
ルッシェナはハーターとも目を合わせた。だが、その目はぎろりとしていて、とても不気味だ。
「先輩のお兄さんも来てらしたのですね。生半可な覚悟で何ができると思いますか?」
「ぼくは真実を見に来た。この世界の未来を、この子たちだけに背負わせるには重すぎるからねっ!!」
「フフフ、大人のくせに、子どものようなことを言いますね」
ルッシェナはうしろ手に何かを引き摺っていた。すでに体は一周り以上人より大きくなっている。大きな翼とマントのせいで、巨体を相手にしている錯覚を起こす。
ベルはルッシェナに駆け寄り、気遣った。
「ルッシェナ様、お怪我はありませんか!? そのお姿は」
身を寄せる美しくも傷付いた獣人。ルッシェナはベルに対して、信じられない仕打ちをする。
「時間はあったはず。使えん奴だ……」
大樹に血飛沫が舞った。ルッシェナは異形な手でベルの胸を貫いていた。身に纏っている綺麗な服が真っ赤に染まる。
「ベルッ!!」
「ばあさん!! 行って敵う相手じゃない!!」
「ふっ……うぅっ……」
飛び付きそうなショコラをジェフリーが抑え込んだ。腕に爪がめり込むほど、ショコラは悔しがって震えている。
弄ばれた獣人。女性と獣人しか存在しなかったこの都市にとって、外部から足を踏み入れた男性、ルッシェナはどんな風に見えただろうか。想像は容易だ。たとえそれがどんな男性であっても、輝いて見えただろう。
「わたしは足止めを命じたわけではありません。邪魔者の方が少ないはずなのに、何をしていたのでしょうね」
ルッシェナは律義に手を払っている。石床を血が走った。力なく横たわるベルに一目も置かない。なぜ彼が手駒を殺したのだろうか。それはうしろ手に回されていた腕が理由だった。ルッシェナも怪我を負っている。そしてその手は人を掴んでいた。金髪で四角い眼鏡を掛けたケーシスだ。
ジェフリーは絶叫した。
「親父!!」
「次の目的はあなたです、ジェフリー・アーノルド・セーノルズ」
「どうしてここに親父が……兄貴やキッドたちはどうしたんだ」
怪我を負っていたのはケーシスもそうだった。コートから覗く手は赤を帯びていたが、コートはさほど色の変貌はない。ルッシェナは一度ケーシスを解放した。だが、ケーシスは力なく石床に伏せている。
ルッシェナは解放した手で握り拳を作り、感覚を確かめていた。それからジェフリーの疑問に答える。
「あぁ、お仲間は、仲良くキッドに殺されているかもしれませんね」
「……ッ!?」
「いやぁ、よく見ると、あなたもいい表情をする。わたしが直接、殺せないことが惜しいですね」
ジェフリーは表情には出さなかったが、悪寒を感じた。何度か見た記憶があるが、この男の笑みは狂気に満ちている。今は人なのかも怪しい外観だが、まだ顔には人としての表情が読み取れた。思わず黙ってしまいそうだが、聞かねばならないことがある。
その前にショコラを下ろした。ジェフリーは小声で言う。
「ばあさん、何としてもサキを起こしてくれ」
「む、むぅ……」
こういうときだけは人使い、いや猫使いが荒いとでも言いたそうだ。ショコラは耳を下げながらジェフリーから離れた。
ジェフリーはそれを確認してから向き直る。プレッシャーを感じているのか、手は汗ばんでいた。
「俺は殺せない。そういうことか」
「あなたは保険です。そしてわたしよりも、ずっとあなたを憎んでいる者がいるという意味ですよ」
「俺を……憎んでいる者?」
覚えがない。剣術学校の者ならば恨みを買っても仕方がないとは思うが、そこまでだっただろうか。この段階ではその人物に見当がつかない。ジェフリーの思考は鈍っていた。
ルッシェナは微動だにしないケーシスに目を向ける。首が音を立てて盛り上がった。ルッシェナは自分の体に起きている変化を受け入れ、焦っているようだ。
「できるのなら、ここであなたをバラバラにして、無理にでもケーシスさんの口を割らせるのですが、生憎わたしも立場が難しいのですよ。ご機嫌取りなど、性に合っていませんがねぇ」
ルッシェナはケーシスから何かを聞き出したいのだろう。
ジェフリーはこの短い間にそうではないかと予想した。だが、何なのだろうか。無理にでも口を割らせる手段はいくらでもありそうなものだが、ルッシェナの他にまだベルのような仲間がいるのだろうか。
どうも自分が頭を使って情報の整理は向いていない。こういう役目はいつも、サキに任せてしまっている。ただ力でねじ伏せておしまいではない『何か』を見付けなくてはいけない。もっとも、力でねじ伏せるのすら今は難しいかもしれない状況だ。
ジェフリーはらしくないほど考え込んでいた。
ルッシェナはハーターに視線を向けた。まるで忘れていたように、わざとらしい反応だ。
「先輩のお兄さんはいつまで突っ立っているのでしょうか? やる気……あります? それとも、種の研究所に足を踏み入れたときのように、誰かに何かを言われるまで無難なことだけしか、できませんか?」
うっすらと笑みを浮かべるその顔には失望も含まれている。ハーターは一瞬だけ表情を渋め、ルッシェナの笑みに応えるように笑み返した。
「悪いけど、挑発が下手だね」
「おや、察しのいいお方でしたか」
「キミから情報を聞き出していることに気が付いているのかい?」
「ふふっ、面白い先生でしたか。殺すに惜しくなってきましたねぇ」
ルッシェナの目的はジェフリーだ。ハーターは邪魔であるはず。ベルは本当にそれだけの役目だったのだろうか。
ハーターまで考え込んでしまった。
ルッシェナはハーターもジェフリーも考え込んでしまい、にやりと笑う。
「目的が知りたいですか? 冥途の土産にお話してあげましょう」
「キミ、優しいねぇ。悪党のくせに」
ハーターは嫌味たっぷりに言う。もしかしたら気が狂っているのかもしれない。半キメラ化した人を目前にして、会話を交わしているのだから、気が狂っても仕方がない。
ルッシェナは、自分に限られた時間を使い果たす勢いで語り出した。
「世界はもともと一つだったのです。醜い欲望の塊でしかなかった人間たちが、神族の領地を荒らした。数で勝つことができなかった。だから追い遣られ、疎外された。人間よりずっと優れているのに理不尽だとは思いませんか? 長寿で英知に溢れたアリューン神族。禁忌の魔法にまで辿り着いたほど、魔法に長けたソフォイエル神族も……おかしいと思いませんか?」
ここで起源を論される。ルッシェナ自身は狂ったことをしているが、言っていることは至極まともだ。
なぜすぐに臨戦しないのかとは思いつつ、ジェフリーはこの話に付き合うことにした。
「俺はおかしいと思う。昔の人間って何を考えてそんなことをしたんだろうな。そういう人間が存在したから種族戦争は起きた。確か、大図書館の文献や、学校でも触り程度にしか教えてくれない。歴史でもそう言われ続けている」
「ジェフリー、キミは物分かりがいいみたいだ。どうしてわたしと組んでくれなかったのですか? いい同志になれそうなのに」
「だからと言って、あんたがしていることは肯定できない」
理解はできるが、手を取り合うつもりはない。ジェフリーの意思表示に、ルッシェナは肩まで揺らすほど笑っていた。
「はっはっはっ、人間らしい考えですねぇ」
「全員がそんな腐った奴じゃないって言いたいんだ!!」
「青臭い考えですね。腐った思考を持った人間に神族がどれほど苦しめられたか」
「それは……」
種族の壁を持ち出された。これにはジェフリーも首を振った。彼だって理解はしても手は取り合えない。どちらかと言うと人間側の味方なのかもしれない。
わかり合うことはできないが、傷を浅くすることはできなかったのだろうか。これまでの情報から、ルッシェナはアリューン神族であることは間違いない。それも純血だろう。悠久を生き、見て来たのは人間による負の部分が多かった。だが、それだけではないはずだ。
長話ゆえに、この場に訪問者があらわれた。ジェフリーの横に、黒いマントのクディフがカラスのように軽快に降り立った。
「長生きゆえに道を誤る阿保もいる。都合の悪いことを視野に入れぬとは、貴殿こそ愚かではないのか?」
話に割って入ったのは、銀の長い髪に黒いマント、右の腰には二本の刀が下がっているクディフだ。
ついに対面した父親の存在に、ハーターは額を押さえている。
「ま、待ってくれ。今日はいろいろと起き過ぎている……」
無理もないが眉間にシワを寄せ、項垂れている。不意を突かれたら一発なのだが、表情を歪めているのはルッシェナも一緒だった。
クディフの存在は、いわゆるイレギュラー。招かれざる客だ。クディフは警戒をしながらジェフリーに訊ねた。
「剣神はどうした」
「……」
ジェフリーには答えられない。知らないからだ。クディフは察しのいい反応をする。
「まぁいい。どうせあの者は死なんだろう」
「そうは思うけど……」
「あれほど『生』に執着した人間を他に知らない」
クディフはジェフリーを流し目に見て前に出た。まるで庇うようにマントを翻す。
ジェフリーは何をすべきなのか、そのヒントをクディフは示した。ジェフリーはクディフの首の動きで把握する。何かを見ている。ジェフリーはその方向へ目を向けた。ローズとミティアがサキを介抱している。
ジェフリーは行動よりも先に安心感を覚えた。ミティアとローズの無事が確認できたのだから、言葉にならない。
クディフは催促をする。
「行ってやれ」
「あ、あぁ……」
まるで戦友に言うような口調だ。ジェフリーは妙な気分になりつつも、クディフにこの場を任せた。
「先に言っておくけど、お前、死ぬなよ」
「貴殿と剣を交えるまでそのつもりはない」
「恩に着る」
「無駄口はいい。さっさと行け」
体制を立て直せという意味だ。ジェフリーは不本意ながら退いた。
サキは頭を重たそうにし、蹲っている。それをミティアとローズが起こそうとしていた。サキは意識がはっきりしているようだが、ほとんど自分で支えられていない。やけにけだるそうな表情だ。強制的に眠りに陥ってしまったのなら、無理もない。
だが、今は急を要する。ジェフリーはミティアもローズも押し退ける勢いでサキの肩を掴み、揺さぶった。
「サキ!! 頼む、お前が頼りなんだ!!」
「ん、ジェフリーさん、わかっています。でもちょっと待ってください。体が重くて」
サキは目を瞑り、首をぶんぶんと激しく振った。本当に体が起きていないようだ。
状況を見たミティアはジェフリーに訊ねる。
「ジェフリー、どういうことなの? 先生やキッドは? コーディちゃんも……ケーシスさんはあんなに傷だらけだし」
「俺にもよくわかっていない。引き裂かれたんだ、兄貴たちと。たぶんだが、時間を稼がれた。束になって掛かると厄介とわかって削りにでも来たんだろう」
再会をよろこぶより先に心配をする。これがミティアらしくてジェフリーもほっとした。本当だったら恋人らしい熱い抱擁がしたいものだ。だが、今はそんなことをしている場合ではない。それはお互いにわかっていて、アイサインで心を通わせる。
少し離れて、血塗れのベルを見て呆然とするショコラ。合流した圭馬は声をかけた。
「友だち? 仲間? でしょ?」
「そうじゃよぉ。哀れな最期じゃったのぉ」
「こういうときに白兄ちゃんの読心術がほしくなるなぁ」
戯れもほどほどにし、圭馬も警戒に入った。
「今、どういう状況か、わかってるよね?」
「そうじゃなぁ……」
ショコラはぶるぶると首を振る。人間と同じで気持ちを切り替えようとする仕草だ。
「長生きしていると、嫌なものが目に付くようになってしまうのぉ」
「その嫌なものをいい方へ変えようとしている人たちの前で言う!? いいことばっかりじゃなくて、悪いこともあるからいいことが輝いて見えるんだよ!!」
圭馬の言葉はごもっともだ。生きている限り、プラスとマイナスが入り合わさって今が存在する。しかも大きな声なので、なおのこと皆にも染みる言葉だった。
特に感銘を受けたのはハーターだ。圭馬に負けない大声で言う。
「あぁー……ったくもう!! キミたち、大好きだよ!! ぼくも、もっともっとキミたちと冒険がしたいねっ!! ぼくがここにいる理由なんてそれだけでじゅうぶんさ!」
様々な思いが混在する。ハーターはそれでもこの一行に可能性と希望を見出した。開き直りとも思える言動だ。だが、クディフも再会よりそちらをよろこんだ。彼もこの一行に魅力を感じている。さまざまな種族と境遇を持った者たちが、困難を乗り越えた。それによって育まれた心を持っているからだ。
クディフは自分の息子に対して厳しい反応をした。
「この者たちを気に入っているのはお前だけではない。理解を深めていないくせに、ともに歩もうなど、図々しい……」
「父さんは昔からそうだ。絶対にぼくを認めてはくれなかったよね」
長年していなかった親子の会話だ。影こそ感じていたが、対話する機会はなかった。それこそ、何十年と。
クディフが警戒していたここでの一戦はあるのだろうか。いや、仕掛けるのなら、とっくに仕掛けているだろう。
見合っている状態だが、ルッシェナは場が整ったことを確認した。
「いやぁ、どうしましょうかね。水を得た魚。これでは多勢に無勢ですねぇ」
ルッシェナは手を休め、状況を見定めているようにも思える。簡単に仕掛けて来ないあたり、彼は策士とも言えるだろう。闇雲に潰しに掛かるより、人間関係と技量の把握、自らの目的と照らし合わせながら、どこを削れば総崩れになるのだろうかと計算していた。ルッシェナは皆が揃うのを『待つ』だけではない。会話の内容からもう、イレギュラーな助けがないのを読み取った。これで全員。
目的が定まり、ルッシェナは口角を上げる。
「ふむ、一度は捨て置いたが……」
ルッシェナは大きく羽ばたいた。この狭い空間にものすごい風圧だ。大樹の葉も砕けた石も視界を遮った。彼が手を反り返し迫ったのはミティアだ。
「兄さ……?」
「どうせ何もできないお姫様だから、ね?」
風に混じって血の臭いがする。ミティアも限られた視界でそれだけは察知した。ここで自分が囚われるわけにはいかない。刃こぼれの激しい剣を引き抜き、守りの構えを取った。だが、ルッシェナがその防御を破るのは赤子の手を捻るよりも容易かった。ミティアの剣は弾かれ、この異形な手の中に堕ちる。
瘴気のような寒気と血の臭い。ミティアは身を縮めた。
「……ッ!!」
ルッシェナはコーディのときのように握り潰すまではしない。なぜならミティアには利用価値があるからだ。長い爪を巻き込まぬように背中から抱きかかえるようだ。
至近距離に迫る兄は、優しい目をしていない。狂気に満ちた目だ。だが、ミティアは『異変を』察知していた。今はもしかしたらチャンスかもしれない。
掴まれたミティアの腕は下がっている。一瞬の緩みを発見した。手は動く。これがとある者にはチャンスと捉えたようだ。それは行動の素早いクディフだ。ミティアの眼前に刃が走った。かなり際どい一撃だ。
ルッシェナは計算違いを起こしていた。クディフがミティアを助け、無茶をしてここまで連れて来たというシナリオは見えている。だが、クディフにそんな底力があるのかというと、意外だった。
「き、さま……」
「貴様が触れていい存在ではない!!」
ぞぶっと肉を削ぐ剣戟だ。それでも切り落とすまでにはいたらない。それはミティアを気遣ってなのだ。万が一軌道を逸れ、彼女に大怪我をさせてはいけない。
クディフの剣にかすかな光が反射する。それはハーターの懐中電灯の光を捉えたようだ。ミティアの澄んだ緑色の目に、剣を振るクディフが映り込む。これがどんなにうれしいことだろう。
限られた視界。何が起きたのか、ミティアが捕らわれたことすら把握していない者もいた。
「あの、ジェフリーさん?」
「サキ、お前大丈夫か?」
戦線の騒動の中、やっとサキの意識がはっきりしたようだ。まだふらつくが、何とか自力で立ち上がるまでに回復していた。
ジェフリーは思い出したようにフェアリーライトを放つ。光でこの場で何が起こっているのかがだいたい把握できた。
クディフがミティアを抱えて後退しているのが見える。サキの顔色は悪い。ローズの顔や足には擦り傷があった。ハーターは怪我をしていないが、やはりまだ臨戦には弱いようだ。
ルッシェナは右手を引き摺りながらこちらを見ている。次の手を考えているようだ。いや、別の手段をすでに持っているのだろうか。
ジェフリーはとりあえずサキの状態を確認する。
サキは自分でもフェアリーライトを放った。そして大きく息を吸って言う。
「どうしてでしょうね? 意識は落ちていても、何か起こっていたのか、だいたいわかっています」
サキの背後からローズが小声で言う。
「人は死んでも、しばらく耳や意識は残っていると言うデスヨ」
「僕、死んでいませんが……」
この状況で冷静な指摘を入れるサキ。緊張感がないのかと思ったが、ローズはしっかり媒体を指に挟み、仕掛けるタイミングを見計らっている。話しながらこういうことができるのは頭がよくないと追い付かない。
もっと冷静だったのはサキだ。少し仕掛ければすぐに戦線だと言うのにやけにおとなしい。魔石でも握るだろう。誰もが予想したがその動作もない。ジェフリーは小声で質問をする。
「お前、まだ眠いなんて抜かさないよな?」
「そうじゃないです。でも、多分ですが……」
サキも異変を見抜いた。ルッシェナが生きていたことは想定していた。この目で見るまでは信じたくなかった。傷を負わせた、切り落とした、海に沈めた。失った人体の一部はキメラになって蘇った。サキは以上のことを踏まえて答えを出す。
「もう、あの人は長く持ちません……」
サキの言葉を聞き、ジェフリーは眉間にしわを寄せながら首を傾げた。
「そう言えば、あいつ、口数が減って来たような」
「人間が自我を持ったまま超人……いえ、キメラですね。それこそ、リスクなしでなれるとは思いません。現に、翼なんて生えようものなら、相当な負荷が体に掛かっているはずです」
途中からだったはずなのに、サキは状況に追いつこうとしていた。やはり彼の頭脳は並外れだ。ジェフリーにはこんなに短時間に整理などできない。それだけではなく先のこともしっかりと考えていた。
「あの人は、自我を失い掛けて相当焦っているはず。本当に倒すなら、今しかありません。ですが……」
そこまで言うも、サキは行動に出ない。いったい何がサキをここまで冷静にさせるのだろうか。険しい表情こそするが、少し悔しそうだ。その続きを言う。
「あの人を倒してしまったら、あの人のうしろに誰がいるのか、本当の目的も、どうすれば世界の統合を止められるのかもわからなくなってしまうかも……」
サキは懸念をしながら、ルッシェナ自身にも疑問を抱いていた。
ルッシェナの情報の開示もそうだ。煽りはするものの、こちらが有利になるような情報ばかりだったように思える。種族戦争が起きた起源の話は興味深い。今の立場もそうだ。その情報を示すことにより、自分は誰かのために動かされている。ルッシェナはある意味そのことに気がついてほしいのかもしれない。そして、助けを求めているのかもしれないとも思った。
「大丈夫!! 私、ちゃんと聞いてたから!!」
サキの言葉に応えたのは聞き覚えのある若い女性の声。いや、もう少し若い。疾風が抜ける。石床にぱたりと着地する金色の影、キュッと靴底が鳴った。
風と音の正体はコーディだ。髪は解かれ、肩に大怪我をしている。
コーディは合流するなり、ジェフリーに迫った。意外と元気のようだ。
「ジェフリーお兄ちゃん、早くしないとお兄ちゃん先生が危ないの。みんなに指示を出して。この場を切り抜けることを考えて!!」
「コーディお前、その怪我……」
「私はいいから! 早くしないと二人が死んじゃうッ!! キッドお姉ちゃんが操られて……早く何とかしないと!!」
この一行ではジェフリーが司令塔だ。判断次第で仲間の命が左右される。行動も、これからも。
隣に立っていたサキが大きく息を吸って意を決した。今は余計なことは考えないよう、頭を振って切り替えた。
「僕はジェフリーさんを信じます」
つられるように、ローズも身構える。
「ジェフ君、ワタシに手伝えることがあれば言ってネ!!」
整った臨戦態勢。畳み掛けるなら今しかない。だが、ジェフリーの心を板挟みが苦しめる。
何を優先するべきだろうかと。
ケーシスは嫌悪感むき出しの表情だ。ケーシスのフェアリーライトと、竜次が持つランタンでその人物を知った。
茶色いロングマントに身を包んだ赤髪の忌むべき男、ルッシェナ・エミルト・セミリシアだ。敵という簡単な言葉で済ませられない相手である。
竜次も歯を軋ませた。
ルッシェナは竜次とケーシスを見て、鼻で笑った。
「まぁ、親子揃って怖い顔をしますね。無理もありません、か」
「生きていたのですね」
「人を斬ったことのない剣神が言えた口でしょうか?」
相変わらず人の痛いところを平気で武器にする。ルッシェナが指摘したように、竜次に人を斬る覚悟などない。腕を斬り落とした程度。ルッシェナの最期を見たのは竜次だけではない。コーディもそうだった。
「どうして!? サキと海に沈めたはずなのに!!」
コーディはサキを抱えて上空から強烈な一撃を与えた。その際にルッシェナは海に沈んだはずだ。
ルッシェナはこれも鼻で笑った。
「海に、ねぇ? その気になれば魔法で海底も歩けるというのに、考えが浅はかですよ」
「うっ、嘘でしょ!! 気色悪い趣味だけじゃなくて不死身なの!?」
「不死身……そうですね。なろうと思っていますよ? だって、わたしは神になりたいのですから」
「気持ち悪い!! こんな神様が統べる世界なんて絶対住みたくない」
「そうでしょうね。ですから、在るべき姿に戻して、またゼロから創ればいいのです」
「は、はぁ? 何言って……」
コーディらしい踏み込んだけん制だが、思わぬところでルッシェナの真の目的まで見えてしまった。
ルッシェナは言ってからキッドを招く。操っているのだから、逆らえるはずがない。マントから覗く手は人の手をしていなかった。指も爪も長く大きい異形の手だ。
キッドは声を震わせる。かつて知っていた手ではない。
「ルッシェナさん……」
「震えなくてもいいのに」
ルッシェナはキッドを抱き寄せ、見せ付けるように竜次に向き直る。
当然だが、竜次は憤慨した。拳を震わせ、噛みつくような勢いで訴える。
「クレアを放して!! 元に戻して!! 彼女を傷つけたら、私が許さないッ!!」
「いい顔ですね、剣神。あなたが苦しみ、悲しむ表情にゾクゾクします。未熟でいたいけな大魔導士を挫くよりも興奮してしまいますよ」
どこかのウサギが言っていた『サディストで変態』がこれほど相応しい人物はいるだろうか。
ケーシスは指に白い魔石を挟んだ。この状況の打開を試みようとした。だが、その試みはルッシェナに砕かれた。
「嫌だな、ケーシスさん。ケーシスさんみたいな中途半端な人が、わたしより魔力があると思っているのですか? 無駄遣いをする暇があったら、わたしを討つ手をお考えになった方がいいと思いますよ」
「……嫌な野郎だ」
「ケーシスさん、あなたにはまだ使い道があるのです。御同行を願えますか?」
「断る。俺はカワイ子ちゃんとしか、デートしたかねぇの!!」
茶番のようなやり取りが続くのかと思われた。だが、流れは急に変わる。
「見目麗しい、愛しのお子さんが待っているというのに」
「なん、だと……ルー、お前、まさか本当に!?」
強気だったケーシスが怯んだ。ルッシェナは狂気をまとった笑みを零す。こうなってしまえば、あとは精神が崩れるのを待つだけ。
ルッシェナはキッドの顎を持ち上げる。手はまるで魔人のような手だ。キッドは涙を浮かべ、必死に訴える。
「や、やめて!! 嫌、こんな……」
「ねぇキッド。わたしたち、何度も愛し合った仲じゃないか。どうしてそんな目でわたしを見るんだい?」
傷口を抉るような発言だ。キッドのトラウマ、過去、かつての想い人。だが、今は違う。キッドは激しく首を振って抵抗した。
「あたしは、もう……ルッシェナさんを、好きじゃないです!! こんなこと、間違ってるっ!! お願い、こんなことやめて!!」
キッドは悲痛な声を上げる。だが、その訴えはルッシェナの心には届かない。なぜなら、彼にとってキッドは都合のいい駒だからだ。
「そうだキッド。キッドが剣神を殺せばいい。残念ながら天空都市の女神様は、剣神を要らないと言っていた。だから邪魔で目障りなんだ。残りも始末したら、ちゃんと君も自分で死んでね? こんなに都合のいい女性を捨てるのはもったいないけど」
「なっ、えっ!! ルッシェナさん!?」
ルッシェナは微笑み、キッドの首に触れた。駒であるキッドへの命令だ。蹂躙の首輪が光を増した。
キッドが見たのは狂気に満ちたルッシェナの顔だった。体が命令を遂行しようと竜次へ向き直る。
「り、竜次さ……」
「クレア、こんな……」
小太刀を握ったキッドが竜次に切り掛かった。竜次は受け身を取っているが、真剣が刃こぼれしそうだ。あまりの激しさに火花が散る。
「こんなの嫌……」
「クレア、今だけです。私と手合わせをしていると思えばいいだけ。絶対に何とかなります。何か手があるはずですから!!」
交わる太刀の向こうでキッドが咽び泣く。揺れる肩、零れる涙、見ていられない。竜次は自分なりの励ましの言葉をかけた。
「おじさん、魔法の解除ってどうすればいいの?」
コーディも現状を打開したく思うが、どちらかと言うと彼女は魔法に疎い。多少の魔法は身に付けたが、毛が生えたようなものだ。専門ではない。
この場にいる人間では手が限られる。ケーシスはコーディの質問に答えた。
「一般的な解除は魔法による相殺だ。だが術主の魔力が高いと、いくらコッチが必死になっても解くことは不可能だ。もう一つは掛けられた命令を遂げること。ま、これは最悪だな。あの野郎、姉ちゃんの手を汚すだけ汚して自害しろって言っていたな」
「おじさん、その割にはやけに落ち着いてない?」
コーディとケーシスがルッシェナに向き合った。話を聞いていたルッシェナの方からヒントを繰り出す。
「おや、作戦会議ですか? でも方法はもう一つありましたよね?」
「そいつが最優先候補だ」
「わかりやすくて助かります。少し本気を出しましょう。大魔導士には油断してしまったのでね」
ルッシェナの茶色いマントが翻った。両手は魔人のように禍々しく、見ただけで恐怖を抱く異形だ。
ケーシスは馬鹿にするように鼻で笑ったが、実は少し安心もしていた。
「ついに人を捨てたか、堕ちたモンだな」
「あなたのお子さんに腕を切り落とされてしまったのですから、再生まではできませんのでね。自我を保ったままキメラになるの、難しいんですよ。お薬の加減や体との相性。知っていますよね、ケーシスさん?」
「本当に悪趣味だな……」
すぐそこでは竜次とキッドが打ち合いになっている。剣戟の音を聞きながら、ケーシスも紺色のコートを翻す。シャリーンと鞘から金属の擦れる音がした。ケーシスは両手に一本ずつ短めの小太刀を持っている。
「いいですね。見られると思っていませんでした。沙蘭の武神よ……」
「てめぇをぶっ倒せばあの魔法は解けるんだ。そりゃあこうもしねぇとな?」
「どうせ誰も助けに来ないのですから、この演出は悪くないですね」
「何だと……」
ルッシェナは口角を上げ、残念そうに眉を下げる。
「使えるモノは使う主義です。あなたを奪取したあと、先輩と大魔導士、それから女神様が最も御所望のジェフリーを回収すれば場は整います」
「欲張り過ぎだろうが」
「先輩とケーシスさんはすぐに用済みになりますがねぇ」
睨み合っているが、この間にコーディがタイミングをうかがっている。しっかりと会話にも耳を傾けながら。
「どちらかが持っているのでしょう? 最後のおひとつ、どこに隠しましたか?」
「……!!」
話のつながりがわかってしまい、思わずコーディは息を飲んで目を丸くした。この反応が引き金になってしまった。ルッシェナの視線がコーディに向かう。
「ほぅ、知っているのですね。ならば、あなたでもいい」
「えっ……」
ルッシェナは豪速で間合いを詰め、コーディに迫った。魔人のような大きな手が反り返る。
「馬鹿野郎!! そいつは関係ねぇッ!!」
ケーシスも追って間合いを詰める。
コーディは飛べる利点を生かした。抜群の回避で上に逃げる。ルッシェナの手がぐしゃりと沈み、石壁が崩れた。危うく逃れたコーディ。早く飛ぶ事は難しいが、これくらいなら危険を回避できる。いつもそのはずだった。
二刀流のケーシスがルッシェナのマントを捉えた。抜ける太刀筋に違和感があった。頭上を赤い影が走る。
「はぁぁぁッ!?」
ケーシスの頭上で大きく羽ばたく音がする。赤い翼が見えた。
「飛べるのはドラグニー神族だけだと思いましたか?」
ルッシェナは翼で飛び、振り上げた手がコーディを捉えている。コーディは鷲掴みにされ、苦しそうだ。
「うぁぐ……ひぁぁ!!」
「可愛い声で鳴きますねぇ。いたぶり甲斐がありそうです」
「変態ッ!!」
「見た目より幼い体ですねぇ? 細くて簡単に握り潰せてしまいますよ」
コーディの細い体がギリギリと締め付けられ、爪が細い体にめり込む。血が流れ、石床を点々と滴る。
「あああぁっ……うぅっ」
「あなたは知っているのでしょう? ドラゴンブラッドの媒体の在り処」
「知らない!! 知っていても言わないっ!!」
やはりルッシェナが求めていたものは禁忌の媒体だった。
コーディは走り抜ける痛覚に耐えながら馬鹿にするように笑って見せる。言うはずがない。
ケーシスは先ほど握っていた魔石を元に、光の魔法を放つ。
「メガレイ!!」
相手は飛んでいるのだから格好の標的だった。そのはずだったのに、ルッシェナはノーモーションでケーシスの魔法を打ち消した。魔法障壁があらかじめ張ってあるとでも言うのだろうか。
ケーシスは嫌悪感をむき出しにしながらルッシェナに言う。
「テメェ、チートもいい加減にしやがれ!」
「何を言っているのですか、ケーシスさんが弱いだけですよ? それとも、今のわたしに敵うとでも思いましたか?」
ルッシェナは血塗れのコーディを握りながらケーシスを見下す。彼女の翼は自らで翔く気力がなく、ぐったりとしていた。握る手に力が込められ、体の軋む音がする。
「ああああああああぁぁぁっ……!!」
コーディが悲鳴を上げる。足も首も反らせ、ぐりっと嫌な音がした。そんな人道を外れたいたぶりを、この者が黙っているはずがない。コーディを握り潰す勢いだったルッシェナの肩を、弾丸が貫いた。乾いた音が響く。
「許さない!! あなただけは、絶対に!!」
ダメージの正体は竜次のマスケット銃だ。魔法がだめだとしても、物理は効くというのがわかった。
だが、竜次にも余裕はない。利き手ではない左手で刀を握り、キッドの剣戟を防いでいたのだ。
「小癪なまねを。あなたは一度ではなく、二度もわたしに傷を付けた。その代償は死をもって償っていただきましょうか」
「私は死なない!」
「剣神よ、あなたは死にたかったのでしょう? 旅を経て、仲間もできて友情も育み、家族との絆も取り戻した。まぁ、そうでしょうけども、都合がよすぎると思いませんか?」
ルッシェナは手の中のコーディをケーシスに叩き落とした。暗がりの素早い行動、不利が続いた。突然の不意打ちにケーシスは回避できない。
「は、反則だろ、そういうの……クソが!!」
降って来たコーディと壁に挟まれ、ケーシスの背中に激痛が走る。あまりの勢いに石壁が崩れた。傷を負っているのに豪速で投げるなど、どんな反則だろうか。ケーシスは気絶しそうな激痛を感じ、体の異常を感じていた。かろうじて動く首から上、目だけはルッシェナを追っていた。どうせなら、このまま気絶してしまえばよかったのに。
どうして高望みをしてしまったのだろう。何を期待していたのだろう。ケーシスは遠退く意識に問い掛ける。
混沌に飲まれそうな意識の中で剣を振っても当たるはずがない。ざわめく大樹、粉のようなものが降って来た。
これ以上ジェフリーの反応が鈍るのは困る。ショコラはサポートを決意した。
「ジェフリーさぁん、静電気を発生させるのぉ!!」
「そ、そんなのでいいのか!? それくらいの魔法なら俺にもできるぞ。えーっと、プラズマリッド!!」
ジェフリーは左の人差し指で適当に線を描いて泳がせた。こんな小さい魔法くらいなら魔石を使わずとも放つことに負担がなく、体も覚えている。なぜなら学生時代、静電気で気に入らないグループリーダーにイタズラをしていたからだ。低コストで、疲れない。当時、ジェフリーが魔法学校に在籍していたことを知る者は少なかった。生意気な彼にとっては都合のいい魔法だ。
ベルは顔をしかめる。確実には言えないが、嫌な顔をしているのだと察せた。降った粉が放った静電気に引き寄せられる。薄暗い中に降り注ぐ粉が静電気によって引き寄せられ、視界が晴れた。
向かい合ってベルと戦っていたハーターは視界が晴れて驚いた。
「えっ、ちょっとすごいことをしてないかい!?」
「ハーさん!! よそ見しないでベルを討つのぉ!!」
いわゆる状態異常を回避したことによって生まれた余裕、ショコラは気を引き締めるように強く言った。その意識は一瞬だけ、大樹を含め石壁が大きく崩れた。揺れが不安定な足元を崩れさせる。
激しい揺れにハーターはあらゆる方向へ懐中電灯を向ける。
「こ、今度は一体何が!?」
ベルの背後から赤く大きな影が見えた。ベルも突然の来訪者に驚いている。
「ルッシェナ様、これは!?」
ベルが名を呼んで正体に気付いた。ハーターの懐中電灯とジェフリーのフェアリーライトがその姿を捉える。赤い翼に赤い髪、人としての面影が乱れたマントが覗く。
ハーターは異常なプレッシャーを感じ、剣を握る手を震わせた。
「出ちゃったよ、『大ボス』が!」
さすがにふざけていられない。目で見るものはほとんど人の姿ではない。ドラグニー神族の特徴とは比べ物にならない、悪魔のような赤く大きな翼、人の者ではない腕、魔人かキメラにでもなったのだろうか。
ジェフリーはルッシェナと睨み合う。
「あんた、ついに人であることを辞めたのか」
「誰かさんと同じことを言いますね、ジェフリー」
「それが誰なのか、わかった俺も気色が悪い」
壁が崩れたことで風の流れができた。意識が遠退きそうな睡魔が幾分かマシになって軽い冗談まで言えた。ジェフリーも向かい合って、ルッシェナの面妖と異形さを目に現実ではなく夢ではないかと疑った。ここまで目に刺激を受けると、かえって目も覚める。
ルッシェナはハーターとも目を合わせた。だが、その目はぎろりとしていて、とても不気味だ。
「先輩のお兄さんも来てらしたのですね。生半可な覚悟で何ができると思いますか?」
「ぼくは真実を見に来た。この世界の未来を、この子たちだけに背負わせるには重すぎるからねっ!!」
「フフフ、大人のくせに、子どものようなことを言いますね」
ルッシェナはうしろ手に何かを引き摺っていた。すでに体は一周り以上人より大きくなっている。大きな翼とマントのせいで、巨体を相手にしている錯覚を起こす。
ベルはルッシェナに駆け寄り、気遣った。
「ルッシェナ様、お怪我はありませんか!? そのお姿は」
身を寄せる美しくも傷付いた獣人。ルッシェナはベルに対して、信じられない仕打ちをする。
「時間はあったはず。使えん奴だ……」
大樹に血飛沫が舞った。ルッシェナは異形な手でベルの胸を貫いていた。身に纏っている綺麗な服が真っ赤に染まる。
「ベルッ!!」
「ばあさん!! 行って敵う相手じゃない!!」
「ふっ……うぅっ……」
飛び付きそうなショコラをジェフリーが抑え込んだ。腕に爪がめり込むほど、ショコラは悔しがって震えている。
弄ばれた獣人。女性と獣人しか存在しなかったこの都市にとって、外部から足を踏み入れた男性、ルッシェナはどんな風に見えただろうか。想像は容易だ。たとえそれがどんな男性であっても、輝いて見えただろう。
「わたしは足止めを命じたわけではありません。邪魔者の方が少ないはずなのに、何をしていたのでしょうね」
ルッシェナは律義に手を払っている。石床を血が走った。力なく横たわるベルに一目も置かない。なぜ彼が手駒を殺したのだろうか。それはうしろ手に回されていた腕が理由だった。ルッシェナも怪我を負っている。そしてその手は人を掴んでいた。金髪で四角い眼鏡を掛けたケーシスだ。
ジェフリーは絶叫した。
「親父!!」
「次の目的はあなたです、ジェフリー・アーノルド・セーノルズ」
「どうしてここに親父が……兄貴やキッドたちはどうしたんだ」
怪我を負っていたのはケーシスもそうだった。コートから覗く手は赤を帯びていたが、コートはさほど色の変貌はない。ルッシェナは一度ケーシスを解放した。だが、ケーシスは力なく石床に伏せている。
ルッシェナは解放した手で握り拳を作り、感覚を確かめていた。それからジェフリーの疑問に答える。
「あぁ、お仲間は、仲良くキッドに殺されているかもしれませんね」
「……ッ!?」
「いやぁ、よく見ると、あなたもいい表情をする。わたしが直接、殺せないことが惜しいですね」
ジェフリーは表情には出さなかったが、悪寒を感じた。何度か見た記憶があるが、この男の笑みは狂気に満ちている。今は人なのかも怪しい外観だが、まだ顔には人としての表情が読み取れた。思わず黙ってしまいそうだが、聞かねばならないことがある。
その前にショコラを下ろした。ジェフリーは小声で言う。
「ばあさん、何としてもサキを起こしてくれ」
「む、むぅ……」
こういうときだけは人使い、いや猫使いが荒いとでも言いたそうだ。ショコラは耳を下げながらジェフリーから離れた。
ジェフリーはそれを確認してから向き直る。プレッシャーを感じているのか、手は汗ばんでいた。
「俺は殺せない。そういうことか」
「あなたは保険です。そしてわたしよりも、ずっとあなたを憎んでいる者がいるという意味ですよ」
「俺を……憎んでいる者?」
覚えがない。剣術学校の者ならば恨みを買っても仕方がないとは思うが、そこまでだっただろうか。この段階ではその人物に見当がつかない。ジェフリーの思考は鈍っていた。
ルッシェナは微動だにしないケーシスに目を向ける。首が音を立てて盛り上がった。ルッシェナは自分の体に起きている変化を受け入れ、焦っているようだ。
「できるのなら、ここであなたをバラバラにして、無理にでもケーシスさんの口を割らせるのですが、生憎わたしも立場が難しいのですよ。ご機嫌取りなど、性に合っていませんがねぇ」
ルッシェナはケーシスから何かを聞き出したいのだろう。
ジェフリーはこの短い間にそうではないかと予想した。だが、何なのだろうか。無理にでも口を割らせる手段はいくらでもありそうなものだが、ルッシェナの他にまだベルのような仲間がいるのだろうか。
どうも自分が頭を使って情報の整理は向いていない。こういう役目はいつも、サキに任せてしまっている。ただ力でねじ伏せておしまいではない『何か』を見付けなくてはいけない。もっとも、力でねじ伏せるのすら今は難しいかもしれない状況だ。
ジェフリーはらしくないほど考え込んでいた。
ルッシェナはハーターに視線を向けた。まるで忘れていたように、わざとらしい反応だ。
「先輩のお兄さんはいつまで突っ立っているのでしょうか? やる気……あります? それとも、種の研究所に足を踏み入れたときのように、誰かに何かを言われるまで無難なことだけしか、できませんか?」
うっすらと笑みを浮かべるその顔には失望も含まれている。ハーターは一瞬だけ表情を渋め、ルッシェナの笑みに応えるように笑み返した。
「悪いけど、挑発が下手だね」
「おや、察しのいいお方でしたか」
「キミから情報を聞き出していることに気が付いているのかい?」
「ふふっ、面白い先生でしたか。殺すに惜しくなってきましたねぇ」
ルッシェナの目的はジェフリーだ。ハーターは邪魔であるはず。ベルは本当にそれだけの役目だったのだろうか。
ハーターまで考え込んでしまった。
ルッシェナはハーターもジェフリーも考え込んでしまい、にやりと笑う。
「目的が知りたいですか? 冥途の土産にお話してあげましょう」
「キミ、優しいねぇ。悪党のくせに」
ハーターは嫌味たっぷりに言う。もしかしたら気が狂っているのかもしれない。半キメラ化した人を目前にして、会話を交わしているのだから、気が狂っても仕方がない。
ルッシェナは、自分に限られた時間を使い果たす勢いで語り出した。
「世界はもともと一つだったのです。醜い欲望の塊でしかなかった人間たちが、神族の領地を荒らした。数で勝つことができなかった。だから追い遣られ、疎外された。人間よりずっと優れているのに理不尽だとは思いませんか? 長寿で英知に溢れたアリューン神族。禁忌の魔法にまで辿り着いたほど、魔法に長けたソフォイエル神族も……おかしいと思いませんか?」
ここで起源を論される。ルッシェナ自身は狂ったことをしているが、言っていることは至極まともだ。
なぜすぐに臨戦しないのかとは思いつつ、ジェフリーはこの話に付き合うことにした。
「俺はおかしいと思う。昔の人間って何を考えてそんなことをしたんだろうな。そういう人間が存在したから種族戦争は起きた。確か、大図書館の文献や、学校でも触り程度にしか教えてくれない。歴史でもそう言われ続けている」
「ジェフリー、キミは物分かりがいいみたいだ。どうしてわたしと組んでくれなかったのですか? いい同志になれそうなのに」
「だからと言って、あんたがしていることは肯定できない」
理解はできるが、手を取り合うつもりはない。ジェフリーの意思表示に、ルッシェナは肩まで揺らすほど笑っていた。
「はっはっはっ、人間らしい考えですねぇ」
「全員がそんな腐った奴じゃないって言いたいんだ!!」
「青臭い考えですね。腐った思考を持った人間に神族がどれほど苦しめられたか」
「それは……」
種族の壁を持ち出された。これにはジェフリーも首を振った。彼だって理解はしても手は取り合えない。どちらかと言うと人間側の味方なのかもしれない。
わかり合うことはできないが、傷を浅くすることはできなかったのだろうか。これまでの情報から、ルッシェナはアリューン神族であることは間違いない。それも純血だろう。悠久を生き、見て来たのは人間による負の部分が多かった。だが、それだけではないはずだ。
長話ゆえに、この場に訪問者があらわれた。ジェフリーの横に、黒いマントのクディフがカラスのように軽快に降り立った。
「長生きゆえに道を誤る阿保もいる。都合の悪いことを視野に入れぬとは、貴殿こそ愚かではないのか?」
話に割って入ったのは、銀の長い髪に黒いマント、右の腰には二本の刀が下がっているクディフだ。
ついに対面した父親の存在に、ハーターは額を押さえている。
「ま、待ってくれ。今日はいろいろと起き過ぎている……」
無理もないが眉間にシワを寄せ、項垂れている。不意を突かれたら一発なのだが、表情を歪めているのはルッシェナも一緒だった。
クディフの存在は、いわゆるイレギュラー。招かれざる客だ。クディフは警戒をしながらジェフリーに訊ねた。
「剣神はどうした」
「……」
ジェフリーには答えられない。知らないからだ。クディフは察しのいい反応をする。
「まぁいい。どうせあの者は死なんだろう」
「そうは思うけど……」
「あれほど『生』に執着した人間を他に知らない」
クディフはジェフリーを流し目に見て前に出た。まるで庇うようにマントを翻す。
ジェフリーは何をすべきなのか、そのヒントをクディフは示した。ジェフリーはクディフの首の動きで把握する。何かを見ている。ジェフリーはその方向へ目を向けた。ローズとミティアがサキを介抱している。
ジェフリーは行動よりも先に安心感を覚えた。ミティアとローズの無事が確認できたのだから、言葉にならない。
クディフは催促をする。
「行ってやれ」
「あ、あぁ……」
まるで戦友に言うような口調だ。ジェフリーは妙な気分になりつつも、クディフにこの場を任せた。
「先に言っておくけど、お前、死ぬなよ」
「貴殿と剣を交えるまでそのつもりはない」
「恩に着る」
「無駄口はいい。さっさと行け」
体制を立て直せという意味だ。ジェフリーは不本意ながら退いた。
サキは頭を重たそうにし、蹲っている。それをミティアとローズが起こそうとしていた。サキは意識がはっきりしているようだが、ほとんど自分で支えられていない。やけにけだるそうな表情だ。強制的に眠りに陥ってしまったのなら、無理もない。
だが、今は急を要する。ジェフリーはミティアもローズも押し退ける勢いでサキの肩を掴み、揺さぶった。
「サキ!! 頼む、お前が頼りなんだ!!」
「ん、ジェフリーさん、わかっています。でもちょっと待ってください。体が重くて」
サキは目を瞑り、首をぶんぶんと激しく振った。本当に体が起きていないようだ。
状況を見たミティアはジェフリーに訊ねる。
「ジェフリー、どういうことなの? 先生やキッドは? コーディちゃんも……ケーシスさんはあんなに傷だらけだし」
「俺にもよくわかっていない。引き裂かれたんだ、兄貴たちと。たぶんだが、時間を稼がれた。束になって掛かると厄介とわかって削りにでも来たんだろう」
再会をよろこぶより先に心配をする。これがミティアらしくてジェフリーもほっとした。本当だったら恋人らしい熱い抱擁がしたいものだ。だが、今はそんなことをしている場合ではない。それはお互いにわかっていて、アイサインで心を通わせる。
少し離れて、血塗れのベルを見て呆然とするショコラ。合流した圭馬は声をかけた。
「友だち? 仲間? でしょ?」
「そうじゃよぉ。哀れな最期じゃったのぉ」
「こういうときに白兄ちゃんの読心術がほしくなるなぁ」
戯れもほどほどにし、圭馬も警戒に入った。
「今、どういう状況か、わかってるよね?」
「そうじゃなぁ……」
ショコラはぶるぶると首を振る。人間と同じで気持ちを切り替えようとする仕草だ。
「長生きしていると、嫌なものが目に付くようになってしまうのぉ」
「その嫌なものをいい方へ変えようとしている人たちの前で言う!? いいことばっかりじゃなくて、悪いこともあるからいいことが輝いて見えるんだよ!!」
圭馬の言葉はごもっともだ。生きている限り、プラスとマイナスが入り合わさって今が存在する。しかも大きな声なので、なおのこと皆にも染みる言葉だった。
特に感銘を受けたのはハーターだ。圭馬に負けない大声で言う。
「あぁー……ったくもう!! キミたち、大好きだよ!! ぼくも、もっともっとキミたちと冒険がしたいねっ!! ぼくがここにいる理由なんてそれだけでじゅうぶんさ!」
様々な思いが混在する。ハーターはそれでもこの一行に可能性と希望を見出した。開き直りとも思える言動だ。だが、クディフも再会よりそちらをよろこんだ。彼もこの一行に魅力を感じている。さまざまな種族と境遇を持った者たちが、困難を乗り越えた。それによって育まれた心を持っているからだ。
クディフは自分の息子に対して厳しい反応をした。
「この者たちを気に入っているのはお前だけではない。理解を深めていないくせに、ともに歩もうなど、図々しい……」
「父さんは昔からそうだ。絶対にぼくを認めてはくれなかったよね」
長年していなかった親子の会話だ。影こそ感じていたが、対話する機会はなかった。それこそ、何十年と。
クディフが警戒していたここでの一戦はあるのだろうか。いや、仕掛けるのなら、とっくに仕掛けているだろう。
見合っている状態だが、ルッシェナは場が整ったことを確認した。
「いやぁ、どうしましょうかね。水を得た魚。これでは多勢に無勢ですねぇ」
ルッシェナは手を休め、状況を見定めているようにも思える。簡単に仕掛けて来ないあたり、彼は策士とも言えるだろう。闇雲に潰しに掛かるより、人間関係と技量の把握、自らの目的と照らし合わせながら、どこを削れば総崩れになるのだろうかと計算していた。ルッシェナは皆が揃うのを『待つ』だけではない。会話の内容からもう、イレギュラーな助けがないのを読み取った。これで全員。
目的が定まり、ルッシェナは口角を上げる。
「ふむ、一度は捨て置いたが……」
ルッシェナは大きく羽ばたいた。この狭い空間にものすごい風圧だ。大樹の葉も砕けた石も視界を遮った。彼が手を反り返し迫ったのはミティアだ。
「兄さ……?」
「どうせ何もできないお姫様だから、ね?」
風に混じって血の臭いがする。ミティアも限られた視界でそれだけは察知した。ここで自分が囚われるわけにはいかない。刃こぼれの激しい剣を引き抜き、守りの構えを取った。だが、ルッシェナがその防御を破るのは赤子の手を捻るよりも容易かった。ミティアの剣は弾かれ、この異形な手の中に堕ちる。
瘴気のような寒気と血の臭い。ミティアは身を縮めた。
「……ッ!!」
ルッシェナはコーディのときのように握り潰すまではしない。なぜならミティアには利用価値があるからだ。長い爪を巻き込まぬように背中から抱きかかえるようだ。
至近距離に迫る兄は、優しい目をしていない。狂気に満ちた目だ。だが、ミティアは『異変を』察知していた。今はもしかしたらチャンスかもしれない。
掴まれたミティアの腕は下がっている。一瞬の緩みを発見した。手は動く。これがとある者にはチャンスと捉えたようだ。それは行動の素早いクディフだ。ミティアの眼前に刃が走った。かなり際どい一撃だ。
ルッシェナは計算違いを起こしていた。クディフがミティアを助け、無茶をしてここまで連れて来たというシナリオは見えている。だが、クディフにそんな底力があるのかというと、意外だった。
「き、さま……」
「貴様が触れていい存在ではない!!」
ぞぶっと肉を削ぐ剣戟だ。それでも切り落とすまでにはいたらない。それはミティアを気遣ってなのだ。万が一軌道を逸れ、彼女に大怪我をさせてはいけない。
クディフの剣にかすかな光が反射する。それはハーターの懐中電灯の光を捉えたようだ。ミティアの澄んだ緑色の目に、剣を振るクディフが映り込む。これがどんなにうれしいことだろう。
限られた視界。何が起きたのか、ミティアが捕らわれたことすら把握していない者もいた。
「あの、ジェフリーさん?」
「サキ、お前大丈夫か?」
戦線の騒動の中、やっとサキの意識がはっきりしたようだ。まだふらつくが、何とか自力で立ち上がるまでに回復していた。
ジェフリーは思い出したようにフェアリーライトを放つ。光でこの場で何が起こっているのかがだいたい把握できた。
クディフがミティアを抱えて後退しているのが見える。サキの顔色は悪い。ローズの顔や足には擦り傷があった。ハーターは怪我をしていないが、やはりまだ臨戦には弱いようだ。
ルッシェナは右手を引き摺りながらこちらを見ている。次の手を考えているようだ。いや、別の手段をすでに持っているのだろうか。
ジェフリーはとりあえずサキの状態を確認する。
サキは自分でもフェアリーライトを放った。そして大きく息を吸って言う。
「どうしてでしょうね? 意識は落ちていても、何か起こっていたのか、だいたいわかっています」
サキの背後からローズが小声で言う。
「人は死んでも、しばらく耳や意識は残っていると言うデスヨ」
「僕、死んでいませんが……」
この状況で冷静な指摘を入れるサキ。緊張感がないのかと思ったが、ローズはしっかり媒体を指に挟み、仕掛けるタイミングを見計らっている。話しながらこういうことができるのは頭がよくないと追い付かない。
もっと冷静だったのはサキだ。少し仕掛ければすぐに戦線だと言うのにやけにおとなしい。魔石でも握るだろう。誰もが予想したがその動作もない。ジェフリーは小声で質問をする。
「お前、まだ眠いなんて抜かさないよな?」
「そうじゃないです。でも、多分ですが……」
サキも異変を見抜いた。ルッシェナが生きていたことは想定していた。この目で見るまでは信じたくなかった。傷を負わせた、切り落とした、海に沈めた。失った人体の一部はキメラになって蘇った。サキは以上のことを踏まえて答えを出す。
「もう、あの人は長く持ちません……」
サキの言葉を聞き、ジェフリーは眉間にしわを寄せながら首を傾げた。
「そう言えば、あいつ、口数が減って来たような」
「人間が自我を持ったまま超人……いえ、キメラですね。それこそ、リスクなしでなれるとは思いません。現に、翼なんて生えようものなら、相当な負荷が体に掛かっているはずです」
途中からだったはずなのに、サキは状況に追いつこうとしていた。やはり彼の頭脳は並外れだ。ジェフリーにはこんなに短時間に整理などできない。それだけではなく先のこともしっかりと考えていた。
「あの人は、自我を失い掛けて相当焦っているはず。本当に倒すなら、今しかありません。ですが……」
そこまで言うも、サキは行動に出ない。いったい何がサキをここまで冷静にさせるのだろうか。険しい表情こそするが、少し悔しそうだ。その続きを言う。
「あの人を倒してしまったら、あの人のうしろに誰がいるのか、本当の目的も、どうすれば世界の統合を止められるのかもわからなくなってしまうかも……」
サキは懸念をしながら、ルッシェナ自身にも疑問を抱いていた。
ルッシェナの情報の開示もそうだ。煽りはするものの、こちらが有利になるような情報ばかりだったように思える。種族戦争が起きた起源の話は興味深い。今の立場もそうだ。その情報を示すことにより、自分は誰かのために動かされている。ルッシェナはある意味そのことに気がついてほしいのかもしれない。そして、助けを求めているのかもしれないとも思った。
「大丈夫!! 私、ちゃんと聞いてたから!!」
サキの言葉に応えたのは聞き覚えのある若い女性の声。いや、もう少し若い。疾風が抜ける。石床にぱたりと着地する金色の影、キュッと靴底が鳴った。
風と音の正体はコーディだ。髪は解かれ、肩に大怪我をしている。
コーディは合流するなり、ジェフリーに迫った。意外と元気のようだ。
「ジェフリーお兄ちゃん、早くしないとお兄ちゃん先生が危ないの。みんなに指示を出して。この場を切り抜けることを考えて!!」
「コーディお前、その怪我……」
「私はいいから! 早くしないと二人が死んじゃうッ!! キッドお姉ちゃんが操られて……早く何とかしないと!!」
この一行ではジェフリーが司令塔だ。判断次第で仲間の命が左右される。行動も、これからも。
隣に立っていたサキが大きく息を吸って意を決した。今は余計なことは考えないよう、頭を振って切り替えた。
「僕はジェフリーさんを信じます」
つられるように、ローズも身構える。
「ジェフ君、ワタシに手伝えることがあれば言ってネ!!」
整った臨戦態勢。畳み掛けるなら今しかない。だが、ジェフリーの心を板挟みが苦しめる。
何を優先するべきだろうかと。
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