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七話
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会場の入口でキョロキョロしていたアリサが真っすぐに4人の下へと歩いて来る。かなり隅の方にいたつもりだったが、目立ってこの上ない装いをしているミハエルとアラベラは見つけ易かったのだろう。迷いなく歩くアリサにモーゼの海割りの如く人が割れていく。
貴族が道を開けるのは格上の貴族や王族が通る時に見られる光景だがアリサは男爵子女、本来なら道を開けないのだが皆道を開ける。理由は関わり合いたくないからだ。
それを自分はヒロインだと自負しているアリサにとって周りが唖然としたり顔を顰めているのは見えていないしその原因にも気づいていない。
「ありゃ相当ヤベェな」
「ミハエル様素が出てらっしゃいますわよ」
「そりゃアレを見たら素も出るわ」
「今までこの世界で生きてきたはずなのに常識をどこかへ落としてきたのかな?」
「凄い格好ですね」
「わたくしNGてんこ盛りの衣装なんて初めて見ましたわ」
「そもそもアレ普通の店が作ってくれるのか?」
「隣にいる子爵令息の家がたしか最近ドレスを手がけ始めたはず。そこに作らせたのかもね」
「あらぁ、悪く評判が立ちそうですわね」
気取られないよう口を殆ど動かさず4人はアリサの装いについて話す。会場にいる学生が同じような会話をコソコソしている。それは全て好意的な会話ではない。
それはそうだ、前が膝上15cmで後ろになるにしたがって長くなっているスカートのドレスは白、アップにしたピンク色の髪にこれでもかと花を散りばめている。ネックレスとイヤリングは大ぶりの宝石をあしらったものを着け、腕にはジャラジャラと腕輪をしている。
そもそもこの国には平民から貴族まで誰でも知っている常識がある。
それは「白い衣装を着れるのは神職に就く者と新郎新婦のみ」という決まりだ。
白は神の色とされ穢れが無い事を示す装いとされ、神に仕え童貞処女を貫く神職と神前で誓う新郎新婦のみが着る事を許される。
他国の貴族の子息子女のデビュタントは白い衣装だがこの国はクリーム色で統一され、アクセサリーも宝石を付けない金や銀の髪飾りをする習わしだ。
そして膝上を人前で見せるというのは娼婦だとアピールしている事となり、腕輪をジャラジャラ着ける行為も同じである。
アクセサリーも学院、お茶会、夜会で着けるサイズや傾向が決まっており、大ぶりの宝石は王族であるミハエルや婚約者で準王族のアラベラ以外学院主催のパーティーではNGだ。
よってアリサが意気揚々と纏っているもの全てがアウトなのだ。
なのでアラベラが「悪く評判が~」と言ったのはそんなドレスを作った店は早々に潰れるだろうという裏の言葉が隠されている。
「クエスフィール様、ミハエル様お待たせしました!」
「「(待ってねーよ!!)」」
頬を染めモジモジクネクネしているアリサと対称にクエスフィールとミハエルの顔は今日イチ能面だったそうな。
貴族が道を開けるのは格上の貴族や王族が通る時に見られる光景だがアリサは男爵子女、本来なら道を開けないのだが皆道を開ける。理由は関わり合いたくないからだ。
それを自分はヒロインだと自負しているアリサにとって周りが唖然としたり顔を顰めているのは見えていないしその原因にも気づいていない。
「ありゃ相当ヤベェな」
「ミハエル様素が出てらっしゃいますわよ」
「そりゃアレを見たら素も出るわ」
「今までこの世界で生きてきたはずなのに常識をどこかへ落としてきたのかな?」
「凄い格好ですね」
「わたくしNGてんこ盛りの衣装なんて初めて見ましたわ」
「そもそもアレ普通の店が作ってくれるのか?」
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「あらぁ、悪く評判が立ちそうですわね」
気取られないよう口を殆ど動かさず4人はアリサの装いについて話す。会場にいる学生が同じような会話をコソコソしている。それは全て好意的な会話ではない。
それはそうだ、前が膝上15cmで後ろになるにしたがって長くなっているスカートのドレスは白、アップにしたピンク色の髪にこれでもかと花を散りばめている。ネックレスとイヤリングは大ぶりの宝石をあしらったものを着け、腕にはジャラジャラと腕輪をしている。
そもそもこの国には平民から貴族まで誰でも知っている常識がある。
それは「白い衣装を着れるのは神職に就く者と新郎新婦のみ」という決まりだ。
白は神の色とされ穢れが無い事を示す装いとされ、神に仕え童貞処女を貫く神職と神前で誓う新郎新婦のみが着る事を許される。
他国の貴族の子息子女のデビュタントは白い衣装だがこの国はクリーム色で統一され、アクセサリーも宝石を付けない金や銀の髪飾りをする習わしだ。
そして膝上を人前で見せるというのは娼婦だとアピールしている事となり、腕輪をジャラジャラ着ける行為も同じである。
アクセサリーも学院、お茶会、夜会で着けるサイズや傾向が決まっており、大ぶりの宝石は王族であるミハエルや婚約者で準王族のアラベラ以外学院主催のパーティーではNGだ。
よってアリサが意気揚々と纏っているもの全てがアウトなのだ。
なのでアラベラが「悪く評判が~」と言ったのはそんなドレスを作った店は早々に潰れるだろうという裏の言葉が隠されている。
「クエスフィール様、ミハエル様お待たせしました!」
「「(待ってねーよ!!)」」
頬を染めモジモジクネクネしているアリサと対称にクエスフィールとミハエルの顔は今日イチ能面だったそうな。
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