花街だからといって身体は売ってません…って話聞いてます?

銀花月

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「リオーラ様!大丈夫ですか!?」
「すまない、こちらからの呼びかけをどうしたらいいか分からなくてな」

 申し訳なさそうな顔のリオーラにマルスは、ホッと胸を撫で下ろした。

「いいえ、無事ならよかったです」

 朝の鍛錬中に赤い花の異常を感知したマルスは、すぐさま休みをもらい、花街へと駆けつけた。

「早速だが、私を囮に使ってほしい」
「それは危険すぎます」
「…証拠は出なかっただろう?」

 リオーラの言葉に返す言葉もない。再三調べたが、毒を使った痕跡も買った痕跡も全く出てこなかったからだ。

「俺は、今からタシュリ家へ帰る。そして私の友人でトルマトン公爵家の子息として、ついてきてほしい」
「わかりました。一緒に参りましょう」

(証拠がなければ、出させればいい)

 秘密裏に宰相へ連絡し、マルスはリオーラを伴い、トルマトン家で身支度を整えた。
 タシュリ家に向かう馬車を用意させ、二人は敵地に乗り込んだ。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「お帰りなさいませ!!!」

 大勢の使用人達が屋敷の前に並び、リオーラの帰宅を歓迎した。

「リオーラ様、お帰りなさい。次期当主とあろう者が、連絡も入れずにどこへ行ってたのですか?」

 執事長を連れてやって来たキュリラは、まるでこの屋敷の主人は自分だと言わんばかりの態度だ。

「…キュリラ、話がある。あとこちらは、トルマトン公爵家の子息――」
「マルス=トルマトンと申します。リオーラ様とは、遊び仲間です」

 軽く会釈をして、キュリラの顔をジッと見つめた。親戚筋なだけあり、似ているがリオーラより強面こわもてな顔をしている。

「ああ…トルマトン家の……確かに緑色の瞳をしていますね」

 値踏みするように見られたが、今は何もするわけにはいかない。マルスは、グッと堪えた。

「談話室に行くぞ。マルス、一緒に来い」
「はい」

 後ろからキュリラも一緒について来ていたが、誰も話さず、無言のまま談話室へと向かった。

 部屋に入るとすでに飲み物の用意がされていた。リオーラが、キュリラに向き合うように座ったので、マルスは隣に腰掛けた。

「単刀直入に聞く。キュリラは、当主になりたいのか?」

 あまりの直球にマルスはギョッとした。

(囮とか言ってませんでしたっけ!?)

「……とりあえず、紅茶でも飲みませんか?」
「飲むわけがない。毒が入っているんだろう?」
「入ってませんよ?」

 そう言うとキュリラは、ポットから注いだ紅茶を飲んで見せた。

「マルス様もどうぞ。私が淹れたら毒を入れられると思われそうなので、リオーラ様が淹れて差しあげてください」

 怪訝そうな顔をするリオーラにマルスは催促をした。

、お願いします」

 きっと罠だろう。わかっているが、どうしても証拠がほしい。危険だとしても―――

 注がれた紅茶にマルスは口をつけた。香りも味も特に変わりはない、ただの紅茶だ。

「美味しいですか?」
「…美味しいです」


 グボッと口から血が溢れたのがわかった。そしてボタボタと落ちた血で絨毯が、一瞬にして真っ赤になったのが見えた。

「キュリラ!!やはり、毒をっ!」
「私も紅茶を飲みましたよ。それに紅茶を淹れたのは貴方です」

 片膝をつきながら、マルスは自分に起こったを理解した。

(言霊だな…俺が死ななければ、生き証人として断罪できる)

「リオーラ様には、マルス様を殺した罪を被っていただきます。仲違い?痴情のもつれ?なんでも構いません。私とマルス様には接点が全くありませんから」

死んでくれれば、どうにでもなります」

 マルスはリオーラに手をかざし、魔法を発動した。トルマトン家に描いてきた転移の魔法陣が現れ、リオーラの姿がその場から消えた。

「お前!魔導師だったのか!」

(この場にいなければ、リオーラ様に害は及ばない。あとは自分が死ななければいいだけだ)

 魔法を使ったせいか、口から溢れる血が止まらない。手が震えているのが分かるが、自分でなんとかしなければならない。

(早く自分にも転移魔法を使わなければ…)

「リオーラ様をどこへやった!?」

「マルス!」

 聞き覚えがある声と共に、談話室の扉がぶっ飛び、立っていたキュリラに直撃したのが見えた。
 え?死んでないよね?と思わずマルスは、キュリラの心配をしたが、呻き声が聞こえたのでひと安心した。

「……ノ…ルファ……」

 公爵家に居るはずのないノルファに驚きつつ、冷静に今やるべきことを声に出した。

「…おれ…を……まどう…しだ…ん…に……」
「わかった、すぐに連れて行く」

 パキンッと何かを割る音が聞こえてきた。
 周りに魔法陣が浮かび上がったのが見えたが、マルスは最後まで見届けることが出来ず目を閉じた。
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