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第245話 墓のない村⑥
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二度目の意識喪失状態に、僕は陥っていた。
しかし今度はなんとも奇怪な気分だった。
胸はむかついて吐きそうなのに、下半身は性的快感に包まれているー。
そんな、地獄と極楽が同時にやってきたような境地の中、僕は海老のように跳ね、命の素を放ち、何度も果てた。
果てる瞬間、身体の上に乗った、半透明の巨大な蛞蝓のようなものを見た気がした。
それは僕の”中心”を外套膜のような膜で包み込み、カラカラに干乾びるまで僕から精を絞り上げているのだった…。
そうして、どれだけ気を失っていたのだろうか。
水底から水面に浮かび上がるように、ふと僕は目を覚ました。
彼女の姿はなく、僕はひとり、全裸で布団の上に横たわっていた。
夢か…。
途方もない脱力感の中で一瞬そう思ったが、すぐにそうでないことが明白になった。
蛞蝓の這った跡のような銀色の粘液が、半乾きの状態で全身の皮膚にこびりついていたのだ。
それにこの、大病を患った直後のような、虚脱感…。
僕は、果たして彼女と寝たのだろうか。
初めての夜にしては、あまりに異様な体験だった。
あれはー。
僕を包み込んで、僕が果てるたびに同時に何度も痙攣を繰り返していたあのゼリー状の塊が、彼女の正体だったとでもいうのだろうか。
考えたくないことだった。
あの控えめで優しい彼女が、まさかあんな化け物にとってかわっただなんて…。
風呂に入って、身体中に付着したこの穢れを洗い流したかった。
そう思って、浴衣を身にまとった時である。
また聴こえた。
彼女がトラツグミの声だと言った、あの甲高い笑い声が。
予想外に近かった。
僕は声に引かれるように、廊下に出た。
声はクスクス笑いに変わり、突き当りの扉の向こうから聴こえてくる。
彼女も、あの不気味な両親も眠っているのか、幸い、人の気配はなかった。
思い切って廊下を横切り、引き戸を引いた。
背後から差し込む月明かりに、闇の底に向かって伸びている木製の階段が浮かび上がった。
地下の座敷牢…。
彼女の言葉が耳の奥によみがえる。
夜中に出入りする時の用意にか、降り口の壁に、大型の懐中電灯がかけてあった。
音を立てぬよう引き戸を元通り閉めると、懐中電灯をともして階段をくだった。
案の定だった。
梯子のような急角度の階段を降り切ると、正面に格子戸が現れたのだ。
その向こうに、誰かいる。
土がむき出しの地面に胡坐をかいた、ひどくやせ細った男だった。
ザンバラ髪に、顔じゅうを覆った髭。
その毛むくじゃらの顔の中から、鋭く光る眼が僕を射抜いた。
「オマエモ、ツカマッタノカ」
妙に平板な口調で、男は言った。
そうしてまた狂ったようにケタケタ笑い出すと、その一瞬だけ知性を取り戻したかのように真顔に帰って、
「知ってるか? この村に墓はない」
警告するようにそれだけ低い声で言い、
「案山子に気をつけろ」
最後にそうつぶやいて、がくりとうなだれた。
その後聴こえてきたのは、ぐうぐうといういびきだった。
言いたいことだけ言って、どうやら眠ってしまったらしい。
「おい、あんたは誰なんだ? どうしてこんなところに閉じ込められてるんだ?」
格子戸を揺すって詰問してみたけど、反応はなかった。
男は胡坐をかいたままの格好で、すっかり眠りに入ってしまっている。
それにしても、どういう意味なのだろう?
階段を引き返しながら、僕は思った。
この村には、墓がない?
案山子に気をつけろ?
その時だった。
ふいに、頭上で引き戸が引き開けられ、月光と一緒に声が降ってきた。
「見たね」
彼女の声だった。
月明かりを背に出入口を塞いで立ちはだかる、黒々とした三人の影ー。
ー次回、最終回ですー
しかし今度はなんとも奇怪な気分だった。
胸はむかついて吐きそうなのに、下半身は性的快感に包まれているー。
そんな、地獄と極楽が同時にやってきたような境地の中、僕は海老のように跳ね、命の素を放ち、何度も果てた。
果てる瞬間、身体の上に乗った、半透明の巨大な蛞蝓のようなものを見た気がした。
それは僕の”中心”を外套膜のような膜で包み込み、カラカラに干乾びるまで僕から精を絞り上げているのだった…。
そうして、どれだけ気を失っていたのだろうか。
水底から水面に浮かび上がるように、ふと僕は目を覚ました。
彼女の姿はなく、僕はひとり、全裸で布団の上に横たわっていた。
夢か…。
途方もない脱力感の中で一瞬そう思ったが、すぐにそうでないことが明白になった。
蛞蝓の這った跡のような銀色の粘液が、半乾きの状態で全身の皮膚にこびりついていたのだ。
それにこの、大病を患った直後のような、虚脱感…。
僕は、果たして彼女と寝たのだろうか。
初めての夜にしては、あまりに異様な体験だった。
あれはー。
僕を包み込んで、僕が果てるたびに同時に何度も痙攣を繰り返していたあのゼリー状の塊が、彼女の正体だったとでもいうのだろうか。
考えたくないことだった。
あの控えめで優しい彼女が、まさかあんな化け物にとってかわっただなんて…。
風呂に入って、身体中に付着したこの穢れを洗い流したかった。
そう思って、浴衣を身にまとった時である。
また聴こえた。
彼女がトラツグミの声だと言った、あの甲高い笑い声が。
予想外に近かった。
僕は声に引かれるように、廊下に出た。
声はクスクス笑いに変わり、突き当りの扉の向こうから聴こえてくる。
彼女も、あの不気味な両親も眠っているのか、幸い、人の気配はなかった。
思い切って廊下を横切り、引き戸を引いた。
背後から差し込む月明かりに、闇の底に向かって伸びている木製の階段が浮かび上がった。
地下の座敷牢…。
彼女の言葉が耳の奥によみがえる。
夜中に出入りする時の用意にか、降り口の壁に、大型の懐中電灯がかけてあった。
音を立てぬよう引き戸を元通り閉めると、懐中電灯をともして階段をくだった。
案の定だった。
梯子のような急角度の階段を降り切ると、正面に格子戸が現れたのだ。
その向こうに、誰かいる。
土がむき出しの地面に胡坐をかいた、ひどくやせ細った男だった。
ザンバラ髪に、顔じゅうを覆った髭。
その毛むくじゃらの顔の中から、鋭く光る眼が僕を射抜いた。
「オマエモ、ツカマッタノカ」
妙に平板な口調で、男は言った。
そうしてまた狂ったようにケタケタ笑い出すと、その一瞬だけ知性を取り戻したかのように真顔に帰って、
「知ってるか? この村に墓はない」
警告するようにそれだけ低い声で言い、
「案山子に気をつけろ」
最後にそうつぶやいて、がくりとうなだれた。
その後聴こえてきたのは、ぐうぐうといういびきだった。
言いたいことだけ言って、どうやら眠ってしまったらしい。
「おい、あんたは誰なんだ? どうしてこんなところに閉じ込められてるんだ?」
格子戸を揺すって詰問してみたけど、反応はなかった。
男は胡坐をかいたままの格好で、すっかり眠りに入ってしまっている。
それにしても、どういう意味なのだろう?
階段を引き返しながら、僕は思った。
この村には、墓がない?
案山子に気をつけろ?
その時だった。
ふいに、頭上で引き戸が引き開けられ、月光と一緒に声が降ってきた。
「見たね」
彼女の声だった。
月明かりを背に出入口を塞いで立ちはだかる、黒々とした三人の影ー。
ー次回、最終回ですー
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