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第10部 ヒバナ、アブノーマルヘブン!
#58 出撃
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いちばん早く駆けつけたのは、ヒバナだった。
ヒバナの居た一本松古墳がもっとも近かったからである。
丘の上に着地した巨大な金色の竜をひと目見るなり、ヒバナは絶句した。
奇麗・・・。
と思った。
それはこの世のものとはとても思えないほど、美しい生き物だった。
おそるおそる近づくと、竜が首を上げてヒバナのほうを見た。
「つやちゃん・・・」
竜の目が開いた。
アーモンド形の目の中で、縦長の瞳孔が黄金色に光っている。
-大丈夫です。私はここにいます。ヒバナさん、心配しないで。
頭の芯で、”声”がこだました。
やさしさに満ちたその気配は、確かにお通夜のものだった。
-変身したら、ちょっとおなかがすいちゃいましたよ。
竜が長い首を曲げて、時じくの木の枝から実を食べた。
そうだったんだ。
その様子を見て、ヒバナは思った。
これ、黄竜の餌だったんだ・・・。
「ヒバナ、大丈夫だった?」
肩に手を置かれた。
振り向くと、ひずみがこっちを見上げていた。
目が合うなり、にっこり笑った。
パーティでヒーラー役を務めるときにだけ着る、純白のワンピースを身につけている。
「ひずみちゃん」
ヒバナはひずみを抱き締めた。
「みんな、よくやったね」
ヒバナの腕の中で、ひずみがつぶやいた。
他のメンバーがそろったのは、それから30分ほどしてからのことだった。
移動手段のない玉子を緋美子が迎えにいき、明日香は車で戻ってきたからである。
黄竜を見たときのみんなの反応は、ヒバナとほぼ同じだった。
「すごい・・・」
明日香がつぶやき、
「きれい・・・」
緋美子が瞳を潤ませた。
-さあ、行きましょう。クトゥルーのところへ。
全員がそろうと、黄竜=お通夜がいった。
-玉ちゃんと明日香さんは、私に乗ってください。ヒバナさんと緋美子さんは、それぞれ空へ。
「おいらは、ひずみとミミ、レオンを乗せて車で陸路を行くよ」
竜の鱗をいとおしげに撫でさすりながら、貢がいった。
-そうね。でも、貢も気をつけて。もしものときは空から援護するけれど、無茶はしないで。危なくなったら逃げて。
「あ、つやちゃん、ちょっと待って」
ヒバナが声を上げたのは、そのときだ。
「緋美ちゃん、水筒持ってたら貸してくれない? 極楽湯のお湯、新しいのと入れ替えて来るから」
「あるけど、ひずみちゃんとミミがいるなら、必要ないんじゃ?」
「ううん、そうじゃなくて。ひとつ、思い出したことがあるって、前にいったでしょ」
「それが、水筒のこと?」
「そうなの、これでもしかしたら・・・。まあ、そこまで追い詰められないことを願うけどね」
「なんの話かよくわかんないけど、とりあえず、はい」
緋美子から水筒を受け取ると、ヒバナはひと飛びで極楽湯まで滑空して行き、ほどなくして戻ってきた。
首から緋美子の水筒を提げている。
-では、行きましょう。
お通夜の声が全員の脳裏にこだました。
ふわりと、竜が宙に舞い上がる。
全く重力を感じさせない、優雅な飛翔の仕方だった。
たてがみに、玉子と明日香がしがみついている。
続いて、緋美子が飛んだ。
完全に朱雀の姿に変異していた。
極彩色の羽毛に覆われた肢体が美しい。
最後に、ヒバナが飛んだ。
足元を、貢の運転するアルトが通り過ぎていく。
窓からひずみが手を振っていた。
10分も飛ぶと、前方に夜の闇よりもっと暗い一帯が見えてきた。
三河湾一帯から知多半島にかけて、例の霧が拡大してきているのだ。
-ヒバナさん、緋美子さん、高度を上げてください。真上からあの霧を吹き飛ばします。
「吹き飛ばすって、どうやって」
ヒバナが思わず声を出して訊くと、お通夜の笑いを含んだ思念が伝わってきた。
-もちろん、黄竜のブレスですよ。竜といったら、ブレスに決まってるでしょう。
「そうなんだ」
-霧に穴が空いたら、みなさんで総攻撃を仕掛けてください。真下にルルイエがあり、クトゥルーがいるはずです。それぞれの必殺技で、一気に片をつけましょう。
「りょうかい」
うなずいて、ヒバナは高度を上げた。
金色に耀く竜を挟んで、向こう側に緋美子が飛んでいる。
ヒバナの視線に気づくと、大きくうなずいてみせた。
真っ黒な霧が下で渦巻いている。
中でときおり不気味な稲妻が走る。
-ここ。
黄竜が翼を最大限広げ、ゆっくりはばたきながら静止した。
ちょうど、霧に被われた地帯の中央あたりだった。
地形が変わっていなければ、その下は海のはずである。
-行きます。
竜が長い首をたわめ、体を反り返らせた。
かっと開いた口の中が、光り始める。
その背中で玉子が詠唱に入ったのが見えた。
緋美子がアマテラスの弓を構えている。
ヒバナも両手を胸の前で玉の形に構えた。
プラズマボールを発生させるのだ。
-くらえ!
お通夜の思念が響くと同時に、竜が真下に向けて首を伸ばした。
口から光の粒子が滝のようにほとばしった。
霧がちぎれ飛んだ。
暗かった外界に、何かがぼんやりと姿を現してきた。
「あれが、ルルイエ・・・?」
世にも奇怪な姿を目に留めて、ヒバナはつぶやいた。
ヒバナの居た一本松古墳がもっとも近かったからである。
丘の上に着地した巨大な金色の竜をひと目見るなり、ヒバナは絶句した。
奇麗・・・。
と思った。
それはこの世のものとはとても思えないほど、美しい生き物だった。
おそるおそる近づくと、竜が首を上げてヒバナのほうを見た。
「つやちゃん・・・」
竜の目が開いた。
アーモンド形の目の中で、縦長の瞳孔が黄金色に光っている。
-大丈夫です。私はここにいます。ヒバナさん、心配しないで。
頭の芯で、”声”がこだました。
やさしさに満ちたその気配は、確かにお通夜のものだった。
-変身したら、ちょっとおなかがすいちゃいましたよ。
竜が長い首を曲げて、時じくの木の枝から実を食べた。
そうだったんだ。
その様子を見て、ヒバナは思った。
これ、黄竜の餌だったんだ・・・。
「ヒバナ、大丈夫だった?」
肩に手を置かれた。
振り向くと、ひずみがこっちを見上げていた。
目が合うなり、にっこり笑った。
パーティでヒーラー役を務めるときにだけ着る、純白のワンピースを身につけている。
「ひずみちゃん」
ヒバナはひずみを抱き締めた。
「みんな、よくやったね」
ヒバナの腕の中で、ひずみがつぶやいた。
他のメンバーがそろったのは、それから30分ほどしてからのことだった。
移動手段のない玉子を緋美子が迎えにいき、明日香は車で戻ってきたからである。
黄竜を見たときのみんなの反応は、ヒバナとほぼ同じだった。
「すごい・・・」
明日香がつぶやき、
「きれい・・・」
緋美子が瞳を潤ませた。
-さあ、行きましょう。クトゥルーのところへ。
全員がそろうと、黄竜=お通夜がいった。
-玉ちゃんと明日香さんは、私に乗ってください。ヒバナさんと緋美子さんは、それぞれ空へ。
「おいらは、ひずみとミミ、レオンを乗せて車で陸路を行くよ」
竜の鱗をいとおしげに撫でさすりながら、貢がいった。
-そうね。でも、貢も気をつけて。もしものときは空から援護するけれど、無茶はしないで。危なくなったら逃げて。
「あ、つやちゃん、ちょっと待って」
ヒバナが声を上げたのは、そのときだ。
「緋美ちゃん、水筒持ってたら貸してくれない? 極楽湯のお湯、新しいのと入れ替えて来るから」
「あるけど、ひずみちゃんとミミがいるなら、必要ないんじゃ?」
「ううん、そうじゃなくて。ひとつ、思い出したことがあるって、前にいったでしょ」
「それが、水筒のこと?」
「そうなの、これでもしかしたら・・・。まあ、そこまで追い詰められないことを願うけどね」
「なんの話かよくわかんないけど、とりあえず、はい」
緋美子から水筒を受け取ると、ヒバナはひと飛びで極楽湯まで滑空して行き、ほどなくして戻ってきた。
首から緋美子の水筒を提げている。
-では、行きましょう。
お通夜の声が全員の脳裏にこだました。
ふわりと、竜が宙に舞い上がる。
全く重力を感じさせない、優雅な飛翔の仕方だった。
たてがみに、玉子と明日香がしがみついている。
続いて、緋美子が飛んだ。
完全に朱雀の姿に変異していた。
極彩色の羽毛に覆われた肢体が美しい。
最後に、ヒバナが飛んだ。
足元を、貢の運転するアルトが通り過ぎていく。
窓からひずみが手を振っていた。
10分も飛ぶと、前方に夜の闇よりもっと暗い一帯が見えてきた。
三河湾一帯から知多半島にかけて、例の霧が拡大してきているのだ。
-ヒバナさん、緋美子さん、高度を上げてください。真上からあの霧を吹き飛ばします。
「吹き飛ばすって、どうやって」
ヒバナが思わず声を出して訊くと、お通夜の笑いを含んだ思念が伝わってきた。
-もちろん、黄竜のブレスですよ。竜といったら、ブレスに決まってるでしょう。
「そうなんだ」
-霧に穴が空いたら、みなさんで総攻撃を仕掛けてください。真下にルルイエがあり、クトゥルーがいるはずです。それぞれの必殺技で、一気に片をつけましょう。
「りょうかい」
うなずいて、ヒバナは高度を上げた。
金色に耀く竜を挟んで、向こう側に緋美子が飛んでいる。
ヒバナの視線に気づくと、大きくうなずいてみせた。
真っ黒な霧が下で渦巻いている。
中でときおり不気味な稲妻が走る。
-ここ。
黄竜が翼を最大限広げ、ゆっくりはばたきながら静止した。
ちょうど、霧に被われた地帯の中央あたりだった。
地形が変わっていなければ、その下は海のはずである。
-行きます。
竜が長い首をたわめ、体を反り返らせた。
かっと開いた口の中が、光り始める。
その背中で玉子が詠唱に入ったのが見えた。
緋美子がアマテラスの弓を構えている。
ヒバナも両手を胸の前で玉の形に構えた。
プラズマボールを発生させるのだ。
-くらえ!
お通夜の思念が響くと同時に、竜が真下に向けて首を伸ばした。
口から光の粒子が滝のようにほとばしった。
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