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第10部 ヒバナ、アブノーマルヘブン!
#62 クトウルー第二形態
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足元が激しく、波打つように揺れた。
振り向いたヒバナは、見た。
岩盤の割れ目、奈落の底から新たな無数の触手が湧き出している。
太い腕が現れた。
鉤爪のついた、巨大な腕だ。
その向こうから、ほおずきのような形をした頭部がせり上がってきた。
脳味噌が剝きだしになったような、見るからにおぞましい頭部である。
さっきまでと違うのは、頭頂部に白い女の裸身が生えていることだった。
「麗奈・・・」
ヒバナは唖然となった。
クトゥルーの体から、麗奈の上半身が生えているのだ。
「ヒバナ」
豊満な乳房を揺らしながら、麗奈がいった。
「また会ったわね。いいわ。今度こそ、殺してあげる」
クトゥルーが、奈落から全身を現した。
蛸のような頭部。
触手だらけの胴体。
鉤爪のある太い腕に、逆関節の太い脚。
背中には蝙蝠のような翼が生え、臀部からは有刺鉄線を束ねたような長い尾が伸びている。
高さ20メートル、全長30メートルはあろうかと思われる巨体だった。
「みんな、変身して!」
額の宝玉に意識を集中しながら、ヒバナは叫んだ。
バリバリと音を立てて体が大きくなる。
背中に翼、右腕に神剣布都御魂(フツノミタマ)が実体化する。
「ここは私が」
叫び返してきたのは、お通夜だった。
岩のテラスの端に立つと、両腕を大きく広げた。
「出でよ、黄竜!」
天に向かって叫ぶ。
と、ふいにお通夜の周囲で空間が歪んだ。
フラッシュを焚くように、眩い光が四方八方に広がった。
「つやちゃん!」
ヒバナが名を呼んだときには。すでに長大な竜の姿が実体化しようとしていた。
-逃げてください。ひずみちゃんたちが、すぐそこまで来ています。ここは私がくい止めます。
咆哮とともに、黄竜が翼を広げ、飛翔した。
長い体をくねらせながら、クトゥルーに向かっていく。
「殺せ!」
麗奈の声に呼応するかのように、触手の群れが竜めがけて一斉に伸びた。
先が鋭い爪になった触手が、竜の表皮に次々と突き刺さる。
血だらけになりながら、黄竜がクトゥルーに巻きついた。
肥大した頭部を幾重にも巻くと、渾身の力を込めて締めつけにかかった。
-はやく!
お通夜の”声”が響いた。
「ヒバナ、行こう」
緋美子がヒバナの手を取った。
その背後で、玉子を抱きかかえた明日香が立ち竦んでいる。
「先に行ってて。早くたまちゃんを、安全なところに連れてってあげて」
「ヒバナ・・・」
「つやちゃんを見殺しになんてできないよ」
ヒバナはいった。
「わたし、ここに残る。元はといえば、彼女をあんなふうにしたのは、わたしたちなんだ」
「そうだね」
緋美子がふうっと息を吐いた。
「OK。ブッチャー、玉ちゃんを連れて、安全な所まで退避して。私もヒバナと残るから」
「無理をするな。頃合いを見計らって、逃げて来い」
あとずさりしながら、明日香がいった。
「あれはいくらなんでも、ヤバい。お通夜もそうするんだ。いいな?」
明日香が岩の向こうに姿を消すのを見届けると、ヒバナは翼を開いた。
隣で緋美子も極彩色の翼を広げ、弓を構えた。
「一気に行くよ」
ヒバナがいった。
うなずいて、緋美子がふわりと舞い上がる。
クトゥルーが、鉤爪のついた腕で、巻きついた黄竜の胴をつかんでいる。
みしみしと筋肉の断絶する音が鳴り響く。
ヒバナが緋美子に続いて飛び上がったときだった。
だしぬけに、クトゥルーが膨張した。
一瞬にして、元の倍に膨れ上がったかのようだった。
布を引き裂くような音とともに、竜が弾け飛んだ。
ずたずたに引きちぎられた胴体が、金色の液体を撒き散らしながら宙に四散する。
声にならぬ絶叫が、ヒバナの脳裏を突き抜けた。
「つやちゃん!」
ヒバナは泣き叫んだ。
「そんな・・・」
呆然とした緋美子のつぶやきが、聞こえてきた。
「カイよ」
いつのまにか、貢のリュックから姿を現したエリマキトカゲがいった。
カイの操るモーターボートは、今しもルルイエに着こうとしていた。
「おまえ、レオンか」
操舵室から振り向いて、カイがいった。
「なんか形が変わったな。前はカメレオンだったと思ったが」
「こっちもあれから色々あってな」
レオンがカイを見上げていった。
「とにかく、おまえが生きててくれてうれしいよ。俺のせいで・・・」
「昔のことはいい。おまえらしくないな」
カイが苦笑いする。
「そんなことより、あれは新しいお仲間か?」
ルルイエの切り立った岸壁に、申し訳程度の石段が刻まれている。
そこを苦労しながら降りてくるのは、明日香である。
「ブッチャー、それに、玉子」
ミミがつぶやいた。
「ここならなんとか停泊できそうだ」
カイが狭い入り江にボートの舳先を突き入れて、エンジンを切った。
「ひずみ、ミミ、玉子を頼む」
目の前まで降りてくると、明日香がいった。
「魔力を使いすぎて、虫の息だ。ふたりで蘇生してやってくれないか」
「あんたはどうするんだ?」
ぐったりとした玉子を受け取りながら、貢が訊いた。
「ヒバナたちの元に戻る。俺が行かなきゃふたりがヤバい」
明日香は傷だらけだった。
血にまみれたごつい顔の中で、目だけがぎらぎら光っている。
「お通夜は?」
貢の問いに、明日香は答えなかった。
振り向いたヒバナは、見た。
岩盤の割れ目、奈落の底から新たな無数の触手が湧き出している。
太い腕が現れた。
鉤爪のついた、巨大な腕だ。
その向こうから、ほおずきのような形をした頭部がせり上がってきた。
脳味噌が剝きだしになったような、見るからにおぞましい頭部である。
さっきまでと違うのは、頭頂部に白い女の裸身が生えていることだった。
「麗奈・・・」
ヒバナは唖然となった。
クトゥルーの体から、麗奈の上半身が生えているのだ。
「ヒバナ」
豊満な乳房を揺らしながら、麗奈がいった。
「また会ったわね。いいわ。今度こそ、殺してあげる」
クトゥルーが、奈落から全身を現した。
蛸のような頭部。
触手だらけの胴体。
鉤爪のある太い腕に、逆関節の太い脚。
背中には蝙蝠のような翼が生え、臀部からは有刺鉄線を束ねたような長い尾が伸びている。
高さ20メートル、全長30メートルはあろうかと思われる巨体だった。
「みんな、変身して!」
額の宝玉に意識を集中しながら、ヒバナは叫んだ。
バリバリと音を立てて体が大きくなる。
背中に翼、右腕に神剣布都御魂(フツノミタマ)が実体化する。
「ここは私が」
叫び返してきたのは、お通夜だった。
岩のテラスの端に立つと、両腕を大きく広げた。
「出でよ、黄竜!」
天に向かって叫ぶ。
と、ふいにお通夜の周囲で空間が歪んだ。
フラッシュを焚くように、眩い光が四方八方に広がった。
「つやちゃん!」
ヒバナが名を呼んだときには。すでに長大な竜の姿が実体化しようとしていた。
-逃げてください。ひずみちゃんたちが、すぐそこまで来ています。ここは私がくい止めます。
咆哮とともに、黄竜が翼を広げ、飛翔した。
長い体をくねらせながら、クトゥルーに向かっていく。
「殺せ!」
麗奈の声に呼応するかのように、触手の群れが竜めがけて一斉に伸びた。
先が鋭い爪になった触手が、竜の表皮に次々と突き刺さる。
血だらけになりながら、黄竜がクトゥルーに巻きついた。
肥大した頭部を幾重にも巻くと、渾身の力を込めて締めつけにかかった。
-はやく!
お通夜の”声”が響いた。
「ヒバナ、行こう」
緋美子がヒバナの手を取った。
その背後で、玉子を抱きかかえた明日香が立ち竦んでいる。
「先に行ってて。早くたまちゃんを、安全なところに連れてってあげて」
「ヒバナ・・・」
「つやちゃんを見殺しになんてできないよ」
ヒバナはいった。
「わたし、ここに残る。元はといえば、彼女をあんなふうにしたのは、わたしたちなんだ」
「そうだね」
緋美子がふうっと息を吐いた。
「OK。ブッチャー、玉ちゃんを連れて、安全な所まで退避して。私もヒバナと残るから」
「無理をするな。頃合いを見計らって、逃げて来い」
あとずさりしながら、明日香がいった。
「あれはいくらなんでも、ヤバい。お通夜もそうするんだ。いいな?」
明日香が岩の向こうに姿を消すのを見届けると、ヒバナは翼を開いた。
隣で緋美子も極彩色の翼を広げ、弓を構えた。
「一気に行くよ」
ヒバナがいった。
うなずいて、緋美子がふわりと舞い上がる。
クトゥルーが、鉤爪のついた腕で、巻きついた黄竜の胴をつかんでいる。
みしみしと筋肉の断絶する音が鳴り響く。
ヒバナが緋美子に続いて飛び上がったときだった。
だしぬけに、クトゥルーが膨張した。
一瞬にして、元の倍に膨れ上がったかのようだった。
布を引き裂くような音とともに、竜が弾け飛んだ。
ずたずたに引きちぎられた胴体が、金色の液体を撒き散らしながら宙に四散する。
声にならぬ絶叫が、ヒバナの脳裏を突き抜けた。
「つやちゃん!」
ヒバナは泣き叫んだ。
「そんな・・・」
呆然とした緋美子のつぶやきが、聞こえてきた。
「カイよ」
いつのまにか、貢のリュックから姿を現したエリマキトカゲがいった。
カイの操るモーターボートは、今しもルルイエに着こうとしていた。
「おまえ、レオンか」
操舵室から振り向いて、カイがいった。
「なんか形が変わったな。前はカメレオンだったと思ったが」
「こっちもあれから色々あってな」
レオンがカイを見上げていった。
「とにかく、おまえが生きててくれてうれしいよ。俺のせいで・・・」
「昔のことはいい。おまえらしくないな」
カイが苦笑いする。
「そんなことより、あれは新しいお仲間か?」
ルルイエの切り立った岸壁に、申し訳程度の石段が刻まれている。
そこを苦労しながら降りてくるのは、明日香である。
「ブッチャー、それに、玉子」
ミミがつぶやいた。
「ここならなんとか停泊できそうだ」
カイが狭い入り江にボートの舳先を突き入れて、エンジンを切った。
「ひずみ、ミミ、玉子を頼む」
目の前まで降りてくると、明日香がいった。
「魔力を使いすぎて、虫の息だ。ふたりで蘇生してやってくれないか」
「あんたはどうするんだ?」
ぐったりとした玉子を受け取りながら、貢が訊いた。
「ヒバナたちの元に戻る。俺が行かなきゃふたりがヤバい」
明日香は傷だらけだった。
血にまみれたごつい顔の中で、目だけがぎらぎら光っている。
「お通夜は?」
貢の問いに、明日香は答えなかった。
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