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1話 ベルリナ六歳
しおりを挟む――Berlina side――
私、ベルリナ・クラレンスは、ずっとこの世界の『美しい』という基準に違和感があった。それに私はなぜか、六歳という年齢では知るはずのないような事柄を知っていることがある。
お母様は私の言動を不思議がったが、お父様は『ベルリナは頭がいいな。この小さな天使は可愛いだけでなく、天才なんだね』と嬉しそうに顔中にキスをした。
お父様って私にすごく甘々よね……。
屋敷の使用人は私や弟、お母様を見ると、一様に頬を赤く染め、恍惚の瞳で女神だ天使だと褒め讃える。
でも、鏡で見る自分の姿はどう見ても、糸目の地味顔で。ついでに言うと、お母様も、弟のアベルも、この間生まれた弟のアルフォンスも、とっても大好きだけれど、やっぱり私には糸目の地味顔にしか見えない。
お父様は私達と全く違う。お父様は王国第五騎士団の団長を務めている。お仕事の時は、サラサラのシルバーブロンドをキッチリと後ろに撫でつけて、少し吊り目がちで涼しげな瑠璃色の瞳がとっても素敵。
それなのに。……どうやらお父様の容姿はこの世界では美しくないらしい。
使用人のキャロルに、朝の身支度を手伝って貰いながらこのことを話したら、キャロルは驚きと困惑の表情でプルプルと震え、床に突っ伏してしまった。
「奥様の男性の好みが、ベルリナ様に受け継がれたのですね……」
「そうかもしれないわ。でも私、ちゃんと美しいものを美しいと言っているだけよ。いたって正常だと思うの」
「うーん。まあ、男性の好みなど人それぞれですわ。奥様に仕えるようになってから、私凄く視野が広がったんです……」
キャロルはヨロヨロと立ち上がると、気を取り直したのか、私を鏡台の前に座らせ、腰まで伸びる黒髪に丁寧に櫛を通した。顔のパーツは地味にしか見えないけれど、お母様譲りのこの黒髪と、お父様譲りの瑠璃色の瞳はとても気に入っている。
「今日は綺麗に見えるようにしてね?」
「ご安心を! お嬢様の身支度には、毎回私の全身全霊を懸けておりますわ」
「そう……。でも、今日はベラード公爵様がいらっしゃるでしょう? だから特別。ね?」
あの方のことを考えると、頬に自然と熱が集まってしまう。
ミュゼ・ベラード公爵様は、三年前公爵位を継承した。私より十五歳も年上だけど、本当に素敵な方。
ふわふわとした真っ白な髪に、クリッとした真っ赤な瞳。背はとっても高くて、少し垂れ目がちな瞳を細めて笑うと、とっても可愛らしい。
でも、いつもどこか寂しそうで。踏み込みすぎると逃げてしまう。まるで雪原の中に一匹だけ取り残されてしまったウサギのよう。
キャロルは真っ黒な笑みを浮かべながら、「こんな小さな天使に手を出そうものなら、ダガーで切り刻んでやりますわ……」と不穏な言葉を吐き捨てる。
キャロルは代々クラレンス家に仕える使用人だが、かなりの手練れだ。
「ベラード公爵様に手を出したら、キャロルのこと、嫌いになっちゃうんだから」
「おっ、お嬢様!? それだけはご勘弁くださいませっ」
「それと、……私がベラード公爵様に憧れてるって、誰にも内緒よ?」
「ええ。言いませんとも! 飢えた獣の前に、こんな美味しそうなご馳走ぶら下げるなんて、危険極まりないですわっ」
「ベラード公爵様は獣じゃないわ。どっちかと言うと……ウサギ国の王子様だと思うの」
私の髪の毛はいつの間にか、細やかな編み込みを両サイドに作られ、白い小さな花がいくつも飾られていた。
「ベラード公爵様の色にしてくれたの?」
「……ベルリナ様に一番似合う色ですから」
「キャロル、大好きっ」
ニコリと微笑むと、キャロルは頬をピンクに染め、ワナワナと悶える。私は早くこの姿をベラード公爵様に見せたくて、玄関ホールに急いだ。
…☆☆…
ベラード公爵様が到着すると、玄関ホールにて家族総出で出迎える。お父様とお母様がご挨拶を終えれば、次は私の番だ。
「ベラード公爵様! お待ちしていました」
「ベルリナ。会いたかったよ。僕の天使」
ベラード公爵が膝をついて両手を広げてくれるので、私は勢い良くその腕の中に飛び込む。
ベラード公爵様は細身のように見えて、実はしっかり筋肉がついている。六歳の私が飛び込んだくらいではビクともしない。
暫くベラード公爵様の温もりを堪能したあと、彼の腕の中からゴソゴソと抜け出して上を見上げれば、宝石を散りばめた美しい仮面が目の前に広がった。
この仮面はベラード公爵のトレードマーク。
仮面の下には火傷の傷があるとか、この世のものとは思えない見目の悪い容貌を隠しているとか、色んな噂が後を絶たない。
「ベラード公爵様。仮面は取らないのですか?」
「そうだね。この屋敷では外しておこうか」
私を片腕に抱きあげたまま仮面を外すと、真っ白な長い睫毛に彩られた赤い瞳が目の前に現れる。私は頬に熱が集まるのを感じながら、「綺麗……」と思わず感嘆の声を漏らす。
小さな手を彼の頬に添え覗き込むと、その瞳は朝露に濡れた真っ赤な薔薇のように美しい。
うっとりと眺めていたら、ベラード公爵様が口を開いた。
「ベルリナの黒髪には、白い花がとても似合うね」
「本当ですか? 嬉しい。白は私の大好きな色なんです」
「白が好きなのかい?」
「はい。あと、……赤色も好き」
少しあからさま過ぎたかな、と思いもするが、小さな子供の戯言だ。気にする事はないだろう。そう思っていたのに……。
「そうか。それは嬉しいな」
そう呟いたベラード公爵様は真っ赤な瞳を細め、ふわりと笑った。
「ベルリナ。そろそろミュゼを休ませてあげなくてはいけないよ。お父様の所においで」
「はっ、はい!!」
頬が熱い。大好きな人の、大好きな笑顔。それもこんな近くで。私は頬の熱が冷めるよう、小さな手で両頬を押さえた。
そんな私を見て、お父様は朗らかに笑っているように見えるけれど、内心凄くヤキモチを焼いていそう。だって。いつもは包み込まれるように安心できる場所なのに、今日はちっともそう感じない。
お母様はクスクスと笑っていて、でも渦中にある私は気が気でない。
「あの、ベラード公爵様が今回我が家に来られたのは、お仕事のお話ですか?」
「いや。今回ミュゼは、サクラが開催するお茶会に出席する為に来たんだよ」
お父様の気を逸らそうと話を持ちかけたら、とんでもない返答だった。
お母様の開催するお茶会といえば、名門貴族の、しかも見目の悪い男性を好む令嬢達の集まりだ。そんな中にポイッとベラード公爵様を投げ入れようものなら、今では国内有数の資産家である彼は確実に食われてしまうだろう。
私は目の前が真っ暗になった。
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