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第24話 おまかせダンジョン商会
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「株式会社 ダンジョン探索社」
「んー、無難?」
「株式会社 ジョン・ダン次郎」
「……狙いすぎでしょうか?」
「黒焔魔導騎士団株式会社」
「まぁ! それは素敵ですね!」
「うっ……」
なぜか厨二要素にだけは、やたらと寛容な長良さんの意見を聞きつつ、新しく起こす会社の名前を考えていた。
すると、その様子をニヤニヤと眺めていたミナミさんが話に加わってきた。
「ダンジョンコンカーラー株式会社なんてどう?」
「いやいや、略称がマズいでしょ……」
「ええと、だんこ………………まぁ! それは奥深いですね……」
長良さんも、その事実に気づいて口元を押さえた。
「すでに『ダンジョンでお金を稼ぐ』という俺の目的は達成しているから、長良さんの目的を掲げた社名にしても良いかもしれないね」
「ポーション研究でしょうか?」
「そうそう、ポーション研究社とか、異界薬品開発社とかさ」
「んーと、そうですねぇ……」
長良さんは顎に指を当て、何処でもない場所を見つめた。
「うん、でしたら『株式会社 異界薬理機構』なんてどうでしょうか?」
「んー、悪くないんじゃない? 何年か経っても恥ずかしくなさそうだし。略称は……」
「「イカ焼き!」」
こうして、新会社の名前は『異界薬理機構』に決定した。
◻︎◻︎◻︎
長良さんたちを見送ったあと、隣にいたアヤカさんに話しかける。
「ミナミさんって、ダンジョンに詳しかったんですか?」
「んー、えっとね、私たちの世代って、ちょうどダンジョンが現れて、世の中の注目が一気に集まった頃だったのよ。だから、みんな一度は探索に出かけたの。ほら、ちょうど『判断石』が見つかった頃でもあったしね」
判断石──それはダンジョン内でごく稀に見つかる、謎めいた黒い石板である。
地下五階以降で見つかることのある、大きさは漫画雑誌くらいのマジックアイテムだ。
石板の表面に指で触れると、自分に宿ったスキルの名前と、その簡単な説明が浮かび上がり、たとえば、自分が初めて触れた時には──
・スキル名『風魔法』
・詳細『空気を操れる』
──とだけ表示された。
この石板はスキルの確認だけでなく、アイテムの簡易鑑定にも対応しており、たとえば魔物の肉を押し当てると、
・物質名『魔物の肉』
・詳細『食用可能。毒はない』
──といった表示がなされる。
ただし、実際にそれを鵜呑みにする者はほとんどいない。毒はなくとも、細菌や寄生虫の類がいるかもしれないからだ。
いずれにせよ、この判断石が発見されたことで、スキルを可視化する術が広く知られるようになった。
今では、すべてのダンジョン入り口に判断石が設置されており、誰でも気軽にスキルを確認することができる。
かつて、それが市民に解放されたばかりの頃、誰もが全裸でダンジョンへ足を踏み入れ、自分のスキルを確かめるという一大ブームが巻き起こったという。
きっとミナミさんも、その頃に探索へ行ったのだろう。
「……ミナミさんのスキルって、なんだったんですか?」
「えー? 普通それを女に聞く?」
「え、うそ。マナー違反でした?」
「経験人数を尋ねるようなものよ?」
「うっ……」
まさか、そんなにデリケートな話題だったとは知らなかった……。
今後は気をつけねば……。
◻︎◻︎◻
翌日からは、短縮授業のあと、長良さんとの試験勉強に勤しむ日々が始まった。
最初はただ問題を解くだけの勉強だったのに、途中から『出題側に回る』という新手の学習法も加わり、こちらの理解度が容赦なく試されることになった。
黙々と解くだけならまだしも、他者への出題となると、なまじ曖昧な知識では誤魔化しがきかない。確かにこれは良い刺激となった。
そんな日々の合間を縫って、足ヒレの製作も進める。
ダンジョン用品店で購入した紐を使って、足に合うように固定具を取り付け、風呂場でバタ足をしながら調整していく。あまりに地味な光景に、自分でもちょっと笑えてくる。誰が想像しただろう、ここまで本気で足ヒレを作り込む冒険者の姿を。
そして週末。
長良さんと二人、ショッピングモールへ出かけた。目的は、水に濡れても透けないダンジョン用下着の購入。すでに一度経験しているが、今回もやはり例の“儀式”が待っていた。
──パーティメンバーの異性が、下着を選ぶ。
本当に伝統なのか分からないこのルール、今回もまた長良さんの下着を選ばされた。
木綿に似た材質で、分厚い黒の布地。控えめに言っても実用性重視のそれを手に取ると、長良さんが声をかけてきた。
「それは本当に濡れても透けないか、店員さんに尋ねてきてもらえますか?」
いや、無理でしょ……。
即座にそう返したかったのに、長良さんはすでに男性用下着を手に、あろうことか店員に向かって「これ、透けたりしませんか?」と尋ねている。
しかも、真顔で。
なんというか……その胆力、少し分けていただきたい。
だが、これでは逃げ道を塞がれたも同然だ。
仕方なく黒いスポーツブラと、布面積が大きめのトランクスタイプのショーツを選択。
心許ない装備で、長良さんをダンジョンの外気に晒すわけにはいかない。
そう、自分は男。パーティリーダーとして、こういう場面でこそ頼もしさを見せねばなるまい。
「あのー、すみません。ちょっと聞きたいんですが……」
◻︎◻︎◻︎
そして月曜。
司法書士の先生がやってきて、法務局による審査が無事に終わり、会社登記が正式に認められたことを自分とミナミさんに伝えてくれた。
ついに、自分たちの会社が立ち上がった。
けれど、法人用の口座がないと資金の移動もままならないため、活動は今週いっぱいお預けとのこと。
また同時に、役所へ提出する『遺児手当』に関する変更届も渡された。
予定より少し早くなったが、これでようやく、肩書きだけでなく、経済的にも自立の第一歩が踏み出せた気がする。
司法書士の先生を見送ったあと、ミナミさんが声をかけてきた。
「もしよかったら、ずっと昔に買った、ダンジョン初心者用の装備を貰ってくれない? 結構高かったから、捨てるのも忍びなくて」
あの時代の装備は、今よりずっと高価だったと聞く。そんな貴重なものをいただけるなら、もちろん断る理由はない。
ミナミさんは、嬉しそうな顔で袋を手渡してくれた。
そして家に帰って袋を開けてみると──
中から出てきたのは、女性用のダンジョン下着が多数。
それも……大事な部分に穴の空いた、特別な用途が想定されたドスケベ下着たちだった。
………………。
よし、これでストラップでも編むか。
◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎
「んー、無難?」
「株式会社 ジョン・ダン次郎」
「……狙いすぎでしょうか?」
「黒焔魔導騎士団株式会社」
「まぁ! それは素敵ですね!」
「うっ……」
なぜか厨二要素にだけは、やたらと寛容な長良さんの意見を聞きつつ、新しく起こす会社の名前を考えていた。
すると、その様子をニヤニヤと眺めていたミナミさんが話に加わってきた。
「ダンジョンコンカーラー株式会社なんてどう?」
「いやいや、略称がマズいでしょ……」
「ええと、だんこ………………まぁ! それは奥深いですね……」
長良さんも、その事実に気づいて口元を押さえた。
「すでに『ダンジョンでお金を稼ぐ』という俺の目的は達成しているから、長良さんの目的を掲げた社名にしても良いかもしれないね」
「ポーション研究でしょうか?」
「そうそう、ポーション研究社とか、異界薬品開発社とかさ」
「んーと、そうですねぇ……」
長良さんは顎に指を当て、何処でもない場所を見つめた。
「うん、でしたら『株式会社 異界薬理機構』なんてどうでしょうか?」
「んー、悪くないんじゃない? 何年か経っても恥ずかしくなさそうだし。略称は……」
「「イカ焼き!」」
こうして、新会社の名前は『異界薬理機構』に決定した。
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長良さんたちを見送ったあと、隣にいたアヤカさんに話しかける。
「ミナミさんって、ダンジョンに詳しかったんですか?」
「んー、えっとね、私たちの世代って、ちょうどダンジョンが現れて、世の中の注目が一気に集まった頃だったのよ。だから、みんな一度は探索に出かけたの。ほら、ちょうど『判断石』が見つかった頃でもあったしね」
判断石──それはダンジョン内でごく稀に見つかる、謎めいた黒い石板である。
地下五階以降で見つかることのある、大きさは漫画雑誌くらいのマジックアイテムだ。
石板の表面に指で触れると、自分に宿ったスキルの名前と、その簡単な説明が浮かび上がり、たとえば、自分が初めて触れた時には──
・スキル名『風魔法』
・詳細『空気を操れる』
──とだけ表示された。
この石板はスキルの確認だけでなく、アイテムの簡易鑑定にも対応しており、たとえば魔物の肉を押し当てると、
・物質名『魔物の肉』
・詳細『食用可能。毒はない』
──といった表示がなされる。
ただし、実際にそれを鵜呑みにする者はほとんどいない。毒はなくとも、細菌や寄生虫の類がいるかもしれないからだ。
いずれにせよ、この判断石が発見されたことで、スキルを可視化する術が広く知られるようになった。
今では、すべてのダンジョン入り口に判断石が設置されており、誰でも気軽にスキルを確認することができる。
かつて、それが市民に解放されたばかりの頃、誰もが全裸でダンジョンへ足を踏み入れ、自分のスキルを確かめるという一大ブームが巻き起こったという。
きっとミナミさんも、その頃に探索へ行ったのだろう。
「……ミナミさんのスキルって、なんだったんですか?」
「えー? 普通それを女に聞く?」
「え、うそ。マナー違反でした?」
「経験人数を尋ねるようなものよ?」
「うっ……」
まさか、そんなにデリケートな話題だったとは知らなかった……。
今後は気をつけねば……。
◻︎◻︎◻
翌日からは、短縮授業のあと、長良さんとの試験勉強に勤しむ日々が始まった。
最初はただ問題を解くだけの勉強だったのに、途中から『出題側に回る』という新手の学習法も加わり、こちらの理解度が容赦なく試されることになった。
黙々と解くだけならまだしも、他者への出題となると、なまじ曖昧な知識では誤魔化しがきかない。確かにこれは良い刺激となった。
そんな日々の合間を縫って、足ヒレの製作も進める。
ダンジョン用品店で購入した紐を使って、足に合うように固定具を取り付け、風呂場でバタ足をしながら調整していく。あまりに地味な光景に、自分でもちょっと笑えてくる。誰が想像しただろう、ここまで本気で足ヒレを作り込む冒険者の姿を。
そして週末。
長良さんと二人、ショッピングモールへ出かけた。目的は、水に濡れても透けないダンジョン用下着の購入。すでに一度経験しているが、今回もやはり例の“儀式”が待っていた。
──パーティメンバーの異性が、下着を選ぶ。
本当に伝統なのか分からないこのルール、今回もまた長良さんの下着を選ばされた。
木綿に似た材質で、分厚い黒の布地。控えめに言っても実用性重視のそれを手に取ると、長良さんが声をかけてきた。
「それは本当に濡れても透けないか、店員さんに尋ねてきてもらえますか?」
いや、無理でしょ……。
即座にそう返したかったのに、長良さんはすでに男性用下着を手に、あろうことか店員に向かって「これ、透けたりしませんか?」と尋ねている。
しかも、真顔で。
なんというか……その胆力、少し分けていただきたい。
だが、これでは逃げ道を塞がれたも同然だ。
仕方なく黒いスポーツブラと、布面積が大きめのトランクスタイプのショーツを選択。
心許ない装備で、長良さんをダンジョンの外気に晒すわけにはいかない。
そう、自分は男。パーティリーダーとして、こういう場面でこそ頼もしさを見せねばなるまい。
「あのー、すみません。ちょっと聞きたいんですが……」
◻︎◻︎◻︎
そして月曜。
司法書士の先生がやってきて、法務局による審査が無事に終わり、会社登記が正式に認められたことを自分とミナミさんに伝えてくれた。
ついに、自分たちの会社が立ち上がった。
けれど、法人用の口座がないと資金の移動もままならないため、活動は今週いっぱいお預けとのこと。
また同時に、役所へ提出する『遺児手当』に関する変更届も渡された。
予定より少し早くなったが、これでようやく、肩書きだけでなく、経済的にも自立の第一歩が踏み出せた気がする。
司法書士の先生を見送ったあと、ミナミさんが声をかけてきた。
「もしよかったら、ずっと昔に買った、ダンジョン初心者用の装備を貰ってくれない? 結構高かったから、捨てるのも忍びなくて」
あの時代の装備は、今よりずっと高価だったと聞く。そんな貴重なものをいただけるなら、もちろん断る理由はない。
ミナミさんは、嬉しそうな顔で袋を手渡してくれた。
そして家に帰って袋を開けてみると──
中から出てきたのは、女性用のダンジョン下着が多数。
それも……大事な部分に穴の空いた、特別な用途が想定されたドスケベ下着たちだった。
………………。
よし、これでストラップでも編むか。
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