風魔法を誤解していませんか? 〜混ぜるな危険!見向きもされない風魔法は、無限の可能性を秘めていました〜

大沢ピヨ氏

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第64話 拷問RTA

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 一瞬の静けさ。


 空を見上げた皆が、これから何が起きるのかを察し、大島さんの木盾と柏原さんの画板の下へと素早く駆け出した。


 直後、空からはグチャグチャになった血肉が音を立てて降り注ぎ、辺り一帯が真っ赤に染まる。


「詰めて! もっと詰めて!」

「押すなって! 無理だって!」

「肩にいいいい付いたああ!! いやあああああ!」


 完全に出遅れてしまった自分は、空から落ちてくる大きな肉片だけを避けつつ、後は全てを受け入れた。


 ……地上へ戻ったらクリーニングに出さなきゃな。



 巨大ゴブリンがいた場所には、クレーターのような窪みができていた。それを見て、ようやく全てが片付いたなと、肩から力を抜く。

 すると──


「ぃぎっ!!!」


 突如、鋭い痛みが足元から全身へ迫り上がってくる。

 それはまるで、冬の寒い日に湯船に浸かったときのような、痺れを伴ったチクチクとした痛み。

 まさか巨大ゴブリンが、死に際に毒ガスでも撒き散らしたのだろうか。

 歯を食いしばりながら他の皆を見ると、誰もが同じような痛みに襲われているようで、全員が身体を丸くして震えていた。




 が、その痛みはすぐに消える。


「あ……あれ? ……大丈夫?」
「あー、ビックリした!」
「なに今の!?」
「めっちゃビリビリきた……」


 皆が、己の身体をペタペタと触りながら、異常がないかを確かめている。

 そんな中、シマシマさんが眉間に皺を寄せ、確信めいた言葉を口にした。


「…………レベルアップだよ。今のは絶対にレベルアップの症状」

「レベルアップって、脳内にファンファーレが鳴り響くんじゃないの?」

「ゲームと一緒にしてはダメ! フィクションと現実をごっちゃにしないで!」

「お、おぅ……」


 冒険者を続けていくうちに、スキルの能力が高まることは周知のことだが、レベルという概念は未だ確認されていない。

 先ほど巨大ゴブリンを倒したことで一気にレベルが上がり、そのせいで身体に痛みが走った──悪くない仮説ではあるが、それをどう確かめよう……。


「ま、取り敢えず片付けを始めようか。……まずは小野さんに血を何とかしてもらおう」

「了解です」


 最後に起こした爆発の余波で、ゴブリンの集落にあったテントは軒並み吹き飛んでしまい、得られた戦利品は小さな宝石が数個。

 期待していた巨大ゴブリンの魔石はどこにも見当たらず、狩りの結果としては散々たるものだった。


 そして、一先ず昼食を摂るために地上へと戻り、如何にして『レベルアップ』なる存在を証明するかの話し合いが持たれた。


◻︎◻︎◻︎


「いけるいける! 12メートルでも全然平気だよ!」

 飛び降りやぐらの下で手を振っているのは深谷さんだ。


 彼女は、2度目の巨大ゴブリン討伐をする前に、落下耐性スキルで何メートルの高さから飛び降りれるのかを測定した。

 その結果、9メートルの高さを超えると、足に若干の衝撃があったそうなのだが、今では12メートルの高さから飛び降りても平気らしい。


「深谷さんのスキル、パワーアップしすぎじゃない? あと10回くらいレベルを上げたら、ビルの高さから飛び降りれるんじゃ……」

「やはりレベルアップは存在していますね。私も魔法の射程が伸びていましたし」


 2度のレベルアップを経て、多くのメンバーがスキル能力の向上を確認した。

 ただ、『生産スキル』と『空き巣』、『拷問』に関しては、何をどう測れば、スキルの向上を確認できるのかが思い付かず、『きっとパワーアップしたんだろうけど、何がどう変わったかは分からない』状態だ。

 拷問で自白させるまでのタイムアタックでもするか?


「……なぁ伊吹。このレベルアップってスキル効果だけが向上してんの? 足が速くなってたりはしてない?」

「あー、スキルのことに気を取られてて、身体能力については忘れてたよ。……いまから懸垂何回できるかやってみてよ」

「ちょっ、今からって!? ……いや、別にイイんだけど、他にも測定するもんあるだろ?」

「腕の力は上昇したけど、脚の力は変わりませんでしたってのは無さそうだから、懸垂だけ確認すればイイんじゃない?」

「あ、確かにそうかも。……よし、ちょっと測ってくるわ!」

 浅井はそう言うと、すぐさま飛び降りやぐらの方へ駆けていった。


「これ私の櫓だから、勝手にぶら下がらないでよっ!」
「なんで深谷専用なんだよ! 懸垂くらいさせろって!」


 何とも微笑ましいやり取りが聞こえてくる。


「……筋力と言えば、そろそろ例の部屋に向かう頃合いですよ?」

「あー、やっと指毛の処理から解放される……」

 あの時、指毛力にパラメーターを割り振ったせいで、朝昼晩と指毛を剃らなくてはならず、これがかなり面倒だった。


「他に誰か連れて行きますか?」

「んー、それなんだけど、今回も長良さんと俺だけで行こうかなって」

「何か理由が?」


 実のところ、例の部屋へ新しい人を連れて行くのは、口止めなどの面倒ごとがつきまとうので、あまり前向きではない。

 また、現時点でダンジョン攻略に詰まっているようなことはなく、とても順調に進めているので、無理に新しい力を得る必要性を感じていなかった。

 そんな考えを、やんわりと長良さんへ伝えると、

「分かりました。今の話を纏めると、『茜の下着姿を、他のヤツに見せてなるものか』と言うことですね?」

「全然そんなこと言ってないし、脳内でも呼び捨てにはしてないよ?」

「全く違いますか?」

「全くではないですね……」


 否定されなかったのは、長良さんも同じような考えだったのだろうか。



 ……いやいや、呼び捨てはさすがに。



◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎
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