風魔法を誤解していませんか? 〜混ぜるな危険!見向きもされない風魔法は、無限の可能性を秘めていました〜

大沢ピヨ氏

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第18話 俺たちの戦いはこれからだ!

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 魔物の買取査定に時間がかかり、夕食はファミレスで取ることになった。

 ちなみに、ダンジョン内で使っていた台車やフック付きの長い枝などは、更衣室の『レンタル武器ロッカー』を契約し、その中に入れてきた。

 武器ロッカーの証明書がなければ、個人で武器を所持する許可は下りない。良い機会だと思い契約してみたものの──月額5万円は、どう考えてもぼったくりすぎだ。




 チーズハンバーグは、自分が一番好きなメニューのはずなのに、今日はやけに味気ない。

 やはり、1000万円という桁違いの報酬が影響しているのだろう。頭の中はまだ整理がついておらず、感覚がどこか浮いている。


「そうだ。節税といえば、4ドアのベンツを買えば良いの!?」

「ふふ、そのようなものを購入する必要はありません。大体まだ私たちは自動車の免許を持っていませんよ」

「そ、そうだよね……」


 税金を払いたくないばかりに、必要でもない高級車を買おうとしていた。冷静になれ、自分。帳簿上は自分の収入でも、実際の管理は長良さんにお願いしなければ……。


 ……ところで、ゲーム機なんかは経費で落とせるだろうか? 

「伊吹くんは、まだまだ混乱の最中にあるようですので、少し今回の収入と今後のお話をしましょうか」

 和食御膳を食べ終えた長良さんは、箸袋の端をきれいに折り、割り箸をその中に収める。

 そして彼女はカバンの中から一冊のノートを取り出した。


「まずは今回の売り上げの内訳ですが、買取総額1000万円のうち、おそらく皮革が700万、肉が200万、その他が100万といった比率でしょうね」

 長良さんはノートの白紙ページに、洗濯バサミを横向きに描き、その下部から牛の乳首のようなものを4つぶら下げた。

 更にそこへ「700」「200」「100」と記入する。


 ………………。


 これはワニの絵か……。


「あ……あぁ、そんな感じの割合なんだ?」

「あちらの職員さんが提案してくださったのは、この皮革の部分700万円を減らせば、支払う税金も下がるという内容でした」

「ほぅほぅ……?」

「それで、我々はまだ装備が整っているとは言えませんから、このワニの高級素材を使って、ダンジョン用の装備をこしらえてみてはどうか? とおっしゃったのです」

 装備の段階を、一気に飛び越えることになるな。


「明日、カタログが届けられるそうですが、ワニ革から作られる装備といえば一般的には、カバン、ブーツ、ジャケット、ですよね」

 長良さんはノートの端に、尿瓶しびん、祝儀袋、スライスされたマッシュルームを描いた。


 ………………。


 長良さんってもしや……。


「ええっと、ズボンとか手袋はダメなの?」

「ワニ革は、しっかりした艶と硬さこそ魅力ですが、曲げ伸ばしの多い手袋やボトムスには向きませんの。特に背中の革は硬すぎて、動きにくくなってしまいますから」

 ということは、ワニ革のジャケットを羽織り、ワニ革のブーツを履き、ワニ革のバッグを下げた──ブーメランパンツの男が完成するわけか。

 とてもじゃないが、ダンジョンの外では着れないな……。


「私たち二人分のカバン、ブーツ、ジャケットを作るための素材を差し引くと、皮革の買取額は300万から350万円ほどに下がるでしょうね」

 長良さんは洗濯バサミを端から黒く塗りつぶし、「700」の数字にバツを書いた。そしてそのすぐ上に「300」と記入する。


 あぁ……牛の乳首たぶん前脚が2本ほどドス黒くなってしまった!


「となると、肉200万、骨300万と、皮革が300万の、合計で600万円?」

「ええ。ただ、そこから装備の製作費が掛かりますので、今回純粋に手元に残るのは300万円程度になると思います」

「つまり、取られる税金は?」

「20万円と少しですね」

「うっ……。でも400万円取られるよりは遥かにマシか……」

「それに、手袋やボトムスはお店で購入することになりますので、さらに利益は下がるでしょうね」

「ところでふと思ったんだけど、こういう高級な装備って、車やバイクみたいに資産として見做されたりしないの?」

「ダンジョンで使われる装備や道具は、すべてが消耗品扱いですから、固定資産には含まれませんの」

「ああ、それは助かるね……」

 最近は、稼いだ金額よりも、取られる税金の方にばかり敏感になってきた気がする。


◻︎◻︎◻︎


 ドリンクバーのお代わりを持って席へ戻ると、長良さんはノートに何かを書き込んでいた。


「それは?」

「株式会社設立の流れをまとめていました」

 ノートを覗き込むと、表彰台と軍手が書き加えられていた。


「やっぱり法人化するんだね……」

「そうですね。先ほど、1000万円の儲けに対して何もしなかった場合は『400万円』ほど税金が掛かるとお伝えしましたよね?」

「うん」

 軍手の上に「400」と書き加えられた。


「あれがもし、株式会社としての売り上げであれば、掛かる税金は『250万円』ほどになりますの」

「うっそ! 150万円もお得じゃん……」

 表彰台には「250」だ。


「ただし、会社の設立と運営にはお金が掛かります。例えば設立を司法書士さんにお願いしたり、税理士さんに支払う月次報酬など、様々な支出がありますの。初年度では、おおよそ180万円弱が必要になります」

「え……それだと合計で430万……。いや、でも税金として奪われるのは250万円だから……」

「税金は『奪われる』などと言ってはいけませんよ」

「あっ、ごめんなさい」

 

「……ですが、安心してください。あと一匹、大ワニを討伐できればすぐに黒字へ転じます。私たちは今日でダンジョンへ行かなくなるわけではありませんし、いずれはドラゴンやグリフォンを持ち帰る日が来るかもしれませんからね?」

「そ、そうだった。なんだかもう、人生の終着点に着いちゃったような気になってたよ……」

 目の前を通り過ぎていく金額の桁が大きすぎて、いまいち実感が追いつかない。



 それにしても、長良さんの画力はかなりの破壊力があったな。



 ご愛読ありがとうございました。

 長良先生の次回作をご期待ください。


◻︎◻︎◻︎



 長良さんとの別れ際、彼女はこちらに紙袋を手渡しながら尋ねてきた。

「伊吹くんの未成年後見人こうけんにんは近くにお住まいですか?」

「あ、うん。うちの隣に住んでるよ」

「そうでしたか。でしたら来週の月曜に、会社設立に関しての書類をお持ちし、設立の許可をいただきに上がりたいのですが、それは可能でしょうか?」

「あの人はいつも家でゴロゴロしてるから大丈夫だと思う。勿論このあと連絡は入れておくよ」

「はい、ではよろしくお願いします。おやすみなさい」

「おやすみなさーい」






 で、この紙袋はアレだよな……。



◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎
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