【R18】花嫁直前、君を侵す。

湖霧どどめ@シナリオライター

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5.早急帰還要請です。

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「……以上を持って、お祝いの言葉とさせて頂きます」

 高台から発せられたラチカの宣言に、ロドハルト国民が一斉に沸く。他国の使者、という事でどういう目で見られるかは正直不安だったが概ね好意的だったらしく安心した。
 高台から裏場へと降りる。シャイネが出迎えてくれた。

「お疲れさまです」
「ありがとう……いやあ、アウェイ感正直すごかった。でもよかった、石とか投げられなくて」
「そんな輩が居たら、俺が締め上げますよ」

 ……シャイネはきっと、昨晩と今朝の事に気付いてはいないはずだ。だって、言及が無い。
 朝、あの後再び注がれた精液を絞り抜き身支度を直しに急いで寝室へ戻った。そこから、さも起床したてのように振る舞って彼と、ギャムシアと、三人で朝食をとった。昨日の晩餐の時のような刺々しさは無かったものの、会話は無かった。

「この後はギャムシア様により式は締められますが、お嬢様はこれから自由時間となります。夜のカーニバルまでは時間もありますし、出店でも回りますか」
「いいね、それ。兄さん達への土産話のネタ作ろうか。皆は?」
「他の使用人達はもう休暇扱いとして、振る舞いに気をつけた上ですでに開放してあります」

 そういえば、その辺りの指揮はすべてシャイネに任せていた。しかし、シャイネもまたその使用人の一人ではある。こんな、自分に付き合わせていていいのだろうか。
 ふとシャイネを見ると、彼はそっと笑った。

「ご心配なさらず。俺はお嬢様の護衛のためにここに居るのですから。休暇はまた別で頂きますよ」
「……ありがとうね」

 シャイネが恭しく、手を差し出す。そこに自らのものを重ねた。彼のエスコートは、昔に比べるとだいぶまともなものになった。それだけ、彼は……自分の傍に来て、長い。

「どこへ行きますか? 食べ物の出店は隣町がかなり活気づいていると聞きました、少し歩いてでも」
「そうね、行ってみようか。歩いてお腹減らして」

 人込みの中、歩き出す。町中には、すでに人がかなり集まっている。
 一応、今日が祭のメインイベントのはずだ。商業は一日だけすべてが強制的に停止し、有志の出店で街が盛り上がる。すごいのは、その有志があまりにも多い事だ。国の祝い事に、これだけの国民が積極的に参加するのは正直珍しい印象でさえある。

「うちもこういうのしたいなぁ、でも難しいか」
「ですね。エヴァイアンはあまりにも領土が広大ですし……ロドハルトは都市部と農村部がかなりハッキリ分かれているそうですから、こういった施策が可能なのでしょう」

 周囲には、あちこち『ロドハルト万歳』『輝きよ永劫に』と垂れ幕が飾られている。こうやって見ている分には、とくに新国家に変わってから悪意のある声は見えない。うまく、隠しているだけかもしれないが。
 30分も歩けば、少しずつ食べ物の出店が目立ち始めた。中でもいい匂いのする出店に並び、揚げ物と冷えた紅茶をを二人ぶん買う。適当なベンチに腰掛け、揚げ物を口に運んだ。

「美味しい。うーん、やっぱりロドハルトって魚が美味しいんだね」
「ですね……ところで、お嬢様」
「ん?」

 シャイネに、じっと見詰められる。どこか後ろめたい何かを感じ、目を逸らす。そんな仕草に彼はとくに怪しんだ様子は見せず、軽く笑った。

「久し振りだと思いまして。このように、エクソシストとしての任務以外で二人で外に出るのは」

 思えば、そうだ。かつては度々屋敷を抜け出し気ままに遊んでいるのを、シャイネがいつも回収しにきていた。そのついでに、と一緒に寄り道をしたりしたものだ。今となってはラチカがエクソシストになりそんな時間があまり無くなってしまってはいるが。

「……思えば、昔相当あんたの事振り回してたね。私」
「まあそれは今でも変わりませんが」
「おい」
「それでも、俺は割とこんな生活が気に入っているんです。レヂェマシュトルを出て、もう十五年……もし先代様にあの時買って頂けなければ、きっと今よりは面白くもない人生だったでしょう」

 しれっと元々の家をけなすなぁ、とは思ったが何も言わなかった。ただ、揚げ物の残りをさくさくと咀嚼する。
 ……早いものだ。確かにあれから、基本的にシャイネは常に自分の傍に居る。自分が彼の見張りから抜け出し町へ紛れても、必ずいつも見つけ出してくれた。
 昔は、彼がレヂェマシュトルの人間だから。普通の生まれではないから。だから父が買い、自分に宛がったと。そう思っていた。彼はあくまで、付属品だと。そう思っていた。さすがに衝突した事はあるし、そのさなかに誤解したりされたり、それを解いたりはあったが。

「カーニバルは、確かギャムシア様がたと見るんですよね」
「そうそう。確かロクアーナの国主と、イップァンの国主の……使いだったかな、も来るって言ってた。皆で一緒に見る感じだね」
「なら、安心です」

 シャイネも冷えた紅茶を飲みながら、揚げ物に手を伸ばした。

「安心?」
「あまりお嬢様とギャムシア様を近付けたくないので。それだけの重鎮達が集まっていれば、彼も下手な事はしないでしょう」

 ……やはり、バレているのではないのだろうか。内心冷や汗をかきながら、彼をじっとりと見る。しかしシャイネは、何かあればしつこい程問いただしてくるたちだ。あまり関心を寄せていないようにして、案外ねちっこい。

「昨日の晩餐の事?」

 鎌をかけるつもりで、聞いてみた。彼は大きくうなずく。

「どう考えてもあれは、他国の使い……それも、初対面の女性への質問ではないでしょう。自分の主がそんな風に言われたら、従者なら誰でも憤慨するかと思いますが」

 しれっと。あくまで淡々とした調子だが、どこか照れくさい。そもそも彼の本来の主は父で、自分はシャイネを父から貸してもらっているに近しいのだが。
 そもそも、シャイネが自分を女性として扱っているのがどこか意外だった。確かに湯浴みや着替えに関しては一切場を離れるようにしているし、それに。
 そこで、思い出す。彼の、出発前のあの時の視線を。

「……お嬢様?」

 怪しんでいるような視線を向けられ、どきりとする。
 今日もまた例に倣ってネックレスを付けてはいるが、やはり胸元の成長はどうしても感じてしまう。ギャムシアに散々愛撫されたせいで、敏感になっているのだろうか。
 ……そういえば、そもそも。あんな風に愛撫を受けたのは、恐らく……初めてだ。

「お嬢様、顔が。赤くなっています」

 シャイネの顔が、ラチカの顔を覗き込む。彼の黄金色の視線を浴び、一気にのけぞる。それがより不審だったのか、彼は首を傾げた。そして、紅茶の入っていた空き瓶を見る。

「暑いようであれば、追加で冷たいものを買ってきましょう。紅茶でいいですか」
「……あ、う、うん……」

 心配そうにラチカをちらりと見てから、シャイネは先程の出店の方へと歩いて行った。
 頬に顔を当てる。確かに、熱い。
 ……あの、ポシャロの一件の後。再びラチカは彼に抱かれた。時間が無いから、と激しくてきぱきと責められ、ぼんやりと「量より質とはこの事か」と呟くと呆れたように「お前はいちいちうるさいな」と言われた。しかしその顔すらも、どこか……恰好よかった。
 しかしこんな事ばかり考えていると、彼の取柄が顔の造形しかないような風になってしまう。しかしそれ以外に中身の魅力を語れる程、ラチカはギャムシアの事を知らない。
 ……滞在期間は、あと五日程。それまでに、何かを知る努力をしてみようか。




「兄君から伝書鳩が。『教会依頼が入ったのでラチカとシャイネは明朝に出立せよ』と」
「うっっっそでしょ」

 夕暮れ時、国主邸の前で待っていたのは何やら文書を読んでいたギャムシアだった。彼から文書を受け取り、シャイネと共に目を通す。確かに、兄の筆跡でそのような事が書かれていた。

「え、何で? これはここを滅ぼせって思し召し?」
「お嬢様、だからそれは漏らしてはならないと」

 確かに教会依頼……エクソシストとしての依頼は突然舞い込むものだ。素質を要するエクソシストは、人員が常に不足している。しかし自分は一応国の公務の真っ最中なのだ。それなのに。

「『他の使用人はまた別日に迎えを寄越すから来た馬車で戻れ』……成程ね」
「まあ仕方無いですね。でもカーニバルは見れるじゃないですか、お嬢様楽しみにされていたでしょう」

 しかし、先程あのように決意を固めたばかりだったというのに。ギャムシアを見ると、彼は穏やかに微笑んだだけだった。きっとシャイネがいるから、二人きりの時のような感じでは接してこない気だろう。
 次第に、国主邸に見知った顔が集まり始めた。他国の国主やその使い達だ。彼らと挨拶を交わし、カーニバルまでの時間を潰す。

「上階バルコニーへ移りましょうか、カーニバルがとてもよく見えます」

 ギャムシアの言葉に、全員がぞろぞろと動き出す。あと時間は十分も無いだろう。
 広いバルコニーに出ると、確かに街を一望できる程の視野だった。食事も用意されており、集まった者皆が沸く。すべて、ギャムシアがもてなす為に用意したのか。
 この面子の中では、確かにロドハルトが一番国家としては若い。恐らく、その分気を遣うところが多いのだろう。彼はひたすら、他の国の国主たちと会話していた。
 各々、挨拶や談笑に花を咲かせている。シャイネもまた、ロドハルトの執事長と何やら話し込んでいるようだった。邪魔をしてはならないと感じ、敢えて残して柵のところへ一人で出た。重鎮たちが多いから、と恐らくシャイネは油断しているのだろう。今は……その方がありがたかった。
 街を見下ろす。昼間と違い、電飾が一気に灯り始めていた。未だエヴァイアンには普及しきっていない技術ではあるが、本当に美しいと思う。踊り子達が舞いながら練り歩いているのをぼんやりと眺めながら、溜息をつく。

「退屈か」

 ギャムシアだった。彼は飲み物をラチカに手渡す。薄いピンク色のそれを飲み干すと、馨しい酸味が口内に広がった。

「皆、やっぱり兄さんが来ると思っていたみたいで」
「成程な」

 彼もまた、街を見下ろした。その顔はどこか……熱が無い。少なくとも、自分を抱いていたあの時のような。
 シャイネは、国主連中につかまっていた。兄やギャムシアと違い中年ともいえる彼らからすれば、若い男……それも、エヴァイアンの令嬢に仕える彼は恰好の玩具なのだろう。却って、自分はあくまで彼らにとっては娘のような年頃の小娘だ。扱いを難しく思われていても不思議ではない。

「ギャムシア様は、」
「おい」

 制止される意味が分からず、彼を見る。彼はほんの少しだけ目を笑ませ、ラチカを視ている。その端正っぷりに、どきりとする。

「……様はいらん。何となく、お前に言われるとむず痒い……その公的な場では仕方ないけどな」

 ロドハルトという国ひとつ治めているとは思えないような、世俗感覚に思えた。そもそもロドハルトは、本来貴族階級ですらない医者の家系だったと聞いた事がある。十年も経てば少しはそういう思考になるものかとは思うが、案外そうでもないのか。
 しかし、それならば。

「じゃあ、私の事お前って呼ぶのもやめてください」

 ずっと、言いたかった。ギャムシアは一瞬きょとんとすると、声を上げて笑いだした。ぎょっとして彼を見る。

「ちょ、そんな笑う事じゃないでしょ! ずっと思ってたんですよ」
「確かに、ずっとそう呼んでたな俺。分かった、やめるよ」

 こんな笑い方もするのか、と思ったがよく考えれば自分はそういう面を知りたかった。
 どこか、心が温かくなる。そして、顔も熱い。

「……大丈夫か。かなり、顔がとんでもなくいやらしい事になってるけど」
「な、ん……」

 頭が急にボーッとしだした。背中が汗ばむ。急激な体温の上昇を感じるが、理由が分からない。頭が、重い。
 バランスを保てなくなり、体がぐらつく。ギャムシアにもたれかかるようにして倒れ込むと、彼はそれを抱きとめた。

「寝室に行くぞ、少し休め。この後馬車に乗るわけだし」
「……すみません……ちょっと……そうします……」

 ふわり、と体が浮いた。彼に、抱きかかえられている。
 何度かシャイネの声とギャムシアの声が聞こえたが、詳しい内容は分からなかった。
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