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8.誘っていたのはずっとお嬢様でした。
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紅茶は少しずつ冷め始めていた。ポットから少し継ぎ足し、ラチカは一つだけ息をつく。
「……義姉さん」
ヴェリアナは紅茶をすすりながら、ラチカを見た。彼女もまた、ポットに紅茶を継ぎ足す。華やかな香りが、ラチカの部屋に広がる。
「最初は相手の事が嫌いというか、よく分からないというか。そんな状況で結婚しても、上手くいくものなのかな」
ギャムシアの事を思い浮かべる。彼に何度も犯されたあの数日間、結局彼の事を知りきれなかった。あれだけの快感を持ってしても、彼の情報は何も伝わってこなかった。まともに話したのも、結局あの朝くらいだ。
……体目当て、と言ってしまえばきっと早いのだろう。それでも手を出す相手を間違えているのではないだろうか。
ヴェリアナはとくに、次立てての質問をしなかった。ただ、穏やかに口を開いた。
「難しいんじゃないかしら」
どくり、と。心臓に杭が打たれたかのような衝撃。
「私は本当に、運が良かったと思うのよ。政略結婚は結局重視されるべきは家同士の結びつきで、本人達の気持ちなんて二の次だから」
……当たり前なのだ、それが。きっと。
ヴェリアナは察しているのか分からない。それでも、聞いてはこなかった。
「勿論私だって十六で嫁いできたわけだから、もしあの時断る力があればもっといい殿方と出会う可能性はあったわね。それを、エヴァイアン家とピオール家に摘み取られた」
彼女の舌が、よく回るようになってきた。もしかすると何か地雷を踏んだのか。確かにデリケートな話だ、もう少し考えて口を開けばよかった。しかし彼女は取り立てて憤りの顔を見せはしない。
「ラチカちゃんは、政略結婚をする必要なんて無いでしょう。それなら、もっと相手を知って。真っ当な結婚を出来るわ」
ヴェリアナの白い手が、ラチカの頬に触れる。あまりの冷たさに驚くが、もしかすると逆なのかもしれない。自分が、熱いだけか。
彼女の黒い瞳を見つめる。髪と同じく深緑色の長い睫毛に彩られたその奥は、ラチカの意志を……そっと、蕩かせる。ああ、ずっと。ずっと美しいと本能で感じていた。今、兄ではなく自分をまっすぐに見ている。
彼女は微笑んだ。
「大丈夫よ、ラチカちゃん可愛いもの。どんな男だって簡単に転げ落ちるわ」
「そ、そんな悪女みたいな」
ラチカの返答にヴェリアナはくすりと笑う。
ゴンゴン、と乱暴なノック音が聞こえた。この癖付いた叩き方は、きっと。ヴェリアナに頷くと、彼女は扉を開けた。やはり、コーマスだ。
「あら、あなた」
「やはりここに居たか」
彼は呆れ気味に溜息を吐くと、ヴェリアナの帽子のつばをくいっと引っ張った。
「屋敷内を散々探したんだ。どこかに行く時はまず俺に言えとあれ程言ったろうに」
「ふふ、ごめんなさいね」
「わ、私が引っ張り込んだの」
コーマスはラチカの言葉に「そう思ったから来たんだ」と呟く。そのまま、ラチカに向かって声を飛ばした。
「シャイネから聞いたぞ、お前夜になったら仕事なんだろう。早く寝ておけ、眠れないなら紅茶じゃなくてミルクを飲め」
「前から思ってたけど兄さんって私といえばミルクって思ってない? なに? 子ども扱い?」
「俺からすればお前はいつまでも可愛いクソガキだよ。行くぞヴェリアナ、公務の件で相談したい事がある」
愛されているのかけなされているのか分からない。むくれるラチカにヴェリアナは「またお話しましょう」と告げると、艶めく髪をさらりとひるがえした。ふわりと漂う香りにうっとりするも、ハッとして彼女達の背を向けて扉を閉めた。
コーマスは先だって歩き出す。
「何の話をしていたんだ」
コーマスの問いに、ヴェリアナはそっと微笑む。
「秘密よ。女の子同士のね」
「まあいい。しかしお前、ラチカに何もされていないだろうな」
彼の真意は知っている。首を振ると、コーマスは立ち止まった。
ヴェリアナの顎を上げる。そのまま、そっと口づける。ヴェリアナも拒むことなく、彼の舌を受け入れた。数分にもわたる粘着質な口づけを終えると、コーマスは黄金色の瞳でヴェリアナを嘗め回すように眺めた。
「悔しい程、俺とあいつは兄妹だよ。嗜好が同じだ、何でも。本当にあいつが弟じゃなくてよかった」
「あら、あの子はあなた程野心も無いし性格もねじくれていないわよ」
「お前本当に俺の事好きか?」
「愛しているわ」
コーマスは仏頂面のまま、頬を染めた。しかしそれを振り払うように首を勢いよく振った。
「ともかく、ラチカの部屋でも何でもだ。まずは俺に言え」
「ええ、分かったわ。ごめんなさいね」
「ああ」
コーマスの手が、腰に回った。その手つきがどこか細やかなのを察して、ヴェリアナは彼を見上げる。帽子の広いつばが、彼の首元を打った。しかしいつもの事なので、彼はとくに何も言わない。そもそも、この衣服はすべて彼の指示だ。
「公務の相談、というのは?」
「ロドハルトの件だが、後で構わん。やっとお前が『出られた』んだ。久々に部屋に戻ってしよう」
「ふふ、閉じ込めたのはあなたのくせに」
……嗜好が似ている、と彼は言った。しかしヴェリアナに言わせれば、本当は真逆だ。その根底にある恋慕の先は確かに同一ではあるが。
しかしラチカは恐らく、新たに恋を始めようとしている。その相手まではさすがに知らないが、それを手助けするのが義姉としての立場の義務だろう。
「俺には分かります。お嬢様、寝ていないでしょう」
「ちょっとは寝たよ……いや寝ました……」
シャイネは怒ると表情が消える。しかしくっきりと、額に青筋が見える。ヒステリックに喚く兄に比べると静かだが、怖いものは怖い。
あれから一時間程の仮眠をとり、急いでエクソシストの礼装に着替え集合したところ待っていたのはシャイネからの叱責だった。彼は彼でラチカを想って言っているのだが、それでもたまに自分は主君と思われていないのではと思ってしまう。実際、荒事に関しては彼が先輩ではあるのだが。
「仕方ありませんね、また馬車でどうぞ。しかし目的地まで二十分とありませんよ」
「かたじけない……」
「そもそも何をなさっていたのですか」
持ち物を確認しながら、ラチカはぼそぼそと「義姉さんとお茶会」と告げる。それを聞き、シャイネは興味深そうにラチカを見た。
「ヴェリアナ様ですか? もう出られたのですね」
「え? 出た? 何が?」
ハッとしたように一瞬黙ると、シャイネは「部屋からですよ」と呟いた。ただ引きこもっていた、という事だろうか。
手荷物の準備ができ、馬車に積み込む。ラチカは奥に乗り込むと、シャイネが御者台に座った。
「いいですか、絶対に寝てくださいよ。寝不足でふらついて前みたいな怪我に繋がったら今度は何も寄越しませんからね」
「ちょっとそれは酷すぎじゃない?」
「口答えは結構です。行きますよ」
どことなく解せないが、仕方ない。
月明りに照らされた夜道の中揺れだす馬車に身を預け、目を閉じた。しかし、眠気が来る気配はなかった。恐らく先程たらふく飲んだ紅茶のせいかもしれない。
「ねえ、シャイネ」
「寝ろって言いましたよね俺」
「ね、眠れないんです」
シャイネは一瞬だけこちらを見た。その顔は呆れているようだったが、すぐに前を向く。
「ロドハルト、楽しかったですね」
「そだね。魚美味しかったね」
「お嬢様ずっとそれ言ってますよね」
ぽつぽつと、会話を繰り返す。きっと彼なりの気遣いな気がして、どこか心が温かくなる。
ギャムシアの事を、相談してみようか。しかしやはり絶対シャイネは怒るだろう。ただでさえ印象が良くない男に、主君が犯されて。しかも絆されそうになっていて。そもそもそれを護衛するために、彼は居るのに。
そう、思っていたら。
「ギャムシア様のこと、どう思われます」
「っへえ!?」
完全に不意打ちだった。飛び起きると、一瞬だけ彼は驚いたようにこちらを向いた。しかしすぐに、馬の様子を見る体制に戻る。
「ど、どうって……」
「いえ、とくに深い意味は無いんですが。単に彼の人となりというか、やっぱり俺はあの人をあまり好く事は出来なかったので」
やはり、最後のあの挨拶は完全に繕ったものだったか。まあ、それはそうだろう。
気付かれたわけではないことに少しほっとしながら、ラチカは口を開いた。
「わ、私もあまり話してないけど……でもすごいよね、剣の先生やっててお医者さんで、さらに国の主なんて」
「コーマス様と同い年でしたっけ、確か」
「あ、そうなんだ」
会話が紡がれるたび、心臓が鳴りやまない。そういえば彼は、今何をしているのだろう。連絡も……まあ、送られてくればそれはそれでバレてしまうわけなのだが。
ふと、馬の動きが止まった。シャイネが止めたのか。彼を見ると、こちらを見る双眸と目が合った。眼鏡の奥で黄金色に輝くそれは、ラチカをとらえたまま……こちらに向かって、乗り込んでくる。
荷台の中に降り立つと、シャイネは口を開いた。
「おかしいですよ、お嬢様」
「な、何が」
「十五年一緒に居て、気付かないとでも思いましたか。隠し事があるでしょう、俺に」
ラチカに向き合い、シャイネは腰を下ろす。その目は、まるで睨んでいるとも言えるような形をしていた。
何も言えず、口をつぐむ。シャイネは畳みかけるように、続けた。
「あの時お嬢様が発熱した、と。ギャムシア様はお嬢様と消えられました。俺はあの時、あちらの執事長に他国の主達の会話に混ぜさせられたんです。恐らく、時間稼ぎのつもりだったのでしょう」
そんな事があったのか。となると、つまり。彼らは最初から仕組んでいたのか。
「相手が相手だけに、貴女がたを追えなかった。それだけで、俺は本来従者失格です」
「そ、そんなことっ!」
「だからこそ、知りたい」
シャイネの手が、ラチカの肩を掴む。そのまま、床に押し倒された。衝撃で一瞬馬車が跳ねるが、彼はそんな事を気にせずに。ただ、耳元で。
「……直接、聞かせて頂きます」
唇が、重なる。驚きのあまり目を見開くが、シャイネの唇の隙間から舌が入り込んでくる。ぬるりとしたそれは薄く、まるで生き物のようで。
唾液を何度も注がれ、吸い上げられ、舌で絡めとられ。繰り返していると、頭の奥がぼーっと熱のもやに包まれだした。唇を離し、シャイネは改めてラチカを見る。その顔は、悔し気に歪んでいた。
ああ、もう。これはバレてしまった。
「――っ何で……!」
初めて聞くような、シャイネの悲痛な声。彼の手が乱暴に、ラチカの制服であるワンピースの胸倉を掴んだ。そのまま、乱暴に胸元のボタンを外す。
「ちょっ、シャイネ!?」
あらわになった、白く艶めく胸元。荒い息のままみっちりと寄せられた谷間を見下ろし、シャイネは両手でラチカの乳房を寄せ上げた。
「っ……!」
声が出そうになる。しかしそれを堪える姿自体が、もはや女としての反応だった。シャイネはラチカにまたがったまま、ひたすらその感触を揉みあげる。
のしかかるようにして密着しつつ、ラチカの耳元に舌を這わせた。
「ひゃんっ……!」
ぞくり、と体内の血液が逆流するかのような快感。シャイネはそんなラチカに興奮して仕方無いのか、ひたすら耳に舌を滑らせた。
「っは、あ……こんな事、ギャムシア様にさせたんですかっ……!?」
「や、シャイネ、やぁっ……」
「お嬢様の事を独占出来るのは、俺だけなのにっ……!」
ぐぢゅぐぢゅ、と粘った水音を立てながら耳元を犯される。脳髄まで響き渡るような快感が、ラチカの体を何度も揺らした。
耳元から口を離すと、今度はラチカの胸元に顔を近づける、そのまま、深まった谷間に舌を潜らせた。
「やぁ……っ駄目、シャイネそれっ」
「気持ちいいですか? 俺も、気持ちいいですっ……柔らかっ……」
シャイネの顔の感触が、乳房全体に伝わってくる。何度も押し付けられるようにして、ラチカの乳房は変形させられる。それでも何度もぷるんっと揺れて、シャイネの顔面を包み込もうとする。シャイネの舌は、何度もせわしなくラチカの谷間の中を蠢いていた。
「ああっ……お嬢様、お嬢様っ……」
ワンピースのボタンをまた一つ外され、よりはだけさせられる。下着までおしのけられ、ピンク色の突起が姿を現した。さすがに羞恥心が一気にのぼってきて身をよじるが、シャイネの両手が乱暴にラチカの肩を抑え込んだ。
「はぁ、可愛い……可愛すぎる……っ」
普段のシャイネとは全然違う姿に戸惑うも、いきなり吸い付かれそれどころではなくなってしまう。何度も喘ぐラチカの声を聴きながら、シャイネの舌は何度もラチカの突起をねぶり回した。
「美味しいっ……美味しいですお嬢様っ……ギャムシア様もこんな事をしたんですかっ……」
「そ、それは……」
言いよどむラチカを見、シャイネは露骨に顔を歪めた。そのまま、強く吸い上げられる。
「~~~~っ!!」
声にならないような嬌声を上げるラチカを置いて、彼はひたすら突起を吸う。時たま舌で転がしたりしている感触があるが、その度に下腹部がとろみだした。これは、危ない。
「シャイネ、やめてっ……謝る、謝るからぁ……」
「何をです? お嬢様は悪くないでしょう、きっとあの男がすべて仕組んだんだ」
それは間違いではない。しかし、それでも。雄と化したシャイネを止める事は出来るかと思った。しかしシャイネは未だにラチカの乳房に唾液を擦りつけている。突起どころか、全体に至るまで。
「ずっと見てたんですよ……お嬢様のここが、ずっと俺を誘ってて……何度、これで抜いたことかっ……」
もう立場も何もかも金繰り捨てたかのような台詞だった。さすがに恥ずかしくなり、目を覆う。そうすれば、シャイネの舌と手の感触がより伝わってくるだけだった。
シャイネの唇が止まった。掌が、ラチカの手に触れる。目を隠していたその手をのけられ、見えたのは。ただじっとラチカを見つめるシャイネの顔だった。
「お嬢様、愛してます。ずっと、ずっと昔から」
その、言葉。一気に、脳に流れ込む。
しかし同時に、馬車が――揺れた。
「……義姉さん」
ヴェリアナは紅茶をすすりながら、ラチカを見た。彼女もまた、ポットに紅茶を継ぎ足す。華やかな香りが、ラチカの部屋に広がる。
「最初は相手の事が嫌いというか、よく分からないというか。そんな状況で結婚しても、上手くいくものなのかな」
ギャムシアの事を思い浮かべる。彼に何度も犯されたあの数日間、結局彼の事を知りきれなかった。あれだけの快感を持ってしても、彼の情報は何も伝わってこなかった。まともに話したのも、結局あの朝くらいだ。
……体目当て、と言ってしまえばきっと早いのだろう。それでも手を出す相手を間違えているのではないだろうか。
ヴェリアナはとくに、次立てての質問をしなかった。ただ、穏やかに口を開いた。
「難しいんじゃないかしら」
どくり、と。心臓に杭が打たれたかのような衝撃。
「私は本当に、運が良かったと思うのよ。政略結婚は結局重視されるべきは家同士の結びつきで、本人達の気持ちなんて二の次だから」
……当たり前なのだ、それが。きっと。
ヴェリアナは察しているのか分からない。それでも、聞いてはこなかった。
「勿論私だって十六で嫁いできたわけだから、もしあの時断る力があればもっといい殿方と出会う可能性はあったわね。それを、エヴァイアン家とピオール家に摘み取られた」
彼女の舌が、よく回るようになってきた。もしかすると何か地雷を踏んだのか。確かにデリケートな話だ、もう少し考えて口を開けばよかった。しかし彼女は取り立てて憤りの顔を見せはしない。
「ラチカちゃんは、政略結婚をする必要なんて無いでしょう。それなら、もっと相手を知って。真っ当な結婚を出来るわ」
ヴェリアナの白い手が、ラチカの頬に触れる。あまりの冷たさに驚くが、もしかすると逆なのかもしれない。自分が、熱いだけか。
彼女の黒い瞳を見つめる。髪と同じく深緑色の長い睫毛に彩られたその奥は、ラチカの意志を……そっと、蕩かせる。ああ、ずっと。ずっと美しいと本能で感じていた。今、兄ではなく自分をまっすぐに見ている。
彼女は微笑んだ。
「大丈夫よ、ラチカちゃん可愛いもの。どんな男だって簡単に転げ落ちるわ」
「そ、そんな悪女みたいな」
ラチカの返答にヴェリアナはくすりと笑う。
ゴンゴン、と乱暴なノック音が聞こえた。この癖付いた叩き方は、きっと。ヴェリアナに頷くと、彼女は扉を開けた。やはり、コーマスだ。
「あら、あなた」
「やはりここに居たか」
彼は呆れ気味に溜息を吐くと、ヴェリアナの帽子のつばをくいっと引っ張った。
「屋敷内を散々探したんだ。どこかに行く時はまず俺に言えとあれ程言ったろうに」
「ふふ、ごめんなさいね」
「わ、私が引っ張り込んだの」
コーマスはラチカの言葉に「そう思ったから来たんだ」と呟く。そのまま、ラチカに向かって声を飛ばした。
「シャイネから聞いたぞ、お前夜になったら仕事なんだろう。早く寝ておけ、眠れないなら紅茶じゃなくてミルクを飲め」
「前から思ってたけど兄さんって私といえばミルクって思ってない? なに? 子ども扱い?」
「俺からすればお前はいつまでも可愛いクソガキだよ。行くぞヴェリアナ、公務の件で相談したい事がある」
愛されているのかけなされているのか分からない。むくれるラチカにヴェリアナは「またお話しましょう」と告げると、艶めく髪をさらりとひるがえした。ふわりと漂う香りにうっとりするも、ハッとして彼女達の背を向けて扉を閉めた。
コーマスは先だって歩き出す。
「何の話をしていたんだ」
コーマスの問いに、ヴェリアナはそっと微笑む。
「秘密よ。女の子同士のね」
「まあいい。しかしお前、ラチカに何もされていないだろうな」
彼の真意は知っている。首を振ると、コーマスは立ち止まった。
ヴェリアナの顎を上げる。そのまま、そっと口づける。ヴェリアナも拒むことなく、彼の舌を受け入れた。数分にもわたる粘着質な口づけを終えると、コーマスは黄金色の瞳でヴェリアナを嘗め回すように眺めた。
「悔しい程、俺とあいつは兄妹だよ。嗜好が同じだ、何でも。本当にあいつが弟じゃなくてよかった」
「あら、あの子はあなた程野心も無いし性格もねじくれていないわよ」
「お前本当に俺の事好きか?」
「愛しているわ」
コーマスは仏頂面のまま、頬を染めた。しかしそれを振り払うように首を勢いよく振った。
「ともかく、ラチカの部屋でも何でもだ。まずは俺に言え」
「ええ、分かったわ。ごめんなさいね」
「ああ」
コーマスの手が、腰に回った。その手つきがどこか細やかなのを察して、ヴェリアナは彼を見上げる。帽子の広いつばが、彼の首元を打った。しかしいつもの事なので、彼はとくに何も言わない。そもそも、この衣服はすべて彼の指示だ。
「公務の相談、というのは?」
「ロドハルトの件だが、後で構わん。やっとお前が『出られた』んだ。久々に部屋に戻ってしよう」
「ふふ、閉じ込めたのはあなたのくせに」
……嗜好が似ている、と彼は言った。しかしヴェリアナに言わせれば、本当は真逆だ。その根底にある恋慕の先は確かに同一ではあるが。
しかしラチカは恐らく、新たに恋を始めようとしている。その相手まではさすがに知らないが、それを手助けするのが義姉としての立場の義務だろう。
「俺には分かります。お嬢様、寝ていないでしょう」
「ちょっとは寝たよ……いや寝ました……」
シャイネは怒ると表情が消える。しかしくっきりと、額に青筋が見える。ヒステリックに喚く兄に比べると静かだが、怖いものは怖い。
あれから一時間程の仮眠をとり、急いでエクソシストの礼装に着替え集合したところ待っていたのはシャイネからの叱責だった。彼は彼でラチカを想って言っているのだが、それでもたまに自分は主君と思われていないのではと思ってしまう。実際、荒事に関しては彼が先輩ではあるのだが。
「仕方ありませんね、また馬車でどうぞ。しかし目的地まで二十分とありませんよ」
「かたじけない……」
「そもそも何をなさっていたのですか」
持ち物を確認しながら、ラチカはぼそぼそと「義姉さんとお茶会」と告げる。それを聞き、シャイネは興味深そうにラチカを見た。
「ヴェリアナ様ですか? もう出られたのですね」
「え? 出た? 何が?」
ハッとしたように一瞬黙ると、シャイネは「部屋からですよ」と呟いた。ただ引きこもっていた、という事だろうか。
手荷物の準備ができ、馬車に積み込む。ラチカは奥に乗り込むと、シャイネが御者台に座った。
「いいですか、絶対に寝てくださいよ。寝不足でふらついて前みたいな怪我に繋がったら今度は何も寄越しませんからね」
「ちょっとそれは酷すぎじゃない?」
「口答えは結構です。行きますよ」
どことなく解せないが、仕方ない。
月明りに照らされた夜道の中揺れだす馬車に身を預け、目を閉じた。しかし、眠気が来る気配はなかった。恐らく先程たらふく飲んだ紅茶のせいかもしれない。
「ねえ、シャイネ」
「寝ろって言いましたよね俺」
「ね、眠れないんです」
シャイネは一瞬だけこちらを見た。その顔は呆れているようだったが、すぐに前を向く。
「ロドハルト、楽しかったですね」
「そだね。魚美味しかったね」
「お嬢様ずっとそれ言ってますよね」
ぽつぽつと、会話を繰り返す。きっと彼なりの気遣いな気がして、どこか心が温かくなる。
ギャムシアの事を、相談してみようか。しかしやはり絶対シャイネは怒るだろう。ただでさえ印象が良くない男に、主君が犯されて。しかも絆されそうになっていて。そもそもそれを護衛するために、彼は居るのに。
そう、思っていたら。
「ギャムシア様のこと、どう思われます」
「っへえ!?」
完全に不意打ちだった。飛び起きると、一瞬だけ彼は驚いたようにこちらを向いた。しかしすぐに、馬の様子を見る体制に戻る。
「ど、どうって……」
「いえ、とくに深い意味は無いんですが。単に彼の人となりというか、やっぱり俺はあの人をあまり好く事は出来なかったので」
やはり、最後のあの挨拶は完全に繕ったものだったか。まあ、それはそうだろう。
気付かれたわけではないことに少しほっとしながら、ラチカは口を開いた。
「わ、私もあまり話してないけど……でもすごいよね、剣の先生やっててお医者さんで、さらに国の主なんて」
「コーマス様と同い年でしたっけ、確か」
「あ、そうなんだ」
会話が紡がれるたび、心臓が鳴りやまない。そういえば彼は、今何をしているのだろう。連絡も……まあ、送られてくればそれはそれでバレてしまうわけなのだが。
ふと、馬の動きが止まった。シャイネが止めたのか。彼を見ると、こちらを見る双眸と目が合った。眼鏡の奥で黄金色に輝くそれは、ラチカをとらえたまま……こちらに向かって、乗り込んでくる。
荷台の中に降り立つと、シャイネは口を開いた。
「おかしいですよ、お嬢様」
「な、何が」
「十五年一緒に居て、気付かないとでも思いましたか。隠し事があるでしょう、俺に」
ラチカに向き合い、シャイネは腰を下ろす。その目は、まるで睨んでいるとも言えるような形をしていた。
何も言えず、口をつぐむ。シャイネは畳みかけるように、続けた。
「あの時お嬢様が発熱した、と。ギャムシア様はお嬢様と消えられました。俺はあの時、あちらの執事長に他国の主達の会話に混ぜさせられたんです。恐らく、時間稼ぎのつもりだったのでしょう」
そんな事があったのか。となると、つまり。彼らは最初から仕組んでいたのか。
「相手が相手だけに、貴女がたを追えなかった。それだけで、俺は本来従者失格です」
「そ、そんなことっ!」
「だからこそ、知りたい」
シャイネの手が、ラチカの肩を掴む。そのまま、床に押し倒された。衝撃で一瞬馬車が跳ねるが、彼はそんな事を気にせずに。ただ、耳元で。
「……直接、聞かせて頂きます」
唇が、重なる。驚きのあまり目を見開くが、シャイネの唇の隙間から舌が入り込んでくる。ぬるりとしたそれは薄く、まるで生き物のようで。
唾液を何度も注がれ、吸い上げられ、舌で絡めとられ。繰り返していると、頭の奥がぼーっと熱のもやに包まれだした。唇を離し、シャイネは改めてラチカを見る。その顔は、悔し気に歪んでいた。
ああ、もう。これはバレてしまった。
「――っ何で……!」
初めて聞くような、シャイネの悲痛な声。彼の手が乱暴に、ラチカの制服であるワンピースの胸倉を掴んだ。そのまま、乱暴に胸元のボタンを外す。
「ちょっ、シャイネ!?」
あらわになった、白く艶めく胸元。荒い息のままみっちりと寄せられた谷間を見下ろし、シャイネは両手でラチカの乳房を寄せ上げた。
「っ……!」
声が出そうになる。しかしそれを堪える姿自体が、もはや女としての反応だった。シャイネはラチカにまたがったまま、ひたすらその感触を揉みあげる。
のしかかるようにして密着しつつ、ラチカの耳元に舌を這わせた。
「ひゃんっ……!」
ぞくり、と体内の血液が逆流するかのような快感。シャイネはそんなラチカに興奮して仕方無いのか、ひたすら耳に舌を滑らせた。
「っは、あ……こんな事、ギャムシア様にさせたんですかっ……!?」
「や、シャイネ、やぁっ……」
「お嬢様の事を独占出来るのは、俺だけなのにっ……!」
ぐぢゅぐぢゅ、と粘った水音を立てながら耳元を犯される。脳髄まで響き渡るような快感が、ラチカの体を何度も揺らした。
耳元から口を離すと、今度はラチカの胸元に顔を近づける、そのまま、深まった谷間に舌を潜らせた。
「やぁ……っ駄目、シャイネそれっ」
「気持ちいいですか? 俺も、気持ちいいですっ……柔らかっ……」
シャイネの顔の感触が、乳房全体に伝わってくる。何度も押し付けられるようにして、ラチカの乳房は変形させられる。それでも何度もぷるんっと揺れて、シャイネの顔面を包み込もうとする。シャイネの舌は、何度もせわしなくラチカの谷間の中を蠢いていた。
「ああっ……お嬢様、お嬢様っ……」
ワンピースのボタンをまた一つ外され、よりはだけさせられる。下着までおしのけられ、ピンク色の突起が姿を現した。さすがに羞恥心が一気にのぼってきて身をよじるが、シャイネの両手が乱暴にラチカの肩を抑え込んだ。
「はぁ、可愛い……可愛すぎる……っ」
普段のシャイネとは全然違う姿に戸惑うも、いきなり吸い付かれそれどころではなくなってしまう。何度も喘ぐラチカの声を聴きながら、シャイネの舌は何度もラチカの突起をねぶり回した。
「美味しいっ……美味しいですお嬢様っ……ギャムシア様もこんな事をしたんですかっ……」
「そ、それは……」
言いよどむラチカを見、シャイネは露骨に顔を歪めた。そのまま、強く吸い上げられる。
「~~~~っ!!」
声にならないような嬌声を上げるラチカを置いて、彼はひたすら突起を吸う。時たま舌で転がしたりしている感触があるが、その度に下腹部がとろみだした。これは、危ない。
「シャイネ、やめてっ……謝る、謝るからぁ……」
「何をです? お嬢様は悪くないでしょう、きっとあの男がすべて仕組んだんだ」
それは間違いではない。しかし、それでも。雄と化したシャイネを止める事は出来るかと思った。しかしシャイネは未だにラチカの乳房に唾液を擦りつけている。突起どころか、全体に至るまで。
「ずっと見てたんですよ……お嬢様のここが、ずっと俺を誘ってて……何度、これで抜いたことかっ……」
もう立場も何もかも金繰り捨てたかのような台詞だった。さすがに恥ずかしくなり、目を覆う。そうすれば、シャイネの舌と手の感触がより伝わってくるだけだった。
シャイネの唇が止まった。掌が、ラチカの手に触れる。目を隠していたその手をのけられ、見えたのは。ただじっとラチカを見つめるシャイネの顔だった。
「お嬢様、愛してます。ずっと、ずっと昔から」
その、言葉。一気に、脳に流れ込む。
しかし同時に、馬車が――揺れた。
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ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
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