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30.少し、慣れてきたのかもしれません。
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「……いいですか、お嬢様」
シャイネの熱に浮かされたかのような、蕩けた言葉。頷かざるを得なかった。
シャイネはラチカのドレスの背にあるフックをすべて器用に外すと、布地からはみ出すようにして現れた膨らみを片手で鷲掴みにした。久々のシャイネの手に、ぞくりとする。それどころか、ギャムシアにも最近抱かれていないせいでこういった事自体かなり久々だった。
「ふふ、相変わらず気持ちいいですね」
やわやわと揉みしだきながら、シャイネはラチカの谷間に唾液を垂らした。とろりとした粘りが、深く垂れ落ちていく。その細い感触だけでも、久々の体には敏感に伝っていく。
「また大きくなられましたね。これは……ああ、いけない。いけませんよお嬢様……」
「そ、そんな事……あ、う」
下から持ち上げ不意に離され、ひたすらたゆんたゆんと揺らされ続ける。腺が揺れ動くだけでも、ラチカは嬌声を上げずにはいられなかった。
シャイネの手がゆっくりと膨らみに沈むような形で、押し込まれる。そして。
「ひ、うっ」
先端を指で突かれ、そのまま優しく擦られ続ける。桜色の乳輪が、そわつき始めた。やがて、突起が膨らみ始める。その痒みにも似た快感が、シャイネの舌により増幅していく。
ひたすら丁寧に、舐り上げあられる。膨らみ切った突起を吸いながら、唾液を塗り拡げられていくのが分かる。柔らかい刺激が、ラチカの脳髄に溶け込んでいく。
これは、まずい。下半身の洪水が、止まらなくなる。前回とは攻守が完全に真逆になり始めている。
「お嬢様、お嬢様」
何度も請われるように呼ばれるのも、完全にラチカを堕としに来ているかのような響き。そのまま口づけられ、シャイネの掌がスカートの中へと滑り込んでいった。そのまま、下着を剥がされる。ああ、完全にその気だ。
深く、唾液を注がれるかのようなぬめる口づけ。あまりにも、熱い。そのさなか、ラチカの曝け出された秘所に……シャイネのそれが、当たった。しかしその出来事自体は一瞬で。
「ひゃ、う」
「この……やり方は、初めてですねっ……」
ずぷ、ずぷ、と水音。完全にラチカの愛液のせいで、顔が熱くなる。それでもシャイネは腰を止めない。ラチカの膣内の感触を味わっているかのように、時折動きを緩めたりしながら……しかし確実に、前進してくる。
最初の時より明らかに、慣れだしている。嬌声が、上がってしまう。
「あ、あっあっ……う、ああ……っ」
腹部の裏側から擦り上げられるような、熱。暑い。しっかりと、肉壁をえぐってくる。その度に圧しあげられるかのような、快感。
「やだ、シャイネ、ちょっ、あぅ」
「どうしました……っ? 気持ちいいですか……あ、すごっ……」
きゅぅ、と肉が自分でも締まっていく感触を感じる。柔らかいぬくもりが、ねっとりと二人の隙間を埋めていく。シャイネの肉棒が、何度も子宮口をいじめるのが分かる。その度に、二人の吐息が重なっていく。
「お嬢様、すごく今……いやらしいですよっ……あ、あぁ……っ」
シャイネは淫靡な目で、ラチカの胸元を見下ろしている。自分でも、膨らみがまるで回転するかのように揺れているのは分かっていた。しかしそれをあえて言われると恥ずかしくて仕方ない。それでもシャイネに抵抗は出来なかった。
シャイネの片手が、ラチカの腰を掴んだ。ハッとしてシャイネを見上げると、彼は一瞬苦しそうに眉をしかめて自身のそれを引き抜いた。そのまま、ラチカの胸元に肉棒を押し当てた。
「っ、あ」
どぷ、どぷ、と溢れるように精液がラチカの胸元に放出される。前回も思ったが、とにかく量が多い。これをもし胎内に注ぎ込まれたら……と考え、頭を振る。それだけは避けなければならない。
射精しきると、シャイネは満足気な顔をしてラチカの頭を撫でた。
「お嬢様、大丈夫ですか」
「う、うん」
ラチカの胸元を拭いてやりながら、彼はずっと微笑んでいる。感情の起伏が無いわけでは無いのだろうが、基本的にはいつも澄ましている彼がこうなるのは……どこか、可愛くも感じた。
「……ずっと二人で居られたらいいのに」
ぼそりとした、呟き。それは確かにシャイネの言葉だった。彼を見ると、ハッとしたかのように口を押える。しかしすぐに立ち上がった。
「もう一時間経っています。もう戻られますか」
「うそっ、もうそんなに?」
外を見ると、あたりはすっかり暗くなっていた。一時間程度、という事であればあと試合は恐らく三つ程残っている。怪しまれる事はとくに無いだろうが、早めに戻るに越した事は無いだろう。
シャイネは身支度を整えながら、ラチカに向けて言った。
「明日は試合二日目。その翌日は最後の会議があるので、それが終わったらまたロドハルトでお会い致しましょう」
「そういえば、会議って何やるの」
「今回の試合で買われた者の発表だったり総評だったり、ですね。あとは機密でない程度の世間話など」
「案外のんびりしてるんだね」
ラチカもまた身支度を終え、立ち上がる。そのまま玄関扉へ向かった。
「じゃあ、また何日後かに。ありがとうね」
「ええ、お気をつけて」
ラチカの姿が向こう側へ消えた。シャイネは不意に表情を消し、部屋へ戻る。
テーブルの上にあった小包については、ラチカはさして気にしていない様子だった。そもそも、気付いてもいないだろう。あの日、ヴェリアナに貰った……最終兵器となり得る薬物。
勿論、まだやるべき順序は残っている。これを使うよりも先に、やるべき事も。
「お嬢様、待っていてくださいね」
「差し入れを買ってきた、要るか。羊肉」
「今このタイミングでかよ……」
コーマスの姿を見つけるなりげんなりとした様子でギャムシアは溜息を吐く。漸く重傷者の傷の縫合が落ち着いたところだ。そこで少し外の空気が吸いたくなり外に出るとこれだ。
「奥方は」
「客席に残してきた。ラチカが戻ったからな」
「ほお」
外向きではそれなりに他人行儀で話すが、コーマスが国主に就任した時に色々本性のボロが出て以来二人きりの時は気安くなっていた。恐らく、ラチカは知らないはずだ。そもそもこの二人が会う事自体、半年に一度会うかどうかなのだ。しかもその現場を彼女は未だ見た事がない。
包み紙に包まれた羊肉を寄せてくるコーマスを跳ねのけながら、ギャムシアは呟く。
「何だ、クソガキの見舞いにでも行ってたのか」
「クソガキ……ああ、シャイネか。そうだな」
コーマスは羊肉に食らいつきながら、応える。ギャムシアはそんなコーマスを気持ち悪そうに見ながら、溜息を吐く。
「正直見くびっていた。あんなナリでも立派にレヂェマシュトルじゃねぇか。しかもあの目、やっぱりお前のとこの縁者だろ」
「うちの父方の親戚の子どもだ。親御としてはエクソシストにしたかったらしいが、適正が無かったらしくてな。それならせめて、という事でレヂェマシュトルに売られたそうだ」
「せめて、の使いどころよ」
「レヂェマシュトルに入り、買われるまでに生き延びる確率は半分にも満たないと聞く。それをたった五年とはいえ生き延びたんだ、奴は」
ギャムシアは一言「へえ」とだけ呟く。そのまま、続ける。
「……知ってるんだろ、レヂェマシュトルの本来の目的を」
コーマスは羊肉を食べる口を止めた。ただ、エヴァイアンの証である黄金色の目を傾ける。それは、どちらの意味にもとれた。ただコーマスは、溜息を吐く。
「それでも奴を買ったのは父上だ。そっちこそ、それを承知であの犬を買ったんだろう」
「俺じゃないさ。買ったのはうちの執事長だ」
その言葉に、コーマスは訝し気に目を歪めた。しかし何も言ってはこない。
言葉もとくに無く、二人してベンチに腰かけた。
「それより、妹君を嫁に出す気は無いのか」
「少なくともお前には無い」
きっぱりとした物言い。ギャムシアは深く溜息を吐く。
「エヴァイアンの令嬢の婿としては俺は最高の案件だと思うぜ?」
「お前本当俺にそっくりだな。まったく同じ事を俺もヴェリアナに言った事がある」
乾いた、笑い。
「まあ、俺達は趣向が確かに同じだ。お前が奥方にする事を俺がラチカにするのは気に食わないってか」
「そりゃそうだろうが。あいつは何だかんだ俺の……」
ひとつだけ、拍をおく。それでいて、絞り出すように「大切な、妹だ」と呟く。そんな彼の隙を、ギャムシアは見逃さなかった。
「最後に残った、か」
……エヴァイアンの家には、四人の子どもがいた。それは、自分達の歳の代では周知である。ラチカ自身、記憶は朧……否、知らない可能性すらあるが。本来の彼女は、次子ではない。第四子だ。
コーマスは苦虫を噛み潰したかのような顔で呻く。
「未だに夢に見る。しかし、俺はそれ以上に……兄上を二人も追いやってでも、国主になりたかったんだ」
ギャムシアは、黙った。黙るしかなかった。自分には、そこまでの熱意が無かった。何故コーマスがそこまでその座にこだわるのかは、聞いた事が無い。しかし聞いたところで、きっと共感など出来るわけもない。
コーマスは最後の一口を呑み込んだ。
「ラチカの事は、どうにかしようとは思わなかったのか。今まで」
ギャムシアの素朴な疑問に、コーマスは笑む。それは極めて、複雑な笑みだった。
「……一度だけ、殺そうと考えた事はあった。しかし国主の座は関係ない」
「何?」
コーマスは一つだけ考え込む素振りを見せると、ギャムシアを横目で見た。
「あいつは国主になろうなど考えた事すら無いだろう。しかし、あいつは……俺の大事なものをひとつ、奪おうとしていた」
あの、美しい女を。最初に目を付けたのは、確かにコーマスだった。しかしラチカ自身、コーマスの知らないところで……彼女に、一目ぼれをしていた。
「エヴァイアンは同性婚も可能だ。たとえ国主の家の出でもな。家のしがらみなぞ、それこそ……すべてを捨てる覚悟さえ出来れば開放はされるさ」
「……まさか」
ギャムシアの声が、震えている。知らない、それは。
「あいつはヴェリアナを愛していた。……自慰のネタにするくらいにな」
そして付け足される。一番、ギャムシアが聞いてはならない……コーマスの、予測。
「そしてきっと多少今もあいつは引きずっている。本人は俺とあいつが結婚した故割り切ったつもりではいるのだろうが」
……どろりと、灼熱が揺れだす。いつまでも、言い訳を並べ自身に振り向くのを拒む彼女。
正直、他に男がいるのではと疑っていなかったわけではない。居たとしても、どうにかすればいいだけの話だ。だが、もうすでに……どうにかなっている話では、どうしようもない。
ギャムシアはそっと、目を閉じた。あまりにも滾る炎を、ごまかしながら。
シャイネの熱に浮かされたかのような、蕩けた言葉。頷かざるを得なかった。
シャイネはラチカのドレスの背にあるフックをすべて器用に外すと、布地からはみ出すようにして現れた膨らみを片手で鷲掴みにした。久々のシャイネの手に、ぞくりとする。それどころか、ギャムシアにも最近抱かれていないせいでこういった事自体かなり久々だった。
「ふふ、相変わらず気持ちいいですね」
やわやわと揉みしだきながら、シャイネはラチカの谷間に唾液を垂らした。とろりとした粘りが、深く垂れ落ちていく。その細い感触だけでも、久々の体には敏感に伝っていく。
「また大きくなられましたね。これは……ああ、いけない。いけませんよお嬢様……」
「そ、そんな事……あ、う」
下から持ち上げ不意に離され、ひたすらたゆんたゆんと揺らされ続ける。腺が揺れ動くだけでも、ラチカは嬌声を上げずにはいられなかった。
シャイネの手がゆっくりと膨らみに沈むような形で、押し込まれる。そして。
「ひ、うっ」
先端を指で突かれ、そのまま優しく擦られ続ける。桜色の乳輪が、そわつき始めた。やがて、突起が膨らみ始める。その痒みにも似た快感が、シャイネの舌により増幅していく。
ひたすら丁寧に、舐り上げあられる。膨らみ切った突起を吸いながら、唾液を塗り拡げられていくのが分かる。柔らかい刺激が、ラチカの脳髄に溶け込んでいく。
これは、まずい。下半身の洪水が、止まらなくなる。前回とは攻守が完全に真逆になり始めている。
「お嬢様、お嬢様」
何度も請われるように呼ばれるのも、完全にラチカを堕としに来ているかのような響き。そのまま口づけられ、シャイネの掌がスカートの中へと滑り込んでいった。そのまま、下着を剥がされる。ああ、完全にその気だ。
深く、唾液を注がれるかのようなぬめる口づけ。あまりにも、熱い。そのさなか、ラチカの曝け出された秘所に……シャイネのそれが、当たった。しかしその出来事自体は一瞬で。
「ひゃ、う」
「この……やり方は、初めてですねっ……」
ずぷ、ずぷ、と水音。完全にラチカの愛液のせいで、顔が熱くなる。それでもシャイネは腰を止めない。ラチカの膣内の感触を味わっているかのように、時折動きを緩めたりしながら……しかし確実に、前進してくる。
最初の時より明らかに、慣れだしている。嬌声が、上がってしまう。
「あ、あっあっ……う、ああ……っ」
腹部の裏側から擦り上げられるような、熱。暑い。しっかりと、肉壁をえぐってくる。その度に圧しあげられるかのような、快感。
「やだ、シャイネ、ちょっ、あぅ」
「どうしました……っ? 気持ちいいですか……あ、すごっ……」
きゅぅ、と肉が自分でも締まっていく感触を感じる。柔らかいぬくもりが、ねっとりと二人の隙間を埋めていく。シャイネの肉棒が、何度も子宮口をいじめるのが分かる。その度に、二人の吐息が重なっていく。
「お嬢様、すごく今……いやらしいですよっ……あ、あぁ……っ」
シャイネは淫靡な目で、ラチカの胸元を見下ろしている。自分でも、膨らみがまるで回転するかのように揺れているのは分かっていた。しかしそれをあえて言われると恥ずかしくて仕方ない。それでもシャイネに抵抗は出来なかった。
シャイネの片手が、ラチカの腰を掴んだ。ハッとしてシャイネを見上げると、彼は一瞬苦しそうに眉をしかめて自身のそれを引き抜いた。そのまま、ラチカの胸元に肉棒を押し当てた。
「っ、あ」
どぷ、どぷ、と溢れるように精液がラチカの胸元に放出される。前回も思ったが、とにかく量が多い。これをもし胎内に注ぎ込まれたら……と考え、頭を振る。それだけは避けなければならない。
射精しきると、シャイネは満足気な顔をしてラチカの頭を撫でた。
「お嬢様、大丈夫ですか」
「う、うん」
ラチカの胸元を拭いてやりながら、彼はずっと微笑んでいる。感情の起伏が無いわけでは無いのだろうが、基本的にはいつも澄ましている彼がこうなるのは……どこか、可愛くも感じた。
「……ずっと二人で居られたらいいのに」
ぼそりとした、呟き。それは確かにシャイネの言葉だった。彼を見ると、ハッとしたかのように口を押える。しかしすぐに立ち上がった。
「もう一時間経っています。もう戻られますか」
「うそっ、もうそんなに?」
外を見ると、あたりはすっかり暗くなっていた。一時間程度、という事であればあと試合は恐らく三つ程残っている。怪しまれる事はとくに無いだろうが、早めに戻るに越した事は無いだろう。
シャイネは身支度を整えながら、ラチカに向けて言った。
「明日は試合二日目。その翌日は最後の会議があるので、それが終わったらまたロドハルトでお会い致しましょう」
「そういえば、会議って何やるの」
「今回の試合で買われた者の発表だったり総評だったり、ですね。あとは機密でない程度の世間話など」
「案外のんびりしてるんだね」
ラチカもまた身支度を終え、立ち上がる。そのまま玄関扉へ向かった。
「じゃあ、また何日後かに。ありがとうね」
「ええ、お気をつけて」
ラチカの姿が向こう側へ消えた。シャイネは不意に表情を消し、部屋へ戻る。
テーブルの上にあった小包については、ラチカはさして気にしていない様子だった。そもそも、気付いてもいないだろう。あの日、ヴェリアナに貰った……最終兵器となり得る薬物。
勿論、まだやるべき順序は残っている。これを使うよりも先に、やるべき事も。
「お嬢様、待っていてくださいね」
「差し入れを買ってきた、要るか。羊肉」
「今このタイミングでかよ……」
コーマスの姿を見つけるなりげんなりとした様子でギャムシアは溜息を吐く。漸く重傷者の傷の縫合が落ち着いたところだ。そこで少し外の空気が吸いたくなり外に出るとこれだ。
「奥方は」
「客席に残してきた。ラチカが戻ったからな」
「ほお」
外向きではそれなりに他人行儀で話すが、コーマスが国主に就任した時に色々本性のボロが出て以来二人きりの時は気安くなっていた。恐らく、ラチカは知らないはずだ。そもそもこの二人が会う事自体、半年に一度会うかどうかなのだ。しかもその現場を彼女は未だ見た事がない。
包み紙に包まれた羊肉を寄せてくるコーマスを跳ねのけながら、ギャムシアは呟く。
「何だ、クソガキの見舞いにでも行ってたのか」
「クソガキ……ああ、シャイネか。そうだな」
コーマスは羊肉に食らいつきながら、応える。ギャムシアはそんなコーマスを気持ち悪そうに見ながら、溜息を吐く。
「正直見くびっていた。あんなナリでも立派にレヂェマシュトルじゃねぇか。しかもあの目、やっぱりお前のとこの縁者だろ」
「うちの父方の親戚の子どもだ。親御としてはエクソシストにしたかったらしいが、適正が無かったらしくてな。それならせめて、という事でレヂェマシュトルに売られたそうだ」
「せめて、の使いどころよ」
「レヂェマシュトルに入り、買われるまでに生き延びる確率は半分にも満たないと聞く。それをたった五年とはいえ生き延びたんだ、奴は」
ギャムシアは一言「へえ」とだけ呟く。そのまま、続ける。
「……知ってるんだろ、レヂェマシュトルの本来の目的を」
コーマスは羊肉を食べる口を止めた。ただ、エヴァイアンの証である黄金色の目を傾ける。それは、どちらの意味にもとれた。ただコーマスは、溜息を吐く。
「それでも奴を買ったのは父上だ。そっちこそ、それを承知であの犬を買ったんだろう」
「俺じゃないさ。買ったのはうちの執事長だ」
その言葉に、コーマスは訝し気に目を歪めた。しかし何も言ってはこない。
言葉もとくに無く、二人してベンチに腰かけた。
「それより、妹君を嫁に出す気は無いのか」
「少なくともお前には無い」
きっぱりとした物言い。ギャムシアは深く溜息を吐く。
「エヴァイアンの令嬢の婿としては俺は最高の案件だと思うぜ?」
「お前本当俺にそっくりだな。まったく同じ事を俺もヴェリアナに言った事がある」
乾いた、笑い。
「まあ、俺達は趣向が確かに同じだ。お前が奥方にする事を俺がラチカにするのは気に食わないってか」
「そりゃそうだろうが。あいつは何だかんだ俺の……」
ひとつだけ、拍をおく。それでいて、絞り出すように「大切な、妹だ」と呟く。そんな彼の隙を、ギャムシアは見逃さなかった。
「最後に残った、か」
……エヴァイアンの家には、四人の子どもがいた。それは、自分達の歳の代では周知である。ラチカ自身、記憶は朧……否、知らない可能性すらあるが。本来の彼女は、次子ではない。第四子だ。
コーマスは苦虫を噛み潰したかのような顔で呻く。
「未だに夢に見る。しかし、俺はそれ以上に……兄上を二人も追いやってでも、国主になりたかったんだ」
ギャムシアは、黙った。黙るしかなかった。自分には、そこまでの熱意が無かった。何故コーマスがそこまでその座にこだわるのかは、聞いた事が無い。しかし聞いたところで、きっと共感など出来るわけもない。
コーマスは最後の一口を呑み込んだ。
「ラチカの事は、どうにかしようとは思わなかったのか。今まで」
ギャムシアの素朴な疑問に、コーマスは笑む。それは極めて、複雑な笑みだった。
「……一度だけ、殺そうと考えた事はあった。しかし国主の座は関係ない」
「何?」
コーマスは一つだけ考え込む素振りを見せると、ギャムシアを横目で見た。
「あいつは国主になろうなど考えた事すら無いだろう。しかし、あいつは……俺の大事なものをひとつ、奪おうとしていた」
あの、美しい女を。最初に目を付けたのは、確かにコーマスだった。しかしラチカ自身、コーマスの知らないところで……彼女に、一目ぼれをしていた。
「エヴァイアンは同性婚も可能だ。たとえ国主の家の出でもな。家のしがらみなぞ、それこそ……すべてを捨てる覚悟さえ出来れば開放はされるさ」
「……まさか」
ギャムシアの声が、震えている。知らない、それは。
「あいつはヴェリアナを愛していた。……自慰のネタにするくらいにな」
そして付け足される。一番、ギャムシアが聞いてはならない……コーマスの、予測。
「そしてきっと多少今もあいつは引きずっている。本人は俺とあいつが結婚した故割り切ったつもりではいるのだろうが」
……どろりと、灼熱が揺れだす。いつまでも、言い訳を並べ自身に振り向くのを拒む彼女。
正直、他に男がいるのではと疑っていなかったわけではない。居たとしても、どうにかすればいいだけの話だ。だが、もうすでに……どうにかなっている話では、どうしようもない。
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