43 / 66
43.カウントダウンの存在を知覚致しましたね。
しおりを挟む
「い、ぎぎっ、いぎっぎぎぎぎぎ」
『……余が言うのも何だが、乙女の声では……ないな……』
亡霊の使えるポルターガイストなど正直知れている。精々物をほんの少し動かせるか腐敗させるか程度で、それも完全に憑依せねばならないはずだ。それなのに目の前の大亡霊は、尾を器用に丸めたり尖らせたりしながら、まるで実体があるかのようにラチカの口元の糸を弄っている。
やがて、ぷちりと音を立てて端が切れた。尾は反対側の端を掴む。
『我慢、するのだ』
そう言うや否や、一気に糸を横に引き抜かれる。声にならない激痛が漏れたが、一瞬だった。口元がひりつく。固まりかけていた縫い跡から血が垂れたのか、鉄の味がした。
恐る恐る、口を開く。動いた。
「あ、あ……」
『ふむ、大丈夫そうか』
「あ、りがとう、ございます」
口元の傷も筋肉も、何もかも痛む。しかし伝えなければならなかった。靄がかかっているせいで表情こそは見えないが、大亡霊は揺れる。
『よい、よい。久々に、余を見られる者が、見付かった。それも、こんな乙女だ』
たどたどしくも、きちんと言葉として成立している。このような亡霊は、伝承でしか聞いた事がなかった。まさか、自分が関わる事になるとは。
それも、恐らく。
「……あの。違ったら、申し訳ないんですけど。貴方は、アレですよね。もしかして、アスパロロクの」
『そうだ、生前は、アスパロロクの……最後の、国主だった。名をサガリオット・アスパロロクと、いう」
やはり。だからこそ、先程のギャムシアの名前だろう。納得すると同時に、深く喉奥が絞まる心地。
ギャムシアは口にはしなかったものの、前国主をかなり崇敬しているようだった。あの傍若無人な男が唯一敬意を払う人間。それが前国主。死んでいたのだろうとは察していたが。
「私、ラチカ・エヴァイアンっていいます。エヴァイアンの」
『うむ、国主筋だな。両親ともに似ている、面影を感じる』
そうか、両親とも面識はあるのか。
サガリオットは尾を、ラチカの手首を縛る錠に向けた。
『糸は、端だけ少し腐食させて、壊した。しかし無事そうで、何よりだ。耐性があるのか』
「あ、エクソシストなんで一応」
『国主筋の娘が、か。業が深いな』
尾が、錠に潜り込んでいく。
『先程より、範囲が広がる。多少、影響が出るかもしれん。耐えられるか』
「が、頑張ります」
尾が、ずぶりと差し込まれた。あっという間に、錠がバラバラと砕けた。数日ぶりに力を込めた手首は、不健康なまでに白んでいる。握っては開き、を繰り返して感触を確かめると、少しの痺れを感じた。しかし恐らく腐食の影響ではないだろう、単に久々の信号で体が戸惑っているのだ。
尾はもう片方の錠を破壊する。久し振りに、自由を手に入れた気がした。恐る恐る、立ち上がる。そのまま、拳を天井に突きあげて伸びをした。
「すみません、ありがとうございます」
頭を下げる。サガリオットはその巨大な靄をそわそわと揺らした。
『構わぬ。余とて、聴きたい事がある』
彼を見る。今まで見た亡霊のような、攻撃性は一切感じられない。しかしそもそも、何故彼はここに居るのだろう。
通常、死者はこの世への未練は関係無く強制的にあの世へ引きずり込まれる。それでもこの世に居たい、と未練を抱えた者のみがネクロマンサーの呼びかけに応えて亡霊として召喚される仕組みのはずだ。やはり。
『……余は、何故ここに。戻ってこられたのか』
「え」
『気が付けば、丘に居た。余が最後に過ごした、この敷地にある、丘だ。まるであの時、死んだのが、夢だったかとすら思ったが』
「え、ちょ、ちょちょちょ」
基本的に、死者の魂はネクロマンサーの召喚式が無ければ戻ってこられないはずだ。それなのに、その自覚が無いとなると。
いや、聴いた事がある。確かモシェロイが言っていた。
「……まさか、召喚途中?」
『む?』
「強大な亡霊召喚って、その……媒介とか時間とか、あとネクロマンサーの体力とか、とにかく色々必要で。もしかして、段階踏んで召喚しているから……サガリオット様の自我だけが半端に形成されてる……って事……あれ、それじゃ」
ゾッとした。そうか。
「誰かとんでもないネクロマンサーが、サガリオット様を亡霊として使って……何かしようとしてる……」
サガリオットは少し息を呑む素振りを見せ、靄を捻らせた。
『もし仮にそのネクロマンサーが余を使役したとして、どうするつもりだ。世界でも滅ぼすのか』
それはあくまで大げさな例え話、のはずなのに。
「あり得ます。サガリオット様のようなとんでもない……その、大きな亡霊をネクロマンサーが自在に操ったりなんてしたら……それこそ、災害ですし」
恐らくサガリオットが自我を持ち始めたのはあちらにとっては誤算のはずだ。しかし早急にサガリオットを捕らえ仕上げとして自我を奪おうにしても……すでにサガリオットがこれだけ亡霊となって大きくなっている以上、ネクロマンサーが返り討ちに遭う可能性が高い。だからこそネクロマンサーである自分を認識させないように、その当人自身が逃げているのか。
「召喚式が完成に近付く程、多分サガリオット様の自我は削られていくと思います。遠隔での儀式でもそれは出来るはずです」
つまり、今はまだ召喚は完全ではない。モシェロイの研究結果をもし鵜呑みにするとすれば、恐らくようやく半分を過ぎたところくらいか。
「あの、亡霊になったって気付いたのはいつですか」
『ここ三日前くらいだ。まずはギャムシアを探していたが見つからず。ようやくこの建物の中で気配を感じ、そなたを見つけた」
すでにそれだけ経っているのか。何にせよ急いだ方がいいだろう。
モシェロイに相談しようにも、伝書鳩……いや、ロドハルトでは烏だったか。何にせよ、国主の許可が無いと飛ばせない。ひとまずシャイネかギャムシアに相談すべきだが。
「ギャムシア……私が勝手にこんなのしてたら絶対怒るよなぁ……」
恐らくエクソシストでもないギャムシアにサガリオットは見えないだろう。事情を説明しても、それがラチカの逃亡の言い訳だとでも勘違いされたら……想像だけでもゾッとする。
それならまずシャイネに協力を仰ぐか。そこから執事長に話を回せば、多少楽かもしれない。
椅子から降りて、歩こうとする。しかしすぐにつまずいた。
「あでっ」
派手に転ぶ。そんなラチカの周囲を、サガリオットは忙しなく回った。
『大丈夫か……ああ、起こすには触れねばならぬ。しかしそうすれば』
「腐食されちゃいますもんね……」
恐らく数日歩いていないせいで、筋肉が硬直しているのだろう。しかし歩けないようではそもそも話が始まらない。さて、どうしたものか。
サガリオットはふと何かを思い出したかのように、靄の尾を揺らした。
『今の状況を理解した上で口外せず、それでいて、利口。そんな存在が居ればよかろう』
「え、あ、はいそれ助かりますね」
『心当たりがある。すぐに連れてこよう』
天井の扉を見ると、もうすでに消えていた。恐らくサガリオットがここに入る前に腐食させたのか。まったく気付かなかった。
……あんなのが、ネクロマンサーの意のままになったら。大変まずいことになる。そもそも、何故彼を遣おうとしているのだろう。こんな事なら、もう少しモシェロイの講義をきちんと聞いていればよかった。勿論それだけでどうにかなるわけではないのだろうが。
やがて、ぱたぱたと忙しない足音が近付いてきた。明らかに人間のものではない。まさか。
「っポシャロ!?」
階段を駆け下りてきたポシャロは嬉しそうに一声吠えると、ラチカにすり寄ってきた。そんなポシャロを強く抱きしめていると、懐かしさで涙がこぼれそうになる。後を追うようにして、サガリオットが近付いてきた。
『余が……目覚めてからそ、なたに会うまでで唯一、余の存在に気付いたのがこの犬だったのだ。やはり……動物の勘は、不思議なものである』
そうか、ポシャロとサガリオットは面識が無かったのか。ポシャロはふんふんと息荒く鼻を押し付けてくる。その仕草が愛らしく、思わず「最近散歩行けなくてごめんね」と囁く。
サガリオットはふわりと天井付近にまで昇った。
『余の意識が……もし仮にネクロマンサーに、乗っ取られるのであれば……行動を、急いだ方がよかろう」
「ですね」
まずはシャイネを探しだし、執事長に頼みエヴァイアンに居るモシェロイに伝書烏を送る。ラチカ自身がエヴァイアンに戻るのが一番早いが、今の状況では現実的ではない。モシェロイなら、何かしら対策を立ててくれるだろう。
『その犬の巨体ならば……そなたを、乗せるのも叶おう』
ポシャロはサガリオットを見て、一声吠える。まるで完全に見えているかのようだ。これも動物の勘、で片付けていい話なのかどうかすら分からない。
ポシャロを見ると、察してくれたのか床に体をべったりとつけた。恐る恐る転ばないように歩き、ポシャロの背に跨る。ゆっくりと、ポシャロは立ち上がった。がくん、と傾きかけるも何とか持ちこたえる。乗馬の経験は何度かあるが、犬……しかも鞍無しは初めてだ。しかしポシャロは気を遣っているのか、しっかりとバランスを取ってくれている。
「ありがと、ポシャロ」
ラチカの礼に、ポシャロは微笑んだ。ように見えた。
しかし、気がかりが一つある。
「あの、サガリオット様」
『む』
サガリオットを見つめ、ラチカは重々しく口を開く。
「……あの。亡霊として一回この世に引き戻されたら、自分の意志ではあの世に行けなくなります。除霊されない限りは」
つまり、亡霊として召喚された以上……再び穏やかに昇天する事はかなわない。例えネクロマンサーが死んで召喚式が切れたとしても、昇天はかなわない。しかし亡霊として存在を続ける以上エクソシストには必ず狙われる。いくらラチカが庇ったとしても、追いつかないはずだ。
サガリオットは穏やかに告げる。
『そう、気に病むでない。余とて、今回の……この召喚が、この世にとって望まれていない事くらい、分かる。望んだ者に従えば……それは、それで。ああ、いかんな』
「サガリオット様」
『……もしもの事があれば、そなたに頼もう』
ラチカは頷く。そうだ、せめて。
サガリオットの尾が、空いた天井を指した。
『さあ、行こう』
『……余が言うのも何だが、乙女の声では……ないな……』
亡霊の使えるポルターガイストなど正直知れている。精々物をほんの少し動かせるか腐敗させるか程度で、それも完全に憑依せねばならないはずだ。それなのに目の前の大亡霊は、尾を器用に丸めたり尖らせたりしながら、まるで実体があるかのようにラチカの口元の糸を弄っている。
やがて、ぷちりと音を立てて端が切れた。尾は反対側の端を掴む。
『我慢、するのだ』
そう言うや否や、一気に糸を横に引き抜かれる。声にならない激痛が漏れたが、一瞬だった。口元がひりつく。固まりかけていた縫い跡から血が垂れたのか、鉄の味がした。
恐る恐る、口を開く。動いた。
「あ、あ……」
『ふむ、大丈夫そうか』
「あ、りがとう、ございます」
口元の傷も筋肉も、何もかも痛む。しかし伝えなければならなかった。靄がかかっているせいで表情こそは見えないが、大亡霊は揺れる。
『よい、よい。久々に、余を見られる者が、見付かった。それも、こんな乙女だ』
たどたどしくも、きちんと言葉として成立している。このような亡霊は、伝承でしか聞いた事がなかった。まさか、自分が関わる事になるとは。
それも、恐らく。
「……あの。違ったら、申し訳ないんですけど。貴方は、アレですよね。もしかして、アスパロロクの」
『そうだ、生前は、アスパロロクの……最後の、国主だった。名をサガリオット・アスパロロクと、いう」
やはり。だからこそ、先程のギャムシアの名前だろう。納得すると同時に、深く喉奥が絞まる心地。
ギャムシアは口にはしなかったものの、前国主をかなり崇敬しているようだった。あの傍若無人な男が唯一敬意を払う人間。それが前国主。死んでいたのだろうとは察していたが。
「私、ラチカ・エヴァイアンっていいます。エヴァイアンの」
『うむ、国主筋だな。両親ともに似ている、面影を感じる』
そうか、両親とも面識はあるのか。
サガリオットは尾を、ラチカの手首を縛る錠に向けた。
『糸は、端だけ少し腐食させて、壊した。しかし無事そうで、何よりだ。耐性があるのか』
「あ、エクソシストなんで一応」
『国主筋の娘が、か。業が深いな』
尾が、錠に潜り込んでいく。
『先程より、範囲が広がる。多少、影響が出るかもしれん。耐えられるか』
「が、頑張ります」
尾が、ずぶりと差し込まれた。あっという間に、錠がバラバラと砕けた。数日ぶりに力を込めた手首は、不健康なまでに白んでいる。握っては開き、を繰り返して感触を確かめると、少しの痺れを感じた。しかし恐らく腐食の影響ではないだろう、単に久々の信号で体が戸惑っているのだ。
尾はもう片方の錠を破壊する。久し振りに、自由を手に入れた気がした。恐る恐る、立ち上がる。そのまま、拳を天井に突きあげて伸びをした。
「すみません、ありがとうございます」
頭を下げる。サガリオットはその巨大な靄をそわそわと揺らした。
『構わぬ。余とて、聴きたい事がある』
彼を見る。今まで見た亡霊のような、攻撃性は一切感じられない。しかしそもそも、何故彼はここに居るのだろう。
通常、死者はこの世への未練は関係無く強制的にあの世へ引きずり込まれる。それでもこの世に居たい、と未練を抱えた者のみがネクロマンサーの呼びかけに応えて亡霊として召喚される仕組みのはずだ。やはり。
『……余は、何故ここに。戻ってこられたのか』
「え」
『気が付けば、丘に居た。余が最後に過ごした、この敷地にある、丘だ。まるであの時、死んだのが、夢だったかとすら思ったが』
「え、ちょ、ちょちょちょ」
基本的に、死者の魂はネクロマンサーの召喚式が無ければ戻ってこられないはずだ。それなのに、その自覚が無いとなると。
いや、聴いた事がある。確かモシェロイが言っていた。
「……まさか、召喚途中?」
『む?』
「強大な亡霊召喚って、その……媒介とか時間とか、あとネクロマンサーの体力とか、とにかく色々必要で。もしかして、段階踏んで召喚しているから……サガリオット様の自我だけが半端に形成されてる……って事……あれ、それじゃ」
ゾッとした。そうか。
「誰かとんでもないネクロマンサーが、サガリオット様を亡霊として使って……何かしようとしてる……」
サガリオットは少し息を呑む素振りを見せ、靄を捻らせた。
『もし仮にそのネクロマンサーが余を使役したとして、どうするつもりだ。世界でも滅ぼすのか』
それはあくまで大げさな例え話、のはずなのに。
「あり得ます。サガリオット様のようなとんでもない……その、大きな亡霊をネクロマンサーが自在に操ったりなんてしたら……それこそ、災害ですし」
恐らくサガリオットが自我を持ち始めたのはあちらにとっては誤算のはずだ。しかし早急にサガリオットを捕らえ仕上げとして自我を奪おうにしても……すでにサガリオットがこれだけ亡霊となって大きくなっている以上、ネクロマンサーが返り討ちに遭う可能性が高い。だからこそネクロマンサーである自分を認識させないように、その当人自身が逃げているのか。
「召喚式が完成に近付く程、多分サガリオット様の自我は削られていくと思います。遠隔での儀式でもそれは出来るはずです」
つまり、今はまだ召喚は完全ではない。モシェロイの研究結果をもし鵜呑みにするとすれば、恐らくようやく半分を過ぎたところくらいか。
「あの、亡霊になったって気付いたのはいつですか」
『ここ三日前くらいだ。まずはギャムシアを探していたが見つからず。ようやくこの建物の中で気配を感じ、そなたを見つけた」
すでにそれだけ経っているのか。何にせよ急いだ方がいいだろう。
モシェロイに相談しようにも、伝書鳩……いや、ロドハルトでは烏だったか。何にせよ、国主の許可が無いと飛ばせない。ひとまずシャイネかギャムシアに相談すべきだが。
「ギャムシア……私が勝手にこんなのしてたら絶対怒るよなぁ……」
恐らくエクソシストでもないギャムシアにサガリオットは見えないだろう。事情を説明しても、それがラチカの逃亡の言い訳だとでも勘違いされたら……想像だけでもゾッとする。
それならまずシャイネに協力を仰ぐか。そこから執事長に話を回せば、多少楽かもしれない。
椅子から降りて、歩こうとする。しかしすぐにつまずいた。
「あでっ」
派手に転ぶ。そんなラチカの周囲を、サガリオットは忙しなく回った。
『大丈夫か……ああ、起こすには触れねばならぬ。しかしそうすれば』
「腐食されちゃいますもんね……」
恐らく数日歩いていないせいで、筋肉が硬直しているのだろう。しかし歩けないようではそもそも話が始まらない。さて、どうしたものか。
サガリオットはふと何かを思い出したかのように、靄の尾を揺らした。
『今の状況を理解した上で口外せず、それでいて、利口。そんな存在が居ればよかろう』
「え、あ、はいそれ助かりますね」
『心当たりがある。すぐに連れてこよう』
天井の扉を見ると、もうすでに消えていた。恐らくサガリオットがここに入る前に腐食させたのか。まったく気付かなかった。
……あんなのが、ネクロマンサーの意のままになったら。大変まずいことになる。そもそも、何故彼を遣おうとしているのだろう。こんな事なら、もう少しモシェロイの講義をきちんと聞いていればよかった。勿論それだけでどうにかなるわけではないのだろうが。
やがて、ぱたぱたと忙しない足音が近付いてきた。明らかに人間のものではない。まさか。
「っポシャロ!?」
階段を駆け下りてきたポシャロは嬉しそうに一声吠えると、ラチカにすり寄ってきた。そんなポシャロを強く抱きしめていると、懐かしさで涙がこぼれそうになる。後を追うようにして、サガリオットが近付いてきた。
『余が……目覚めてからそ、なたに会うまでで唯一、余の存在に気付いたのがこの犬だったのだ。やはり……動物の勘は、不思議なものである』
そうか、ポシャロとサガリオットは面識が無かったのか。ポシャロはふんふんと息荒く鼻を押し付けてくる。その仕草が愛らしく、思わず「最近散歩行けなくてごめんね」と囁く。
サガリオットはふわりと天井付近にまで昇った。
『余の意識が……もし仮にネクロマンサーに、乗っ取られるのであれば……行動を、急いだ方がよかろう」
「ですね」
まずはシャイネを探しだし、執事長に頼みエヴァイアンに居るモシェロイに伝書烏を送る。ラチカ自身がエヴァイアンに戻るのが一番早いが、今の状況では現実的ではない。モシェロイなら、何かしら対策を立ててくれるだろう。
『その犬の巨体ならば……そなたを、乗せるのも叶おう』
ポシャロはサガリオットを見て、一声吠える。まるで完全に見えているかのようだ。これも動物の勘、で片付けていい話なのかどうかすら分からない。
ポシャロを見ると、察してくれたのか床に体をべったりとつけた。恐る恐る転ばないように歩き、ポシャロの背に跨る。ゆっくりと、ポシャロは立ち上がった。がくん、と傾きかけるも何とか持ちこたえる。乗馬の経験は何度かあるが、犬……しかも鞍無しは初めてだ。しかしポシャロは気を遣っているのか、しっかりとバランスを取ってくれている。
「ありがと、ポシャロ」
ラチカの礼に、ポシャロは微笑んだ。ように見えた。
しかし、気がかりが一つある。
「あの、サガリオット様」
『む』
サガリオットを見つめ、ラチカは重々しく口を開く。
「……あの。亡霊として一回この世に引き戻されたら、自分の意志ではあの世に行けなくなります。除霊されない限りは」
つまり、亡霊として召喚された以上……再び穏やかに昇天する事はかなわない。例えネクロマンサーが死んで召喚式が切れたとしても、昇天はかなわない。しかし亡霊として存在を続ける以上エクソシストには必ず狙われる。いくらラチカが庇ったとしても、追いつかないはずだ。
サガリオットは穏やかに告げる。
『そう、気に病むでない。余とて、今回の……この召喚が、この世にとって望まれていない事くらい、分かる。望んだ者に従えば……それは、それで。ああ、いかんな』
「サガリオット様」
『……もしもの事があれば、そなたに頼もう』
ラチカは頷く。そうだ、せめて。
サガリオットの尾が、空いた天井を指した。
『さあ、行こう』
0
あなたにおすすめの小説
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす
小木楓
恋愛
完結しました✨
タグ&あらすじ変更しました。
略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。
「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」
「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」
大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。
しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。
強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。
夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。
恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……?
「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。
それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる