【R18】花嫁直前、君を侵す。

湖霧どどめ@シナリオライター

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56.よく喋る下郎の舌は細切れにせねば。

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 目の前のネクロマンサーが、首から血を噴いて倒れた。ギャムシアは顔に受けたその血を手の甲でガシガシと擦る。そんな彼を呆れたように見ながら、シャイネは呟いた。

「……長剣よりもその仕込み短剣の方が強いのでは?」
「まあお前にゃ見せた事なかったからな。というか何だ、稽古の時に俺が全力を出しているとでも思ってたか」

 その勝ち誇ったかのような顔に苛立つも、シャイネは抑えた。実際彼の動きは、剣を持った場合自分ではきっとかなわない。これでも彼に師事して、どうにか上達したとは思う。そう思いながら、気絶するまで殴ったネクロマンサーの体を放り投げた。
 ラチカが、一瞬だけ姿を見せたディグレオに攫われた。追おうと駆けだした瞬間、多数ものネクロマンサーが詰めかけてきた。その数およそ二十といったところだっただろうか。しかしほぼ全員、すでに床に倒れ込んでいる。

「しかし、ラチカの言う通りだったな。国主様の結界を解くのに手をかけすぎて、亡霊を一体も用意してなかったとは」
「いざ召喚するとしても時間がかかるそうですから。その前に叩ききれれば、まあ問題はありませんね。結界石も頂いている事ですし」

 シャイネは首から下げていた石を力強く握りしめた。そして、ディグレオの消えていった奥を見つめる。

「……何人か足りません。逃げましたね」
「大方奴に報告に出たか、亡霊召喚のために引っ込んだか。急ぐぞ、いくらこれがあるって言っても亡霊どもに襲いかかられちゃたまったもんじゃないしな」
「はい」

 ギャムシアが先に、歩き出す。気を急いているのはむしろ彼の方だった。
 ……最悪の敵に遅れをとった。勿論それだけでも遺憾だ。しかしそれ以上に、ラチカを奪われた。
 この中で唯一のエクソシスト。ネクロマンサーと本当の意味で渡り合える存在。彼女がいなくなったのは戦力的にも痛い。

「……いや」

 勿論そういった損得勘定もある。そればかりは国主として、医者として、剣士とっして。あらゆる才と引き換えに積もっていった矜持と共に生まれた能力である。
 ……そんな単純な話では、もう片付かないのも分かっている。
 ラチカが今どうなっているのか。そう考えるだけで、胸騒ぎが止まらない。
 いつか妻になる女。初めて、妻にしたいと思った女。国民への博愛だけで生きていた自分が、人生で初めて欲を生み出した。

「……待ってろ」



「私の生まれた故郷は、今となってはもう沈んでしまったのですよ。大陸の外にある、とても小さな島でした。人口は五十にも満たないような、ね」
「あ、ぎゅ」
「小さな島で、それも大陸にあるような大衆文化や宗教などは入ってきておりませんでした。下手をすれば、大陸の存在すら知らない者すらも居ましたねぇ。まあそんな中だと、どうしても独自の文化が形成されていったのですよ……とくに宗教面。島を離れ、数百年とこの世界を視てきたからこそおかしいと気付けたものですが」
「がぎゅ、がっ」
「しかしシステム自体は然程変わらなかった。ネクロマンサーが亡霊を呼び使役し、駆除するとすればエクソシストが行う。多少の違いはあれど、大まかにはこんな感じで。ね、大陸と大差無いでしょう」
「ご、あっ」
「細かな違いと言えばその役職それぞれの呼称と」

 ディグレオの骨ばった指が、ラチカの秘所に潜り込んだ。彼の細い陰茎は、ラチカの肛門に突き刺さったままだ。裂傷のせいで夥しい血が流れ激痛が何度も走っているが、ディグレオはそんな事を知ろうともしない。
 ディグレオはつまらなさそうに、しかし饒舌に続ける。

「処女性、が信じられていた事ですね。他者との肉体的な交わりの無い者は神聖であると。だからかして、うちの島で信仰される対象は皆子どもの姿でしたよ」
「ぎゅ、あ」

 痛みのあまり悲鳴の響きがおかしくなっている。涙が止まらない。

「今となれば勿論そんな事何の根拠の無い説だとは分かっておりますとも。しかし、当時はそれが当然だと思っておりましてね……というより、さして気付くきっかけもとくに無かったという方が正しいですかな」

 一瞬だけ、陰茎が引き抜かれた。急に空気に触れてしまった腸壁がびりびりと痛みだす。そんなさなかに、再び突き刺された。絶叫。

「貴女が……エヴァイアンの令嬢がエヴァイアン国主家で初めてエクソシストの資格を得たとは情報で得ていました。国主筋であれば、国あげての英才教育に繋がると。私はそう思いました。しかしまあ、実際は違ったようですね。他のエクソシストと同様、対等にしごかれたのでしょう」
「ぅあああ、ぎゃ、う」
「ええ、最初は殺そうと思ってはいたのですよ? しかし恥ずかしい話、あんな幼い豆のようだった貴女に……クク、ふっ、ふっふ、欲情っ……してしまいましてねっ……」

 彼の笑いが、体を震わせる。その振動はただ痛みを生み出すだけだった。

「さすがの私も、五つだか六つだかの子どもに欲情するなどっ……ふふ、経験がなくてねぇ……物は試し、と。面白かったですよ、そうそう今の感じで……くはっ、人間の言語ではないような悲鳴をあげておりました。癖でしょうねぇ、生来からの」

 心底楽しそうに笑い続ける彼の存在が、腸内でしぼんでいくのが分かる。しかしそれに気付いたのか、笑みをすぐさま消しディグレオは舌打ちした。

「うむ、この年齢になるとどうも持続しなくていけない。しかしどうです、同じ男に前も後ろも処女を奪われた気分は」

 何も考えられない。体に力が入らない。ただ痛覚神経だけが作動していた、痛みのあまり流した涙はもはや枯れていた。
 痛い、ただひたすらに。肛門の肉は裂け、腸内も無理やり拡張された影響で裂けているのかもしれない。とにかく鋭い痛みが、ラチカの尻全体を蝕んでいた。
 ……痛みなら、慣れていたはずなのに。

「しかしこの数十年で、エヴァイアンの警護は非常に優秀になった。侵入は容易かったものの、いざ見つかれば蛇のように執拗に追ってきて。完全に撒ききるのにどれだけの月日をかけた事か……」

 その件が、恐らくシャイネを買うと決断した大きなきっかけだったのだろう。それは、何となく分かる。
 陰茎が引き抜かれた。肉棒と呼ぶにはあまりにも老いて細くなったそれに、滴る程の血と腸液。それを見て嘔吐感が一気にこみ上げ、弁が壊れてしまったかのように吐瀉物が溢れる。そんなラチカを見て、ディグレオは手を叩いて笑った。

「傑作ですねぇ! ああいい、実に気分がいい!」

 頭がクラクラする。ここ連日、完全に不調続きだ。そうだ、すべて……この男のせいで。
 ディグレオの手が、ラチカの前髪を強く掴んだ。そして目を合わせられる。陰りだした黄金色の瞳に映ったのは、腐らずただ悪質化した老害の邪悪な笑みだった。

「当初はギャムシアを陥落させるのだけが目的でしたよ……しかし本命手段である貴女はあの地下室から逃げ延び、第二の手段で呼び出したサガリオット様はあの有様……サガリオット様を暴走させロドハルトひいては近隣諸国を焦土と化そうとしていたのに、貴女がたのせいで台無しに……」
「う、う……」
「すべてが終わって落ち着いてから、あのお方をお呼びしたかったのに。アスパロロクを取り戻せた、と見せて差し上げたかったのに」

 やっと、繋がった。
 いまいち彼の狙いは読めていなかった。サガリオットを使って一体どこまでやるつもりなのか、という目的自体は察する事しか出来ていなかった。ただ、何か危害を加えるのだろうと。それだけの、推測だった。
 ギャムシアの失態で生きたまま国主を降りるとなれば、それでも彼に後継者指名権がある。

「ギャムシアをただ殺したところで、後継者指名が為されていなければすぐに他国が介入してしまう。下手をすればこの国の領土は完全な手つかず……もう一度完全保管の上での再出発など出来ない」

 ……それは、そうだろう。コーマスや、知っている他国主の事を考えれば下手をすれば奪い合いにもなりかねない。
 しかしギャムシアは若い、国主になってまだ十年だ。それも公務に遣り甲斐を感じている彼が今から後継者を指名するとも考えられない。しかも剣術に覚えがある分、暗殺にも対抗出来ると考えているに違いない。そうなれば、内心はどうか知らないが後継者の内定など存在していない確率の方が高いだろう。
 読めた。

「……こう、けいしゃをっ……じ、ぶんの、身内から、出す、気っ……?」
「おや、ようやく人語を? うーむ、いたぶり足りなかったですな」

 ラチカの前髪から手を離す。うめき声をあげて、ラチカは床に転がった。

「概ねその通りの解釈でよろしいですよ。付け加えるとするならば、私の身内……と言いますか、傀儡ですかね」
「くぐ、つ……?」
「有り難い事に、私の部下の内で居るんですよ。私のためならば魂を抜いて体を使ってくれ、という酔狂な人間がね」

 ……胸糞の悪い話だが、有り得ない事はないだろう。つまり、その部下の体に転生して自分がその舵を切ろうというのか。
 しかしディグレオはその笑みを嫌な向きに歪めた。

「確かに魂がすでに屈服していれば、転生自体は楽に行えます。しかし私には興味のある体があります」

 嫌な、笑み。そして、唾液を纏ったかのような……ぬめった、言葉。

「若いレヂェマシュトル。エヴァイアン家が派遣した、となれば周囲の納得も容易いでしょう」
「!!!」

 まずい。それだけは。本当に、まずい。
 ラチカはディグレオの足首を掴んだ。渾身の睨みを利かせても、彼の冷たい表情は変わらない。振りほどかれ、その手の平を踏みつぶされた。バギキッ、と骨の砕ける音。激痛に歯が折れそうな程食いしばるも、彼の声はさして感情が揺れたようには聞こえない。

「手間がかかるんですよねぇ、あの手合いは。しかし捕まえればこっちのものです、貴女はただ見ていればいい」

 彼の足が、動く。今度は、掴み切れなかった。

「自分の従者の姿をした私が、アスパロロクを取り戻し……憎きギャムシアと、用済みの貴女を殺すその瞬間をね」

 駄目だ。行かせては、ならない。
 そう、砕けた手の平を再び伸ばした瞬間だった。
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