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光に吸い寄せられるようにして、闇がやってきた。その巨体の靄を見て、ラチカは絶句する。サガリオットだ。しかし、あの穏やかだった面影は一切ない。ただの凶暴性をたたえた、もはや……闇だ。
急に、ギャムシアが膝をついた。そのまま手で口を覆う。
「が、はっ……」
嘔吐。侵食のせいで吐き気を催したのだろう。ラチカにも現在少しずつ昇ってはきているが、それどころではなかった。自覚する暇すら。
……結界が、破られた。それも、やはりディグレオの手で。それが何を意味するかなど、あれ程懸念していたからこそ最悪の想像へと直結する。
「サガリオット様……」
ラチカの恐る恐るの呼びかけに、応えはない。そんな様子を見、ディグレオは絶叫する。
「ああ! ああ! 貴様たちのせいでこんなにも手間取ってしまった!! 本当はもっと早くすべてを終えているはずだったのに!!」
そして付け加えられた「ですが」は、すでに歪んでいた。
「これにてすべてが終焉です。さようならですねぇ」
「っギャムシア!!」
動けないギャムシアに、靄の尾が振りかぶられる。ラチカは駆けた。その姿を見、ディグレオは感嘆の息を漏らす。
「サガリオット様の圧を感じても、まだ動けるとは。やはり小娘でもエクソシストなだけある」
内臓が痛めつけられたかのように軋む。しかし、そんな事は言っていられない。尾がかすめでもしたら、ギャムシアはもたない。それも、あんな恐ろしい圧……一たまりもない。
ギャムシアを庇うようにして押しのけ、破魔短刀で尾を受ける。ガキン、と火花すら散りそうな音と……あまりの、衝撃。一瞬世界が眩んだが、踏みこたえる。
尾が、重い。破魔短刀を通じ、びりびりと痺れがきている。こんなにも影響の強い亡霊など、見た事がない。
『……ラチカ殿』
「!」
微かな、声。サガリオットのものだ。少し離れたところに居るディグレオには気付かれていないらしい。あくまで、ラチカに囁きかけるかのような小声だった。
尾をギリギリと破魔短刀に押し付けながら、サガリオットは囁き続ける。
『すまない……すまない……暫し、付き合ってくれ……頼む……時間が、必要だ……』
何の事か分からないが、こっそりと頷く。同時に重みを増す尾を、横に向けて弾いた。
暴走しているわけではないらしい。しかし、無理やり結界を破られたなら、そうなっていてもおかしくはないはずだ。モシェロイが何かやったのか。何にせよ、サガリオットは……まだ、ディグレオに囚われきってはいない。
ギャムシアは嘔吐のせいで体を震わせて、ラチカを見ている。いや、それとサガリオットの事もだろう。亡霊が見えないギャムシアからすれば、ラチカがただ剣を振るっているようにしか見えないはずだというのに。
「っく……」
あちこちから、尾が飛んでくる。それを的確に、丁寧に弾くしかない。体力を消耗させていくラチカを見ながら、それでもディグレオは忌々しそうに地団太を踏んだ。
「小娘相手に何を手間取っているのです! せっかく解いたのに、その程度ですか!」
……暴走していると思っているのか。なるほど、そのための……芝居か。大方モシェロイが何か策を講じてくれているのだろう。それならそれで、好都合だ。乗じるしかない。
しかしサガリオット自身、恐らく本気だ。尾があちこちからとんでくる。いくらエクソシストとはいえ、こんなにも凶悪な尾を受ければまずい。
いつもはシャイネを、こうやって守っていたのに。
「……っ」
集中力を欠きそうになる。しかし、それだけはいけない。このままだと、シャイネどころかギャムシアや自分すら救えない。
「っはあ!」
『……っ!!』
サガリオットの尾に破魔短刀の切っ先を、刺した。霊体なのにしっかりと感じる、質感。今まで融けるように裂けていった亡霊達よりはるかに硬く、重い。
サガリオットは重い地響きのような悲鳴を上げるが、すぐには消えてくれない。苦しんでいるのが、彼の震えで分かる。
「サガリオット様……ごめんなさい……ごめんなさい……!」
こうしか、出来ない。涙があふれて、止まらない。彼の悲鳴が響き込む体が、痛い。
サガリオットは尾を固定されても尚、揺れる。破魔短刀が持っていかれそうになるが、必死に耐えた。ディグレオが歯噛みしながら、ラチカに対し言葉を投げる。
「何かしたか、貴様ら……!」
応えない。応えられない。いくら気付かれたとしても。
ディグレオの足が踏み出される。しかしすぐに、膝をついた。ハッとしてディグレオは床を見る。辺りには血溜まり、出所は……その、足首。ラチカの破魔短刀とは違う、小さなナイフ。
「っ、させねぇよ……! クソガキの体だろうが、知ったこっちゃねぇ」
「おのれ……!」
ギャムシアが二本目のナイフを、もう片方の足首に投擲する。満足に動けない彼の足首は、もはや止まった的だった。悲鳴を上げながらも、彼は吠える。
「いや、まだだ! 貴様らの説得がどうであれ、私がサガリオット様の主人だ!!」
彼の懐が、再び輝きだす。しかしその光を浴びて尚、サガリオットは。
『……何を、勝手に逆転させておるか』
「……へ」
間抜けな声をあげるディグレオに、突如として降った声。サガリオットは動きを止めていた。呆然とするラチカに向き直り、申し訳無さそうに揺れる。
『すまぬな。ある程度、余の……力を削ってもらう、必要が……あったのだ。礼を言う」
「え、あ、……はい」
『先程の、謝罪も……要らぬ。むしろ、すまなかった……辛い思いを、させてしまった』
よく見ると、彼の巨体はわずかながら小さくなっていた。単純にこうやって、形が削れていくものなのか。裂けるまでに時間がかかるといった感覚なようにも感じられる。
ラチカはおずおずと、破魔短刀を抜く。するとサガリオットは、するりと空間を滑っていった。それはあくまで、自分の意志での行動に見えた。
『これほどにまで……削られれば、いざこやつが……奥の手を隠していたとしても、防ぎきれよう』
だからこそ、だったのか。芝居を打つのもそうだが、そのために。
サガリオットはその靄の身を翻し、ディグレオの元へと泳ぐように向かう。その姿を、ディグレオはわなわなと震える体で見つめる。いつもの余裕は失せていた。
『まあ、そのせいで……余では、こやつを仕留める力すらも、残ってはおるまいが……』
「な、何故……! 結界を壊すと同時に暴走させる式を!」
『有能な……神父の、おかげだ。それと』
改めて、彼はディグレオを見下ろす。体はシャイネでも、中身がディグレオだとは本能で分かったのだろう。さっきかあら辻褄は合っている。
『……その体、でなければ。確かに危なかったろう、な』
そうだ。シャイネには、エクソシストの才能が一切ない。そもそも亡霊を見て対峙する、という意味ではエクソシストもネクロマンサーも必要な才能の根源は同じだ。五感を使う以上その才能は、精神以上に肉体に依存する。
『レヂェマシュトルの、体か。強欲が……過ぎたな』
サガリオットの体が、少しずつ縮小しだしている。瞬時に浄化できていないだけで、破魔短刀自体は効いていたのだろう。このままだと、時間の問題だ。
サガリオットは、ラチカを見た。そのように、見えた。
『あの男に、礼を。……そして、そなた達に……謝罪を』
「そんな……サガリオット様……」
『……ギャムシアの、どこが間違っているのか。余には、分からぬ』
ぼそりとした、呟き。それはまず、ギャムシアには聞こえていないはずだ。ギャムシアの意識自体、朦朧としているはずだろう。彼に両足を射貫かれたディグレオは、ただ悔しそうにしてサガリオットを睨みつけている。その額には、かなりの量の脂汗が浮かんでいた。失血による疲労でも感じているのか、式を組み直そうという余裕は見えない。
サガリオットの体は、赤子程にまですでに縮んでいた。ずっと轟いている、唸り。辛いのだろう。
『……心残りでは、あった。でも、もう大丈夫だ……余は、信じる。そなた達ならば。だから、頼む』
涙が止まらない。しかし、辛いのは……自分以上に、サガリオットだ。
「……本当に、ごめんなさい」
地下室へとやってきた彼の事を、思い出す。彼は、何も悪くないのに。ただ、喚ばれただけなのに。完全に巻き込まれるだけ巻き込まれて、彼は終わってしまう。
……それでも。
「っ、く、うぅ……っ」
ラチカは破魔短刀を振りかぶった。嗚咽を零し、震えながら、靄に振り下ろす。
「や、やめろっ……!」
シャイネの時ですら、そんな焦り切った声は聴いた事がない。
黄金色の刃が、サガリオットを貫く。二分された亡霊の体は、融けるようにして消えた。
「っ、あ、あ、ああっ、ああああああああああ!!!!」
怒号。悲鳴。どちらとも言える、声。怒り狂ったかのような、やかましさ。
「よくもよくもよくも! 貴様ら!! 計画を、これでもかとっ……潰しおって!!」
ディグレオを見る。シャイネの姿でありながら、その醜態。見れたものではない。
歩み寄る。自身の体すらボロボロだ。それでも、やれる事が見つかった。今更だが、しかし今が一番いいはずだ。ディグレオの前に、膝をつく。彼はこの上無い憎しみを込め、睨みつけてきた。
「小娘ぇ……!!」
賭けだ。けれど、こうするしか思い浮かばない。
辛い事が多すぎる。だから、もしかすると思考が凝り固まってしまっているのかもしれない。しかし、ラチカには確信があった。自分の力と、そしてギャムシアの力。揃えば。
「……こんな奴なんかに、お願いだから負けないでよ」
輝く破魔短刀を、振りかぶる。サガリオットを斬ったと言えど、曇りはない。
「ラチ、カ」
「ギャムシア……ごめんね、後でよろしくね」
ラチカの目論見を察したのか、ギャムシアは力なく笑った。普段とは打って変わって、穏やかな顔だった。
ディグレオが何か口を開く前に。呪いの言葉を聞く前に。ラチカは渾身の力で、破魔短刀を振り下ろした。肉の感触が、伝わる。それはあまりにも、温かかった。
急に、ギャムシアが膝をついた。そのまま手で口を覆う。
「が、はっ……」
嘔吐。侵食のせいで吐き気を催したのだろう。ラチカにも現在少しずつ昇ってはきているが、それどころではなかった。自覚する暇すら。
……結界が、破られた。それも、やはりディグレオの手で。それが何を意味するかなど、あれ程懸念していたからこそ最悪の想像へと直結する。
「サガリオット様……」
ラチカの恐る恐るの呼びかけに、応えはない。そんな様子を見、ディグレオは絶叫する。
「ああ! ああ! 貴様たちのせいでこんなにも手間取ってしまった!! 本当はもっと早くすべてを終えているはずだったのに!!」
そして付け加えられた「ですが」は、すでに歪んでいた。
「これにてすべてが終焉です。さようならですねぇ」
「っギャムシア!!」
動けないギャムシアに、靄の尾が振りかぶられる。ラチカは駆けた。その姿を見、ディグレオは感嘆の息を漏らす。
「サガリオット様の圧を感じても、まだ動けるとは。やはり小娘でもエクソシストなだけある」
内臓が痛めつけられたかのように軋む。しかし、そんな事は言っていられない。尾がかすめでもしたら、ギャムシアはもたない。それも、あんな恐ろしい圧……一たまりもない。
ギャムシアを庇うようにして押しのけ、破魔短刀で尾を受ける。ガキン、と火花すら散りそうな音と……あまりの、衝撃。一瞬世界が眩んだが、踏みこたえる。
尾が、重い。破魔短刀を通じ、びりびりと痺れがきている。こんなにも影響の強い亡霊など、見た事がない。
『……ラチカ殿』
「!」
微かな、声。サガリオットのものだ。少し離れたところに居るディグレオには気付かれていないらしい。あくまで、ラチカに囁きかけるかのような小声だった。
尾をギリギリと破魔短刀に押し付けながら、サガリオットは囁き続ける。
『すまない……すまない……暫し、付き合ってくれ……頼む……時間が、必要だ……』
何の事か分からないが、こっそりと頷く。同時に重みを増す尾を、横に向けて弾いた。
暴走しているわけではないらしい。しかし、無理やり結界を破られたなら、そうなっていてもおかしくはないはずだ。モシェロイが何かやったのか。何にせよ、サガリオットは……まだ、ディグレオに囚われきってはいない。
ギャムシアは嘔吐のせいで体を震わせて、ラチカを見ている。いや、それとサガリオットの事もだろう。亡霊が見えないギャムシアからすれば、ラチカがただ剣を振るっているようにしか見えないはずだというのに。
「っく……」
あちこちから、尾が飛んでくる。それを的確に、丁寧に弾くしかない。体力を消耗させていくラチカを見ながら、それでもディグレオは忌々しそうに地団太を踏んだ。
「小娘相手に何を手間取っているのです! せっかく解いたのに、その程度ですか!」
……暴走していると思っているのか。なるほど、そのための……芝居か。大方モシェロイが何か策を講じてくれているのだろう。それならそれで、好都合だ。乗じるしかない。
しかしサガリオット自身、恐らく本気だ。尾があちこちからとんでくる。いくらエクソシストとはいえ、こんなにも凶悪な尾を受ければまずい。
いつもはシャイネを、こうやって守っていたのに。
「……っ」
集中力を欠きそうになる。しかし、それだけはいけない。このままだと、シャイネどころかギャムシアや自分すら救えない。
「っはあ!」
『……っ!!』
サガリオットの尾に破魔短刀の切っ先を、刺した。霊体なのにしっかりと感じる、質感。今まで融けるように裂けていった亡霊達よりはるかに硬く、重い。
サガリオットは重い地響きのような悲鳴を上げるが、すぐには消えてくれない。苦しんでいるのが、彼の震えで分かる。
「サガリオット様……ごめんなさい……ごめんなさい……!」
こうしか、出来ない。涙があふれて、止まらない。彼の悲鳴が響き込む体が、痛い。
サガリオットは尾を固定されても尚、揺れる。破魔短刀が持っていかれそうになるが、必死に耐えた。ディグレオが歯噛みしながら、ラチカに対し言葉を投げる。
「何かしたか、貴様ら……!」
応えない。応えられない。いくら気付かれたとしても。
ディグレオの足が踏み出される。しかしすぐに、膝をついた。ハッとしてディグレオは床を見る。辺りには血溜まり、出所は……その、足首。ラチカの破魔短刀とは違う、小さなナイフ。
「っ、させねぇよ……! クソガキの体だろうが、知ったこっちゃねぇ」
「おのれ……!」
ギャムシアが二本目のナイフを、もう片方の足首に投擲する。満足に動けない彼の足首は、もはや止まった的だった。悲鳴を上げながらも、彼は吠える。
「いや、まだだ! 貴様らの説得がどうであれ、私がサガリオット様の主人だ!!」
彼の懐が、再び輝きだす。しかしその光を浴びて尚、サガリオットは。
『……何を、勝手に逆転させておるか』
「……へ」
間抜けな声をあげるディグレオに、突如として降った声。サガリオットは動きを止めていた。呆然とするラチカに向き直り、申し訳無さそうに揺れる。
『すまぬな。ある程度、余の……力を削ってもらう、必要が……あったのだ。礼を言う」
「え、あ、……はい」
『先程の、謝罪も……要らぬ。むしろ、すまなかった……辛い思いを、させてしまった』
よく見ると、彼の巨体はわずかながら小さくなっていた。単純にこうやって、形が削れていくものなのか。裂けるまでに時間がかかるといった感覚なようにも感じられる。
ラチカはおずおずと、破魔短刀を抜く。するとサガリオットは、するりと空間を滑っていった。それはあくまで、自分の意志での行動に見えた。
『これほどにまで……削られれば、いざこやつが……奥の手を隠していたとしても、防ぎきれよう』
だからこそ、だったのか。芝居を打つのもそうだが、そのために。
サガリオットはその靄の身を翻し、ディグレオの元へと泳ぐように向かう。その姿を、ディグレオはわなわなと震える体で見つめる。いつもの余裕は失せていた。
『まあ、そのせいで……余では、こやつを仕留める力すらも、残ってはおるまいが……』
「な、何故……! 結界を壊すと同時に暴走させる式を!」
『有能な……神父の、おかげだ。それと』
改めて、彼はディグレオを見下ろす。体はシャイネでも、中身がディグレオだとは本能で分かったのだろう。さっきかあら辻褄は合っている。
『……その体、でなければ。確かに危なかったろう、な』
そうだ。シャイネには、エクソシストの才能が一切ない。そもそも亡霊を見て対峙する、という意味ではエクソシストもネクロマンサーも必要な才能の根源は同じだ。五感を使う以上その才能は、精神以上に肉体に依存する。
『レヂェマシュトルの、体か。強欲が……過ぎたな』
サガリオットの体が、少しずつ縮小しだしている。瞬時に浄化できていないだけで、破魔短刀自体は効いていたのだろう。このままだと、時間の問題だ。
サガリオットは、ラチカを見た。そのように、見えた。
『あの男に、礼を。……そして、そなた達に……謝罪を』
「そんな……サガリオット様……」
『……ギャムシアの、どこが間違っているのか。余には、分からぬ』
ぼそりとした、呟き。それはまず、ギャムシアには聞こえていないはずだ。ギャムシアの意識自体、朦朧としているはずだろう。彼に両足を射貫かれたディグレオは、ただ悔しそうにしてサガリオットを睨みつけている。その額には、かなりの量の脂汗が浮かんでいた。失血による疲労でも感じているのか、式を組み直そうという余裕は見えない。
サガリオットの体は、赤子程にまですでに縮んでいた。ずっと轟いている、唸り。辛いのだろう。
『……心残りでは、あった。でも、もう大丈夫だ……余は、信じる。そなた達ならば。だから、頼む』
涙が止まらない。しかし、辛いのは……自分以上に、サガリオットだ。
「……本当に、ごめんなさい」
地下室へとやってきた彼の事を、思い出す。彼は、何も悪くないのに。ただ、喚ばれただけなのに。完全に巻き込まれるだけ巻き込まれて、彼は終わってしまう。
……それでも。
「っ、く、うぅ……っ」
ラチカは破魔短刀を振りかぶった。嗚咽を零し、震えながら、靄に振り下ろす。
「や、やめろっ……!」
シャイネの時ですら、そんな焦り切った声は聴いた事がない。
黄金色の刃が、サガリオットを貫く。二分された亡霊の体は、融けるようにして消えた。
「っ、あ、あ、ああっ、ああああああああああ!!!!」
怒号。悲鳴。どちらとも言える、声。怒り狂ったかのような、やかましさ。
「よくもよくもよくも! 貴様ら!! 計画を、これでもかとっ……潰しおって!!」
ディグレオを見る。シャイネの姿でありながら、その醜態。見れたものではない。
歩み寄る。自身の体すらボロボロだ。それでも、やれる事が見つかった。今更だが、しかし今が一番いいはずだ。ディグレオの前に、膝をつく。彼はこの上無い憎しみを込め、睨みつけてきた。
「小娘ぇ……!!」
賭けだ。けれど、こうするしか思い浮かばない。
辛い事が多すぎる。だから、もしかすると思考が凝り固まってしまっているのかもしれない。しかし、ラチカには確信があった。自分の力と、そしてギャムシアの力。揃えば。
「……こんな奴なんかに、お願いだから負けないでよ」
輝く破魔短刀を、振りかぶる。サガリオットを斬ったと言えど、曇りはない。
「ラチ、カ」
「ギャムシア……ごめんね、後でよろしくね」
ラチカの目論見を察したのか、ギャムシアは力なく笑った。普段とは打って変わって、穏やかな顔だった。
ディグレオが何か口を開く前に。呪いの言葉を聞く前に。ラチカは渾身の力で、破魔短刀を振り下ろした。肉の感触が、伝わる。それはあまりにも、温かかった。
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