【R18】花嫁直前、君を侵す。

湖霧どどめ@シナリオライター

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【番外】ベールの向こう側

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 ヴェリアナ・ピオールはエヴァイアンの中でも屈指の令嬢である。国どころか大陸の中枢に関わる程の大農園、その一族直下の長女だ。一族経営で農園を切り盛りしているせいか、彼女にも幼い頃から工場が与えられていた。
 人当たりも愛想もよく、品行方正。おまけに容姿まで女としては一級品。そんな彼女は、生まれてこの方嫌われるという事が無かった。恨まれる事はあれど、気にせず生きてきた。自らの道を阻む事すら出来ない弱虫など、ヴェリアナにとって敵ではない。
 彼女は、愛される側の人間である。

「また、ですって」

 そんな彼女の周りに、友人と呼べる人間は居なかった。学舎にはエヴァイアン、ひいては他国からのごくわずかな留学生達がいるが皆基本的には有権一家の子息達である。そんな者達でも、あまりにも家が強すぎるヴェリアナにはあまり近付く気は起きなかったようだ。家に帰れば沢山の人間がいるわけなので、寂しさなどは無かったが。
 しかしそれはあくまで、彼女に対して声が掛からないだけである。

「これで何人目? もう三人?」
「違うわよ、四人。ここ二年で」
「よくやるわね」

 虫の羽音のようですらあった。ヴェリアナがひとたび視線を巡らせれば、彼女達は声をより小さくして教室から出ていく。
 ……またひとり、級友が減った。その噂だ。それはたびたび発生している。しかし毎回変わるのはその中のたった一人の登場人物だけであり、結論は毎回同じだ。
 ヴェリアナと、睦んだから。
 ヴェリアナが声を掛けて性交に及べば、数度目でその人間は必ずいなくなる。そんな噂はかなり昔から出ているのに、男の生徒は皆ヴェリアナに微笑まれれば抜け出せなくなる。その末路は分かっていても、だ。
 自身の性欲の強さは自覚している。十二歳の時伯父に女としての自覚を持たせられて以来、悪い意味で前向きに育った。

「では、本日はここまで」

 教師の号令とともに、生徒たちは皆立ち上がる。各々帰る準備を始める中、ヴェリアナもそれに倣った。
 裏庭に出る。そこには生徒たちの家の馬車が並んでいる。皆、迎えの者だ。そしてピオール家の馬車もあった。ヴェリアナは中に乗り込むと、そっと微笑む。

「終わったわ、伯父様」

 齢は五十を超えた男が、ゆったりと微笑む。醜悪な程太った体、脂ぎった顔。ただその微笑みだけが紳士のように優しく、ヴェリアナの心を捕らえて離さない。
 ミゲル・ピオールは姪の体を抱き上げて膝に乗せた。

「うむうむ、今日も励んだか」
「ええ、勿論よ」

 彼と居るこのひとときが、幸福でしかない。両親は多忙を極め、弟妹は皆幼くヴェリアナの事すらまだ認識出来ていないだろう。使用人達に囲まれてはいるが、ここまで自身に深入りしてくる身内もいなかった。
 だからこそ。

「んっ……あ、ふぅ」

 色味で言えば濁ってすらいるだろう唾液を注がれるようにして口づけられる。それだけで、ヴェリアナの内部がかき回されるようにして蕩けていく。白目すら剥いてしまいそうな心地だったが、どうにかして耐えた。

「あぅ……伯父様、どうされたの……?」
「なに、たまにはこういうのもよかろう」
「でもまだ、学校よ? 見付かると面倒だわ、あっ」
「見せつけてやればいい。お前達の麗しの君は、儂のものだと」

 そう、あの日から。身も心も、ヴェリアナはこの男のものになった。
 ピオール家では周知だ。ミゲルの妻は散々ヴェリアナを淫売だと罵って出て行ったが、ヴェリアナの両親は気にも留めていない。外聞に関わりだしてから慌てるのが目に見える。

「ふ、ふふふっ、また大きくなったのではないか」

 だぽんっ、とまるで水毬のような音を立てて揺らす膨らみにミゲルは鼻の下を延ばす。ヴェリアナの体は、もはや異質だった。同年代の女と比べ各段に育った胸と尻は、いつでも男の視線を集める。ミゲルとの再会は約一週間ぶりなのでそこまで急成長しているわけではないが、言われて悪い気は一切しない。それ以上に、欲されているという事への高揚感。

「あんっ、伯父様っ! そんな太いのっ……」
「ふふ、一瞬にしてほら、消えたぞ? まるで手品のようだ」
「だめ、谷間の奥、熱いわぁっ……!」
「ぐぬう、圧迫してくれるなぁっ……きついぞ、こんな締め付けどこで覚えた、ヴェリアナっ……」

 谷間に先走りを塗り付けるようにして、ごりごりと肉棒を押し付けてくる。ヴェリアナの白い肉は、そんな彼の肉棒をひたすらに締め付けた。鼓動の高鳴りもあって、とにかく熱い。

「いいぞぉ、いいぞぉ……達してしまいそうだっ……」
「ええ、ええ、構わなくてよっ伯父様っ!」

 その返事を聞いたかどうかすら分からない。ただミゲルは射精した。黄色みがかった汚い精液が、ヴェリアナの顔面にまで飛び散る。ヴェリアナはそれを愛おしそうに舐めとると、ミゲルは鼻息を荒くして再び肉棒を硬くした。

「ああもう、本当にお前は可愛いなぁ……戻るまでに、あともう一度いいなっ」
「もう、仕方のない」

 伯父様ね、と続けようとした。しかし絶句に呑まれる。
 ミゲルの顔は笑っていた。そのまま、固定されていた。彼の左のこめかみから右のこめかみに向けて、矢が貫通している。見えなかった。それはあまりにも一瞬だった。

「おじ」

 かくん、と。その形相のまま首が倒れる。目から、耳から、口から、血が垂れた。
 ヴェリアナの悲鳴が、轟いた。



 少年は弓を置いた。手製のもので、通常の矢よりも数倍の速度で射出出来る。それは即ち、単純に威力を上昇させたという事である。
 この学舎において一番権力を持っているに等しい彼は、確かな手ごたえを感じていた。確実に、あの男は死んだだろう。死んでいないわけがない。

「……ふぅ」

 バレる事は無い。矢に触れる時も指紋を残さぬよう、細心の注意を払った。使用人にやらせても本当は良かったが、自分がやらねばならないと……どこか歪んだ責任感だった。
 慌てて馬車を開けたヴェリアナの目が、こちらを捉える。距離はわずかだ。この弓の欠点でもある。
 ああ、やっと。やっと、見てくれた。

「コーマス・エヴァイアン……!」

 彼女の淫猥さは噂には幾度となく聞いていた。しかし彼はずっと昔から彼女を知っていた。ピオール家の令嬢、即ち自身の結婚相手に相応しいと。彼女の存在を知ってからずっと、彼女の事を考えていた。それは打算から始まったものの、確かに恋だった。
 深窓から眺めていた、あの美しさ。穏やかな微笑み。成長途中とはいえ色気を匂う程放つ体。同じ学舎に居ながらも、距離があるせいでなかなか手を取れなかった。

「俺の名前を、知っているのか」

 知らぬ事はないだろう。ただ顔と名前が一致しているかと言えば別だ。内心、歓喜が止まらない。ああつまり彼女の意識の中に……自分が、居たという事。

「よくも伯父様をっ……! 何故!」

 怒りが滾っているのだろう。泣きながらこちらを責め立てるヴェリアナに、近付く。馬車に触れる程近付き、あくまで冷徹に口を開く。

「この学舎の中でそんな破廉恥な事をされては、国として困るというだけだ。他国からの留学生も居るというのに、外聞に関わる」
「だからって! 殺すだなんて、それも国主の子息が……お笑いだわ!」
「ああそうだろうな。でも俺はあくまで、この学舎の正義に則っただけだ」

 彼女の手が、コーマスの手を掴む。初めての触れ合いが、こんなにも殺気立っているとは。それでもコーマスは何も言わず、ヴェリアナを見た。
 ……ああ、美しい。怒りで咽び泣く姿すらも。

「言ってやるわ、貴方の仕業だとっ」
「お前、矢に触れたな?」

 唐突な問いに、ヴェリアナは目を見開く。しかしすぐに悟ったのだろう、顔の血色が一瞬で引いていくのが見えた。そんな彼女の体を、そっと抱き寄せる。
 それは明確な脅しだ。ヴェリアナの硬く握り込まれた拳に、爪が潜り込む。しかしそれ以上に、その顔は強張っていた。コーマスはそれに気付きながら、囁く。

「……こいつがどこかで恨みを買っていて、たまたまそいつにこの場で特定されて殺害された。それでお前が固めろ。それなら、お前の指紋も俺が庇い建てしてやる」
「姑息だわ」

 ヴェリアナの呆然とした呟きに、コーマスは頷く。

「欲しいものは、手に入れたいからな」

 そっと、体が離れた。あくまでコーマスの表情は変わらない。ヴェリアナはそんな彼を見上げながら、吐き捨てるように言った。

「いつか、私が貴方を殺すわ」

 その時初めて、コーマスは笑った。



 コーマス・エヴァイアンは嫉妬深い。そして特定のものへの執着心も強い。それは嫁いでから散々思い知らされた。ミゲルの殺害も、あくまで手段だったのだと。
 彼が国主になるために施した工作は沢山ある。彼はそのすべて一つ一つ、自らが必ず手をくだした。「せめてものけじめだ」と彼は言った。傲慢だと思う。
 彼の二人の兄。ミゲル。少なくともヴェリアナを手に入れる為、三人が犠牲になった。
 元々国一番の大農園の令嬢を娶りたい、というのは国主側からすればあくまで自然な事である。その話自体はヴェリアナも知っていた。ただ、相手の決定がまだ無かっただけで。

「あぅぐ、ああ……」

 囚人を繋ぐ地下牢にコーマスが下りるのは、月に一度。国主になっても、そして世継ぎが生まれても、それは絶対に欠かさない。それは彼自身が国の暗部を管理すべきだと考えているからに他ならない。息子とヴェリアナが寝付いてすぐに、コーマスは歩き出した。
 じっとりと湿った空気。彼がかつて使用人や妹を折檻するために使っていた牢とは別方向。そこに進めば、彼の積み上げた罪の原点が呻きを上げている。

「おぅぐ、ぐぐ」

 次兄はラチカが輿入れする直前に亡くなった。栄養失調だった。結局ラチカと会わせる事はかなわなかったが、それで良かったのだ。彼女は存在すら知らないのだから。
 両親は二人がとうに死んだと思っている。二人そろっての馬車の事故だ、と。実際コーマスは殺したつもりだった。しかし、生き延びていた。そこで自覚したのだ。
 ……これが、枷なのだと。野望のため兄二人を手にかけようとした、罰なのだと。

「兄上」

 ホーメット・エヴァイアンが唸り声を絶やす事なくコーマスを見上げる。彼の四肢は半端にちぎれ、顔面も半分千切れている。馬車に曳かれればこうなるのも道理だが、何故あの時死に切れさせてあげられなかったのか……内心、奥底から悔やんでいる。
 彼はもうきっと、コーマスの事も分かっていないだろう。脳はいくつか削れているとの事だった。

「私達の妹がロドハルト入りし、もうそろそろ一年が経とうとしています」

 身内なのに、他人行儀。そうだ、もう身内としての認識すらも捨てざると得なかった。
 すべては、国主となるために。
 ひとりの女を娶るために国を手に入れるのが最速の道など笑わせる。ヴェリアナという女の価値の重さは、本人の意志すべて無視した上で決定されていた。しかし結局、それを踏まえた上で彼女を手に入れたかったのは他ならぬ自分だ。

「……ああ、私は………俺は」

 罪の重み。国を治める重み。あらゆる重みを背負ってでも。かなわないのだ、彼女を傍に置き愛してもらえる幸福への渇望には。
 ヴェリアナの殺意を浴びて尚。そして彼女を、あらゆる暴力を駆使し懐柔しても尚。それでもコーマスは、彼女を離したくないし逃げる事も許されない。

『私、貴方の事が好きになってしまったわ』

 初めてコーマスと褥をともにした日、ヴェリアナはそう言った。泣きながら、コーマスの顔の横に突き刺した短剣を震えた手でつかみながら。

『ええ、貴方の事が好きよ……愛しているわ』

 言い訳に過ぎない。結局彼女は自分中心で、いつだって自分の精神を守る事だけを考えている。しかしコーマス自身それを知っていたからこそ、手段さえ取れば懐柔が容易だったのも事実で。
 何度も彼女を傷つけた。跡を残した。彼女に後戻りする道を見せないようにすることで、進ませる事に……堕とす事に成功した。

「俺は……最低です」

 一人の男の懺悔は、うめき声にかき消された。
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みんなの感想(1件)

ふれんどりっち
ネタバレ含む
2019.01.21 湖霧どどめ@シナリオライター

感想ありがとうございます。
もう本当そうなる未来しか想像つかないですね…。多分他のよく知らない男とかならラチカもきちんと断るんでしょうけれど、やっぱり「シャイネだから」ってところはどうしてもあるという感じです。そしてシャイネもそこにつけこんでる腹黒さがあるという。
とりあえずギャムシアには頑張って欲しいです(まるで他人事

解除

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