人生最後の居酒屋でガオと一皿

かぎのえみずる

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episode1-2 親子丼

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茶碗ちゃわん洗い終わったよ、名無しちゃん」
「おう、ガオ。ありがとうな」

 ガオは煙草たばこ休憩きゅうけいをしている名無しに声をかければ、隣に座る。
 その横にはもう一人煙草休憩している男がいた。
 名札にはアップルと書かれていて、はねっ毛のふわふわした髪質をした美形だった。
 アップルは鋭い目で、つまらなそうな欠伸をした。

「目が腫れてる。泣いたのか、つまらん」
「アップル、よせよせ。ガオは優しいんだ」
「だからつまらなかったのだ。どうせならあの客飯がまずく感じていたらよかったものを」
「そんなこと言っちゃだめだよ! ばか!」
「どうしてだ? 見たところ老人だったのだろう、ひと思いに天国にいったほうが、楽だっただろう」
「……そうだね、死にかけたとき居酒屋にやってきてご飯がまずく感じたら、天国に行ける。美味しかったら奇跡が起きて命が延命。それが此処ここのルール。俺たち以外はね。
 でも、あの人にはまだまだいてもらいたいって人がいっぱいいたんだきっと」
「本当にそうか? きっとあの男の家族は苦労するぞ。ガオは何も知らないからそんなことをいえる」
「アップル、お前も知らないだろう」
「オレは知らないままでいいんだ、名無し。無駄むだ知識ちしきだ」

 アップルの密やかな酷薄こくはくな笑みに対しても、ガオは睨み付けながらぷいっと顔をそらした。
 そんなことをすればするほどアップルは喜ぶのに、と名無しは呆れる。

 アップルは虐めてるだけなのだ。気になる子を。
 無意識なだけかはわからないが、明確なのはとにかくアップルはガオを気に入っている。
 ガオの泣き顔は、大好物なのだ。とくに、まずい飯を食べて天国行きを確定した客を見たときのガオは。

 (子供かねえ……)
 
 なだめようと名無しが声をあげようとするまえに、ガオは休憩がてら作ったガーリックラスクを二人に差し出しながら、胸を張った。

「大丈夫だよ。必要とされた末の苦労なら。きっと報われる。たくさん苦労があるのはあの人だけじゃない。
 それでも苦労してきた人たちはあの人を求めたんだ。なら、きっと。大丈夫」
「……っち、本当につまらんな」
「なあんだよ、アップルう! 泣かせようとしたって無駄だぞお、もう前みたいな泣き虫な俺じゃないんだからな!」
「それは残念だ。そうだ、どうせなら今晩確かめてみるか。それは丁寧ていねいに優しく、泣かせてやるぞ……?」
「? なんかよくわかんないこといってるう」
「せっかくの口説きも形無しだなアップル。ルドルフに言いつけてやろう」
「それはやめてくれ。姫の掃除そうじ当番にされてしまう」
「姫なあ。眠り姫さまも。いつ起きるのやら」

 ガオは皆の話題に出たクリスタルの中に眠る少女をちらりと見やる。
 名無しもつられて見遣り不思議な気持ちになる。
 このクリスタルの中で眠り続けている少女を、ずっとずっと庇護してやりたいと思ってしまう。
 誰よりも幸せでないと許せないとかんじるほどの。
 それが何故かはわからない。

 ただ分かるのは。

 この店の店員は全員、現世やあの世に行く気がないという事実。
 それでも、店で働くと決めたときに。この居酒屋を作った天国の管理者が教えてくれた。
『眠り姫が起きれば貴方たちを天国へ案内してくれるだろう』と。

 さて、次のお客様はどんな人なのかと、ガオは目を閉じ想像し。
 その末に想像したご飯に、お腹を鳴らすと名無しに笑われ撫でられた。

(俺、待つよ。父ちゃんが……ご主人様が、くるまで。天国に行くのがまんするんだ)

 
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