5 / 5
episode3-2 ビシソワーズ
しおりを挟む
とりあえず、とガオは男を風呂に案内し、もこもこの服装で汚れていた服を洗濯してやり。
乾燥機にかけ乾く頃には男は風呂上がりでさっぱりしていて。
不思議そうに瞬いていた。
「居酒屋……か? 俺はいつのまに日本に……?」
「日本のような日本じゃないような!」
「そうか……腹減ったな、金はあまりねえが大丈夫なのか」
「大丈夫! ご注文は何にしますか」
「居酒屋でいうような注文じゃあねえのかもしれねえが、ビシソワーズってあるかい……」
「あるよお、ねっ、アップル!」
「ないです、一切じゃがいもなんてありません。そいつから離れろガオ」
「こら! あるだろ! つくれ!」
「っち、面倒なものを。今作るから待ってろ」
アップルが作る準備をしている間に、ガオは男の話し相手となるべく、隣に座り込んだ。
隣に座り込んできたガオに男は嫌な思いをするわけでもなく、むしろ安心した。
どこかこの少年には暖かさをかんじる。
「おにーさん、なにをしてる人なの?」
「俺かあ。俺は登山家だよ。すっげえ山に挑戦するんだ」
「ああいいねえ! 山好きだよ俺も! きのこおいしいよねえ」
「はは、きのこだけが山の良さじゃねえぞ、すげえ偉大でな。言葉に出来ねえんだ」
「そっかあ……景色が好きなの?」
「わかんねえ。なんでだかは、わかんねえ……。今はわかんねえんだ」
「そうかあ」
そこからガオと男は話し込み、中学時代の初恋や、大学時代のサークルはなしまでしていく。
そこから妻の話となっていった。
「うちの奥さんが美人でなあ」
「いいなあ!」
「とても好きで好きで。でも別れちまったんだ、子供もいる。だがもう会ってくれねえんだ」
「えっ、どうして」
「養育費を滞納したから。山の方に金をかけるのに精一杯だったんだ」
「えー……そんなに好きだったの?」
「ああ、でも。不思議だな、いつも辛いときは嫁と初めて一緒にデートしたたっけえ店のビシソワーズを思い出すんだ。
緊張して味もおもいだせねえのに」
「それほどすきだったんだね!」
「そうだな、そうだ」
男の話し込んだ後に、アップルがそっと器を置いて。スプーンを差し出した。
アップルの眼差しが疎んでいるのにもかかわらず、悪い気はしなかった。
男はスプーンをもらい、いただきます、とスープを頂くとぽろぽろ涙した。
「ああ。ああ……なんてことだ」
「……まずかった?」
「いや、あのときの味が想像の通りだった……そうか、そうかあ。こういう、味だったんだな……今度はうまい」
男はずずっと器ごと手のひらで煽り、皿を斜めにしてスープをごくっごくっと飲んだ。
「マナーがないな。ふられて当たり前だ」
アップルの皮肉は、どこか生ぬるい暖かい声で。
男は満面の笑みで消えた。
*
ざざ、っざざ。
目が覚めたのはテントの中。
テントの中で、数人は凍えている。
自分も凍え死ぬところであったはずだ、現に指先は白みを超えて紫色だ。
でも不思議だ、腹は満たされている。
空きっ腹であるはずなのに、生きる意欲がわいている。
まだまだ死ねないと、男は両手で顔をはたき気合いを入れ、そこから忍耐強く救助を待った。
――数日後、新聞には奇跡の生還、と見出しが載ってあり。
そこからビシソワーズがはやったという。
乾燥機にかけ乾く頃には男は風呂上がりでさっぱりしていて。
不思議そうに瞬いていた。
「居酒屋……か? 俺はいつのまに日本に……?」
「日本のような日本じゃないような!」
「そうか……腹減ったな、金はあまりねえが大丈夫なのか」
「大丈夫! ご注文は何にしますか」
「居酒屋でいうような注文じゃあねえのかもしれねえが、ビシソワーズってあるかい……」
「あるよお、ねっ、アップル!」
「ないです、一切じゃがいもなんてありません。そいつから離れろガオ」
「こら! あるだろ! つくれ!」
「っち、面倒なものを。今作るから待ってろ」
アップルが作る準備をしている間に、ガオは男の話し相手となるべく、隣に座り込んだ。
隣に座り込んできたガオに男は嫌な思いをするわけでもなく、むしろ安心した。
どこかこの少年には暖かさをかんじる。
「おにーさん、なにをしてる人なの?」
「俺かあ。俺は登山家だよ。すっげえ山に挑戦するんだ」
「ああいいねえ! 山好きだよ俺も! きのこおいしいよねえ」
「はは、きのこだけが山の良さじゃねえぞ、すげえ偉大でな。言葉に出来ねえんだ」
「そっかあ……景色が好きなの?」
「わかんねえ。なんでだかは、わかんねえ……。今はわかんねえんだ」
「そうかあ」
そこからガオと男は話し込み、中学時代の初恋や、大学時代のサークルはなしまでしていく。
そこから妻の話となっていった。
「うちの奥さんが美人でなあ」
「いいなあ!」
「とても好きで好きで。でも別れちまったんだ、子供もいる。だがもう会ってくれねえんだ」
「えっ、どうして」
「養育費を滞納したから。山の方に金をかけるのに精一杯だったんだ」
「えー……そんなに好きだったの?」
「ああ、でも。不思議だな、いつも辛いときは嫁と初めて一緒にデートしたたっけえ店のビシソワーズを思い出すんだ。
緊張して味もおもいだせねえのに」
「それほどすきだったんだね!」
「そうだな、そうだ」
男の話し込んだ後に、アップルがそっと器を置いて。スプーンを差し出した。
アップルの眼差しが疎んでいるのにもかかわらず、悪い気はしなかった。
男はスプーンをもらい、いただきます、とスープを頂くとぽろぽろ涙した。
「ああ。ああ……なんてことだ」
「……まずかった?」
「いや、あのときの味が想像の通りだった……そうか、そうかあ。こういう、味だったんだな……今度はうまい」
男はずずっと器ごと手のひらで煽り、皿を斜めにしてスープをごくっごくっと飲んだ。
「マナーがないな。ふられて当たり前だ」
アップルの皮肉は、どこか生ぬるい暖かい声で。
男は満面の笑みで消えた。
*
ざざ、っざざ。
目が覚めたのはテントの中。
テントの中で、数人は凍えている。
自分も凍え死ぬところであったはずだ、現に指先は白みを超えて紫色だ。
でも不思議だ、腹は満たされている。
空きっ腹であるはずなのに、生きる意欲がわいている。
まだまだ死ねないと、男は両手で顔をはたき気合いを入れ、そこから忍耐強く救助を待った。
――数日後、新聞には奇跡の生還、と見出しが載ってあり。
そこからビシソワーズがはやったという。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる