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十三・視察旅行
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紅葉が山々を彩りはじめる神無月。本格的な冬に入る前に、父と兄の二人で領地視察に行くというので、ニエルも付き添うことになった。跡取りはアルノーではあるけれど、代役として頼まれないとも限らない。だから極力、どう領民と接しているのか間近で見て覚える必要があった。運転手が正門に電気自動車を停止させたので、荷物を積み込み出発した。
東に位置する港町に到着したのは三時間後。ここは父親の弟、ニエルの叔父であるガルフィオン子爵が管理を任されている。十歳になる従姉妹と顔を合わせるのは三年振りだ。
「ごきげんよう、アルノーにいさま、ニエルにいさま」
「大きくなったね、フレデリカ」
まだ社交界デビューはしていないというのに、フレデリカはスカートを上手に持ち上げて挨拶した。小さな淑女だ。そんな従姉妹に、ニエルは事前に用意していた、紺色のスーツに赤い蝶ネクタイをしたうさぎのぬいぐるみを渡すと、フレデリカは嬉しそうに抱きついた。
「最近、なにが流行っているか教えてくれないか?」
「ええ、もちろん! ちまたでは、潮風プリンが飛ぶように売れてますわ」
「潮風プリン?」
「賞味期限はなんと三日! でもとっても美味しい、青くて綺麗なプリンですわ」
三年前にニエルが遊びに来た頃にはまだなかった。人気商品ならば一度味わってみたい。
「兄さん」
「うん。買いに行っておいで」
「ありがとう。フレデリカ、店の場所を教えてくれるか?」
「案内しますわ!」
「助かるよ」
「いいえ。可愛いお人形のお礼ですの!」
五つ年下の妹が幼かった頃に、うさぎのぬいぐるみを贈ったことがあった。ドレスを着たものは持っているだろうからと、わざとスーツを着た方を選ぶと、それが受けたのだ。フレデリカにも刺さったのでホッとする。
「どうしてニエルにいさまは、わたしの好きなものがわかるの?」
「うーん、むかし、フレデリカのような子が近所に住んでいたからかな?」
「わたくしと同じ趣味とは、その方も素晴らしいセンスの持ち主ですわね」
「ぷっ、ははは、確かにそうかも……!」
前世の妹だとは言えなかったが、自信満々なフレデリカを見ていると、妹と重なる部分があったので思わず吹き出してしまった。
フレデリカに案内された菓子店の潮風プリンを買いに行くと、あと少しで売り切れと言うくらい大盛況していた。家で待つ家族の分を購入し、そのうち二つはイートインスペースで食べることにした。青い見た目をしているのに、卵の優しい味がするので不思議だ。甘い物好きなユージンに土産として買いたくなった。帰る前にもう一度立ち寄り、留守番している従業員の分を含めて持ち帰るために、予約できるかどうか聞くとできるというので事前に注文することにした。
***
二泊三日の視察旅行からニエルだけ一足先に戻ると、行く前は元気だった家令の顔が心なしか窶れている気がした。たった二日見ていないだけでこうも変わってしまうだろうか。
「お……おかえりなさいませ、ニエル様」
いつもならば、ずらりと十数人は並んで出迎えるはずの従業員も、一人、二人と数えられる程度しかいない。
「なにがあったんだ?」
「一昨日、とある侯爵家より差し入れして頂いた生牡蠣を従業員で食したところ、ほぼ全員があたってしまいまして……」
「え、牡蠣に当たるとか、大丈夫なのか?」
「何名かは入院になりましたが、快方に向かっております」
ニエルはそもそも牡蠣を食したこと自体ないので人から聞いただけだが、嘔吐と激しい下痢、腹痛に襲われ身動き取れなくなるほど大変だということは知っている。
「それならよかったけど……でも、顔色がよくないな。休まなくて平気か?」
「私はなんとか……しかし、このままでは手が足りないので、私の独断で臨時の従業員を何名か雇いましたが、差し支えないでしょうか」
見知らぬ面々が出入りしていることには気づいていた。事情を知って納得する。
「もちろん。一任するよ」
「承知しました」
「俺もできることは手伝うから、なんでも言ってほしい」
「いいえ、お坊ちゃんは視察の疲れもありますから、部屋でゆっくりおくつろぎください」
「そういうわけにもいかないよ。あ、そうだこれ、土産のプリンで日持ちはしないから、平気そうな従業員がいたら食べさせてほしい」
「かしこまりました」
自室に荷物を置きに行くと、紙袋に入れたままのユージンへの土産が視界に入る。潮風プリンの他に青いクッキーも買っていた。さすがに今は行けないので、明日以降、落ち着いたら渡しに行くことにした。
東に位置する港町に到着したのは三時間後。ここは父親の弟、ニエルの叔父であるガルフィオン子爵が管理を任されている。十歳になる従姉妹と顔を合わせるのは三年振りだ。
「ごきげんよう、アルノーにいさま、ニエルにいさま」
「大きくなったね、フレデリカ」
まだ社交界デビューはしていないというのに、フレデリカはスカートを上手に持ち上げて挨拶した。小さな淑女だ。そんな従姉妹に、ニエルは事前に用意していた、紺色のスーツに赤い蝶ネクタイをしたうさぎのぬいぐるみを渡すと、フレデリカは嬉しそうに抱きついた。
「最近、なにが流行っているか教えてくれないか?」
「ええ、もちろん! ちまたでは、潮風プリンが飛ぶように売れてますわ」
「潮風プリン?」
「賞味期限はなんと三日! でもとっても美味しい、青くて綺麗なプリンですわ」
三年前にニエルが遊びに来た頃にはまだなかった。人気商品ならば一度味わってみたい。
「兄さん」
「うん。買いに行っておいで」
「ありがとう。フレデリカ、店の場所を教えてくれるか?」
「案内しますわ!」
「助かるよ」
「いいえ。可愛いお人形のお礼ですの!」
五つ年下の妹が幼かった頃に、うさぎのぬいぐるみを贈ったことがあった。ドレスを着たものは持っているだろうからと、わざとスーツを着た方を選ぶと、それが受けたのだ。フレデリカにも刺さったのでホッとする。
「どうしてニエルにいさまは、わたしの好きなものがわかるの?」
「うーん、むかし、フレデリカのような子が近所に住んでいたからかな?」
「わたくしと同じ趣味とは、その方も素晴らしいセンスの持ち主ですわね」
「ぷっ、ははは、確かにそうかも……!」
前世の妹だとは言えなかったが、自信満々なフレデリカを見ていると、妹と重なる部分があったので思わず吹き出してしまった。
フレデリカに案内された菓子店の潮風プリンを買いに行くと、あと少しで売り切れと言うくらい大盛況していた。家で待つ家族の分を購入し、そのうち二つはイートインスペースで食べることにした。青い見た目をしているのに、卵の優しい味がするので不思議だ。甘い物好きなユージンに土産として買いたくなった。帰る前にもう一度立ち寄り、留守番している従業員の分を含めて持ち帰るために、予約できるかどうか聞くとできるというので事前に注文することにした。
***
二泊三日の視察旅行からニエルだけ一足先に戻ると、行く前は元気だった家令の顔が心なしか窶れている気がした。たった二日見ていないだけでこうも変わってしまうだろうか。
「お……おかえりなさいませ、ニエル様」
いつもならば、ずらりと十数人は並んで出迎えるはずの従業員も、一人、二人と数えられる程度しかいない。
「なにがあったんだ?」
「一昨日、とある侯爵家より差し入れして頂いた生牡蠣を従業員で食したところ、ほぼ全員があたってしまいまして……」
「え、牡蠣に当たるとか、大丈夫なのか?」
「何名かは入院になりましたが、快方に向かっております」
ニエルはそもそも牡蠣を食したこと自体ないので人から聞いただけだが、嘔吐と激しい下痢、腹痛に襲われ身動き取れなくなるほど大変だということは知っている。
「それならよかったけど……でも、顔色がよくないな。休まなくて平気か?」
「私はなんとか……しかし、このままでは手が足りないので、私の独断で臨時の従業員を何名か雇いましたが、差し支えないでしょうか」
見知らぬ面々が出入りしていることには気づいていた。事情を知って納得する。
「もちろん。一任するよ」
「承知しました」
「俺もできることは手伝うから、なんでも言ってほしい」
「いいえ、お坊ちゃんは視察の疲れもありますから、部屋でゆっくりおくつろぎください」
「そういうわけにもいかないよ。あ、そうだこれ、土産のプリンで日持ちはしないから、平気そうな従業員がいたら食べさせてほしい」
「かしこまりました」
自室に荷物を置きに行くと、紙袋に入れたままのユージンへの土産が視界に入る。潮風プリンの他に青いクッキーも買っていた。さすがに今は行けないので、明日以降、落ち着いたら渡しに行くことにした。
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