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十四・緊急事態!?
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視察から戻った翌々日。本日は、前々から一日、家にいてほしいとユージンから頼まれていた日でもある。だから予定を入れないように調節していた。どうして出かけて欲しくないのか理由は話してもらえず、わけがわからないが視察とかぶらないようにしていた。
「しまった……潮風プリンの賞味期限、今日までだった」
自己満足だろうとも、せっかく土産を買ったのだから渡したい。しかし、従業員の大半はまだ本調子ではなく、少ない人員で回しているため忙しくしている。炊事、洗濯、広い館内の清掃と庭園の管理、家畜の世話など右往左往している。土産を届けたいという、個人的な理由だけで貴重な人材は割けない。
(ちょっとくらいならいいか)
アイアンズ家に届けてすぐに帰るなら平気だろう。寄り道したくなる気持ちを抑え、ニエル自ら届けに行くことにした。
「坊ちゃん。おでかけですか?」
身支度をして出ようとしたところで家令に声をかけられる。
「ああ、土産を届けにアイアンズ家に行ってくる」
「それならば、わたくしが参ります」
「いや。すぐ行って帰ってくるから大丈夫だよ」
「では、護衛をつけます」
館内を警備しているものから何名かつけようとしたので慌てて断った。ただ土産を届けるだけなのに、ぞろぞろ何人も引き連れて歩いていたら注目を浴びてしまう。ガルフィオン家の次男坊は、散歩にまで護衛が大勢付き添うのだと、噂話されるものならばたまったものではない。
「それも心配いらないって。ユージンのところは遠くないし、まだ日中だから変な輩もいないよ」
「ですが……」
「護身術なら習っているし、いざとなったら返り討ちにするさ」
「くれぐれもお気をつけください」
一応、腰に差している短剣を見せるとようやく納得してもらえた。さっさと行ってさっさと戻ってくるつもりで家を後にした。
アイアンズ家までは徒歩で十分と近い。ガルフィオンの所有する洋館の数倍広い敷地面積を誇るため、従業員の数も三倍はいるだろう。警備兵に挨拶をしてから立派な門扉に足を踏み入れる。しばらく小道を歩いていると、背後から誰かが近づく気配がした。てっきりユージンだと思ったニエルが振り返ると、そこにいたのは深くフードをかぶった見覚えのない誰かだった。
「ニエル・ガルフィオンだな?」
「んん?」
いきなり名前を呼ばれ、ニエルは戸惑う。背はそれほど高くないが、紛れもなく男の声だ。その距離は約十メートル。しかし、その声には全く聞き覚えがなく、面識があるとは到底思えない。
「……誰だ?」
警戒心を露わにしたニエルの問いかけに、男はフードの奥から憎悪に満ちた目を光らせた。
「ユージン様というものがありながら、二股、三股している恥知らずめ!!」
男はそう叫びながら、隠し持っていた刃物を勢いよく取り出した。それは、太陽の光を反射して鈍く光る銀色のナイフだ。刃物で襲われた場合の対処法は頭に入っている。咄嗟に真横に逃げようとした、そのとき。
「ニエル──!!」
焦燥を含んだ叫び声が、邸宅の方角から響き渡った。振り返ると、ユージンが信じられないほどの速さでこちらに向かって走ってくるのが見えた。彼は迷うことなくニエルを庇うように、その身を躍らせた。
直後、鈍い音が響き、ニエルの目の前で信じられない光景が繰り広げられた。男の握ったナイフが、ユージンの腹部に刺さったのだ。
「ユージン……!」
ニエルの心臓が凍りついた。目の前で起きた出来事が信じられず、思考が完全に停止する。ユージンの顔は苦痛に歪み、蒼白になっている。
(あ、あり得ないだろ!?)
驚愕と混乱で、ニエルの頭の中は真っ白になった。チートキャラのはずのユージンがなぜこんな場所に? そして、なぜユージンが身を挺して庇った? 理解を超えた事態に、体が強ばってしまう。
ユージンの体が大きく震えている。恐る恐る視線を落とすと、ユージンの白いシャツがみるみるうちに赤く染まっていくのが見えた。脇腹からは、血が大量に流れている。鮮血が地面に滴り落ち、あたりには鉄錆びのような匂いが立ち込める。
「ユージン……なんで……!?」
掠れた声で問いかける。ユージンの顔は苦痛に歪み、額には脂汗が滲んでいる。それでも、彼はニエルを安心させようとするかのように、優しく微笑んだ。
「ニエル、無事……? よかった……」
自分の心配よりもまずニエルの安否を気遣うユージンの言葉に、ニエルの胸は締めつけられるような痛みに襲われた。彼の目は朦朧とし、今にも意識を失いそうだ。
「ユージン様!」
「早くそいつを捕まえろ!」
「ハッ!」
ようやく事態を把握したらしい護衛騎士のフランクや警備兵たちが、一斉に男を取り押さえようと動き出す。地面に落ちたナイフを蹴とばす。男は抵抗する間もなく、あっという間に取り押さえられた。しかし、男の目は増悪に満ちたままだ。ニエルを睨みつけている。
「覚えていろ! ニエル・ガルフィオン! お前のような男は、ユージン様には相応しくない!」
そう叫びながら男は警備兵たちに引きずられ、連行されていった。
「俺よりも自分の心配しろよ!」
「平気だよ、こんなの。ああ、君が無事でよかった……」
どうして痛い思いをして、自分が腹を刺されているのに心底安心したような表情をしているのか。穏やかに微笑んでいるユージンが、一体なにを考えているのかニエルには理解できない。
止血するために、偶然持っていたタオルをユージンの腹部に押し当てる。真っ白かったタオルがどんどん赤く染まってゆく。
「ユージン様、すぐに治療致します」
「いい。傷の手当てはニエルにお願いする。それより、不届き者をきちんと捕らえておくように」
「バカ! 腹から出血してるんだぞ!? フランクさん、すぐに医師を呼んでください!」
「わかりました!」
護衛騎士のフランクは、医師を手配するために急いだ。どうやら演習場に常駐しているらしい。
「ニエル。僕と一緒に来てくれるよね?」
「待て、手当てが先だ!」
「部屋でなら受けるよ」
「はあ……。仕方ないな」
その場に待機している警備兵に、ユージンの私室へ戻ることを告げる。フランクと医師に言付けしてくれるだろう。
「ほら、行くぞ」
「うん。ありがとう。ちょっとだけ、肩を貸してくれると助かる」
放り投げてしまった紙袋を拾い上げ、傷の手当てをするためにユージンを連れてアイアンズ家の大豪邸に向かった。
時折、顔を顰めるので傷は痛そうだが、意識を失うことなく、しっかりした足取りをしている。二階にあるユージンの部屋までゆっくり歩く。足並み揃えている最中、拗ねた口調で尋ねられた。
「ニエル。家にいてってあれだけ頼んだはずなのに、どうして出ちゃったの?」
案の定、質問されてしまった。絶対聞かれると思った。
「……土産を届けたかったんだよ」
「土産?」
「うん。甘いの好きだろ? 視察に行った先で珍しいなと思ったから、おまえに買ったんだ」
「……そっか」
正直に経緯を打ち明けると、ユージンはそれ以上なにも言わなかった。
部屋に到着してから、そういえば今日は異様に人が少ないことに気づく。
「どうしてあまり人がいないんだ?」
警備はちらほら見かけるのに、他の従業員とはすれ違わなかった。普段ならば清掃個所が多いからか、働いている姿を目にするのに珍しい。もしかして、うちと同じ事情だろうかと質問すると、まったく異なる理由だった。
「……リフレッシュ休暇だよ」
「え、そうなのか」
ガルフィオン家と同じように食中毒が起ったわけではなく、半数の従業員に特別休暇を与えているのだと知る。月に一度あるという。
「ニエルさえよければ、今日は君が看病してくれないかな。きっと熱が出ると思うし」
「暇だからいいけど……」
「よし。それなら、そのお土産を食べさせてほしいな」
「はいはい。でも、先に傷の手当てをしてからだ」
「えー?」
「えー、じゃない。いうことを聞かないなら食べさせないからな」
「ごめんごめん。ちゃんと聞くよ」
寝台に座らせ服を脱がせると、血が出たわりに傷口はそこまで広がっていなかった。血も止まっているし、これなら縫わなくてもよさそうだ。
扉をノックする音が響く。
「ユージン様、ニエル様。失礼します」
「どうぞ」
フランクが手配した医師の診察がはじまる。ニエルの意見と同様で、縫合する必要はないと言われる。手当ての方法を伝授してもらい、実践する。褒められる。痛み止めを処方した医師は、そそくさと退室した。
「これでよし……と。痛くないか?」
「大丈夫だよ。それより早く」
「わかったって。あ、紙袋を放り投げたから、中身がぐちゃぐちゃだな……。クッキーも割れてるし。悪い、また今度買ってくる」
紙袋から取り出し確認すると、容器は割れておらず無事だったが、ゆるいプリンなので混ざってしまっていた。クッキーも半分に割れている。これでは食べさせられない。
「そのくらい構わないよ」
「え? でも、見た目、よくないぞ?」
「咀嚼して腹に入れたら同じでしょ」
「元も子もないことをいうな!」
食べさせてほしいと懇願するので、仕方なく瓶の蓋を開けてスプーンですくった。形が崩壊した潮風プリンをユージンの口元に運ぶ。
「うん。美味しいね」
「そうか? ならよかった」
「ニエルが食べさせてくれたから、百倍美味しいよ」
「な、なに言ってるんだよ。ふざけるなら、あとは自分で食べな」
そう言い放つと、ユージンはいきなり腹部を抑えて身を縮めた。
「いたたたたた、ニエルが食べさせてくれないと、腹が痛いな。痛いなー!」
「……ユージン」
「食べさせてくれるって、さっき約束したよね?」
「……ほら」
「やったー」
ユージンの粘り勝ちだった。最後の一口までニエルが食べさせた。
「プリンだけだと腹減るだろ。なにか作って来ようか?」
「作ってくれるの?」
「簡単なものでいいなら、な。ちょっと待ってな」
一階の調理場に行くと、誰もいなかったので食材と道具を勝手に借りてチーズリゾットを作った。家とは違うので心配したが、なんとか完成させられた。ユージンは残さず完食した。
夜になると刺された影響からか高熱が出たけれど、ニエルが一晩中、看病したことが功を奏したらしく朝方にはすっかり下がっていた。続々と出勤してくる従業員にあとは任せ、ニエルは足早に帰宅した。フランクが気を遣って、ガルフィオン家に連絡を入れてくれていたので、朝帰りをしても怒られることはなかった。
「しまった……潮風プリンの賞味期限、今日までだった」
自己満足だろうとも、せっかく土産を買ったのだから渡したい。しかし、従業員の大半はまだ本調子ではなく、少ない人員で回しているため忙しくしている。炊事、洗濯、広い館内の清掃と庭園の管理、家畜の世話など右往左往している。土産を届けたいという、個人的な理由だけで貴重な人材は割けない。
(ちょっとくらいならいいか)
アイアンズ家に届けてすぐに帰るなら平気だろう。寄り道したくなる気持ちを抑え、ニエル自ら届けに行くことにした。
「坊ちゃん。おでかけですか?」
身支度をして出ようとしたところで家令に声をかけられる。
「ああ、土産を届けにアイアンズ家に行ってくる」
「それならば、わたくしが参ります」
「いや。すぐ行って帰ってくるから大丈夫だよ」
「では、護衛をつけます」
館内を警備しているものから何名かつけようとしたので慌てて断った。ただ土産を届けるだけなのに、ぞろぞろ何人も引き連れて歩いていたら注目を浴びてしまう。ガルフィオン家の次男坊は、散歩にまで護衛が大勢付き添うのだと、噂話されるものならばたまったものではない。
「それも心配いらないって。ユージンのところは遠くないし、まだ日中だから変な輩もいないよ」
「ですが……」
「護身術なら習っているし、いざとなったら返り討ちにするさ」
「くれぐれもお気をつけください」
一応、腰に差している短剣を見せるとようやく納得してもらえた。さっさと行ってさっさと戻ってくるつもりで家を後にした。
アイアンズ家までは徒歩で十分と近い。ガルフィオンの所有する洋館の数倍広い敷地面積を誇るため、従業員の数も三倍はいるだろう。警備兵に挨拶をしてから立派な門扉に足を踏み入れる。しばらく小道を歩いていると、背後から誰かが近づく気配がした。てっきりユージンだと思ったニエルが振り返ると、そこにいたのは深くフードをかぶった見覚えのない誰かだった。
「ニエル・ガルフィオンだな?」
「んん?」
いきなり名前を呼ばれ、ニエルは戸惑う。背はそれほど高くないが、紛れもなく男の声だ。その距離は約十メートル。しかし、その声には全く聞き覚えがなく、面識があるとは到底思えない。
「……誰だ?」
警戒心を露わにしたニエルの問いかけに、男はフードの奥から憎悪に満ちた目を光らせた。
「ユージン様というものがありながら、二股、三股している恥知らずめ!!」
男はそう叫びながら、隠し持っていた刃物を勢いよく取り出した。それは、太陽の光を反射して鈍く光る銀色のナイフだ。刃物で襲われた場合の対処法は頭に入っている。咄嗟に真横に逃げようとした、そのとき。
「ニエル──!!」
焦燥を含んだ叫び声が、邸宅の方角から響き渡った。振り返ると、ユージンが信じられないほどの速さでこちらに向かって走ってくるのが見えた。彼は迷うことなくニエルを庇うように、その身を躍らせた。
直後、鈍い音が響き、ニエルの目の前で信じられない光景が繰り広げられた。男の握ったナイフが、ユージンの腹部に刺さったのだ。
「ユージン……!」
ニエルの心臓が凍りついた。目の前で起きた出来事が信じられず、思考が完全に停止する。ユージンの顔は苦痛に歪み、蒼白になっている。
(あ、あり得ないだろ!?)
驚愕と混乱で、ニエルの頭の中は真っ白になった。チートキャラのはずのユージンがなぜこんな場所に? そして、なぜユージンが身を挺して庇った? 理解を超えた事態に、体が強ばってしまう。
ユージンの体が大きく震えている。恐る恐る視線を落とすと、ユージンの白いシャツがみるみるうちに赤く染まっていくのが見えた。脇腹からは、血が大量に流れている。鮮血が地面に滴り落ち、あたりには鉄錆びのような匂いが立ち込める。
「ユージン……なんで……!?」
掠れた声で問いかける。ユージンの顔は苦痛に歪み、額には脂汗が滲んでいる。それでも、彼はニエルを安心させようとするかのように、優しく微笑んだ。
「ニエル、無事……? よかった……」
自分の心配よりもまずニエルの安否を気遣うユージンの言葉に、ニエルの胸は締めつけられるような痛みに襲われた。彼の目は朦朧とし、今にも意識を失いそうだ。
「ユージン様!」
「早くそいつを捕まえろ!」
「ハッ!」
ようやく事態を把握したらしい護衛騎士のフランクや警備兵たちが、一斉に男を取り押さえようと動き出す。地面に落ちたナイフを蹴とばす。男は抵抗する間もなく、あっという間に取り押さえられた。しかし、男の目は増悪に満ちたままだ。ニエルを睨みつけている。
「覚えていろ! ニエル・ガルフィオン! お前のような男は、ユージン様には相応しくない!」
そう叫びながら男は警備兵たちに引きずられ、連行されていった。
「俺よりも自分の心配しろよ!」
「平気だよ、こんなの。ああ、君が無事でよかった……」
どうして痛い思いをして、自分が腹を刺されているのに心底安心したような表情をしているのか。穏やかに微笑んでいるユージンが、一体なにを考えているのかニエルには理解できない。
止血するために、偶然持っていたタオルをユージンの腹部に押し当てる。真っ白かったタオルがどんどん赤く染まってゆく。
「ユージン様、すぐに治療致します」
「いい。傷の手当てはニエルにお願いする。それより、不届き者をきちんと捕らえておくように」
「バカ! 腹から出血してるんだぞ!? フランクさん、すぐに医師を呼んでください!」
「わかりました!」
護衛騎士のフランクは、医師を手配するために急いだ。どうやら演習場に常駐しているらしい。
「ニエル。僕と一緒に来てくれるよね?」
「待て、手当てが先だ!」
「部屋でなら受けるよ」
「はあ……。仕方ないな」
その場に待機している警備兵に、ユージンの私室へ戻ることを告げる。フランクと医師に言付けしてくれるだろう。
「ほら、行くぞ」
「うん。ありがとう。ちょっとだけ、肩を貸してくれると助かる」
放り投げてしまった紙袋を拾い上げ、傷の手当てをするためにユージンを連れてアイアンズ家の大豪邸に向かった。
時折、顔を顰めるので傷は痛そうだが、意識を失うことなく、しっかりした足取りをしている。二階にあるユージンの部屋までゆっくり歩く。足並み揃えている最中、拗ねた口調で尋ねられた。
「ニエル。家にいてってあれだけ頼んだはずなのに、どうして出ちゃったの?」
案の定、質問されてしまった。絶対聞かれると思った。
「……土産を届けたかったんだよ」
「土産?」
「うん。甘いの好きだろ? 視察に行った先で珍しいなと思ったから、おまえに買ったんだ」
「……そっか」
正直に経緯を打ち明けると、ユージンはそれ以上なにも言わなかった。
部屋に到着してから、そういえば今日は異様に人が少ないことに気づく。
「どうしてあまり人がいないんだ?」
警備はちらほら見かけるのに、他の従業員とはすれ違わなかった。普段ならば清掃個所が多いからか、働いている姿を目にするのに珍しい。もしかして、うちと同じ事情だろうかと質問すると、まったく異なる理由だった。
「……リフレッシュ休暇だよ」
「え、そうなのか」
ガルフィオン家と同じように食中毒が起ったわけではなく、半数の従業員に特別休暇を与えているのだと知る。月に一度あるという。
「ニエルさえよければ、今日は君が看病してくれないかな。きっと熱が出ると思うし」
「暇だからいいけど……」
「よし。それなら、そのお土産を食べさせてほしいな」
「はいはい。でも、先に傷の手当てをしてからだ」
「えー?」
「えー、じゃない。いうことを聞かないなら食べさせないからな」
「ごめんごめん。ちゃんと聞くよ」
寝台に座らせ服を脱がせると、血が出たわりに傷口はそこまで広がっていなかった。血も止まっているし、これなら縫わなくてもよさそうだ。
扉をノックする音が響く。
「ユージン様、ニエル様。失礼します」
「どうぞ」
フランクが手配した医師の診察がはじまる。ニエルの意見と同様で、縫合する必要はないと言われる。手当ての方法を伝授してもらい、実践する。褒められる。痛み止めを処方した医師は、そそくさと退室した。
「これでよし……と。痛くないか?」
「大丈夫だよ。それより早く」
「わかったって。あ、紙袋を放り投げたから、中身がぐちゃぐちゃだな……。クッキーも割れてるし。悪い、また今度買ってくる」
紙袋から取り出し確認すると、容器は割れておらず無事だったが、ゆるいプリンなので混ざってしまっていた。クッキーも半分に割れている。これでは食べさせられない。
「そのくらい構わないよ」
「え? でも、見た目、よくないぞ?」
「咀嚼して腹に入れたら同じでしょ」
「元も子もないことをいうな!」
食べさせてほしいと懇願するので、仕方なく瓶の蓋を開けてスプーンですくった。形が崩壊した潮風プリンをユージンの口元に運ぶ。
「うん。美味しいね」
「そうか? ならよかった」
「ニエルが食べさせてくれたから、百倍美味しいよ」
「な、なに言ってるんだよ。ふざけるなら、あとは自分で食べな」
そう言い放つと、ユージンはいきなり腹部を抑えて身を縮めた。
「いたたたたた、ニエルが食べさせてくれないと、腹が痛いな。痛いなー!」
「……ユージン」
「食べさせてくれるって、さっき約束したよね?」
「……ほら」
「やったー」
ユージンの粘り勝ちだった。最後の一口までニエルが食べさせた。
「プリンだけだと腹減るだろ。なにか作って来ようか?」
「作ってくれるの?」
「簡単なものでいいなら、な。ちょっと待ってな」
一階の調理場に行くと、誰もいなかったので食材と道具を勝手に借りてチーズリゾットを作った。家とは違うので心配したが、なんとか完成させられた。ユージンは残さず完食した。
夜になると刺された影響からか高熱が出たけれど、ニエルが一晩中、看病したことが功を奏したらしく朝方にはすっかり下がっていた。続々と出勤してくる従業員にあとは任せ、ニエルは足早に帰宅した。フランクが気を遣って、ガルフィオン家に連絡を入れてくれていたので、朝帰りをしても怒られることはなかった。
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