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二十四・ついに現れたヒロイン
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あっという間に年が明け、しばらくは平穏に過ごしていた。寒さが厳しさを増し、一年で最も寒い大寒まであと少し。視察のついでに温泉にでも行こうと兄から誘われているので、どこに行くか相談している。
ユージンとの仲は相変わらずで、訓練したりデートを重ねたりと順風満帆だ。
エリオットはドSの女性を見つけたらしく見向きもしなくなったし、ロイは侍女と楽しそうに文通を続けており、フランクは恋人と上手くいっているようでデート現場を度々目撃している。それぞれ充実させているようだ。
ニエルはといえば、再来月に控えたユージンの十九回目の誕生日があるので、どう祝うべきか侍従らと相談している。手料理でも振る舞おうと計画中だ。
そうしたなか、慌てた様子のガルフィオン伯爵家の家令が、ニエルの部屋に飛び込んで来る。取り乱す様子を目にしたことは今まで一度もない、まさに紳士だ。そんな家令が珍しく、崩れた髪型を直さずに現れたのでなにかあったことは明白だ。
「どうしたんだ? まさか、父上か母上になにかあったのか……!?」
「ニ、ニエル様、至急こちらをご覧ください」
「ん……?」
一通の封筒を渡される。両親のことではないようだ。受け取った封筒から中身を取り出し便箋に視線を落とすと、遠方に派遣していた調査員からの報告書だった。
「…………えっ、イリーナ・アルハインが見つかったって!?」
殴り書きされた文面を読んで驚愕した。まさか、この地よりも遥か遠い南方の異国で、イリーナ・アルハインを発見したというのだ。七年間探しても見つからなかったというのに、今頃、見つかるだなんてあり得るだろうか。姿を確認するまでは俄かに信じがたい。同姓同名の可能性もある。
「ほ、本物なのか?」
「あと数日で、イリーナ様をお連れして帰国するとのことです」
調査員が彼女に接触したところ、イリーナはあっさりニエルとの面会を承諾したという。この世界では一切面識がないのに、そんな相手から探されて不審がらないのかと気になった。
「ニエル様には、ユージン様という婚約者がいらっしゃいますが、それでもお会いになられますか?」
「もちろん。姿を知っているのは俺だけだからな」
イリーナを探しはじめたきっかけは、表向きでは「一目惚れ」と嘘をついていたので再確認したのだろう。
「ああ、別に彼女を愛人にしたいとか、一緒になりたいとか、そういうのではないから。念のために言っておくけど。ただ、もう一度会いたかっただけなんだ」
「承知しました。それでは失礼いたします」
「ありがとう」
手紙を残した家令は一礼してからそそくさと退室した。
まだ本物のイリーナと断定したわけではない。しかし彼女が仮に本人だった場合、ユージンと会わせるべきなのかニエルは頭を悩ませる。あれだけ待ち焦がれていたヒロインだ。会わせた方がいいに決まっている。ところが、異世界転生を自覚した五歳の頃から十九歳の現在まで、十四年間も共に歩んだ記憶があるのだ。
(どうすればいいんだよ……)
どうせ見つかるなら、もっと早い段階で出て来てほしかった。多少なりともユージンに対して情が移ってから現れないでほしかった。胸中複雑なまま、しばらく自問自答するのだった。
***
それから二日経ち、いよいよイリーナ・アルハインと対面を果たす当日。考えても考えても明確な答えは出ないけれど、やはりメインキャラクターとヒロインには強い結びつきがあるから、七年越しで見つかったのだろうと納得するしかなかった。姿を確認して本人だとわかれば、モブキャラはモブキャラらしくそっと身を引くだけだ。ヒロインを差し置いてモブキャラとくっつく乙女ゲームなど、誰も見たくないはずだ。
ガルフィオン伯爵家の応接間に招いているので、扉をノックして恐る恐る中を覗き込む。そこにいたのは、長いブロンドヘアに赤い瞳を持つイリーナ・アルハイン本人だった。イリーナは本当に存在していたのだ。
「……あなたがニエルさん? こんにちは」
透き通った綺麗な声で話しかけられる。乙女ゲームで何度も目にしたヒロインは、ニエルに向かって微笑んでいる。
「……こんにちは。遠いところ足を運んでいただき感謝します」
「いえ」
「実は、あなたに会ってほしい人がいるんです」
「……会ってほしい人、ですか?」
「ええ。会えばわかると思います」
ユージンが視察から戻るのは明後日だ。それまではこの地に滞在してもらう必要がある。イリーナの世話係は、ロイと文通している同い年の侍女、リジーに任せることにした。リジーを呼ぶと、同年代の同性だけあり初対面だというのに意気投合している。身の回りの世話や、街を案内するように言いつける。そつなくこなしてくれるだろう。
(俺はこれからどうしようかな)
ニエルにはやることが山のようにある。婚約解消の書面を制作して、荷造りをして、しばらく落ち着ける土地を探す。ユージンとイリーナの邪魔にならないよう、しばらくは実家から離れる予定だ。
「新たに住むならどこがいいかな。潮風プリン、また食べたいし、しばらく叔父さんのところに厄介になろうかな」
そんなことを考えながら準備を進める。しばらく行方をくらませる予定なので、叔父のところへは顔を出せないが、落ち着いたら様子を見に行ってもいいだろう。
貯金はそれほどないし、手元にあるのはわずかな貴金属と土地の権利書くらいで、今までのように買い食いはできなくなるが、前世では倹約して生活していたので不安はない。
ユージンと家族に宛てた手紙を残すのも忘れない。花婿修行のおかげで一通りの家事ならできるので、住み込みでもなんでもして働くつもりでいる。
侍従に気づかれぬよう、貴重品と最低限の衣服を詰めたトランクを、クローゼットの中にある衣装ケースの影に隠した。
ユージンとの仲は相変わらずで、訓練したりデートを重ねたりと順風満帆だ。
エリオットはドSの女性を見つけたらしく見向きもしなくなったし、ロイは侍女と楽しそうに文通を続けており、フランクは恋人と上手くいっているようでデート現場を度々目撃している。それぞれ充実させているようだ。
ニエルはといえば、再来月に控えたユージンの十九回目の誕生日があるので、どう祝うべきか侍従らと相談している。手料理でも振る舞おうと計画中だ。
そうしたなか、慌てた様子のガルフィオン伯爵家の家令が、ニエルの部屋に飛び込んで来る。取り乱す様子を目にしたことは今まで一度もない、まさに紳士だ。そんな家令が珍しく、崩れた髪型を直さずに現れたのでなにかあったことは明白だ。
「どうしたんだ? まさか、父上か母上になにかあったのか……!?」
「ニ、ニエル様、至急こちらをご覧ください」
「ん……?」
一通の封筒を渡される。両親のことではないようだ。受け取った封筒から中身を取り出し便箋に視線を落とすと、遠方に派遣していた調査員からの報告書だった。
「…………えっ、イリーナ・アルハインが見つかったって!?」
殴り書きされた文面を読んで驚愕した。まさか、この地よりも遥か遠い南方の異国で、イリーナ・アルハインを発見したというのだ。七年間探しても見つからなかったというのに、今頃、見つかるだなんてあり得るだろうか。姿を確認するまでは俄かに信じがたい。同姓同名の可能性もある。
「ほ、本物なのか?」
「あと数日で、イリーナ様をお連れして帰国するとのことです」
調査員が彼女に接触したところ、イリーナはあっさりニエルとの面会を承諾したという。この世界では一切面識がないのに、そんな相手から探されて不審がらないのかと気になった。
「ニエル様には、ユージン様という婚約者がいらっしゃいますが、それでもお会いになられますか?」
「もちろん。姿を知っているのは俺だけだからな」
イリーナを探しはじめたきっかけは、表向きでは「一目惚れ」と嘘をついていたので再確認したのだろう。
「ああ、別に彼女を愛人にしたいとか、一緒になりたいとか、そういうのではないから。念のために言っておくけど。ただ、もう一度会いたかっただけなんだ」
「承知しました。それでは失礼いたします」
「ありがとう」
手紙を残した家令は一礼してからそそくさと退室した。
まだ本物のイリーナと断定したわけではない。しかし彼女が仮に本人だった場合、ユージンと会わせるべきなのかニエルは頭を悩ませる。あれだけ待ち焦がれていたヒロインだ。会わせた方がいいに決まっている。ところが、異世界転生を自覚した五歳の頃から十九歳の現在まで、十四年間も共に歩んだ記憶があるのだ。
(どうすればいいんだよ……)
どうせ見つかるなら、もっと早い段階で出て来てほしかった。多少なりともユージンに対して情が移ってから現れないでほしかった。胸中複雑なまま、しばらく自問自答するのだった。
***
それから二日経ち、いよいよイリーナ・アルハインと対面を果たす当日。考えても考えても明確な答えは出ないけれど、やはりメインキャラクターとヒロインには強い結びつきがあるから、七年越しで見つかったのだろうと納得するしかなかった。姿を確認して本人だとわかれば、モブキャラはモブキャラらしくそっと身を引くだけだ。ヒロインを差し置いてモブキャラとくっつく乙女ゲームなど、誰も見たくないはずだ。
ガルフィオン伯爵家の応接間に招いているので、扉をノックして恐る恐る中を覗き込む。そこにいたのは、長いブロンドヘアに赤い瞳を持つイリーナ・アルハイン本人だった。イリーナは本当に存在していたのだ。
「……あなたがニエルさん? こんにちは」
透き通った綺麗な声で話しかけられる。乙女ゲームで何度も目にしたヒロインは、ニエルに向かって微笑んでいる。
「……こんにちは。遠いところ足を運んでいただき感謝します」
「いえ」
「実は、あなたに会ってほしい人がいるんです」
「……会ってほしい人、ですか?」
「ええ。会えばわかると思います」
ユージンが視察から戻るのは明後日だ。それまではこの地に滞在してもらう必要がある。イリーナの世話係は、ロイと文通している同い年の侍女、リジーに任せることにした。リジーを呼ぶと、同年代の同性だけあり初対面だというのに意気投合している。身の回りの世話や、街を案内するように言いつける。そつなくこなしてくれるだろう。
(俺はこれからどうしようかな)
ニエルにはやることが山のようにある。婚約解消の書面を制作して、荷造りをして、しばらく落ち着ける土地を探す。ユージンとイリーナの邪魔にならないよう、しばらくは実家から離れる予定だ。
「新たに住むならどこがいいかな。潮風プリン、また食べたいし、しばらく叔父さんのところに厄介になろうかな」
そんなことを考えながら準備を進める。しばらく行方をくらませる予定なので、叔父のところへは顔を出せないが、落ち着いたら様子を見に行ってもいいだろう。
貯金はそれほどないし、手元にあるのはわずかな貴金属と土地の権利書くらいで、今までのように買い食いはできなくなるが、前世では倹約して生活していたので不安はない。
ユージンと家族に宛てた手紙を残すのも忘れない。花婿修行のおかげで一通りの家事ならできるので、住み込みでもなんでもして働くつもりでいる。
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