この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉

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番外編 一・フレデリカに会いに行こう!

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 あれよあれよという間にフレデリカの誕生日会、当日。昼から開催されるパーティーに肩を並べて参加すると、会場には五十人ほど招待されていた。フレデリカと年齢の近い少年少女から、年配者までと広めだ。

「ニエル兄さま、ユージンさま。遠いところ、お越しくださり感謝しますわ」
「お誕生日おめでとう、フレデリカ」
「おめでとうございます、フレデリカ」
「ありがとう!」

 写真で見たとおりの茶髪に碧眼を持つ、可憐な少女に笑顔で出迎えられる。従姉妹だけありニエルと面影が似ている。

「俺たちからのプレゼントはこれだよ」

 トルソーを紙や布で覆い、貨物列車に預けてここまで運んできたため、フレデリカの目の前で梱包材を取っ払う。二着のドレスがお目見えする。

「……す、素敵!」
「このドレス、ぬいぐるみとお揃いなんだ」

 赤いドレスの白猫はニエル、黒いドレスの黒猫はユージンの手からフレデリカに渡される。ニエルの緊張感が隣にいて伝わってくる。

「どうかな? 初めてデザインしてみたんだけど……」

 フレデリカは、猫のぬいぐるみとトルソーのドレスを見比べてから口角をあげた。

「……感無量ですわ!」

 ぬいぐるみを受け取り小声で「かわいい!」と繰り返している。その様子にニエルは安堵したらしく、ユージンの肩に手をかけた。

「喜んでもらえたのならよかった。ユージンのアイディアなんだ」
「まあ!」
「着想を得たのはニエルのおかげだよ」
「ふふ。ごちそうさまですわ♪」

 ただ真実を告げただけだというのに、フレデリカは微笑んだ。同い年くらいの少年に名前を呼ばれたフレデリカは、去り際に「ニエルにいさまと、ユージンさまのような殿方を見つけて、私も相思相愛な関係を目指したいですわ」と残したので、ニエルは照れくさそうにしていた。

「ニエルくん。それからユージンくん。二人とも、娘のために遠いところによく来てくれたね」

 叔父であるガルフィオン子爵に声をかけられる。その面影は、ニエルの父親と兄弟だけあって穏やかで、似た雰囲気を醸し出している。目尻に皺を寄せ、人のよさそうな笑みを浮かべている。

「お招きいただき光栄です。ガルフィオン子爵」
「かしこまらなくていいよ。普段通りにしてくれないかな」
「それなら、お言葉に甘えて」
「ユージンくんは初めましてだよね。我が家だと思って寛いでね」
「お心遣いに感謝します」

 軽く挨拶を交わすと、ガルフィオン子爵は周囲を確認してから手招きした。

「ところでニエルくん、ユージンくん。君たちに折り入った相談があるんだ」

 ニエルはともかく、ユージンに至っては初対面だがそれでもいいのだろうかと疑問が浮かんだものの、多くの意見を聞きたいだけかもしれないと黙って耳を澄ます。

「どうしたんですか?」
「うん。フレデリカも今日で十一歳になるから、そろそろ婚約者を決めようかと妻とも相談していたんだ」

 ガルフィオン子爵いわく、この会場に招待している少年の中から婚約者を選ぼうとしているらしい。気になっているのは三人だという。
 一人目は真面目で紳士的な十三歳の少年――リアム・マクレー。再来月の七月にプレップスクールを卒業したあとは、パブリックスクールに通うという。親は伯爵で菓子店を経営している。
 二人目は人懐っこい一歳年下の少年で、近所の学校に通っているベン・オーブリー。父親は子爵でレストランのシェフをしている。
 三人目はフレデリカの幼馴染みの少年ミゲル・シークエンスで、同じプレップスクールに通っており、親は爵位を持たないが、両親はともに俳優。両親が主演を務める観劇を何度か見に行ったことがある。
 フレデリカのことを、フリッカと愛称で呼んでいるのは三人の中でミゲルだけだという。他は呼んでいない。
 父親であるガルフィオン子爵は、人当たりのよい十三歳の少年リアムをフレデリカの婚約者候補にどうかと考えているらしい。少年たちとパーティーで接触して率直な意見がほしいと言われてしまった。

「俺たち、責任重大じゃないか!?」
「とりあえず、フレデリカから話を聞いてみよう」
「そうだな」

 先ほど別れたばかりだが、ベンと話していたフレデリカに飲み物を手渡し連れ出すと、父親から相談を受けていることは伏せて、三人の少年について尋ねることにした。

「フレデリカ。話の邪魔をしちゃってごめんね。さっきいた子とは仲がいいの?」
「ええ。弟みたいで可愛いの! よく一緒にカフェでお茶をしていますの」

 語る際の表情からは色恋のようなものは感じられず、恋愛感情はなさそうだ。

「そうなんだ。あ、じゃあ、あそこで女子に囲まれている子は?」

 他の少女と談笑している十三歳の少年リアムの姿が見えたので、リアムについて質問してみると、誰に対しても紳士的で分け隔てないけれど、他の令嬢とも差し障りないので表情が読みにくく、会話があまり盛り上がらないと言われる。フレデリカの指摘は的確で、ユージンから見てもエリオットと通ずるものを感じてしまうほどだ。おそらく彼女の中では対象外だろう。

「それなら、あの子は? こっちの様子をちらちら窺っているけど、彼とは仲いいの?」
「あの子……ミゲルのことかしら?」
「ミゲルくんって言うのか」

 そして残ったのはミゲルだが、フレデリカの口調をからかうくせに、フレデリカが別の誰かに揶揄されるとすぐに助けてくれるという。

「……ミゲルは、優しいのか、優しくないのかわからないんですの」

 二人でいると、意地悪ばかりされると愚痴をこぼされる。露出多めのドレスを似合わないと言ったくせに別のものを薦めたり、ぬいぐるみが好きなのは幼稚だと指摘した口で、鞄につけやすい大きさのぬいぐるみをくれたり、スクールでも目を合わせてくれないと不満だらけだ。ミゲルに対しては話が止まることなく、明らかに三人の中でも反応が違った。ヒートアップしそうだったので、友達が話したそうだよと嘘をついて見送った。

「叔父の印象通り、無難なのはリアムだろうけど、誰かをどことなく彷彿とさせてしまうし、フレデリカの反応を見る限り好意はなさそうだよな」
「うん」

 ニエルと意見が一致して嬉しくなる。

「ベンは一歳年下だというし、弟だと言っているから本人的には意識すらしていないだろう」
「そうだね」
「ミゲルはどうだ?」
「フレデリカは彼を気にしているけれど、彼からも話を聞いてみないと何とも言えない」
「だよな」

 少年たちに接触することにした。
 十三歳のリアムは、ニエルやユージンが相手だろうとも臆することはなかった。好きな子について聞いてみると、まだいないらしい。リアムは人気があるらしく、他の女子の視線が痛かったので適当に切り上げて解放した。
 お腹を空かせていたらしきベンは、次から次へと運ばれてくるサンドイッチやベーグルなど、一口サイズの軽食を堪能していた。ニエルが話しかけると、ベンは非常に明るく、確かに弟のような印象を受けた。大食漢同士、気が合うのか、港町にある数々の美味しい店や、珍しい食材が手に入る店やその食べ方など、食に関する会話が大いに弾んだものの、食のためにパーティーに参加したわけではないので、適度に切り上げて離れた。
 残りは一人で会場の隅に突っ立っているミゲルだ。

「ねえ、そこの君。背中になにを隠してるんだ?」
「み、見るな!」
「ああ、驚かせてごめん」

 ニエルが近づき声をかけると、いきなりすぎたのか警戒されてしまった。背中を見るのは諦めて、ニエルは本題に入る。

「フレデリカとは仲いいの?」
「あ、あなたはフリッカのなんなんですか……?」
「俺? 自己紹介がまだだったな。俺はフレデリカの従兄弟のニエルだよ。ガルフィオン子爵は父さんの弟なんだ」
「その夫のユージンです」
「……フリッカの幼馴染みのミゲルです」

 従兄弟だと打ち明けても、ミゲルは一貫して愛称を使った。少なからず好意はあるのかもしれない。ニエルもそう感じたのか、ユージンに目配せするなり小声で話し始めた。

「ここだけの話、叔父さん……フレデリカのお父さんのガルフィオン子爵から聞いたんだけど、そろそろフレデリカの婚約者を決める時期だと言っていたよ。君がもしもフレデリカに少しでも興味があるのなら、意地悪はやめて素直にならないと、後悔することになるよ」
「ミゲルくん。さっき聞いたんだけどね、特別にフレデリカの好きなタイプを君にだけ教えてあげるよ。お花を贈ってくれる、笑顔の素敵な殿方だってさ。君が背後に隠している花束、フレデリカは待っているんじゃないかな?」

 ユージンの指摘する通り、ミゲルは薔薇の花束を背後に隠している。本数はわからないが、ミゲルの足元には花びらが何枚か落ちている。

「……高価な贈り物をされている令嬢なのに、花束で喜んでくれるんですか?」

 ミゲルが渡せずにいたのは、他の人の贈り物を見て怖じ気づいたからだった。

「大丈夫だよ。フレデリカを想って選んだ花なら、きっと喜んでくれるよ。ほら、ダンスの相手を探しているようだから行っておいで」

 背中を押してあげると、意を決したらしきミゲルは、薔薇の花束を手にフレデリカの前へ出た。緊張した面持ちで差し出す。そんなミゲルの行動に驚きつつも、フレデリカは笑顔で花を受け取った。成功だ。
 薔薇を手にしたフレデリカは、傍を通った給仕を呼び止め、なにかを頼んでいた。給仕はすぐさま花瓶とハサミを手に持って戻ってくる。ミゲルの目の前で真っ赤な薔薇を一輪だけ切り取り、自ら髪の毛に挿す。嬉しそうに微笑む。それから残りの花束はすぐさま生けてテーブルに置いた。
 そしてミゲルとダンスしている。ミゲルが足を踏んだと口喧嘩しつつも楽しそうだ。

「ユージン。俺たちもダンスするか?」
「喜んで」

 他でもないニエルに誘われたので笑みが零れる。人前で踊るのは久しぶりだが、当然ながら息ぴったりだ。結婚してからは何度か招かれて催し物に参加してきたが、踊ることはあまりなかった。
 フレデリカたちの様子を観察することも忘れない。フレデリカとミゲルは三分間のダンスを終えると、次はリアムとダンスするようだ。ガルフィオン子爵が気遣って連れてきてしまった。ミゲルはお辞儀をして一歩下がる。そんなミゲルも、別の少女に誘われダンスするらしい。
 フレデリカたちの様子も気になるが、見知らぬ婦人がニエルに近づこうとしたので、それを回避するために彼を連れて歩き出す。貴族の間では、婚約者がいようが既婚者だろうが、誰彼構わず誘ってもいいという暗黙の了解があるらしく、指輪をしていても誘われるため、ダンスがメインの集会は断るようにしている。まだ好意が伝わっていなかった頃、ニエルとエリオット、ニエルとロイがそれぞれ密着している写真を目にしたときは、頭に血が昇りすぎて当時のことはあまりよく覚えていない。あんな思いをするのは懲り懲りだ。思った以上にニエルにご執心だった。

(ニエルの魅力は、僕だけが知っていればいい)

 そんなことを考えていると、すぐ隣にいたニエルが顔を覗き込んでくる。可愛すぎる。キスがしたくなるから、あまり必要以上に近寄らないでほしい。しかし、本当に離れられたら寂しいので言えない。

「どうした? ユージン」
「そろそろお腹空いたんじゃない?」

 さっきもベンと軽食を口にしていたが、ニエルには珍しく三つ、四つで食べるのを我慢していた。本来ならば十は口にする。

「よくわかったな!」
「君の夫だからね?」
「なんてな! 俺がダンスに誘われそうになったからだろ?」
「ばれたか」
「へへ。お前のパートナーだからな!」
「そうだね」

 立食コーナーで腹ごしらえをする。先ほどまでベンがいたのであまり残っていないけれど、少し待っていると、また出来立ての料理が運ばれてくる。ニエルが大食漢だとガルフィオン子爵に知られているため、ケータリング業者に頼んでいると言っていた。だから気にせず食べている。

「あ、豆腐バナナアイスだ」
「食べさせてくれる?」
「ユージン。甘えん坊だな? いいよ」

 フレデリカにも作り方を教えたらしく、豆腐バナナアイスが運ばれてきたのでニエルに食べさせてもらう。くすくす笑われたが気にならなかった。


 それから一時間。フレデリカはいつの間にか、ニエルが用意した赤いドレスに着替えていた。ぬいぐるみと揃いで可愛いと、同年代の少年少女からはちやほやされている。そんなフレデリカのことを、ミゲルは少し離れた位置で面白くなさそうに眺めている。さっきはあんなにいい雰囲気だったのに、二人の間には他の人たちにはない距離があるように見えてしまう。

「フレデリカが、みんなから注目を浴びるのが嫌で意地悪してたの?」

 放っておけなかったのでユージンはそっと話しかける。

「……違います」
「僕は、ニエルに好かれるためにひたすら優しくしたんだよ。大変だったけど、今ではとても幸せだ」
「……ユージンさん。あなたと俺では身分が違いますよね。うちには爵位がない」
「爵位と結婚するわけではないよ」
「でも、ガルフィオン子爵がリアムを候補に入れてるんですよね? 伯爵家嫡男だ」

 ダンスをする際に、ガルフィオン子爵がリアムとフレデリカを躍らせたことが引っかかっているようだ。子爵が介入したのはその一度きりだ。例えそうだとしても、大事なのは本人たちの気持ちだ。結婚するのはガルフィオン子爵ではない。子爵はただ、娘により良い相手を見つけたいだけだ。

「誰かに言われたの? 爵位がないからダメだって」
「……」
「その発言をしたのがフレデリカではないのなら、君は気にする必要ないんじゃないかな」
「フリッカはそんなこと言わない!」
「でしょ? ミゲルくんが信じるべき人はフレデリカだけだよ。他は無視して構わない。僕もそうなんだ。僕が信じているのはニエルだけだよ」

 ニエルを信じているから、今も一緒にいる。ミゲルも、フレデリカのことを信じてあげてほしかった。第三者の意見に振り回されてほしくなかった。

「ほら見てごらん。ドレスや髪型を替えても、君からの贈り物の花は髪に挿しているよね」
「……本当だ」
「困難なことがあれば、僕やニエルが力になるから、彼女を好いているならどうか諦めないでほしい」
「……うん」
「前を見て、ミゲルくん。フレデリカが待ってるよ?」

 そっと背中を押してあげると、ミゲルはもう一度、フレデリカの前に踏み出した。

「フリッカ!」
「……ミゲル?」

 これから何が始まるのだろうかと、会場にいるみなが二人に注目している。ユージンは「がんばれ」と内心、応援する。

「きみが一番かわいい!」
「あ、ありがとう!」

 照れた様子の二人に、周囲は口笛を鳴らして場を盛り上げてくれている。もう心配はいらないだろう。
 もしも爵位が必要ならば、侯爵令嬢に協力を仰いだときのように、父であるアイアンズ公爵に頼めばどうにでもなる。ユージンには協力的だ。
 でも、ミゲルはそれを必要としていないことは見抜いていた。ミゲルに必要なのは、少しの勇気と自信だ。その二つがあれば、困難を乗り越えられるだろう。

「ユージン、ユージン」

 お手洗いに行っていたニエルが、一部始終を見ていたらしく手招きしている。彼に近寄り耳を寄せる。

「なに?」
「お手柄だったな?」
「褒めてくれる?」
「ああ、来いよ!」

 ニエルは腕を広げて待ち構えたので、堂々と抱きしめてもらった。伴侶からの抱擁はいつでも大歓迎だ。元気が満ちてくる。周囲の目などはどうでもよかった。気まずそうに咳払いされても、満足するまで密着していた。

*****

 一夜明け、ガルフィオン子爵に誘われ邸宅で朝食を取っていた。サーモン入りのエッグベネディクトが食欲を刺激する。港町だけあり、提供される海産物はどれも美味だ。その最中、ガルフィオン子爵に尋ねられる。

「ニエルくん。ユージンくん。昨日の件だけど……聞かせてもらってもいいかな?」

 食事を終えたフレデリカが席を外したタイミングで切り出される。

「本人に選ばせてあげてほしいです」
「僕も、ニエルと同じ意見です」

 率直に答える。やはり結婚するのはフレデリカなので、第三者である自分たちが安易に意見をいうことはできなかった。政略結婚ならまだしも、そういうわけではない。

「役に立てずにすみません」
「いや、いいんだ。娘とも、もう一度話し合ってみるよ」
「ええ、それがいいですよ」

 フレデリカは嬉しそうに、今日も薔薇を髪に挿している。そんなフレデリカに、ニエルは、押し花やドライフラワーの作り方を伝授していた。熱心にメモを取り、これなら長く楽しめると大いに喜んでいた。
 朝食を済ませ、部屋に戻る途中でユージンは立ち止まった。

「ねえニエル」
「ん?」
「もう一泊しない?」

 一泊二日の予定で来ているので、今日の午後には帰路に就く予定だ。そこを延泊したくなった。帰ってしまえば、また仕事に忙殺されてしまうので、名残惜しいのだ。

「しません。それに、いいのか? ここにいたら、いつまでたっても俺とはイチャイチャできないぞ?」

 ガルフィオン子爵の邸宅に泊まっている間は、絶対に手を出さないと事前に約束させられている。いつ、フレデリカが部屋の扉を開けるか予測不能だからだ。内側から鍵はかけられても、あられもない声を聞かせてしまうのは教育上よろしくないというのが、ニエルの言い分だ。
 それを踏まえてホテルを予約していたのに、子爵の口から来賓用の寝室を準備していると言われてしまえば、断ることは難しい。昨夜は新婚だというのに、くっついて眠るだけで我慢した。無理やり手を出してニエルに嫌われたら本末転倒だ。だから、催した性欲を、考え事をすることでどうにか抑えて眠りについた。

「帰ろう。今すぐにでも帰ろう。そして一緒に寝よう」
「今すぐは無理だって。カフェが開くのは十一時だからな。予約した潮風プリンを引き取らなきゃ」

 土産である潮風プリンに、あろうことかユージン・アイアンズは負けてしまった。チート級キャラでもあっさり敗北するのだ。でも、負けても構わない。

「……それなら、今からホテルに行くのはどう?」
「ユージン……。たった一晩ですら我慢できないのか?」
「できないよ! だって、僕たち新婚でしょ!?」

 三月に結婚式を執り行ってからまだ二か月しか経っていない。四六時中、触れていたいところを日々我慢している。回帰を選んでまで会いたかった相手なのだ。せっかく成就したのだから、もう少し甘えさせてもらっても、罰は当たらないはずだ。

「わかったって。帰宅したらお前が飽きるまで可愛がってやるから、ちょっとだけ待てるよな? できるだろ?」

 そう告げながら、上目遣いでお願いされると断れないことをニエルは熟知している。まるで金髪碧眼をした小悪魔だ。きっと彼の背中には、黒い羽根が生えているに違いない。今年の秋に開催される収穫祭では、小悪魔にちなんでインキュバスの格好をしてもらおうとユージンは密かに企む。

「じゃあ、キスしていい?」
「はいはい。好きなだけしろよ」

 真上から唇を重ねて反応を窺う。公衆の面前でなければ受け入れてくれる。幸せを噛みしめている。
 人目を盗んで廊下でこっそりキスをしてから、部屋に戻ってもしばらく口づけしていた。途中、別れの挨拶のためにフレデリカが顔を出したので、三人で開店直後のカフェへ足を運び、喫茶スペースで潮風パフェを堪能した。潮風プリンを受け取り、フレデリカを自宅まで送り届けると時間通りに迎えに現れたアイアンズ家の電気自動車で港町を出発した。
 充実した一泊二日だった。帰宅した直後、自身の寝室にニエルを連れ込むと、翌日の昼まで一歩も出さなかった。
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