実は安倍晴明は五つ子で互いの功績をひとりの者として扱い後世にはひとりの人物として語られた/時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で

牛馬走

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チャプタ―42

ダメな安倍晴明42

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 その日、邸に一匹の狐が訪れた。狐には二本の尾があった。
 かの者を見つけた晴足は尋常の獣ではないと警戒の念ととも庭におりて近づく。
「当家に何用か?」
「貴殿らの母御がむなしゅうなられた(他界した)」
 問いかけに狐はしわがれた声でこたえた。
「なに、母上が」
 ほとんど顔を合わせたことがなく、かえって慕情がつのっていた相手だ。その相手が、
「病でな。なれど、さほど苦しみはしなかった」
 妖狐の言葉に晴明は唇を噛んだ。それでも、当家に生まれた子としてのふるまいをせねばならなかった。
「貴殿はそれを知らせに参られたか、ご苦労」
「ほう、人間にしては感心な態度」
 労いの言葉に妖狐は上機嫌な声をもらす。
「父と兄弟に、手前からつてえておこう」
「ひとりはその手間がはぶけたようだぞ」
 狐のまなざしの方向に視線をやると、側らに晴明がいつの間にかたたずんでいた。
「されば、しかと申しつたえた」
「御役目、ご苦労」
 こちらに背を向けた妖狐に晴明は労いの言葉をかけた。
 応じるように尾を振って、妖狐は塀を飛び越えて消える。
「兄上」
「ほとんど聞いていたでおじゃる」
 こちらの言葉を兄が遮った。晴明はこちらに歩みより軽く抱擁する。
「それに気づかぬほど、そちは心を乱して居るということ」
 いや、そんなことは、と言いかけて晴足は己が呼吸が苦しいことに気づいた。
「すべては無上だな、晴足」
 いつもなら真っ先に泣き出しそうな兄が、優しい声を晴足にかけてくれている。
「兄上、我らは母に何一つしてやれてない」
「そんなことはない。健やかである、と一度会って示してみせたではないか」
 声音を湿らせる晴足に、晴明は穏やかな表情で応じた。
「それでも兄上、私は」
 あとはもう言葉にならない。涙声になって濁った。

 そこで目が覚めた。雑人への態度もそうだが、晴明という若者はとにかく優しいのだ。
 それを一番知っているのは、母の亡くなった折に慰められた己だろう、と晴足は思う。側らで横になる晴明の顔はそんな彼の思いなど関係なく暢気なものだった。

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