実は安倍晴明は五つ子で互いの功績をひとりの者として扱い後世にはひとりの人物として語られた/時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で

牛馬走

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チャプタ―48

ダメな安倍晴明48

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    第三章

    一

「晴足、まろはいかがすればいいでおじゃる」
 廊の背後から父の狼狽えた声が聞こえてくる。
 やれやれ、面倒な、と晴足は相手に見えないように表情を歪めたあと殊勝なものに変えてふり返った。
「いかがする、とは」
「むろん、晴明のことでおじゃる。すっかり食が細って」
 父の訴えに晴足は内心、顔を歪める。
 正直なところ、兄は食べ過ぎのきらいがあったから今でちょうどいいくらいだ。
「仔細(詳細)はお話し申しあげたはずです」
 事実、満利を巡る一件で検非違使庁に訴え出てもらうことにことの詳細を明かしていた。
「なれば、晴明のあのような姿を見ていると胸が痛むでおじゃる」
 勝手に痛めていればいい、そう吐き捨てたいのをぐっとこらえる。
「父上が狼狽えれば晴明も心穏やかにおられぬでしょう、まずは落ちつきくだされ」
「むう、さような」
 息子に滔々と説き伏せられ、父は得心のようすを見せた。
 たまに、我が父のことながら「袁胡なのだろうか」とつい思いそうになる。ただ、それを認めるのはさすがに辛いためいつもいや、晴明のことに限ってなのだ、と己に言い聞かせていた。
「それより、満利の件はその後いかが?」
「ああ、検非違使の知り合いにたずねたがやはり捉えられて牢に入れられておじゃる」
 父の言葉に、まずは一安心、と晴足は思う。
「それは朗報にございますな」
「元はといえば、あのような者が京におるのが悪い」
“あのような者”との付き合いを選んだのは晴明のはずだが、親ばかの父は完全に責任を満利に負わせていた。
「さようにございますな」
 論じ合うのが面倒で晴足は父に同意する。それから、
「それでは、皆のようすを見て参りまする」
 と告げて邸を辞した。
 本当は晴明のようすをうかがいに行くのだ。他の兄弟は賭場を開いている貴族のもとにいて依頼が終わるのを待っていた。
 右京に程違い四条以南の場所にその邸はあった。訪いを告げて雑人に連れられて釣殿へと足を運んだ。
 そこには晴明の姿がある。声をかけとうとした刹那、
「吾是天帝所使執持、金刀、非凡常刀、是百錬之刀也、一下何鬼不走、何病不癒、千妖万邪皆悉済除、急々如律令」
 晴明が呪文をとなえ、そこに大きな影がぶつかった。寸前には庭の池が盛大に水音を立てていた。
「ほう」と晴足は感嘆の息をもらし、晴明のいる釣殿の端へと向かった。
 そこからは庭に落ちて弱っているとほうもなく大きな鯉の姿がうかがえる。
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