実は安倍晴明は五つ子で互いの功績をひとりの者として扱い後世にはひとりの人物として語られた/時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で

牛馬走

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チャプタ―66

ダメな安倍晴明66

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 自然に兄弟たちは洞に殺到していた。後ろには武士たちもつづく。
 予想通り、洞はさほどの大きさのものではなかった。
 そして、その奥で晴明が倒れていた。既に薄れているが、彼がやって来たときは瘴気が濃かったのだろう。
「晴明兄」
 と口々に叫んで兄弟は晴明を揺り起こした。幸い少しの間ののち、兄は目を覚ました。
「まろは?」
 うろんな声を出す晴明に、
「無事でよかった」
 と兄弟は安堵の表情を浮かべる。
「仔細は分からぬがよかった」
 となぜか、頼光までが涙ぐんでいるのが滑稽ではあった。
 その後、道に戻った晴足たちは通りがかった馬借から馬を駆り受けた。その馬に晴明を乗らせ追跡行を再開させたのだ。
 だがそれから、玉藻前を見つける前が日が暮れる。
 晴足たちは道端で野営の準備を始めた。敵が都の外に逃亡することを予測して事前に準備していたのが役に立った。
 口さみしいが夕餉の主食は糒だ、それをかじって空腹を満たす。
 しかし、晴明はその輪に加わっていない。輪の外で既に横になっていた。瘴気のせいで弱っているのだ。
 私たちのせいだ――晴足は肩越しに兄の姿を見、そんな思いを抱く。
「あまり己を責めても致し方ないぞ、晴足」
 晴俊があくびをしながら告げた。
「では、兄上は責がないともうされるか」
「そうは言っていない」
 強い語調に晴俊はたじろいだ様子で応じる。
「なれど、誰も反対を唱えなかったであろうが。それどころか、晴明兄は進んで洞に参られた」
 晴明がみずから洞に入っていった事実を告げられ、
「それは」
 と晴足は声を詰まらせた。
「晴俊の申しようも真実だ」
 そこに晴秀が声を割り込ませた。
「過去をかえりみるより、向後いかがするかが肝要かと」
 晴俊に比べ上品にあくびをしながら晴篤が告げた。歩き遠しだったせいで目が覚めているようだ。
「晴明兄が思ったより無理をする仁と分かったからには、ひとりでは行動させないようにするのがよろしいかと」
「晴篤の申し通りとおりだ」
 晴篤の意見に晴俊が大きくうなずいた。
「それにしても晴篤は歩かせると頭が冴えるようだ。これからは毎日、長距離を歩かせようか」
「兄上、それは平にご容赦を」
 晴秀の冗談に、晴篤が本気で嫌がっている調子でこたえる。
 と、そこで晴足は焚火を囲んだ正面の頼光が笑っているのに気づいた。
「いかがなされた、頼光殿」
「なに、愉快な兄弟だと思ってな」
 とたんに、一連のやり取りが晴足の脳裏に甦る。気外しくなり頬を熱くした。
「からかわらないでくだされ」
「まことのことだから仕様がない」
 抗議の言葉にも頼光は肩をそびやかすばかりだ。
「いや、まっこと良き兄弟で」
 そこに綱が声を割り込ませる。
「ふん、甘ったれた奴輩だ」
 金時も憎まれ口を叩いた。ただ、この場合は褒められるよりは貶されたほうがましだ。
「おまえは口が過ぎるぞ、金時」
「申し訳ありませぬ、頼光様」
 主の言葉に金時は即座に謝罪を口にする。
 その様がなんとなくおかしくげ今度が晴足が口もとをゆるませた。瞬間、金時に睨まれてしまった。
 だが正直、普段に比べて晴足の笑みは精彩を欠いていただろう。
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