66 / 76
チャプタ―66
ダメな安倍晴明66
しおりを挟む
自然に兄弟たちは洞に殺到していた。後ろには武士たちもつづく。
予想通り、洞はさほどの大きさのものではなかった。
そして、その奥で晴明が倒れていた。既に薄れているが、彼がやって来たときは瘴気が濃かったのだろう。
「晴明兄」
と口々に叫んで兄弟は晴明を揺り起こした。幸い少しの間ののち、兄は目を覚ました。
「まろは?」
うろんな声を出す晴明に、
「無事でよかった」
と兄弟は安堵の表情を浮かべる。
「仔細は分からぬがよかった」
となぜか、頼光までが涙ぐんでいるのが滑稽ではあった。
その後、道に戻った晴足たちは通りがかった馬借から馬を駆り受けた。その馬に晴明を乗らせ追跡行を再開させたのだ。
だがそれから、玉藻前を見つける前が日が暮れる。
晴足たちは道端で野営の準備を始めた。敵が都の外に逃亡することを予測して事前に準備していたのが役に立った。
口さみしいが夕餉の主食は糒だ、それをかじって空腹を満たす。
しかし、晴明はその輪に加わっていない。輪の外で既に横になっていた。瘴気のせいで弱っているのだ。
私たちのせいだ――晴足は肩越しに兄の姿を見、そんな思いを抱く。
「あまり己を責めても致し方ないぞ、晴足」
晴俊があくびをしながら告げた。
「では、兄上は責がないともうされるか」
「そうは言っていない」
強い語調に晴俊はたじろいだ様子で応じる。
「なれど、誰も反対を唱えなかったであろうが。それどころか、晴明兄は進んで洞に参られた」
晴明がみずから洞に入っていった事実を告げられ、
「それは」
と晴足は声を詰まらせた。
「晴俊の申しようも真実だ」
そこに晴秀が声を割り込ませた。
「過去をかえりみるより、向後いかがするかが肝要かと」
晴俊に比べ上品にあくびをしながら晴篤が告げた。歩き遠しだったせいで目が覚めているようだ。
「晴明兄が思ったより無理をする仁と分かったからには、ひとりでは行動させないようにするのがよろしいかと」
「晴篤の申し通りとおりだ」
晴篤の意見に晴俊が大きくうなずいた。
「それにしても晴篤は歩かせると頭が冴えるようだ。これからは毎日、長距離を歩かせようか」
「兄上、それは平にご容赦を」
晴秀の冗談に、晴篤が本気で嫌がっている調子でこたえる。
と、そこで晴足は焚火を囲んだ正面の頼光が笑っているのに気づいた。
「いかがなされた、頼光殿」
「なに、愉快な兄弟だと思ってな」
とたんに、一連のやり取りが晴足の脳裏に甦る。気外しくなり頬を熱くした。
「からかわらないでくだされ」
「まことのことだから仕様がない」
抗議の言葉にも頼光は肩をそびやかすばかりだ。
「いや、まっこと良き兄弟で」
そこに綱が声を割り込ませる。
「ふん、甘ったれた奴輩だ」
金時も憎まれ口を叩いた。ただ、この場合は褒められるよりは貶されたほうがましだ。
「おまえは口が過ぎるぞ、金時」
「申し訳ありませぬ、頼光様」
主の言葉に金時は即座に謝罪を口にする。
その様がなんとなくおかしくげ今度が晴足が口もとをゆるませた。瞬間、金時に睨まれてしまった。
だが正直、普段に比べて晴足の笑みは精彩を欠いていただろう。
予想通り、洞はさほどの大きさのものではなかった。
そして、その奥で晴明が倒れていた。既に薄れているが、彼がやって来たときは瘴気が濃かったのだろう。
「晴明兄」
と口々に叫んで兄弟は晴明を揺り起こした。幸い少しの間ののち、兄は目を覚ました。
「まろは?」
うろんな声を出す晴明に、
「無事でよかった」
と兄弟は安堵の表情を浮かべる。
「仔細は分からぬがよかった」
となぜか、頼光までが涙ぐんでいるのが滑稽ではあった。
その後、道に戻った晴足たちは通りがかった馬借から馬を駆り受けた。その馬に晴明を乗らせ追跡行を再開させたのだ。
だがそれから、玉藻前を見つける前が日が暮れる。
晴足たちは道端で野営の準備を始めた。敵が都の外に逃亡することを予測して事前に準備していたのが役に立った。
口さみしいが夕餉の主食は糒だ、それをかじって空腹を満たす。
しかし、晴明はその輪に加わっていない。輪の外で既に横になっていた。瘴気のせいで弱っているのだ。
私たちのせいだ――晴足は肩越しに兄の姿を見、そんな思いを抱く。
「あまり己を責めても致し方ないぞ、晴足」
晴俊があくびをしながら告げた。
「では、兄上は責がないともうされるか」
「そうは言っていない」
強い語調に晴俊はたじろいだ様子で応じる。
「なれど、誰も反対を唱えなかったであろうが。それどころか、晴明兄は進んで洞に参られた」
晴明がみずから洞に入っていった事実を告げられ、
「それは」
と晴足は声を詰まらせた。
「晴俊の申しようも真実だ」
そこに晴秀が声を割り込ませた。
「過去をかえりみるより、向後いかがするかが肝要かと」
晴俊に比べ上品にあくびをしながら晴篤が告げた。歩き遠しだったせいで目が覚めているようだ。
「晴明兄が思ったより無理をする仁と分かったからには、ひとりでは行動させないようにするのがよろしいかと」
「晴篤の申し通りとおりだ」
晴篤の意見に晴俊が大きくうなずいた。
「それにしても晴篤は歩かせると頭が冴えるようだ。これからは毎日、長距離を歩かせようか」
「兄上、それは平にご容赦を」
晴秀の冗談に、晴篤が本気で嫌がっている調子でこたえる。
と、そこで晴足は焚火を囲んだ正面の頼光が笑っているのに気づいた。
「いかがなされた、頼光殿」
「なに、愉快な兄弟だと思ってな」
とたんに、一連のやり取りが晴足の脳裏に甦る。気外しくなり頬を熱くした。
「からかわらないでくだされ」
「まことのことだから仕様がない」
抗議の言葉にも頼光は肩をそびやかすばかりだ。
「いや、まっこと良き兄弟で」
そこに綱が声を割り込ませる。
「ふん、甘ったれた奴輩だ」
金時も憎まれ口を叩いた。ただ、この場合は褒められるよりは貶されたほうがましだ。
「おまえは口が過ぎるぞ、金時」
「申し訳ありませぬ、頼光様」
主の言葉に金時は即座に謝罪を口にする。
その様がなんとなくおかしくげ今度が晴足が口もとをゆるませた。瞬間、金時に睨まれてしまった。
だが正直、普段に比べて晴足の笑みは精彩を欠いていただろう。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
妻に不倫され間男にクビ宣告された俺、宝くじ10億円当たって防音タワマンでバ美肉VTuberデビューしたら人生爆逆転
小林一咲
ライト文芸
不倫妻に捨てられ、会社もクビ。
人生の底に落ちたアラフォー社畜・恩塚聖士は、偶然買った宝くじで“非課税10億円”を当ててしまう。
防音タワマン、最強機材、そしてバ美肉VTuber「姫宮みこと」として新たな人生が始まる。
どん底からの逆転劇は、やがて裏切った者たちの運命も巻き込んでいく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる