実は安倍晴明は五つ子で互いの功績をひとりの者として扱い後世にはひとりの人物として語られた/時代小説新人賞最終選考落選歴あり、別名義、別作品で

牛馬走

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チャプタ―75

ダメな安倍晴明75

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   第四章

   一

 晴明に無理をさせ過ぎた――安倍兄弟は共通の思いを抱いた。
 理由は単純だ。都に帰ってきてから晴明が寝込んでしまったためだ。
 確かに玉藻前を倒すのに晴明の式神は不可欠だった。だが、それでもいざ兄が床に臥せっている姿を目にすると後悔せずにはいられない。
「こたびの晴明の病の遠因は我ら兄弟にある」
 晴明の枕元に集まった兄弟のうち、晴秀がまず言葉を発した。神妙な表情で普段の傲慢な雰囲気はなりを潜めていた。
「妖狐に他の兄弟が痛撃を与えられれば、何もあやつもああなるまで無理をすることはなかった」
「したが、なかったものはなかった、違うか?」
 晴秀の問いかけに晴俊が疑問を呈する。
「なればこそ、向後はより一層の陰陽道の研鑽が入用になる」
 今度の晴秀の言葉には、晴俊だけでなく晴明以外の兄弟全員がうなずいた。
 ただそれでも疑問を投げかけずにはいられない。
「されど、我ら兄弟、修行から手を抜いてなどいなかったのでは」
 晴足は眉間に皺を寄せて告げた。
「それは」
 的を射ていたのだろう、晴秀も声に詰まる。
 と、そこへ、
「みなの衆、宴にございます」
 雑人がやって来て告げた。
 はて、宴、と兄弟は顔を見合わせる。
「妖狐を退治したお祝いとのこと」
「されど、それは」
 父には正直に手柄を横取りされたことを明かしたものの、世間的にはあれは頼光一行の功績ということになっていた。
「まことの功績が誰にあるか知っておれば祝うのは当然のこと、とのこと」
 どうやら、晴明贔屓の父も息子たちが沈みがちであることを気づかったようだ。
「されば、承知」
 晴秀がうなずくのに合わせ、ほかの兄弟も首を縦にふった。
 それから、寝殿に晴明以外の兄弟が集まり宴になる。豪勢な料理や酒がふるまわれた。
「巨体の妖をようも退治してのけた」
「晴明の手柄にございます」
 父の賞賛に、晴足が正直にそのことを告げた。
「されど、妖の動きを封じるなどの働きをそなたらはしたのであろう?」
 晴明から聞いたのか父は意外なことを言う。
「それは、まあ」
 晴足は曖昧な声で父のせりふを肯定する。
「したが、こたびの功績は頼光の足取りをつかんだ晴篤にあろうぞ」
「ふむ、それはそうかもしれぬな」
 晴俊の笑顔の言葉に父が顎を撫でながら応じた。
 だが、こうして宴席を設けてもらっても兄弟の気分は浮かない。
 晴明は臥せっているせいでこの場にいないことを思うと手放しで喜ぶことはできなかった。
 働きをしないはしないで困るが、それが過ぎて寝込まれるとそれはそれで具合が悪い。
「なれど、頼光らの働きも無視はできぬ」
 晴篤がまじめな口調でそう告げた。
 確かに彼らの弓がなかったらどうなっていたかは怪しいものだ。
「なら、あやつらになにか贈り物でもするか」
「別にさようなことはもうしておりませぬ」
 皮肉に告げる晴秀に、晴篤が首をすくめて応じる。
「その頼光の名、内裏でも鳴りひびいておる」
 そこへ父が声を割り込ませた。
 その発言に晴足は顔をしかめる。あの裏切り者どもが功名を得ていると思うと気分はよくない。
「えらい機会を逃したものよ、こたびの功があれば兄上が内裏に出仕することも叶ったやもしれぬに」
 そこに酒を過ごしたのか、晴俊が荒れた口調で言葉をかさねた。
「まったく面白くない」
 晴秀も不機嫌な口調で声を発する。
「しかし、奴らの策に弄された我らも敗北でもございましょう」
 だが、晴篤は違う見方をした。それに、
「なるほど、我らの策戦負けか」
 と晴足も乗っかった。
 感情的には面白くないが、彼らの策に載せられたのは事実なのだ、仕方がない。
「うぬらは頼光の手下か」
「ひどい物言いにございます、兄上」
 晴秀の非難に、晴足は目つきを鋭くして応じた。
「したが」
「これ、宴の席ぞ、よさぬか」
 なおも言い募ろうとする晴秀を父が叱責して止めさせる。晴秀は不快げな表情で口を閉ざした。
「まあ、なにより向後は顔を合わせたくないものだ」
 晴足は正直な気持ちを吐露した。
「さようさよう」「まったく」
 それに晴俊と晴篤が同意する。
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