どうやら主人公は付喪人のようです。 ~付喪神の力で闘う異世界カフェ生活?~【完結済み】

満部凸張(まんぶ凸ぱ)(谷瓜丸

文字の大きさ
237 / 294
15.5章 魔崩叡者霊興大戦ラスバルム(東)

不睦

しおりを挟む
 紅葉の目の前に広がった光景によって、彼女の心はポッカリと深い穴が開いている。
大切な友の姿を見て、怒りなのか悲しみなのかよく分からない感情が溢れ出してきそうだ。

「おや、そこのおねぇーちゃんは確か2番目に余に近づいてこれた人だね?」

「………………………」

彼女は俯いて恐からの質問にも答えないほど落ち込んでいる様子である。
ただ、友人が死んだだけだというのに何故そこまで落ち込むのか恐には分かっていないらしく。

「この娘も最期を君に看取られたことは嬉しかったんじゃないかな? 
せっかくの美人さんだったんだけどね」

とりあえず落ち込んだフリをする。
今までにデートに誘ったうちのほんの1人だ。
それに提案を断られるのはいつものことだから。
それに彼女はただの恐の舞台の役者、代わりはいくらでも現れてくれるだろう。
なので恐は特に気にしていない。でも、残された紅葉の事を思って同情するフリをするだけだった。
もちろん、それは紅葉にも伝わっていたようで……………。

「────気ば使わんでよかよ?
あんたは特に気にしとらんのやろ?
お前は今までに何人からフラれたか覚えとーんか?」

「ちょっとグサって来ることを言うんだねおねぇーちゃんは。もちろん全敗だよ。余は勝負には強いが、どうも不人気でね」

自分の頭を撫でながら、照れくさそうに笑っている恐。
だが、その返事を聞いても紅葉の顔色は変わらない。
彼女は冷静に冷めきった表情で、あのいつもの紅葉からは想像もできない塵を見下ろすような眼で少年を見ている。

「そりゃそうばい。あんたには女心どころか人ん心だって分からんのやろ? かわいそうな人」

「君ってこの数分でどれ程余の事を観察してるんだい?」

「あんたん言葉には心がなか。ポッカリと深か穴が開いとーみたい。棒読みん台詞ば会話っぽう表現して口に出しとーだけ」

恐の言葉には気持ちがこもっていない。どんな賛美や誹謗であろうと心の奥に響くことがない。
おそらく、彼にとって全てがその場かぎりのエキストラ。
慈悲も慈愛も差別もない。彼にある感情は歪みきった正義感と愛情なのだ。

「そうだね~。確かに余の正義のためだから。そこら辺の砂利のように犠牲者はいてもなんとも思わない。敵に情けなんてないの」

「正義か……………」

恐の語る正義とはきっと己のためだけの正義なのだろう。孤独の正義。彼に主役という幸運がついているのならば………。同盟連盟には悪役という不運がついているならば…………。
彼女がやるべきことは1つである。

「ねぇ~少年。バッドエンドって知っとー?
そりゃ正義なんてなか終わり方。無慈悲で現実的な終わり方。あんたにお似合いなんなそん終幕ばい。あんたん脚本ばバッドエンドに書き換えちゃるわ」

それは彼の脚本を書き換える。恐が地獄に落ちるというバッドエンドへの道。大楠が成し遂げることができなかった悪役の勝利を紅葉が代わりに手にするのだ。

「うちゃ、頑張ってくれとーみんなんためなら、どげん悪役にだって成り下がってやるわ。
あんたん栄光ば、三途ん川に投げ落としてやる!!!」

「やってみな!!! バッドエンドは認めない。そして、現場監督に逆らう君は首(クビ)にする。
なぜなら正義は勝つのだから!!! それが余の舞台であり作品なのさ!!」

友の敵討ちのためにバッドエンドを目指す大楠。
自らの正義の成功のためにハッピーエンドを目指す恐。
バッドエンドとハッピーエンドの闘いが今、始まろうとしていた。




 紅葉はポケットから作りかけの折紙を取り出し、必死に完成させる。
おそらく、お互いが接近戦で戦う戦闘タイプ。
これはどちらが敵の本体を砕くかによって勝敗は決する。
そんな中で、恐も紅葉の攻撃を防ぐために自らの技を放った。

「『折紙享楽(おりがみきょうらく)・砕恐刃竜(さいきょうじんりゅう)』」

「『錻の童(ティンプレート・チャイルド)』」

紅葉の製作したティラノサウルスの折り紙と、恐の取り出した3体のブリキの小さな少年。その召喚時間はほぼ同時。
あとはどちらが押し返すかである。
紅葉の能力の弱点は、製作した偽物は折り紙と同じ弱点を持っているということだろう。
彼女の折り紙はブリキの小さな少年の1人を噛み殺したのだが、残りの2人によってビリビリに破かれてしまう。
しかし、このわずかな時間でも紅葉には休息の暇はない。

「『折紙享楽…………」

攻撃の手を緩めてはいけないのだ。敵は大楠でも負けた相手………。紅葉が少しでも油断をしてしまえば確実に殺される。
だから、彼女は攻めなければならない。
恐を防御に集中させるしかない。攻撃の暇を与えてはいけない。

「そうか。そうか。実力では勝てないから隙を見て倒そうと考えているんだね? おねぇーさん」

だが、いつの間にか恐は紅葉の背後を取っていた。紅葉が彼の気配など感じる暇すらなかった。まばたきをするよりも速い一瞬のうちに彼は彼女の背中を取っていたのだ。

「…………ッ」

恐の手に持っていた玩具の剣が、紅葉の首筋を切断するために振られる。

「くっ…………!!!」

でも、紅葉は諦めてなどいない。
ギリギリのところで紅葉は折紙の剣を召喚し、恐の玩具剣を防ぐ。
カタカタとお互いの剣には腕力が込められたままぶつかり合っている。
それでも折り紙の剣では、百鬼夜行の剣に太刀打ちができないのか。
彼の腕力を込めた剣は玩具の剣でありながら、まるで大きく重たい石を押されているかのように重かった。

「おっ…………『折紙享楽・鬼怒狛犬(きどこまいぬ)』」

召喚されたのは獰猛そうな4匹の狛犬。
そいつらの目は紅葉の怒りを背負っているかのように赤くなっており、しっかりと狙いを定めている。
紅葉により呼び出された4匹の狛犬は恐に飛びかかっていく。



かわいそうな狛犬達。
恐へと飛びかかった4匹のうち、2匹は先程のブリキの童によって腹の部分に拳で穴を空けられ、2匹は恐によって首を掴まれるとクシャッと首を折るかのように潰されてしまった。
もちろん、折り紙なので血が出ることはないが、その光景は紅葉への頭の中に嫌な感覚を植え付けるものとなった。

「ああ………!!」

自分も味わうかもしれない死の恐怖。
目の前に立っている少年はやはり只者ではないと改めて実感する。
もう彼女に少年に勝てる可能性のある折り紙が折れるだろうか。
恐怖、不安、責任、悪役、復讐。
彼女が味わっている感情や行うべき目標が一瞬にして塗り替えられる。
少年の正義を打ち砕ける自信が彼女の中から消え去ってしまったのだ。
大楠でさえ負けた相手に勝てる自信がない。正義の前には屈するしかないのだろうか。
恐はそんな彼女の不安を見抜いている。見抜いた上でニッコリと感情のない笑顔で紅葉の挫折を待っている。

それは死への恐れ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

Radiantmagic-煌炎の勇者-

橘/たちばな
ファンタジー
全てを創世せし神によって造られた、様々な種族が生息する世界──その名はレディアダント。 世界は神の子孫代々によって守られ、幾多の脅威に挑みし者達は人々の間では英雄として語り継がれ、勇者とも呼ばれていた。 そして勇者の一人であり、大魔導師となる者によって建国されたレイニーラ王国。民は魔法を英雄の力として崇め、王国に住む少年グライン・エアフレイドは大魔導師に憧れていた。魔法学校を卒業したグラインは王国を守る魔法戦士兵団の入団を志願し、入団テストを受ける事になる。 一つの試練から始まる物語は、やがて大きな戦いへと発展するようになる──。 ※RPG感のある王道路線型の光と闇のファンタジーです。ストーリー内容、戦闘描写において流血表現、残酷表現が含まれる場合もあり。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

朝敵、まかり通る

伊賀谷
歴史・時代
これが令和の忍法帖! 時は幕末。 薩摩藩が江戸に総攻撃をするべく進軍を開始した。 江戸が焦土と化すまであと十日。 江戸を救うために、徳川慶喜の名代として山岡鉄太郎が駿府へと向かう。 守るは、清水次郎長の子分たち。 迎え撃つは、薩摩藩が放った鬼の裔と呼ばれる八瀬鬼童衆。 ここに五対五の時代伝奇バトルが開幕する。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...