うちの弟がかわいすぎてヤバい無理!

はちみつ電車

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人の恋路を邪魔するやつは

河合さんの願い

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河合さんが深々と頭を下げた。さっきの私よりも深いかもしれない。

「あの、朝は私こそ申し訳ありませんでした。昔から嫌がらせされることが多かったから……被害妄想でした」

うつむいて話す河合さんがなんだか寂しそうに見える。

「こんなに綺麗な子でも嫌がらせされることなんてあるんだ」
「綺麗だからこそですよ」
「うわ、すごいセリフ」

思わず笑ってしまう。
河合さんと目が合うと、河合さんも笑うからただの会議室まで華やぐかのよう。

「小さい頃から母親に言い聞かされました。あなたは綺麗だからこそ謙虚な気持ちを忘れずに生きなさいって。男性が絶えず寄ってくるけれど驕ることなく、自分が愛したい人だけを愛しなさいって」

とび抜けて綺麗な娘を持つとそんな教育までしないといけないんだ……。
言われてみれば、男が寄ってくるからって片っ端から付き合う大輝くんのような子に育ってしまっては大変。女性は妊娠のリスクだってある。

「常に注目を浴びて、少しでもミスをすれば同性から叩かれ、不用意なことを言って気があると思われたら異性がストーカーになる。怖くてキッパリ断ったら調子に乗ってるって同性からも異性からも嫌われる。綺麗だって羨ましがられることもあるけど、そんな人生羨ましいですか?」
「私はお断りしたいかな」

ミスの多い私には地獄――河合さんがドジっ子なのに仕事では年齢に不相応なほど見事にこなすのは、ミスできない人生を歩んできたからなのかもしれない。

「この会社に入って、難波さんに出会って率直にすごいって思いました。あれほど端正なお顔をされてたら私と大差ない人生だったはずなのに、ちゃんと一般社会で認められてる」
「一般社会。むしろ芸能界とか行かないのはどうして?」
「私の性格が目立ちたいテレビ出たいだったら行ってたと思います。スカウトは頻繁にされますし。でも、話を聞いてみても私には無理だとしか思えない」

興味がないのに頻繫にスカウトされるのは大きなストレスらしい。
魁十もめんどくさがって、スカウトが潜んでいそうな繁華街なんかにはほとんど行かない。なのに、どこで聞きつけるのか学校の前でスカウトマンが出待ちしてたりする。

疲れた魁十を前にした時、見た目と性格にズレがあって、生きづらそうだなって思う。

「難波さんがいろんな女の子と関係を持つのも分かるんです。絶え間なくアタックしてくる女の子たちを断るより、受け入れる方が楽なんですよ。それでトラブルが起きて嫌われれば、労せず一掃できる」
「なるほど。省エネ」
「省エネ。そうですね」

かわいい~。
笑う河合さんがめちゃくちゃかわいい。やっぱり好きなタイプ。

「私の母も難波さんと同じように生きていたらしいんです。来るもの拒まず去るもの追わず。だけど、父と出会って、愛する幸せ、愛している人に愛される幸せを知ったら、以前の空っぽな自分をかわいそうに思うようになったそうです」

愛する幸せ、愛される幸せ……私も、つい最近知った。

「私がそうならないようにって話してくれたことだけど、私には今の難波さんも空っぽに見えます」
「うん、頭は空っぽだと思う」
「遠山さんって時々辛辣ですね」
「大輝くんにだけね」

だけど、大輝くんの性格がクソなのは、環境がそうさせたのかもしれない。
自分の気持ちなんかお構いなしに好意をぶつけてくる女子たち。
魁十は総じて冷たくシャットアウトすることで安易に近付けない空気を作っていた。
生きづらい世の中を生きやすくするために、大輝くんなりの処世術だったのかも……。

「私が難波さんに愛される幸せを教えられたらいいなって思うんです。空っぽのまま生きるのはもったいないじゃないですか」
「大輝くんのために?」
「はい」

大輝くんなんかのどこが好きなのかと思ってたけど、次元が違った……。

「すごい。河合さんの気持ちも知らないで、余計なマネして本当にごめんなさい」
「いえ。あんなこと言っといて何ですけど、あのニットもらってもいいですか?」
「もちろん!」
「重ね着したらかわいいかもと思って」
「そっか、重ね着という手があったね」

ガチャッとドアが開き、大輝くんがそっと顔を出す。

「まだいたの? 会議室でおしゃべりしないで。押さえてたのに会議室が空いてないって問い合わせ来ちゃうから」
「あ! ごめんなさい!」

会議室の外には、部長課長クラスばっかりがいて大変恐縮した。

「紗夜ちゃん、魁十くん昨日何か言ってた?」
「あ、お礼言っといてって言われた」
「喜んでくれたんだ! っしゃあ!」

嬉しそうにガッツポーズを決め、意気揚々と大輝くんが廊下を曲がって行く。
その横顔は、とても幸せそうに笑っていた。

「……河合さん。大輝くんが魁十を愛する幸せを知る前に教えてあげてね」
「がんばります!」

人の恋路に口を出すものではない。
たった今学んだけれど、それでも言わずにはいられなかった。
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