82 / 353
第二章 第二節 青い運命
1 本当の役割
しおりを挟む
「トーヤ、そんな小さい子にまで……」
「おい待て! またそんな勘違いされるような言い方、おまえ」
「信用できねえからな……」
「俺はガキに手出すような趣味ねえっての」
「どうだかな……って、はっ! もしかして、おれのこと助けたのも下心か!」
「誰があ!」
「だから、また話がそれるだろうが、おまえら」
アランにまた叱られる。
「すまんすまん。だがな、本当に楽しい夜だったよ、あれは」
「馬のことが気になるがな」
「ああ、あれな」
「それで、実際にダルはその馬で宮と行き来することになったのか?」
「なったよ。しょっちゅう宮に来るようになった。村でももうダルは好きにさせるようになったって感じかな。村に戻ったら漁に出るし、宮に来たら俺やルギと剣の訓練したり、他にも色々な。なんか一気にいっぱしの男になってった気がする」
ふっとトーヤが楽しそうな目をした。
「いい友達だな」
「そうだな」
トーヤが木のカップに入ったすっかり冷めたお茶を一口飲んだ。
「ダルのおかげだな。なんかすっかり気が楽になった。そのせいで馬のこともそんなに気にならなかったな。その前の俺だったら、なんの魂胆があるんだってかなりピリピリしただろうけど」
「実際は変わんねえんじゃねえか?」
「それはそうなんだがな、やるならやれって心持ちになれた」
「そうなのか?」
「ああ、何やられてもこっちは自分がやることやりたいことやるだけだからな。何しろ何をやれとも言ってこねえんだからよ、助けろって言いながら」
「それなんだよなあ……」
アランがうーんと言いながら首を傾げる。
「ここまで聞いてもまだ何をやらせたいか全く出てこねえ」
「そりゃ、本当のところはまだ分かってねえからな」
「今でもか?」
「そうだ」
もう一度カップに口をつける。
トーヤがじっとカップを見つめた。
まるで、それにフェイのリボンが巻いてあるかのように。
「その後も色んなことがあってな、それでこうしてここにいるわけだが、今でも本当にやらせたかったことってのが分かってねえ」
「シャンタルを連れ出すことじゃねえのか? 何があったか分からんが、連れて逃げてもらいたかったんだろ? 助けるってそういうことじゃねえのか?」
「かも知れんが、分からん」
カップから視線を外さない。
「だけど、それだけじゃねえと思う」
「どういうことだ?」
「俺はあの国に戻ろうとしてる、シャンタルと一緒にな」
「一緒に」とトーヤは言う、今度は「連れて」ではない。
シャンタリオに戻るのはトーヤの意思でありシャンタルの意思なのだ。
「多分だが、こっからが本番なんだと思う、俺の役割のな。言ってみりゃそのためにこいつ連れて逃げてきた、全部置いてきた。だがそんだけなんだよ、まだ」
「まだって、生き神様連れて逃げて、それはこいつが男だってこと隠すためじゃなかったのかよ? ばれちゃまずいから逃げてほしかったんだろ?」
「ああ、もちろんそれもあるだろうさ。だがな、多分違う、そんだけじゃない」
「なんでそう思うんだ?」
「すっきりしねえんだよなあ……」
トーヤは頭をガリガリかいた。
「あの時と同じっつーか、まだ続きがあるって分かったままこっち戻ったみたいな気持ちだ」
「分かんねえけどなあ、俺には」
アランが言う。
「そんじゃ、こっちに連れて逃げてきて、そんでどうすりゃいいんだ? とりあえず自分の元の場所に連れて来た。そうして結構ヤバイ仕事を一緒にやらせてる。そんで? その先は? 一生死ぬまで続けるのか?」
「確かにな」
「おまえ、ちょっとした金貯めたら足洗ってベルと店でも持ちたいって言ってたよな?」
「ああ、今でもそのつもりだ。だから今度の西の戦でちょっとまとめて稼いでそれでと思ってた。危険がないわけじゃねえが、まとまった金を手に入れるにはうってつけだよな。だからそれに一緒に行けると思ってたんだ」
「すまんな」
「いや、それはいい。なんか聞いてみたらえらく複雑な話だしな」
「そういうのがねえんだよなあ、最終目標とか希望って言うのかな、そういうのが。神様連れて逃げてきて、そんでどうすりゃいいんだ? シャンタルが小金貯めて小さい店持ってそこの主人になるのか? 想像つくか?」
「つかんな」
アランが笑った。
「第一神様が入ったまんまだ。それもどうすりゃいいか分からん。だから何にしても一度あの国にもどらなきゃならねえ」
「そこは納得した。ただ分からんのは、なんでそれが今なんだ?」
「託宣があったからな」
「え?」
「ええっ!」
アランと、そばで黙って聞いていたベルも驚く。
「託宣って、それ……」
「こいつがな、次代様がいらっしゃるって言い出しやがったんだよ」
トーヤがクイッと指をしゃくってシャンタルを指す。
「シャンタル、本当なのか?」
「うん、感じる。もうすぐ次代様がいらっしゃる。シャンタルの交代がある」
「えっ、それって十年おきじゃねえのか? シャンタルって確か18だって言ってたよな? 二年も早いのか?」
「大体十年と言うだけできっちりではないからね。それに何か理由があるのかも知れない」
「それで予定くるっちまったんだよなあ」
トーヤが言う。
「俺もおまえたちと一緒に行って一年ぐらい稼いでから思ってたんだがな、早まっちまったみたいだ」
「おい待て! またそんな勘違いされるような言い方、おまえ」
「信用できねえからな……」
「俺はガキに手出すような趣味ねえっての」
「どうだかな……って、はっ! もしかして、おれのこと助けたのも下心か!」
「誰があ!」
「だから、また話がそれるだろうが、おまえら」
アランにまた叱られる。
「すまんすまん。だがな、本当に楽しい夜だったよ、あれは」
「馬のことが気になるがな」
「ああ、あれな」
「それで、実際にダルはその馬で宮と行き来することになったのか?」
「なったよ。しょっちゅう宮に来るようになった。村でももうダルは好きにさせるようになったって感じかな。村に戻ったら漁に出るし、宮に来たら俺やルギと剣の訓練したり、他にも色々な。なんか一気にいっぱしの男になってった気がする」
ふっとトーヤが楽しそうな目をした。
「いい友達だな」
「そうだな」
トーヤが木のカップに入ったすっかり冷めたお茶を一口飲んだ。
「ダルのおかげだな。なんかすっかり気が楽になった。そのせいで馬のこともそんなに気にならなかったな。その前の俺だったら、なんの魂胆があるんだってかなりピリピリしただろうけど」
「実際は変わんねえんじゃねえか?」
「それはそうなんだがな、やるならやれって心持ちになれた」
「そうなのか?」
「ああ、何やられてもこっちは自分がやることやりたいことやるだけだからな。何しろ何をやれとも言ってこねえんだからよ、助けろって言いながら」
「それなんだよなあ……」
アランがうーんと言いながら首を傾げる。
「ここまで聞いてもまだ何をやらせたいか全く出てこねえ」
「そりゃ、本当のところはまだ分かってねえからな」
「今でもか?」
「そうだ」
もう一度カップに口をつける。
トーヤがじっとカップを見つめた。
まるで、それにフェイのリボンが巻いてあるかのように。
「その後も色んなことがあってな、それでこうしてここにいるわけだが、今でも本当にやらせたかったことってのが分かってねえ」
「シャンタルを連れ出すことじゃねえのか? 何があったか分からんが、連れて逃げてもらいたかったんだろ? 助けるってそういうことじゃねえのか?」
「かも知れんが、分からん」
カップから視線を外さない。
「だけど、それだけじゃねえと思う」
「どういうことだ?」
「俺はあの国に戻ろうとしてる、シャンタルと一緒にな」
「一緒に」とトーヤは言う、今度は「連れて」ではない。
シャンタリオに戻るのはトーヤの意思でありシャンタルの意思なのだ。
「多分だが、こっからが本番なんだと思う、俺の役割のな。言ってみりゃそのためにこいつ連れて逃げてきた、全部置いてきた。だがそんだけなんだよ、まだ」
「まだって、生き神様連れて逃げて、それはこいつが男だってこと隠すためじゃなかったのかよ? ばれちゃまずいから逃げてほしかったんだろ?」
「ああ、もちろんそれもあるだろうさ。だがな、多分違う、そんだけじゃない」
「なんでそう思うんだ?」
「すっきりしねえんだよなあ……」
トーヤは頭をガリガリかいた。
「あの時と同じっつーか、まだ続きがあるって分かったままこっち戻ったみたいな気持ちだ」
「分かんねえけどなあ、俺には」
アランが言う。
「そんじゃ、こっちに連れて逃げてきて、そんでどうすりゃいいんだ? とりあえず自分の元の場所に連れて来た。そうして結構ヤバイ仕事を一緒にやらせてる。そんで? その先は? 一生死ぬまで続けるのか?」
「確かにな」
「おまえ、ちょっとした金貯めたら足洗ってベルと店でも持ちたいって言ってたよな?」
「ああ、今でもそのつもりだ。だから今度の西の戦でちょっとまとめて稼いでそれでと思ってた。危険がないわけじゃねえが、まとまった金を手に入れるにはうってつけだよな。だからそれに一緒に行けると思ってたんだ」
「すまんな」
「いや、それはいい。なんか聞いてみたらえらく複雑な話だしな」
「そういうのがねえんだよなあ、最終目標とか希望って言うのかな、そういうのが。神様連れて逃げてきて、そんでどうすりゃいいんだ? シャンタルが小金貯めて小さい店持ってそこの主人になるのか? 想像つくか?」
「つかんな」
アランが笑った。
「第一神様が入ったまんまだ。それもどうすりゃいいか分からん。だから何にしても一度あの国にもどらなきゃならねえ」
「そこは納得した。ただ分からんのは、なんでそれが今なんだ?」
「託宣があったからな」
「え?」
「ええっ!」
アランと、そばで黙って聞いていたベルも驚く。
「託宣って、それ……」
「こいつがな、次代様がいらっしゃるって言い出しやがったんだよ」
トーヤがクイッと指をしゃくってシャンタルを指す。
「シャンタル、本当なのか?」
「うん、感じる。もうすぐ次代様がいらっしゃる。シャンタルの交代がある」
「えっ、それって十年おきじゃねえのか? シャンタルって確か18だって言ってたよな? 二年も早いのか?」
「大体十年と言うだけできっちりではないからね。それに何か理由があるのかも知れない」
「それで予定くるっちまったんだよなあ」
トーヤが言う。
「俺もおまえたちと一緒に行って一年ぐらい稼いでから思ってたんだがな、早まっちまったみたいだ」
0
あなたにおすすめの小説
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろう、ベリーズカフェにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
婚約破棄された悪役令嬢、手切れ金でもらった不毛の領地を【神の恵み(現代農業知識)】で満たしたら、塩対応だった氷の騎士様が離してくれません
夏見ナイ
恋愛
公爵令嬢アリシアは、王太子から婚約破棄された瞬間、歓喜に打ち震えた。これで退屈な悪役令嬢の役目から解放される!
前世が日本の農学徒だった彼女は、慰謝料として誰もが嫌がる不毛の辺境領地を要求し、念願の農業スローライフをスタートさせる。
土壌改良、品種改良、魔法と知識を融合させた革新的な農法で、荒れ地は次々と黄金の穀倉地帯へ。
当初アリシアを厄介者扱いしていた「氷の騎士」カイ辺境伯も、彼女の作る絶品料理に胃袋を掴まれ、不器用ながらも彼女に惹かれていく。
一方、彼女を追放した王都は深刻な食糧危機に陥り……。
これは、捨てられた令嬢が農業チートで幸せを掴む、甘くて美味しい逆転ざまぁ&領地経営ラブストーリー!
残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~
日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ―
異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。
強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。
ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる!
―作品について―
完結しました。
全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。
捨てられた王妃は情熱王子に攫われて
きぬがやあきら
恋愛
厳しい外交、敵対勢力の鎮圧――あなたと共に歩む未来の為に手を取り頑張って来て、やっと王位継承をしたと思ったら、祝賀の夜に他の女の元へ通うフィリップを目撃するエミリア。
貴方と共に国の繁栄を願って来たのに。即位が叶ったらポイなのですか?
猛烈な抗議と共に実家へ帰ると啖呵を切った直後、エミリアは隣国ヴァルデリアの王子に攫われてしまう。ヴァルデリア王子の、エドワードは影のある容姿に似合わず、強い情熱を秘めていた。私を愛しているって、本当ですか? でも、もうわたくしは誰の愛も信じたくないのです。
疑心暗鬼のエミリアに、エドワードは誠心誠意向に向き合い、愛を得ようと少しずつ寄り添う。一方でエミリアの失踪により国政が立ち行かなくなるヴォルティア王国。フィリップは自分の功績がエミリアの内助であると思い知り――
ざまあ系の物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる