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第三章 第六節 旅立ちの準備
17 言葉にできない
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「作戦、ですか……」
ミーヤが少し困ったような顔をする。
「俺からすりゃ作戦みたいなもんだ、今までもそういう作戦に乗って戦ってきたんだしその方が慣れてるっちゃあ慣れてる。だがまあ、こんだけ長いのは初めてだな」
トーヤがそう言って笑ってみせるが、ミーヤはここへきてまるで戦のようだと不安が大きくなってきた。
「本当に無事で……」
「誰が」とは言わない。
自分は生き神に仕える侍女である。
誰よりもシャンタルを、マユリアを、そして宮を、民を思わなければならない立場である。
ミーヤには誰よりもそれがある、キリエはそう言っていた。それがミーヤを選んだ理由である、と。
だが、今の言葉は……
「だーいじょうぶだって、俺を信じろ。どうやっても生き延びて、無事にシャンタルをこちらに戻してやるからよ」
そう言ってトーヤが笑う。
違うのだ、ミーヤはそう言いたかった。
今、自分が誰より心配しているのが誰なのか、誰よりも戻ってきてほしいのが誰なのかをもう分かってしまっていた。それを伝えたい、そう思ってしまっていた。
だけど、それをはっきりと口に出すことはできない。自分はこの宮の侍女として生きている、そしてこれからも生きていくのだ。
『待っています』
その言葉を出すことすら、本来ならばしてはいけないことなのかも知れない。
だが……
「本当に無事でいてください」
言いたい言葉を飲み込んで、「誰に」とは言わずに同じ言葉を繰り返す。
「だからあ、だ~いじょうぶだって、無事にシャンタル連れて戻ってきてやるからよ」
分かっているのかいないのか、ふざけたようにトーヤもそういう言い方をする。
主に「戻ってくる」のはシャンタルであるように、自分はその「助け手」の付属物ででもあるように。
「しかし明日の今頃は、もうこうしてのんびり話なんてしてられねえんだよな」
明日の今頃はどうなっているのだろう、国中が悲嘆に暮れているのだろうか。交代を終えたシャンタルが亡くなるなど二千年の歴史の中でなかったことだ。
「そういや、ダルがアロさんは一回目のお出ましを見たらそのまますぐカトッティから船を出すって言ってたよな。アロさんはシャンタルのことをキノスで知ることになるのかな? 約束があるから何があろうとも船は進めるって言ってたらしいが、もしも出さないってなったらやっぱり陸路で行くことになるか」
「そんな可能性があるのですか?」
「商人は信用第一だから何があっても行くとは言ってたらしいけどな。なんかあって遅れても1日や2日だったらオーサ商会の船を待ってはくれるだろうとのことだが、まさかこんだけのことが起きるとは思ってもないだろうから、何がどうなるかは誰にも分からんだろう」
ミーヤには何をどう言っていいのか分からない。
「とにかく、もしもキノスから船が出ないとなったら陸路を行く。その時に紹介状でも持っていきゃ乗せてくれるだろう。日数的には同じようなもんだって言ってたから、道案内でも雇って馬か馬車ぶっ飛ばして行くさ。そう心配しなさんなって、な?」
そう言ってミーヤの肩をポンポンと軽く叩いた。
触れられた部分が熱を帯びた気がした。
そして、触れられたことでミーヤには分かってしまった……
自分が、本当に一番言いたかった言葉を……
『行かないで』
「無事で」でも「待っている」でもない、本当はその言葉をこそ言いたかったのだと気づいてしまった。
でもそれこそ絶対に言ってはいけない言葉なのだとも分かっている。
ミーヤは一番言いたい言葉をグッと飲み込むと、もう一度、
「本当にご無事で……」
そう言った。
「おう、分かってるっての」
トーヤはそう言って明るく返すが、本当は心の中ではこう思っていた。
『行くなと言ってくれ、引き止めてくれ、離れたくない』
もしも、本当にそう言われたら自分はどうするだろう。
だが、もしも言われたとしても行くしかないのだとも分かっている。
自分はそのために、ここから旅立つために呼ばれた存在なのだ。
待っていると言った。
待っててくれと言った。
本当に言いたい言葉を言ったと思っていた。
だが、そのはずだった言葉を口にしたことで、その奥にある本当の本当の気持ち、言葉にできない気持ちに気がついてしまった。
本当の本当の気持ち、言葉にはできない気持ち。
その言葉には封をする。何があろうと決して口にはできない、しない。
そしてその時は近づいてくる。
長い年月、離れ離れになるその時が。
「ダル、キリエさんへうまく報告できたのかな」
何もなかったようにトーヤがそう言う。
「リルが付いていますしね」
何もなかったようにミーヤがそう言う。
「カースのかあちゃんに宮のかあちゃんか、それにアミちゃんだろ、3人の尻に敷かれてますます細長くなっちまいそうだな、ダル」
また何もなかったようにトーヤがふざける。
「まあ、またそんな言い方を、悪いですよ」
また何もなかったようにミーヤがそう言って少し眉を潜めながら笑う。
そうして何もなかったようにいつものようにいつもの会話が繰り返され、ただただ時間が過ぎていき、前日を終えた。
ミーヤが少し困ったような顔をする。
「俺からすりゃ作戦みたいなもんだ、今までもそういう作戦に乗って戦ってきたんだしその方が慣れてるっちゃあ慣れてる。だがまあ、こんだけ長いのは初めてだな」
トーヤがそう言って笑ってみせるが、ミーヤはここへきてまるで戦のようだと不安が大きくなってきた。
「本当に無事で……」
「誰が」とは言わない。
自分は生き神に仕える侍女である。
誰よりもシャンタルを、マユリアを、そして宮を、民を思わなければならない立場である。
ミーヤには誰よりもそれがある、キリエはそう言っていた。それがミーヤを選んだ理由である、と。
だが、今の言葉は……
「だーいじょうぶだって、俺を信じろ。どうやっても生き延びて、無事にシャンタルをこちらに戻してやるからよ」
そう言ってトーヤが笑う。
違うのだ、ミーヤはそう言いたかった。
今、自分が誰より心配しているのが誰なのか、誰よりも戻ってきてほしいのが誰なのかをもう分かってしまっていた。それを伝えたい、そう思ってしまっていた。
だけど、それをはっきりと口に出すことはできない。自分はこの宮の侍女として生きている、そしてこれからも生きていくのだ。
『待っています』
その言葉を出すことすら、本来ならばしてはいけないことなのかも知れない。
だが……
「本当に無事でいてください」
言いたい言葉を飲み込んで、「誰に」とは言わずに同じ言葉を繰り返す。
「だからあ、だ~いじょうぶだって、無事にシャンタル連れて戻ってきてやるからよ」
分かっているのかいないのか、ふざけたようにトーヤもそういう言い方をする。
主に「戻ってくる」のはシャンタルであるように、自分はその「助け手」の付属物ででもあるように。
「しかし明日の今頃は、もうこうしてのんびり話なんてしてられねえんだよな」
明日の今頃はどうなっているのだろう、国中が悲嘆に暮れているのだろうか。交代を終えたシャンタルが亡くなるなど二千年の歴史の中でなかったことだ。
「そういや、ダルがアロさんは一回目のお出ましを見たらそのまますぐカトッティから船を出すって言ってたよな。アロさんはシャンタルのことをキノスで知ることになるのかな? 約束があるから何があろうとも船は進めるって言ってたらしいが、もしも出さないってなったらやっぱり陸路で行くことになるか」
「そんな可能性があるのですか?」
「商人は信用第一だから何があっても行くとは言ってたらしいけどな。なんかあって遅れても1日や2日だったらオーサ商会の船を待ってはくれるだろうとのことだが、まさかこんだけのことが起きるとは思ってもないだろうから、何がどうなるかは誰にも分からんだろう」
ミーヤには何をどう言っていいのか分からない。
「とにかく、もしもキノスから船が出ないとなったら陸路を行く。その時に紹介状でも持っていきゃ乗せてくれるだろう。日数的には同じようなもんだって言ってたから、道案内でも雇って馬か馬車ぶっ飛ばして行くさ。そう心配しなさんなって、な?」
そう言ってミーヤの肩をポンポンと軽く叩いた。
触れられた部分が熱を帯びた気がした。
そして、触れられたことでミーヤには分かってしまった……
自分が、本当に一番言いたかった言葉を……
『行かないで』
「無事で」でも「待っている」でもない、本当はその言葉をこそ言いたかったのだと気づいてしまった。
でもそれこそ絶対に言ってはいけない言葉なのだとも分かっている。
ミーヤは一番言いたい言葉をグッと飲み込むと、もう一度、
「本当にご無事で……」
そう言った。
「おう、分かってるっての」
トーヤはそう言って明るく返すが、本当は心の中ではこう思っていた。
『行くなと言ってくれ、引き止めてくれ、離れたくない』
もしも、本当にそう言われたら自分はどうするだろう。
だが、もしも言われたとしても行くしかないのだとも分かっている。
自分はそのために、ここから旅立つために呼ばれた存在なのだ。
待っていると言った。
待っててくれと言った。
本当に言いたい言葉を言ったと思っていた。
だが、そのはずだった言葉を口にしたことで、その奥にある本当の本当の気持ち、言葉にできない気持ちに気がついてしまった。
本当の本当の気持ち、言葉にはできない気持ち。
その言葉には封をする。何があろうと決して口にはできない、しない。
そしてその時は近づいてくる。
長い年月、離れ離れになるその時が。
「ダル、キリエさんへうまく報告できたのかな」
何もなかったようにトーヤがそう言う。
「リルが付いていますしね」
何もなかったようにミーヤがそう言う。
「カースのかあちゃんに宮のかあちゃんか、それにアミちゃんだろ、3人の尻に敷かれてますます細長くなっちまいそうだな、ダル」
また何もなかったようにトーヤがふざける。
「まあ、またそんな言い方を、悪いですよ」
また何もなかったようにミーヤがそう言って少し眉を潜めながら笑う。
そうして何もなかったようにいつものようにいつもの会話が繰り返され、ただただ時間が過ぎていき、前日を終えた。
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*表現が不適切なところがあるかもしれませんが、その事に対して推奨しているわけではありません。物語としての表現です。不快であればそのまま閉じてください。
*いつもどおり程々に誤字脱字はあると思います。確認はしておりますが、どうしても漏れてしまっています。
*他のサイトでは別のタイトル名で投稿しております。小説家になろう様では異世界恋愛部門で日間8位となる評価をいただきました。
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