9 / 24
9. 部屋で1人考える
しおりを挟む
自室で私は一人、見合いで最近出会った二人のことを考えていた。
侍女のマリアは今、私の夜の就寝のときに横に置いておく水差しを用意してくれていて傍にいない。
「……かっこよすぎでは?」
誰もいない部屋に、思わず本音が漏れる。
騎士団長子息アレクシス様。
燃えるような赤髪に、鍛えられた体躯。
不器用なのに真っ直ぐで、言葉は少ないけれど嘘がない。
そして宰相子息レオンハルト様。
月光のような銀髪に、透き通る青い瞳。
冷静沈着、理知的で、なのに時折見せる照れたような沈黙。
両手で頬を押さえる。
「……ずるいわ」
あんなに整ったお顔立ちで、真剣にこちらを見つめられるなんて。
胸の奥が、まだ少し熱い。
⸻
けれど。
ふと、昼間の光景が浮かぶ。
先日の公爵令嬢のお茶会。
お茶会の最後、婚約者の1人である侯爵子息が公爵令嬢に会いに来たのと少し時間が重なった。
そして――
まあ、見事なまでに。
「今日も君は世界で一番美しい」
「その微笑みは国宝だ」
「紅茶より甘い」
と、公爵令嬢にずっと愛の言葉を囁いていた。
もちろん、私へお茶会が終わる時間と被ってしまった謝罪、私への賛辞、礼儀なども完璧だった。
公爵令嬢は慣れた様子で微笑み、
満足そうに受け取っていた。
……あの二人は、苦手そう。
(もしかして……)
私はベッドに腰掛け、天蓋を見上げた。
女性が少ないこの世界。
数年前の流行り病で、さらに人数は減った。
年上世代の令嬢の多くは、王子方の婚約者となり、あるいは隣国へ嫁ぎ、
残った高位令嬢の数は、片手で数えられるほど。
その中で。
気位が高く、強く前に出る令嬢たちと、
あの二人が上手くいかなかった可能性。
……ある。
アレクシス様は真面目すぎる。
レオンハルト様は理屈屋で素直じゃない。
強い令嬢と衝突しても、不思議ではない。
だから――
「穏やかな伯爵令嬢に、打診が来た」
ぽつりと呟く。
打算。
家同士の均衡。
高魔力の血統。
きっと、そういう計算もある。
それくらいは、分かっている。
⸻
けれど。
目を閉じると、先日の二人の表情が浮かぶ。
アレクシス様の、真剣な眼差し。
言葉は少なくても、向き合おうとしてくれる姿勢。
レオンハルト様の、わずかな動揺。
冷静であろうとしながら、ちゃんと私を見ようとする瞳。
(……あれは、仕事だけの目ではなかった)
少なくとも。
“消化試合”ではなかった。
真剣だった。
私を、条件としてではなく。
一人の人として見極めようとしていた。
それは、ちゃんと伝わってきた。
胸の奥が、じんわり温かくなる。
⸻
「……もう少し、会ってみようかしら」
小さく呟く。
決めるのは、今ではない。
この世界で、女性は少ない。
高魔力の令嬢は、さらに少ない。
だからこそ。
焦って誰かに選ばれるのではなく。
私も、選びたい。
窓の外では、夜風が静かに木々を揺らしている。
胸の高鳴りを抱えたまま、私はそっと灯りを落とした。
この選択は、義務ではない。
きっと、恋の始まりだ。
侍女のマリアは今、私の夜の就寝のときに横に置いておく水差しを用意してくれていて傍にいない。
「……かっこよすぎでは?」
誰もいない部屋に、思わず本音が漏れる。
騎士団長子息アレクシス様。
燃えるような赤髪に、鍛えられた体躯。
不器用なのに真っ直ぐで、言葉は少ないけれど嘘がない。
そして宰相子息レオンハルト様。
月光のような銀髪に、透き通る青い瞳。
冷静沈着、理知的で、なのに時折見せる照れたような沈黙。
両手で頬を押さえる。
「……ずるいわ」
あんなに整ったお顔立ちで、真剣にこちらを見つめられるなんて。
胸の奥が、まだ少し熱い。
⸻
けれど。
ふと、昼間の光景が浮かぶ。
先日の公爵令嬢のお茶会。
お茶会の最後、婚約者の1人である侯爵子息が公爵令嬢に会いに来たのと少し時間が重なった。
そして――
まあ、見事なまでに。
「今日も君は世界で一番美しい」
「その微笑みは国宝だ」
「紅茶より甘い」
と、公爵令嬢にずっと愛の言葉を囁いていた。
もちろん、私へお茶会が終わる時間と被ってしまった謝罪、私への賛辞、礼儀なども完璧だった。
公爵令嬢は慣れた様子で微笑み、
満足そうに受け取っていた。
……あの二人は、苦手そう。
(もしかして……)
私はベッドに腰掛け、天蓋を見上げた。
女性が少ないこの世界。
数年前の流行り病で、さらに人数は減った。
年上世代の令嬢の多くは、王子方の婚約者となり、あるいは隣国へ嫁ぎ、
残った高位令嬢の数は、片手で数えられるほど。
その中で。
気位が高く、強く前に出る令嬢たちと、
あの二人が上手くいかなかった可能性。
……ある。
アレクシス様は真面目すぎる。
レオンハルト様は理屈屋で素直じゃない。
強い令嬢と衝突しても、不思議ではない。
だから――
「穏やかな伯爵令嬢に、打診が来た」
ぽつりと呟く。
打算。
家同士の均衡。
高魔力の血統。
きっと、そういう計算もある。
それくらいは、分かっている。
⸻
けれど。
目を閉じると、先日の二人の表情が浮かぶ。
アレクシス様の、真剣な眼差し。
言葉は少なくても、向き合おうとしてくれる姿勢。
レオンハルト様の、わずかな動揺。
冷静であろうとしながら、ちゃんと私を見ようとする瞳。
(……あれは、仕事だけの目ではなかった)
少なくとも。
“消化試合”ではなかった。
真剣だった。
私を、条件としてではなく。
一人の人として見極めようとしていた。
それは、ちゃんと伝わってきた。
胸の奥が、じんわり温かくなる。
⸻
「……もう少し、会ってみようかしら」
小さく呟く。
決めるのは、今ではない。
この世界で、女性は少ない。
高魔力の令嬢は、さらに少ない。
だからこそ。
焦って誰かに選ばれるのではなく。
私も、選びたい。
窓の外では、夜風が静かに木々を揺らしている。
胸の高鳴りを抱えたまま、私はそっと灯りを落とした。
この選択は、義務ではない。
きっと、恋の始まりだ。
223
あなたにおすすめの小説
猫なので、もう働きません。
具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。
やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!?
しかもここは女性が極端に少ない世界。
イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。
「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。
これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。
※表紙はAI画像です
能天気な私は今日も愛される
具なっしー
恋愛
日本でJKライフを謳歌していた凪紗は遅刻しそうになって全力疾走してたらトラックとバコーン衝突して死んじゃったー。そんで、神様とお話しして、目が覚めたら男女比50:1の世界に転生してたー!この世界では女性は宝物のように扱われ猿のようにやりたい放題の女性ばっかり!?そんな中、凪紗ことポピーは日本の常識があるから、天使だ!天使だ!と溺愛されている。この世界と日本のギャップに苦しみながらも、楽観的で能天気な性格で周りに心配される女の子のおはなし。
はじめて小説を書くので誤字とか色々拙いところが多いと思いますが優しく見てくれたら嬉しいです。自分で読みたいのをかいてみます。残酷な描写とかシリアスが苦手なのでかかないです。定番な展開が続きます。飽き性なので褒めてくれたら続くと思いますよろしくお願いします。
※表紙はAI画像です
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーレムです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜
具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」
居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。
幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。
そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。
しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。
そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。
盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。
※表紙はAIです
公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
実は、公爵家の隠し子だったルネリア・ラーデインは困惑していた。
なぜなら、ラーデイン公爵家の人々から溺愛されているからである。
普通に考えて、妾の子は疎まれる存在であるはずだ。それなのに、公爵家の人々は、ルネリアを受け入れて愛してくれている。
それに、彼女は疑問符を浮かべるしかなかった。一体、どうして彼らは自分を溺愛しているのか。もしかして、何か裏があるのではないだろうか。
そう思ったルネリアは、ラーデイン公爵家の人々のことを調べることにした。そこで、彼女は衝撃の真実を知ることになる。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
隣国のモフモフ騎士団長様、番ではない私でよろしいのですか?
こころ ゆい
恋愛
ジャスミン・リーフェント。二十歳。
歴史あるリーフェント公爵家の一人娘だが、
分厚い眼鏡に地味な装い、常に本を読んでいる変わり者。皆が自分のことをそう言っているのは知っていた。
モーリャント王国の王太子殿下、コーネル・モーリャントとの婚約が王命で決まってから十三年。王妃教育を終えても婚姻は進まず、宙ぶらりん状態。
そんな中、出席した舞踏会でいつも通り他の女性をエスコートする王太子殿下。
それだけならまだ良かったが、あろうことか王太子の連れた女性が事件を巻き起こす。その最中で言い渡された婚約破棄。
「....婚約破棄、お受けいたします」
そのあと、ジャスミンは一人旅に出てある人物と出会った。
これは、婚約破棄された女性が獣人国で知らぬうちに番と出会い、運命に翻弄されていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる