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第15章『ドジっ子夜々、バイノーラルで恋を囁く!?』
バイノーラルマイク、恐るべし!?
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「——じゃ、テスト音声、入れますね~。マイク、左右確認しまーす」
スタッフさんの明るい声が、スタジオに響いた。
あたしはと言えば、冷房が効いてるってのに、うっすら汗ばんでた。背中とか、太ももとか。
今日の収録スタジオは、LinkLive事務所の地下にある“ガチ仕様”のブース。
壁も天井も防音で、照明もやけに落ち着いてて、空気がやたらと……重い。
“恋人の寝室”みたいな空気って言えば伝わる?
いや、そっちの経験はないんだけど。ないけど、そういう雰囲気。
「こっちがバイノーラルマイク、通称“だるまさん”です。見た目ちょっとアレですけど、精度すごいですよ」
目の前に置かれた“だるま”は、耳がついていた。両側に、リアルな造形の人間の耳。
白くて、なんかヌメっとしてて、目を合わせたくないタイプの存在感。
「この耳の部分に向かって、優しく囁く感じでお願いします~」
「……はあ」
わかってる、わかってるのよ、理屈は。
でもね。
実際に“耳に向かって囁く”って、やってみると想像以上に、恥ずかしい。
台本には、こんなセリフが書かれてた。
「も~、さっきからイジワルしすぎ……。……ねえ、ちゃんと、見てよ」
「んっ……もう、ばか。……ぎゅー、して?」
「……だいすき。……すごく、すごく、すき……♡」
読んだだけで、赤面するやつじゃない?
ファンの前で演じてるときなら、ノワール=クロエとして“悪戯っぽく”乗り切れる。
でも今は、相手が……“あの子”なんだよ?
「夜々さん、そろそろ通しリハ入りますー」
「……わかった」
深呼吸、三回。唇を軽く舐めて、発声の準備。
心を鎮めようとするほど、思考が暴走する。
(レイくん、さっき控室で、髪に寝癖ついてた)
(直したの、わたし。指先で、軽く……)
(あんなに、やわらかかったんだ)
(距離、近すぎた。顔、熱くなった。……絶対バレてた)
「——マイク、オンになります」
あたしは目を閉じて、マイクの“耳”に向かって顔を寄せた。
(これは演技。プロの仕事。ノワール=クロエとして、やるべきこと)
でも。
でもね。
「……すきだよ。……すき……。ほんとに……すき、なんだよ……」
言った瞬間、耳に“自分の声”が返ってきた。
まるで、目の前に“本物の誰か”がいるみたいな感覚。
心臓が、跳ねた。
声が、届いた気がした。
あたしの中の“誰かにしか言えない気持ち”が、声になって、跳ね返ってきた。
(やばい、涙出そう)
「すごく、いいです……その感じ、そのトーン、バッチリです!」
スタッフの声がブース越しに聞こえる。
なんとか取り繕って、咳払いを一つ。
「こ、こんなの、別に普通でしょ……?私、プロだし」
わざと鼻で笑ってみせたけど。
プロだからこそ、嘘をつけない瞬間ってのが、あるのよ。
リハが終わって、収録までのインターバル。
隣の控えスペースで、麦茶片手に座っていたら。
「夜々さん、お疲れさまです」
その声だけで、麦茶吹きそうになった。
「あ、ああ……レイくん」
「さっきのリハ、聞いてました。すごく、良かったです。……なんか、こう……」
「な、なによ。ハッキリ言いなさいよ」
「……心臓、掴まれた感じがしました」
「——っ!?」
(やめてくれない?そういうの……不意打ちすぎるから……)
「僕、夜々さんとこうして一緒にできて、本当に嬉しいです。演技もすごく自然で……」
「……あんた、それ、どこまでが本音なのよ?」
「え?」
「本音なの?お世辞なの?それとも、“役”に入り込んでるだけ?」
「……」
レイは、ちょっと黙ったあと。
真面目な顔で言った。
「本音です。……すべて、僕の気持ちで話してます」
心臓、また跳ねた。
バカ、あたしのバカ。
ちょっと照れてる顔、絶対見られた。
耳まで真っ赤になってる。
なのに、この子はそれを気づかないフリして、ちゃんと“レイ”として隣にいる。
だからこそ、ズルいのよ。
その“無自覚な距離感”が、一番こたえるの。
(……いっそ、本番で、ちょっとくらい暴走してやろうかしら)
(演技のフリして、本音を囁くとか……)
(ううん……それはダメ。絶対ダメ)
(だって、それやったら——あたし、もう戻れなくなる)
けど、この時点ではまだ知らなかった。
本番中、“戻れなくなるような事故”が、本当に起きるなんて。
しかもそれが、“バイノーラルマイク”のせいで、全世界に配信されるなんて。
スタッフさんの明るい声が、スタジオに響いた。
あたしはと言えば、冷房が効いてるってのに、うっすら汗ばんでた。背中とか、太ももとか。
今日の収録スタジオは、LinkLive事務所の地下にある“ガチ仕様”のブース。
壁も天井も防音で、照明もやけに落ち着いてて、空気がやたらと……重い。
“恋人の寝室”みたいな空気って言えば伝わる?
いや、そっちの経験はないんだけど。ないけど、そういう雰囲気。
「こっちがバイノーラルマイク、通称“だるまさん”です。見た目ちょっとアレですけど、精度すごいですよ」
目の前に置かれた“だるま”は、耳がついていた。両側に、リアルな造形の人間の耳。
白くて、なんかヌメっとしてて、目を合わせたくないタイプの存在感。
「この耳の部分に向かって、優しく囁く感じでお願いします~」
「……はあ」
わかってる、わかってるのよ、理屈は。
でもね。
実際に“耳に向かって囁く”って、やってみると想像以上に、恥ずかしい。
台本には、こんなセリフが書かれてた。
「も~、さっきからイジワルしすぎ……。……ねえ、ちゃんと、見てよ」
「んっ……もう、ばか。……ぎゅー、して?」
「……だいすき。……すごく、すごく、すき……♡」
読んだだけで、赤面するやつじゃない?
ファンの前で演じてるときなら、ノワール=クロエとして“悪戯っぽく”乗り切れる。
でも今は、相手が……“あの子”なんだよ?
「夜々さん、そろそろ通しリハ入りますー」
「……わかった」
深呼吸、三回。唇を軽く舐めて、発声の準備。
心を鎮めようとするほど、思考が暴走する。
(レイくん、さっき控室で、髪に寝癖ついてた)
(直したの、わたし。指先で、軽く……)
(あんなに、やわらかかったんだ)
(距離、近すぎた。顔、熱くなった。……絶対バレてた)
「——マイク、オンになります」
あたしは目を閉じて、マイクの“耳”に向かって顔を寄せた。
(これは演技。プロの仕事。ノワール=クロエとして、やるべきこと)
でも。
でもね。
「……すきだよ。……すき……。ほんとに……すき、なんだよ……」
言った瞬間、耳に“自分の声”が返ってきた。
まるで、目の前に“本物の誰か”がいるみたいな感覚。
心臓が、跳ねた。
声が、届いた気がした。
あたしの中の“誰かにしか言えない気持ち”が、声になって、跳ね返ってきた。
(やばい、涙出そう)
「すごく、いいです……その感じ、そのトーン、バッチリです!」
スタッフの声がブース越しに聞こえる。
なんとか取り繕って、咳払いを一つ。
「こ、こんなの、別に普通でしょ……?私、プロだし」
わざと鼻で笑ってみせたけど。
プロだからこそ、嘘をつけない瞬間ってのが、あるのよ。
リハが終わって、収録までのインターバル。
隣の控えスペースで、麦茶片手に座っていたら。
「夜々さん、お疲れさまです」
その声だけで、麦茶吹きそうになった。
「あ、ああ……レイくん」
「さっきのリハ、聞いてました。すごく、良かったです。……なんか、こう……」
「な、なによ。ハッキリ言いなさいよ」
「……心臓、掴まれた感じがしました」
「——っ!?」
(やめてくれない?そういうの……不意打ちすぎるから……)
「僕、夜々さんとこうして一緒にできて、本当に嬉しいです。演技もすごく自然で……」
「……あんた、それ、どこまでが本音なのよ?」
「え?」
「本音なの?お世辞なの?それとも、“役”に入り込んでるだけ?」
「……」
レイは、ちょっと黙ったあと。
真面目な顔で言った。
「本音です。……すべて、僕の気持ちで話してます」
心臓、また跳ねた。
バカ、あたしのバカ。
ちょっと照れてる顔、絶対見られた。
耳まで真っ赤になってる。
なのに、この子はそれを気づかないフリして、ちゃんと“レイ”として隣にいる。
だからこそ、ズルいのよ。
その“無自覚な距離感”が、一番こたえるの。
(……いっそ、本番で、ちょっとくらい暴走してやろうかしら)
(演技のフリして、本音を囁くとか……)
(ううん……それはダメ。絶対ダメ)
(だって、それやったら——あたし、もう戻れなくなる)
けど、この時点ではまだ知らなかった。
本番中、“戻れなくなるような事故”が、本当に起きるなんて。
しかもそれが、“バイノーラルマイク”のせいで、全世界に配信されるなんて。
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