イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。

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第24章『LinkLive文化祭!ステージのど真ん中で、愛を叫ぶ!?』

『ステージの真ん中で、君に“好き”を叫びたい』

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文化祭当日のLinkLive事務所は、まさしく熱狂の坩堝と化していた。
開場と同時に押し寄せたファンたちの熱気は、夏の終わりの気怠い空気を一瞬で吹き飛ばし、事務所全体を一つの巨大な生命体のように脈打たせる。

ひよりたちが運営する「兄妹イチャコラ♡思い出喫茶」は、開場三分で長蛇の列が形成されていた。

「お、お兄ちゃん!パンケーキの生地、もっと焼かないと!あと、塩と砂糖、間違えないで!」
「わーってるよ!ていうか、ひよりこそ、その戦闘メイド服でうろちょろするな!お客さんの目が俺じゃなくてお前に釘付けだろ!」
「えへへ、作戦通りだよっ♡」

執事服姿の俺と、例の過激なメイド服に身を包んだひよりのドタバタなやり取りそのものが、最高のエンターテイメントとして成立していた。俺の焼いた(また少し焦げた)パンケーキを、ファンたちは「これが伝説の……!」と、ありがたそうに口に運んでいる。なんだこの空間は。

隣のエリアでは、さらに異質な光景が広がっていた。

「メグ!違う!そこはもっと、絶望と悦楽の狭間で揺れる表情を見せなさい!」
「む、無理ッスよ夜々様!そんな顔したら、マジで全世界の女子が夜々様に惚れちゃうじゃないですか!」
「望むところよ!」

チーム夜々の演劇カフェは、女王様・夜々による公開演技指導という名のドSショーが話題を呼び、チケットは開場前にネットオークションで高値がつくほどの人気ぶり。男装の麗人となったメグの姿を一目見ようと、女性ファンも殺到していた。

そして、一番奥のスペースからは、絶叫と、なぜか時折混じるすすり泣きが聞こえてくる。

「ひぃぃぃっ!ご、ごめんなさい!次の角、たぶん、何かいまーす!」
「大丈夫です……星が、あなたを守ると……たぶん……告げていますから……」

チームみなとの和風お化け屋敷は、みなとの緻密なギミックと、ルイ先輩のガチすぎる演出、そして案内役であるいのりの本気の怯えっぷりが「守ってあげたい」「かわいすぎる」と評判を呼び、異例のリピーターが続出していた。

配信モニターに流れるコメントも、それぞれの企画で凄まじい盛り上がりを見せ、LinkLive文化祭は、誰の目から見ても大成功の様相を呈していたのだ。

そして、夕暮れの光が事務所の窓をオレンジ色に染め始める頃。
祭りの終わりを告げる、フィナーレの時間がやってきた。

全メンバーが、それぞれの企画で使った衣装のまま、特設ステージの上に集結する。
スポットライトが、汗と達成感でキラキラと輝く私たちの顔を照らし出す。ファンたちの温かい拍手と、数えきれないほどのサイリウムの光が、まるで星空のように揺れていた。

「――みんな、最高の文化祭をありがとうー!」

MCを務める神代マネージャーの声が、高らかに響く。
そして、彼女は悪戯っぽく笑い、この日最後の、そして最大のサプライズを投下した。

「さて!フィナーレのこのステージで、サプライズ企画を発表します!これから各チームの代表者に、この文化祭で“一番感謝を伝えたい人”へ、このステージのど真ん中から、メッセージを叫んでもらいます!」

その瞬間、ステージ上の空気が一変した。
ざわめくヒロインたち。そして、期待に満ちた目でステージを見つめるファンたち。
俺は、ステージの袖でその光景を見守りながら、胸騒ぎを覚えていた。これは、絶対に、ただでは終わらない。

最初にマイクを握ったのは、ひよりだった。

ーーーーー

頭が、真っ白。
一番感謝を、伝えたい人……?そんなの、一人しかいない。
ステージのスポットライトが眩しい。心臓が、ドラムみたいに大きく鳴ってる。
客席の向こう、ステージの袖に、お兄ちゃんが見える。心配そうに、でも、優しい目で、私を見てくれてる。

……思い出す。昨日の夜の、二人だけの約束。

『最高のステージにできたら……あの時の“約束”、少しだけ、先に進めてやってもいい』

最高のステージ。できたかな。分からない。でも、私は、私の全部で、今日一日を駆け抜けた。だから……だから、今、この気持ちを、ちゃんと伝えなきゃ。
震える。でも、これは武者震い。昨日の約束を、本当の未来にするための、最初の一歩だから。

ーーーーー

ひよりは、一度ぎゅっと目を閉じ、そして、覚悟を決めたように息を吸った。

「わ、私が、一番感謝を伝えたいのは……ずっと、ずっと隣で支えてくれた、お兄ちゃんです!」

その声は震えていたが、マイクを通して、会場の隅々まで、そして配信を見ている全ての人の心に、真っ直ぐに届いた。

「私がVtuberでいられるのも、こうしてステージで笑っていられるのも、全部、お兄ちゃんがいてくれたからです!私にとってお兄ちゃんは、世界で一番優しくて、かっこよくて……最高のパートナーで……そして……!」

彼女の大きな瞳から、ぽろり、と涙がこぼれ落ちる。

「……世界で一番……だ、大好きな人ですっ!」

涙ながらの、魂からの告白。
そのあまりにも純粋な想いに、会場は水を打ったように静まり返り、やがて、割れんばかりの温かい拍手に包まれた。コメント欄も《泣いた》《ひより頑張った》《これはもう告白》という感動の弾幕で埋め尽くされる。
ステージ袖の俺は、ただ、胸が締め付けられるような感覚に、立ち尽くすことしかできなかった。

だが、その感動的な空気を、まるで鋭利な刃物のように切り裂いたのが、次にマイクを握った女だった。
不知火夜々。
彼女は、演劇で使った女王のドレスのまま、ステージの中央へと、まるでそこが自分の玉座であるかのように、優雅に歩みを進めた。
そして、客席ではない。配信カメラでもない。ただ一人、ステージ袖にいる俺だけを、その燃えるような瞳で、まっすぐに見つめて宣言した。

ーーーーー

可愛い告白だったわね、ひよりちゃん。
純粋で、きらきらしていて、誰もが応援したくなるような、完璧なヒロインのセリフ。
でも、恋は、ただ願うものじゃない。ましてや、同情を引いて手に入れるものでもない。
奪い取るものよ。

天城くん。あなたのその不器用な優しさが、私をどれだけ狂わせたか、あなたは知らないでしょうね。
だから、教えてあげる。このステージの上で、数万人が見守るこの場所で。
本当の“女王”が、誰なのかを。

ーーーーー

「――天城くん」

その声は、マイクを通しているはずなのに、まるで俺の耳元で囁かれたかのように、艶やかに響いた。

「わたくしは、あなたをただの後輩だとは思っていないわ。あなたのその不器用な優しさに、何度も救われた。……だから、覚悟なさい」

夜々は、ふっと妖艶に微笑む。

「この文化祭が終わったら、わたくしは、あなたを“私の男”にするから。……異論は、認めない」

女王様らしい、あまりにも大胆不敵な、愛の宣戦布告。
ひよりの告白で感動に包まれていた会場は、一転して、興奮と絶叫の坩堝と化した。

《ぎゃあああああああああ!》
《宣戦布告きたああああ!》
《夜々様、かっこよすぎる!》
《修羅場!修羅場!》

その流れは、もう誰にも止められない。

みなとは、「レイくん。あなたの隣は、一番落ち着く場所でした。……また、一緒にごはん、食べたいな」と、静かに、しかし確かな想いを告げた。

メグは、拳を突き上げながら叫んだ。

「コウくんは私の“推し”で、“目標”で……そして、本気で落としたい男です!これからも全力でアタックするんで、そこんとこ、よろしくぅ!」

るるやいのりも、それぞれの言葉で、コウへの特別な感謝と、淡い恋心を、ステージの上から叫んだ。
事態は、完全に“公開告白バトルロイヤル”の様相を呈していた。

一身に、六人分の熱い視線と思いを浴び、俺はステージ袖で顔を真っ赤にしながら立ち尽くしていた。

(どうする、俺!?これ、どう収拾つければいいんだ!?)

「――さあ、レイくん!最後に、あなたからも一言、もらっちゃいましょうか!」

神代さんの、無慈悲な一言。
スポットライトが、俺を捉える。逃げ場はない。
俺は、震える足でステージの中央へと歩み出た。ヒロインたちが、期待と不安の入り混じった瞳で俺を見つめている。
俺は、震える手でマイクを握った。

「……えーっと……その……」

言葉が、出てこない。
でも、ここで逃げるわけにはいかない。
俺は、一度目を閉じ、そして、ここにいる全員の顔を、一人ひとり、ゆっくりと見渡した。

泣きながらも、まっすぐに俺を見るひより。

不敵な笑みの裏に、ほんの少しの不安を滲ませる夜々さん。

静かに、でも確かな信頼を寄せてくれるみなとさん。

全身で「好き」を伝えてくるメグ。

そして、俺に憧れの視線を向ける、るるちゃんといのりちゃん。

ああ、そうだ。答えなんて、とっくに出ていたじゃないか。

「……全員、本当にありがとう!」

俺は、腹の底から、叫んでいた。

「俺の答えは……ごめん、まだ、出せない!でも、一つだけ言えるのは……ここにいる全員が、俺にとって、最高の、かけがえのないヒロ-インだ!」

一番ずるくて、でも、これ以上なく誠実な、俺の答え。
その言葉に、ヒロインたちは一瞬きょとんとし、やがて顔を見合わせて、呆れたように、でも、どうしようもなく嬉しそうに、笑い出した。

その瞬間、会場は、この日一番の、割れんばかりの拍手と歓声に包まれた。
コメント欄には、《全員優勝!》《これがハーレム主人公の満点回答》《伝説になったな》という祝福の言葉が溢れかえる。

ステージの上で、俺たちは、少しだけ照れくさそうに、でも、確かに心を一つにして、笑い合っていた。
LinkLive文化祭は、最高の形で、その幕を閉じたのだ。
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