イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。

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第4章『ありがとうの予行演習、恋のはじまり』

「“ありがとう”は、恋のはじまり」

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「えっ、マジで!? あの真白さんが、コウと?」



「いやいや、そういうんじゃないって!」



翌日の大学の昼休み、俺はなぜか男子数名に囲まれ、完全に冷やかされていた。



みなとの個人チャンネルでの“ゲストデュエット配信告知”が出たのは、昨夜の深夜。

それが想像以上の反響を呼び、今では学内SNSのトレンド入りすらしている始末だった。



――しかも、「相方がコウっぽい」と噂が立ち始めている。



「ていうかさ、最近のコウ、声イケボになってね?」



「まさか、ひよこまるの中の人とかじゃ……」



「や、さすがにそれはないって!」



……ほんとやめてくれ、そのドンピシャ推理。



「俺、普通の大学生だからな!? なにもないからな!?」



精一杯の否定も虚しく、周囲はニヤニヤとした視線を向けてくる。

中の人疑惑はまだ本格的にはバレていないが、みなととの関係が妙に注目されているのは間違いなかった。



 



その日の放課後。



俺は、大学から少し離れたスタジオに向かっていた。

みなとの希望で、事前に“音合わせ”をしたいとのことだったからだ。



扉を開けると、部屋の隅に立っていた彼女が、ふわりと振り向く。



「コウくん。来てくれてありがとう」



「こちらこそ、誘ってくれて」



照明に照らされたみなとは、普段よりも少し大人っぽく見えた。

白いイヤモニをつけたその横顔は、たしかに“Vtuber”としての彼女の顔だった。



「ねえ、最初にあの歌からやってみない?」



「“星空に願いを”だよな。OK、準備するよ」



二人でスタジオのマイクの前に立ち、軽くリズムを取る。



イントロが流れ、音に包まれたその瞬間――

俺の中の“レイ=アマギ”が、無意識に顔を出しかけた。



けれど、今日は違う。



今日は、コウとして。

“みなとと向き合う自分”として、この歌を届けたかった。



 



♬ 「きみと出逢った あの夜空の下で……」



最初のフレーズをみなとが歌い、俺が続く。



音が重なって、声が重なって、

そして、あの夜――中学時代の“ありがとう”の記憶が、静かに蘇ってくる。



 



──あのとき。

帰り道、ひとりで泣いていた少女に、俺はただ「大丈夫?」と声をかけただけだった。



でも彼女はその言葉に救われたと、今も言ってくれる。



「ありがとうって言えたの、コウくんが初めてだったから」



あれが、彼女にとっての“始まり”だった。



 



「……うん、いい感じだね」



試し録音を終え、モニターで再生したあと、みなとが笑った。



「コウくんの声、やっぱり優しい。前より、もっと響くようになった」



「そ、そうかな……?」



思わず照れて視線をそらすと、みなとはほんの少し、距離を詰めてきた。



「ねえ、あの時の“ありがとう”……

わたし、ずっと返せてなかったなって思ってたの」



「そんなの、気にしなくていいのに」



「でもね……今なら、ちゃんと伝えられるかもしれない」



彼女は、深く息を吸ってから――真っ直ぐに言った。



「ありがとう、コウくん。

あのとき、声をかけてくれて。わたしの声の原点になってくれて」



その言葉は、過去から今へと、まっすぐに繋がっていた。



そして、次の瞬間。



「それから……“好き”の予行演習、させてくれる?」



「え……?」



みなとは、ほんの少しだけ首をかしげて、照れたように笑った。



「今日の“ありがとう”は、わたしの“好きの練習”……かなって。

まだ本番じゃないけど……いつか、ちゃんと伝えたいから」



胸が、どくんと鳴る。



「俺……」



言葉を返そうとした瞬間、スタジオの扉が開いた。



「おーい、もうすぐ時間だぞー! 次の予約入ってるって!」



スタッフの声に、俺たちはハッと現実に引き戻された。



「……また、リハしよっか」



「うん。次はもっと、本気で歌いたいな」



 



みなとは笑って手を振り、俺はその背中を見送る。



胸の奥に、あたたかい何かが灯ったまま――

それは、まだ“予行演習”という名前のままで。
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