イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。

文字の大きさ
29 / 177
第5章『イケボの向こうに、本当の“僕”がいる』

「背中を預けられる夜へ」

しおりを挟む
古びた木製の看板に「月隠れ」とだけ書かれた、小さな隠れ家レストラン。

都会の喧騒から一歩外れた路地裏、まるで時間の流れさえも緩やかになったような空間だった。



和モダンな内装、間接照明の灯り、BGMは小さく流れるピアノジャズ。

その奥の個室に、天城コウと月詠ルイは向かい合って座っていた。



「いいとこですね、ここ……」



「気に入ってくれてよかった。俺がデビューして一年経った頃、初めて炎上して落ち込んだ時に、ここの親父さんに助けられてね。今でも大事な場所なんだ」



「ルイさんにも……そんな時期、あったんですね」



「もちろん。誰だってあるよ。“声”だけの世界って、意外と脆いんだ。ちょっとした言葉の選び方や、沈黙の長さで誤解を生む」



「……わかります。今日の配信、あんなに準備してたのに、やっぱり直前まで怖かったです」



ルイはグラスの水をひと口飲み、にこっと笑った。



「でも、君は乗り越えた。ちゃんと、“自分の声”で挨拶してた。俺にはわかったよ」



「……ほんとに、そう見えました?」



「うん。あれはもう、“演じてる”声じゃなかった。自分の中から出てきた言葉だった」



静かに運ばれてきた料理は、白身魚のソテーに季節の野菜を添えたもの。

一口食べて、ほっと肩を落とすように息をついたコウは、ふと呟く。



「俺、やっぱり……“誰かの声”じゃなくて、“僕の言葉”で話したいです」



「……」



「今までは、ひよりの代わりに喋って、皆にバレないように“違う人”を演じて……それが役目だと思ってたけど」



「でも、違った?」



「はい。僕自身として誰かに届いたとき――あんなにも嬉しくなるなんて、知らなかった」



ルイは少し目を細めて、静かに頷いた。



「それができたら、君はもう“推される側”じゃなくて、“導く側”になれる」



「導く……側……」



「“灯”を照らすのは君だけど、君の背中もまた、誰かにとっての“道標”になる。配信って、そういうものだよ」



その言葉を聞いて、コウは胸の奥が少し熱くなるのを感じた。



(まだ、たどり着いたばかりだ。けど……ちゃんと、踏み出せた)



照れ隠しのように水を飲むと、ルイが少し目を細めて問いかけた。



「……で、恋のほうは?」



「っ……え、ええと、それは……」



急に切り替わった話題に、思わずむせそうになる。



「噂は聞いてるよ。妹ちゃんや、事務所の女の子たちが、なかなかのライバル関係だって」



「な、なんでルイさんまでそんなこと……!」



「まあ、見てればわかるよ。君に向けられる目が違う。……誰かひとりに決める気は?」



「……まだ、考えてないです。みんな、大切だから」



「ふむ」



ルイは何も言わずに、ただ静かにグラスを傾けた。



その沈黙に、咎めるような色はなかった。ただ、遠くを見ているような、そんな眼差し。



「誰かを傷つけずに進む道は難しい。けど、自分の“想い”を誤魔化してはいけないよ」



「……はい」



どこまでも、真っ直ぐな人だと思った。



それでいて、肩の力が抜けていて、優しくて――なのに、決して媚びない。



(ああ、この人が“夜の王子”って呼ばれる理由……少しだけ、わかった気がする)



そのまま、二人はしばらく料理を楽しんだ。



配信のこと、機材の話、裏方スタッフの癖、視聴者との距離感――

男性Vならではの悩みや戦術を、ぽつりぽつりと語り合う時間。



女の子たちの賑やかさとはまた違う、静かで心地よい“夜”。



だからこそ、コウはその言葉がすとんと胸に落ちた。



「ルイさん。僕、もっと前に進みたいです。もっと、いろんな声を聞いて、いろんな言葉を届けていきたい」



「……うん」



ルイは笑った。



「じゃあ、次は――一緒に夜を作ろうか。君と俺で」



「……はい。ぜひ、お願いします!」



コウは、自然と手を差し出していた。



ルイはそれを、しっかりと握り返した。



“背中を預けられる夜”が、そこにあった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編6が完結しました!(2025.11.25)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

管理人さんといっしょ。

桜庭かなめ
恋愛
 桐生由弦は高校進学のために、学校近くのアパート「あけぼの荘」に引っ越すことに。  しかし、あけぼの荘に向かう途中、由弦と同じく進学のために引っ越す姫宮風花と二重契約になっており、既に引っ越しの作業が始まっているという連絡が来る。  風花に部屋を譲ったが、あけぼの荘に空き部屋はなく、由弦の希望する物件が近くには一切ないので、新しい住まいがなかなか見つからない。そんなとき、 「責任を取らせてください! 私と一緒に暮らしましょう」  高校2年生の管理人・白鳥美優からのそんな提案を受け、由弦と彼女と一緒に同居すると決める。こうして由弦は1学年上の女子高生との共同生活が始まった。  ご飯を食べるときも、寝るときも、家では美少女な管理人さんといつもいっしょ。優しくて温かい同居&学園ラブコメディ!  ※特別編11が完結しました!(2025.6.20)  ※お気に入り登録や感想をお待ちしております。

先輩に退部を命じられた僕を励ましてくれたアイドル級美少女の後輩マネージャーを成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになった件

桜 偉村
恋愛
 みんなと同じようにプレーできなくてもいいんじゃないですか? 先輩には、先輩だけの武器があるんですから——。  後輩マネージャーのその言葉が、彼の人生を変えた。  全国常連の高校サッカー部の三軍に所属していた如月 巧(きさらぎ たくみ)は、自分の能力に限界を感じていた。  練習試合でも敗因となってしまった巧は、三軍キャプテンの武岡(たけおか)に退部を命じられて絶望する。  武岡にとって、巧はチームのお荷物であると同時に、アイドル級美少女マネージャーの白雪 香奈(しらゆき かな)と親しくしている目障りな存在だった。  そのため、自信をなくしている巧を追い込んで退部させ、香奈と距離を置かせようとしたのだ。  そうすれば、香奈は自分のモノになると錯覚していたから。  武岡の思惑通り、巧はサッカー部を辞めようとしていた。そこに現れたのが、香奈だった。  香奈に励まされてサッカーを続ける決意をした巧は、彼女のアドバイスのおかげもあり、だんだんとその才能を開花させていく。  一方、巧が成り行きで香奈を家に招いたのをきっかけに、二人の距離も縮み始める。  しかし、退部するどころか活躍し出した巧にフラストレーションを溜めていた武岡が、それを静観するはずもなく——。 「これは警告だよ」 「勘違いしないんでしょ?」 「僕がサッカーを続けられたのは、君のおかげだから」 「仲が良いだけの先輩に、あんなことまですると思ってたんですか?」  先輩×後輩のじれったくも甘い関係が好きな方、スカッとする展開が好きな方は、ぜひこの物語をお楽しみください! ※基本は一途ですが、メインヒロイン以外との絡みも多少あります。 ※本作品は小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

恋人、はじめました。

桜庭かなめ
恋愛
 紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。  明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。  ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。 「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」 「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」  明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。  一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!  ※夏休み小話編2が完結しました!(2025.10.16)  ※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想などお待ちしています。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

処理中です...