キツネのおめん屋さん

よこいみさと

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キツネのおめん屋さん

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さあ、いらっしゃい。いらっしゃい。
おめんはいかが、おめんだよ。

おや。そこのあなた、なんだかうかないかおをしているね。

よろしければ、このおめんはいかが?
えがおのおめんだよ。

つければたちまち、えがおのはながさく。
えがおのおめんだよ。

どんなにつまらない ひとのおはなしも。
いやでしかたなかった じぶんのことも。

もうおかしくて、おかしくて。
なにがかなしいのか わからなくなっちゃうよ。

いまがたのしくて、たのしすぎて。
おめんをはずせなくなっても、しらないよ?



さあ、よってらっしゃい。みてらっしゃい。
おめんはいかが、おめんだよ。

おや。そこのあなた、なんだかおもいつめたかおをしているね。

よろしければ、このおめんはいかが?
ドヤがおのおめんだよ。

つけるだけでたちまち、だいせいこう。
ドヤがおのおめんだよ。

これでだれもあなたのことをばかにしないし。
すきなこだってあなたにふりむいてくれるし。

こいも、しごとも、だいせいこう。
なやみごとなんか あってもなくなっちゃうよ。

なにもかもうまくいって、うまくいきすぎて。
おめんをはずせなくなったって、しらないよ?



さあ、おたちあい。
こちらにあるのはよにもめずらしい、びじんのおめんだよ。

おや。そこのあなた、ずいぶんしんけんなかおでみているね。

よろしければ、このおめんはいかが?
びじんのおめんだよ。

つけたらほれぼれ、びじんさん。
びじんのおめんだよ。

びじんなあなたをみかけたら、
だれもかれもがふりかえる。

びじんなあなたをみつけたら、
はなもつきも はずかしがりやになっちゃうよ。

あなたはきれいになって、なりすぎて。
おめんのことをわすれていても、しらないよ?



さあ、いらっしゃい。いらっしゃい。
おめんはいかが、おめんだよ。

さて。そろそろこのおめん、はずしてもいいかい?

おめんはおめん。けっきょくは、にせものさ。
くるしくて いつまでもつけちゃいられないよ。

そういって、おめんやさんがキツネのおめんをはずしたら。

「ふう」

そのしたには、なんとほんもののキツネのかおがありました。

おめんやさんのしょうたいは、にんげんにばけたキツネさんだったのです。

「やれやれ。このごろはにんげんにばけるのもらくじゃないね、まったく」

キツネさんはぶつぶつもんくをいいながら、じぶんのおみせをかたづけてさっていきました。



さあ。いらっしゃい。いらっしゃい。
おめんはいかが、おめんだよ。

げんきなこえでひとによびかける、
よにもふしぎなおめんやさん。

あまいことばにのせられて、
いちどつけたら、さあたいへん。

もとのかおをおもいだせなくて。
もとのかおにもどりたくなくて。

いっしょうはずせなくなるおめんには、
くれぐれもきをつけて。

『キツネのおめん屋さん』

これにておしまい。
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