22 / 307
第一章 王都絢爛
20.やめらんねぇ! *アイカ視点
しおりを挟む
クレイアさんが床に手を着いた。
「ぬかった……」
なんか、すみません。
でも、私の部屋で四つん這い姿勢だなんて、重力が悩ましい……。
――いや、これ。やめらんねぇな! キレイですもん! クレイアさん!
褒めちぎるわ。心の中で褒めちぎっちゃうわ。皆さんの美貌を、褒めてしまいますよ! 褒めて、愛でてしまいますよ!
だって、キレイな人を愛でて妄想に楽しむことだけが、心の張りで生きてきたしなぁ……。
「ごめんね……。側妃サフィナさまのお姿を褒めたりしたら、取り返しのつかないことになるところだった……」
そうか。リティアさんの侍女が、面と向かって側妃さまに呪いをかけたことになるのか。それは確かに大事になりそう。
と、思う反面、内心の自由を守れ――っ! という、心のデモ隊が大行進もしている。
「大丈夫、私もアイシェも『聖山の民』じゃないし」と、ゼルフィアさん。
……そうなんですか?
「私たちは、リティア殿下の母君、側妃エメーウ様の故郷、ルーファから遣わされた『砂漠の民』だから。つい、心の中で褒めちゃうときもあるよ」
「は、はい……」
「でも、人を見た目や容姿で判断しない戒めとして、よくできた信仰だとは思うから、最近はほんとに思うこともなくなったよ。アイカもすぐ慣れるよ」
な、慣れたくねぇ……。
頭のどこかでは、既にゼルフィアさんの笑顔を褒めちぎってるよ。
「失礼します」と、ノックして入って来たのは、昨日狩りから帰ってすぐ、私専属の女官さんになってもらったケレシアさん。明るい色でヒラヒラのワンピースなんか着て、賢そうな娘さんの手を引いてるのが絵になりそうな、上品でハイソなセレブ風お姉さま。
今着てるメイド服もお似合い。
王宮には通いで出勤してる28歳で、実際に11歳の娘さんを育ててるそう。
「お洗濯できてましたよ」
柔軟剤のコマーシャルかよって笑顔で、私が山奥から着てきた洋服を手渡してくれると、ふわふわの洗い上がり。お洗濯担当の女官さんが大切に扱ってくれたんだなぁ。
お礼を言いに行きたいけど、そういうものでもないらしい。心の中で感謝。心の中が忙しい。
若いお母さんなケレシアさん。明るいブラウンのふわっとした巻き髪が、陽の光に金色で輝いて透けて見える。
私に近い年頃の娘さんもいる、……お母さん。
――嗚呼。リティアさんには、私のほしいもの、してほしいことを次々に見抜かれていく。
侍女に専属の女官さんが付くのは異例のことらしい。私が13歳のお子さまだからこその計らいのようだ。
お母さん――って呼びながら、そのほどよい胸に飛び込みたいよ。
ほどよいは余計だな。うん、余計だ。
その胸に飛び込んでいい娘さんは、別にいる。
「今日は側に置いておく? それとも、クローゼットに仕舞っておこうか?」
「あ……。今日は持ってます……」
「うん。分かった」
心の中では、ケレシアさんのお美しさを褒めちぎってしまいますが……。
美の女神さま……。まだ貴女の名前も覚えられてない私は、貴女のこと信じてないので、呪いもナシでお願いします。目の前に現れてくださったら、きっと貴女のことを一番に褒めちぎる私です。
昨日、狩りから戻ってケレシアさんを紹介されて、それから更なる衝撃は、自室に立派な浴室が備えられていたことだった。
――自分の部屋に……、風呂だと……?
一人で使うには広すぎる浴室。タロウとジロウも充分に洗える。侍女の待遇、良すぎませんか?
と、驚いている私に、ケレシアさんが使い方を教えてくれて、クレイアさんとドーラさんも来てくれて、4人で素っ裸になって一緒にタロウとジロウを洗って、一緒に広い湯船に浸かった。
たぶん、ドーラさんは狼たちを警戒して、念のため来てくれてたんだと思う。
けど、アイドルグループでツンデレ担当してそうな幼い顔立ちのドーラさんが、実は31歳で5歳の息子さんがいるお母さんだって話に驚いたり、賑やかで華やかな美人さんたちの女子トークの輪に加わってる自分が不思議でならなかった。
そして、いつの間にか、お母さんとお姉さんと、家族で一緒にお風呂に入ってるようにも錯覚してきて、なんだかとても満たされた。
今も、女官のケレシアさん、侍女の先輩お姉さん2人。それに、隣の応接間にはタロウとジロウ――弟たちに、私が囲まれてる。かりそめの幻想だとしても、今が満たされることが、ひどく心地良いい。
ふと、こみ上げてくるものを感じて、元の濃紺色が蘇った洗い立ての洋服に、思わず顔を埋めた。
そんな私を包む、美人のお姉さんたちが顔を見合わせて、微笑み合ってるのが分かった。
きっと今こそ、愛でたい、美しい表情をされてるに違いないのに、私はなかなか顔を上げることができなかった――。
「ぬかった……」
なんか、すみません。
でも、私の部屋で四つん這い姿勢だなんて、重力が悩ましい……。
――いや、これ。やめらんねぇな! キレイですもん! クレイアさん!
褒めちぎるわ。心の中で褒めちぎっちゃうわ。皆さんの美貌を、褒めてしまいますよ! 褒めて、愛でてしまいますよ!
だって、キレイな人を愛でて妄想に楽しむことだけが、心の張りで生きてきたしなぁ……。
「ごめんね……。側妃サフィナさまのお姿を褒めたりしたら、取り返しのつかないことになるところだった……」
そうか。リティアさんの侍女が、面と向かって側妃さまに呪いをかけたことになるのか。それは確かに大事になりそう。
と、思う反面、内心の自由を守れ――っ! という、心のデモ隊が大行進もしている。
「大丈夫、私もアイシェも『聖山の民』じゃないし」と、ゼルフィアさん。
……そうなんですか?
「私たちは、リティア殿下の母君、側妃エメーウ様の故郷、ルーファから遣わされた『砂漠の民』だから。つい、心の中で褒めちゃうときもあるよ」
「は、はい……」
「でも、人を見た目や容姿で判断しない戒めとして、よくできた信仰だとは思うから、最近はほんとに思うこともなくなったよ。アイカもすぐ慣れるよ」
な、慣れたくねぇ……。
頭のどこかでは、既にゼルフィアさんの笑顔を褒めちぎってるよ。
「失礼します」と、ノックして入って来たのは、昨日狩りから帰ってすぐ、私専属の女官さんになってもらったケレシアさん。明るい色でヒラヒラのワンピースなんか着て、賢そうな娘さんの手を引いてるのが絵になりそうな、上品でハイソなセレブ風お姉さま。
今着てるメイド服もお似合い。
王宮には通いで出勤してる28歳で、実際に11歳の娘さんを育ててるそう。
「お洗濯できてましたよ」
柔軟剤のコマーシャルかよって笑顔で、私が山奥から着てきた洋服を手渡してくれると、ふわふわの洗い上がり。お洗濯担当の女官さんが大切に扱ってくれたんだなぁ。
お礼を言いに行きたいけど、そういうものでもないらしい。心の中で感謝。心の中が忙しい。
若いお母さんなケレシアさん。明るいブラウンのふわっとした巻き髪が、陽の光に金色で輝いて透けて見える。
私に近い年頃の娘さんもいる、……お母さん。
――嗚呼。リティアさんには、私のほしいもの、してほしいことを次々に見抜かれていく。
侍女に専属の女官さんが付くのは異例のことらしい。私が13歳のお子さまだからこその計らいのようだ。
お母さん――って呼びながら、そのほどよい胸に飛び込みたいよ。
ほどよいは余計だな。うん、余計だ。
その胸に飛び込んでいい娘さんは、別にいる。
「今日は側に置いておく? それとも、クローゼットに仕舞っておこうか?」
「あ……。今日は持ってます……」
「うん。分かった」
心の中では、ケレシアさんのお美しさを褒めちぎってしまいますが……。
美の女神さま……。まだ貴女の名前も覚えられてない私は、貴女のこと信じてないので、呪いもナシでお願いします。目の前に現れてくださったら、きっと貴女のことを一番に褒めちぎる私です。
昨日、狩りから戻ってケレシアさんを紹介されて、それから更なる衝撃は、自室に立派な浴室が備えられていたことだった。
――自分の部屋に……、風呂だと……?
一人で使うには広すぎる浴室。タロウとジロウも充分に洗える。侍女の待遇、良すぎませんか?
と、驚いている私に、ケレシアさんが使い方を教えてくれて、クレイアさんとドーラさんも来てくれて、4人で素っ裸になって一緒にタロウとジロウを洗って、一緒に広い湯船に浸かった。
たぶん、ドーラさんは狼たちを警戒して、念のため来てくれてたんだと思う。
けど、アイドルグループでツンデレ担当してそうな幼い顔立ちのドーラさんが、実は31歳で5歳の息子さんがいるお母さんだって話に驚いたり、賑やかで華やかな美人さんたちの女子トークの輪に加わってる自分が不思議でならなかった。
そして、いつの間にか、お母さんとお姉さんと、家族で一緒にお風呂に入ってるようにも錯覚してきて、なんだかとても満たされた。
今も、女官のケレシアさん、侍女の先輩お姉さん2人。それに、隣の応接間にはタロウとジロウ――弟たちに、私が囲まれてる。かりそめの幻想だとしても、今が満たされることが、ひどく心地良いい。
ふと、こみ上げてくるものを感じて、元の濃紺色が蘇った洗い立ての洋服に、思わず顔を埋めた。
そんな私を包む、美人のお姉さんたちが顔を見合わせて、微笑み合ってるのが分かった。
きっと今こそ、愛でたい、美しい表情をされてるに違いないのに、私はなかなか顔を上げることができなかった――。
229
あなたにおすすめの小説
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。 〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜
トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!?
婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。
気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。
美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。
けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。
食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉!
「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」
港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。
気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。
――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談)
*AIと一緒に書いています*
転生幼女は幸せを得る。
泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!?
今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。
ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。
千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。
気付いたら、異世界に転生していた。
なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!?
物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です!
※この話は小説家になろう様へも掲載しています
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~
九頭七尾
ファンタジー
子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。
女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。
「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」
「その願い叶えて差し上げましょう!」
「えっ、いいの?」
転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。
「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」
思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる