【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

文字の大きさ
44 / 307
第二章 旧都郷愁

39.焚火と聖山(3)

しおりを挟む
 焚火に照らされたアイカは、まっすぐな眼差しでリティアを見詰めている。

 そのままジッと動かないアイカが、心の中で言葉を練っているのを、リティアはゆっくりと待っている。


 ――そもそもは、この桃色髪の少女の守護聖霊を、祖母王太后に審神みわけてもらうための旅だ。


 リティアたち『聖山の民』の中には、まれに聖山の神から特別に守護される者がいる。また、守護するのは神とは限らず、『山々の民』の精霊や、『砂漠の民』が崇める聖人、『草原の民』が敬う祖霊である場合もあるので、これらをひっくるめて守護聖霊と呼んでいる。

 守護聖霊を審神みわけられる審神者さにわには、万物に名前を付けた『ネシュムモネ』という神の守護がある。

 リティアには、『ネシュムモネ』の兄神にあたる『メテプスロウ』という神の守護があり、はっきりとした審神ではないが、守護聖霊のあるなしと、気配というか色のようなものは審神みわけることが出来た。

 そして、アイカには奇妙な気配を宿した守護聖霊がある。

 まるで、この世界のものではないような……。

 と、アイカの口が小さく動いた。


「あの……」

「なんだ?」

「アイラさんにお招きいただいたお店で、孤児の子供たちも一緒になりました」


 うむと、頷いたリティアは、いつになくハッキリした話し方をするアイカに、姿勢を正した。


「炊き出しというか、せめて食事だけでもあの子たちに提供してあげることは出来ないでしょうか?」

「ふむ……」

「ご馳走でなくていいんです。パンとスープ。お腹いっぱいになるだけでいいので……」


 アイカの念頭にあったのは『子ども食堂』だったが、定番のカレーが異世界こっちに存在しているか自信がなかったので、パンとスープを選んだ。


「宮殿でいただく立派なお食事にかかる1食分のお金で、彼ら100人はお腹いっぱいにしてあげられます。それから……」


 うんと、リティアは考え込みながら頷く。


「どこか場所があれば、彼らに勉強を教えてあげることは出来ないでしょうか?」

「ふむ。何を教える?」

「読み書きと、あと計算です。王都は商業都市なので、計算が出来ると重宝してもらえるようです。そしたら、無頼さんや娼婦さんになるしかなかった子らに、良民になる道が開けるんじゃないかと……」


 無頼を『無頼さん』と呼ぶのを初めて聞いたが、それ以上に、福祉という概念のほとんどなかったリティアに、衝撃は大きかった。子供は家庭の『管轄』で、たとえそこから溢れていたとしても、王政府が直接関与するという発想はなかった。


「良民を増やす施策は、良い施策だ」

「はい……」

「これは、良いことを聞いた」


 と、リティアが身を乗り出すと、アイカは頬を赤く染めた。


「明日、旧都に着いたら、すぐに王都の陛下に使いを出して裁可を得る。私が旧都にいる間も、アイシェに準備を進めさせよう。勉強はともかく、毎日の食事のことは早い方がいいだろう」


 と、悪戯っぽい笑顔を浮かべたリティアは、アイカの顔を覗き込んだ。


「アイシェは豪放磊落に見えて、こういうことをやらせると、実に細やかな仕事をする。心配するな」

「いえ、そんな……」

「ゼルフィアは大筋をブラさず効率的に進めるが、細かな点では抜けもある。クレイアは同行しているし、すぐには動けない。やはり、アイシェが適任だ」


 リティアが自分の考えをまとめるように話す姿を、アイカは金色の瞳にうっすら涙を浮かべて見詰めている。


 ――縁もゆかりもない孤児たちのために、涙を浮かべるのか。


 リティアがアイカの性情を、より好ましく受け止めた頃、見張りを交代する騎士たちが起き出してきた。


「よし。イヤリングのお礼は別に考えよう」


 と、リティアは立ち上がった。ヤニスも続いて立ち上がる。


「私は休む。アイカも、もう少し寝ておけ。明日は旧都テノリクアだ」


 焚火から離れ、自分のために建てられた天幕の中に姿を消すリティアの背中を、アイカは最後まで見届けた。


 もちろん――、


 アイカが深夜に目覚めた眠気を振り切ったのは、焚火に照らされるリティアを愛でるためであった。


 ――ふおぉぉぉ。レア。レアです。


 推しに貢ぎ物を手渡しで献上出来たとき、心の中はお祭り騒ぎであった。


 ――やっほい。


 側で警戒にあたるヤニス少年も、彫像のように美しく、心の内では悶えっ放しで、失神しなかった自分を褒めたい。

 そして、弟を世話して地下水路で暮らす孤児の姉、ガラのことを思い出していた。


 ――あの子は磨けば光る。


 と、光源氏のようなことも考えていたが、それ以上に日本での自分の姿と重ねていた。アイカは孤児ではなかったが、17年のほとんどを社会的ぼっちとして過ごした。あの頃、大人が助けの手を差し伸べてくれていたら、どれほど嬉しかったことだろうか……。

 アイカは、自分の提案を受け止めてくれたリティアに卒倒しそうなほど感謝していて、今度はアイカが寝付けない夜を過ごすことになった――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~

九頭七尾
ファンタジー
 子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。  女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。 「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」 「その願い叶えて差し上げましょう!」 「えっ、いいの?」  転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。 「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」  思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。

処理中です...