68 / 307
第三章 総候参朝
61.大作戦始動 *アイカ視点
しおりを挟む「やばいんだ……」
と、リティアさんが呟いた。
朝陽が差し込むリティアさんの執務室に、侍女4人が全員呼ばれてる。
「列候から、宴への招待が殺到してるんだ……」
おおっ! さすが、人気者ぉ!
いかほど? と、アイシェさんが尋ねると、リティアさんが憂鬱そうに口を開いた。
「今朝届いたのも合わせて、既に287……」
すげぇっス! と、思ったけど、侍女先輩3人は絶句してる。
え? ダメなの……?
「しかも、すべてアイカと狼2頭込みで招待されてる……」
私も? タロウとジロウも?
「それは……」と、言ったきりアイシェさんの次の言葉が出てこない。
ゼルフィアさんが咳払いをひとつした。
「殿下のお体はひとつしかありません」
うむと、リティアさんが力なく頷いた。
「総候参朝は、8日間。招待のあった列候すべての宴に参加するのは、無理です」
あっ!
宴って『総候参朝』期間中に開かれる宴会ってことか!
「初日と最終日は王族としての参礼がありますから、実質6日間」
「そうだな」
「夕食は1日3席をハシゴ。昼食は5席として、参加できる宴は48件」
マジすか……。1日8件の宴会っスか?
え? 私とタロウとジロウも?
「アイカはともかく、タロウとジロウが延々と見世物にされることに耐えられるかは分からないので、そのこともご了承いただかなくてはいけません」
ありがたいけど、私もキツいですよ。
「残りは、ご挨拶に顔を出すだけでご容赦いただくほかありません」
「そうだよなぁ……」
と、リティアさんが浮かない顔をした。
お話の問題点がいまいちよく分からなくて目が泳いでいると、リティアさんと目が合った。
「ああ……、そうだな。アイカにも分かるように説明しておこう」
お願いしまっす。
「私は去年の『総候参朝』までは、国王宮殿に住んでいたんだ」
――あ、そうなのか。そうなるか。
「自分の宮殿を持ったのも、第六騎士団長になったのも、『無頼の束ね』に任じられたのも、全部、去年の『総候参朝』で陛下から『聖山誓勅』として発せられた勅命によるものだ」
うん。北離宮でリティアさんが教えてくれたことを思い返す。
――『聖山誓勅』というのは、『総候参朝』の最後に、陛下が『聖山の神々』に誓って布告される勅令で、王国では最も重い勅令なんだよ。
なるほど。ごく最近の出来事ってことですね。
「つまり、去年までは私への招待は来ても3、4件。それに陛下のお供を足しても10席程度しか参加したことがないんだ」
えっ? それが一気に287件ですか?
「ロザリー様を頼りましょう」
と、ずっと思案顔だったクレイアさんが口を開いた。
王様の侍女長の姐さんだ!
「結局、お受けする席と、お断りする席を選別するしかありません。我らだけでは知識も経験も足らなさ過ぎます」
――そ、そういうことかーっ!
「毎年、陛下が臨席されるお席を取り仕切られているのはロザリー様です。ここは素直にお知恵をお借りしましょう」
皆さん、いつもシッカリされてるのに、何を悩んでるんだろ? って思ってた。
すみません。私も一応侍女なのに、悩みを共有できなくて。
精進します。
そうだなと、リティアさんが吹っ切れたように、いつもの明るさを取り戻して、頬杖をついた。
「大人になった『フリ』をするのは、やめておこう」
リティアさんは悪戯っぽい笑みで、皆んなを見回した。
アイシェさん、ゼルフィアさん、クレイアさんも安堵の表情を浮かべてる。
頼れる大人がいるって、いいことよね。
うん。私にもロザリーさんがいたら良かったけど、今の私には、リティアさんもクレイアさんもいる。
けど、お2人だって、まだまだ分からないことや出来ないことがあって当然だよ。
異世界は皆さん早熟だけど、でも、まだ10代なんだから。
最年長のゼルフィアさんでも19歳、アイシェさんが18歳、クレイアさんは転生前の私と同い年の17歳だ。
「それでは、ロザリー様には私から……」
と、言ったアイシェさんを、リティアさんが「私が行こう」と制した。
「頼ると決めた以上、しっかり頼ろう。それにだ……、問題はもう一つある」
と、リティアさんが私の方を見る。
私ですか?
侍女先輩3人も私の顔を見る。
「アイカのテーブルマナーだ」
あ。
私も、お招きされてるんでした。
「それも、ロザリーに頼んでみよう」
姐さんですか? 姐さんのテーブルマナー教室っスか? 厳しそー。
「侍女が列候の宴で席に着くなど、前代未聞だからな」
――ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
クレイアさんたちを差し置いて、私だけってことですか?
マジですか?
そういうの、やめてほしいんですけど。
「王族が取るべきマナーと異なるはずだが、そんなの誰も知らん」
侍女先輩3人が、うんうんと頷いてる。
うわー。なんか、見放された感。
ご遠慮させてもらえないものですかね……?
「その点、ロザリーは確か招かれたことがあるはずだ。世が世なら宰相になってもおかしくない実権を握っているからな」
かくして、アイカのテーブルマナー大作戦が始まったのだ! ……じゃねぇよ。
すっごい、気乗りしない。
絶対、なんかやらかすよ……。私。
118
あなたにおすすめの小説
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。 〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜
トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!?
婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。
気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。
美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。
けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。
食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉!
「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」
港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。
気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。
――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談)
*AIと一緒に書いています*
転生幼女は幸せを得る。
泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!?
今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。
ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。
千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。
気付いたら、異世界に転生していた。
なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!?
物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です!
※この話は小説家になろう様へも掲載しています
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~
九頭七尾
ファンタジー
子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。
女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。
「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」
「その願い叶えて差し上げましょう!」
「えっ、いいの?」
転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。
「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」
思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる