【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

文字の大きさ
72 / 307
第三章 総候参朝

65.祝祭の準備(1)

しおりを挟む
「目の回る忙しさとは、このことだな」


 と、リティアが苦笑いしながらドレスを着せられていると、クレイアが冷たい表情を見せた。


「第六騎士団に『束ね』のお役目、すべて、殿下が望まれたことです」

「全部、騎士服という訳にはいかないかな?」

「ダメに決まってるでしょう」


 『総侯参朝』が始まるまで7日を切って、街も王宮も慌ただしい。

 期間中に必要なドレスが、続々と宮殿に届けられ、リティアはされるがまま次々と試着を重ねている。


 ――いいです! どのドレスもお似合いです!


 と、アイカもリティアの着替えを手伝っている。女官ではなく侍女が行うべき場面もあるため、その練習を兼ねている。女官長のシルヴァと、アイカ専属女官のケレシアから指導を受け、仕事を覚えていく。

 着替えるたびに、リティアは鏡の前でクルクルと身体を翻し、サイズやデザインに注文を出していく。

 美しい王女を、美しい女官たちが着飾らせていく。宮殿の最も華やかな場面に立ち合い、アイカの胸が躍っている。黄金色の瞳を輝かせるアイカを見て、リティアの頬も緩んでいる。

 そこに、侍女長のアイシェが姿を見せる。


「ルーファの大首長、セミール様。北離宮に御到着でございます」

「おっ」


 と、リティアが喜色を浮かべ、クルンと回った。


「せっかくだから、このドレスで挨拶におうかがいするかな」

「ダメです。こちらは、ヴール候の宴に用いるために仕立てたものです」


 にべもなく脱がせ始めたクレイアに、リティアは拗ねたように笑いながらも大人しく従う。雑談に興じる時間も惜しい。



 北離宮に出向くと、セミールがリティア達を出迎えた。


 ――おおっ! 王様じゃん。


 と、アイカが感想を持ったセミールは、スラリと身長が高く、83歳という年齢に見合わず立ち姿が美しい。オアシス都市の前首長という立場だが、王威を感じさせる。

 エメーウの妹ヨルダナも随行している。


 ――お人形さんみたい。


 と、アイカが見とれたヨルダナは、血の気を感じさせない白い肌に、水色の大きな瞳で無表情フェイスが印象的な28歳。夫のオズグンはルーファの大隊商の弟で、2人の子供がいる。

 大隊商の頂点に立つ姉メルヴェの信任厚いオズグンは、王都での商いを3年任期で任されており、ヨルダナは夫に会いに来たのだ。

 その大隊商メルヴェが、遅れて部屋に入ってきた。


 ――洗練された気品そのものが、服着て歩いてきた……。


 と、アイカが目で追った美女は、優雅にお辞儀をして、リティアに遅参を詫びた。


「熊の毛皮を買ってくれたのは、メルヴェなんだ」


 と、リティアに教えられたアイカが頭を下げると、メルヴェは瞬殺される微笑みを返してきた。

 慌ただしい中にも、アイカは愛でる心を失わない。



 その頃、王弟カリストスは、たまたま街角で出くわした王太子バシリオスに馬を寄せ、意味ありげに笑いかけた。


「今年は、リティアのお陰で少し楽だな」

「ええ。よくやってくれています」


 切れ者の叔父が、可愛がっている妹を褒めてくれることが、バシリオスには嬉しい。

 王都には続々と列候が到着している。その接遇には騎士団があたっているが、君主が360人も集まると、揉め事も起こる。取るに足りないことでも、王族が出張らないと収まらない場面もある。しかし、列候同士の仲裁となると、途端に優柔不断になる第3王子ルカスや直情的な第4王子サヴィアスでは捌ききれず、カリストスとバシリオスに負担が偏っていた。

 政務と公務に追われる中、今年独立したばかりのリティアに任せてみると、実にそつなく収める。カリストスは、そのことを褒めていた。

 もちろん、その分だけリティアの思わぬ時間が取られ、忙しさを増している。



 北離宮を辞したリティアが、自分の宮殿に無頼の元締3人を集めたのは、『無頼の束ね』としての政務だ。

 期間中の騒ぎを抑えるよう改めて厳命した。気性の荒い無頼たちに揉め事は付き物と割り切っているものの、『束ね』となって初めての『総候参朝』で、死人が出るようなことは避けたい。

「ははっ」 

 と、恭しく頭を下げる元締たちだが、西の元締ノクシアスは動きが怪しい。百騎兵長のネビに特に命じ、密かに監視の目を光らせた。

 アイカは3人揃った元締の迫力に圧倒されたのかピシッと固まっていた。が、瞳はいつも通り輝いていたので大丈夫だろうと、横目に見ていたリティアが微笑んだ。



 リティアはいつの間にか、アイカを様々な場面に立ち合わせるようになっている。経験を積ませること以上に、自分が忙殺される中で、アイカがいると気持ちが和むのだ。

 政務を終えた夜には、第3王女としての公務が待っている。

 『総候参朝』の最終日に開かれる『王都詩宴』で披露する、自らの選定詩を選ぶため、机に山積みに置かれた新作に目を通す。

 アイカも横で、ほーとか、へーとか言っている。

 その姿に、リティアも詩を楽しむ余裕を取り戻していく。

 ひとつ、アイカが無言で伏せた詩があったのを、リティアは見逃さなかった。あとでこっそり読んでみると、狼を連れた娘、つまりアイカのことを描いたリュシアンの詩だった。

 リティアは選定詩を決め、書記官に回した。


 こうして、リティアもアイカも目の回るような日々が続いていく――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~

九頭七尾
ファンタジー
 子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。  女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。 「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」 「その願い叶えて差し上げましょう!」 「えっ、いいの?」  転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。 「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」  思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。

処理中です...