【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

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第三章 総候参朝

66.祝祭の準備(2)

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 リティアは、ロザリーから次々に届けられる草稿に舌を巻いた。


「どれもこれも、列候の好みも弱みも押さえてある」

「王国が、ロザリー様の手の内にあることを、まざまざと思い知らされます」


 と、侍女長のアイシェも神妙な表情で応えた。

 リティアに届く、列候からの招待は既に300を超えている。もちろん、そのほとんどを断らなくてはならない。


 ――頼ると決めた以上、しっかり頼る。


 という、リティアの方針に基づいて、断りの手紙の草稿をロザリーに依頼した。

 快諾したロザリーから届けられる書面はどれも、360人いる列侯それぞれの情報を、つぶさに把握していないと書けない文面ばかり。


「しかも、来年こそはと、再び招きたくなる書きぶりだ」


 大量の手紙を直筆でしたためながら、リティアは唸った。

 『聖山の民』を統一した偉大な父王が君臨する王国。父王への尊敬の念が揺らぐことはなかったが、その統治の実相を垣間見る思いがした。



 タロウとジロウを運動させるための狩りは、人混みを避けて、日の出前になっている。アイカは欠伸をしながら、薄暗い夜明け前の森におもむく。

 カリトンは謹慎が明け、本来業務に戻ったので、最近会えてない。


「うわぁ! 今日も大猟だね! みんな喜ぶよ」


 『子ども食堂』に獲物を届けると、ガラが弾けるような笑顔で迎えてくれる。

 キラーンッと輝く、アイカの瞳。


 ――やっぱり、ガラちゃんは磨けば光る。


 ガラ自身のためでなく、楽しみにしている孤児達のために喜ぶ笑顔が、アイカに尊い。

 ガラとレオンの姉弟は、早朝から料理の仕込みに汗を流している。2人がくだらないことで笑い合っているのを見るのが、アイカは大好きだ。

 そして、自分の部屋に戻ると、


「お帰りなさい」


 と、出勤時間を早めてくれているケレシアの出迎えが嬉しい。毎朝新鮮に「帰っていい場所」だと、胸の内に温かいものが広がる。

 タロウとジロウもすっかり馴れて、ケレシアの周りをグルグル回る。



 侍女としての仕事の合間を縫って、アイラとの秘密集会――アイカは心の中で『サバト』と呼んでいる――も、欠かせない。

 ある日は、ロマナの持つ多面的な美しさで、ひとしきり盛り上がった。

 市井の身にありながら、やはりアイラは目ざとい。

 踊り巫女のニーナたちが、投げ銭目当てに街角で踊っているのも目にするようになった。やはり、官能的で情熱的で神秘的で、アイカは目を奪われる。



 リティアに呼ばれたら用事に立ち会うが、現在のアイカにとって、テーブルマナーの習得は大切な仕事だ。

 多忙なロザリーだけでなく、王太子の侍女長サラナも加わり特訓を受ける。


 ――学級委員長タイプ美少女!


 と、アイカの目に映ったサラナは25歳。少女という年齢ではない、小柄なインテリペッタンコ。王太子の政務を支えている。

 赤縁メガネに丸顔の童顔侍女長は、王太子が即位の暁にはロザリーと同様の働きが期待される俊英だ。

 が、アイカのテーブルマナーは一向に上達しない。

 ついに、側妃サフィナの侍女長カリュにも動員がかかった。


 ――ふぉぉぉお。でけぇ美人キタ――!


 恐らく王宮内、いや王都で一番立派なものを揺らして指導してくれる。


 ――うわぁ、集中できねぇー。


 と、アイカは思ったが、もちろん口には出来ない。

 カリュは、サフィナの郷のアルナヴィスから派遣された侍女で、作法に造詣が深い27歳。最後まで参朝に抵抗したアルナヴィスは、古式礼法を遺す街として有名だ。

 その、ロザリー、サラナ、カリュをしても「もう、間に合わない……」と、諦めかけた、そのとき。

 アイカがため息まじりに何気なく呟いた一言で、事態は一変する。


「お箸が使えたらなぁ……」


 日本での母親に、厳しく躾けられた。


「オハシ……?」


 と、精神的疲労の色が隠せないロザリーが尋ねた。

 棒を2本用意してもらって、皿の料理をパクッと食べた。


 王宮の侍女長トップ3に衝撃が走った。


 初めて目にする食べ方だったが、流れるように美しい。


「これでいきましょう!!!」


 というロザリーに、サラナとカリュは戸惑ったが、


「アイカは異国の神が守護聖霊にあるのです。異国の礼法に適性があって当然。むしろ、目に出来る列侯には有り難がってもらいましょう。いや、そうあるべきです!」


 と、力説するロザリーが押し切った。

 リティアの了承も得られたので、急遽、軽くて丈夫な木材が集められ、アイカの要望通りの箸が量産された。

 いよいよ、明日から『総侯参朝』が始まるという日に、ようやく間に合った。

 慌ただしい準備期間が終わり、怒涛の本番期間が始まろうとしていた――。
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