83 / 307
第三章 総候参朝
76.カラクリ
しおりを挟む
王太后カタリナの使者が舞台に上がり『王都詩宴』の開幕を告げた。
「アイカ、食事を始めよう」
と、隣の席に座るリティアが微笑んだ。
「あ……、はい……」
「そう、緊張することはないぞ。楽しめば良いのだ。来年も招いてくれるとは限らないからな」
舞台上では、旧都テノリクアにあって『詩人の束ね』を務める王太后カタリナの使者から、先んじて行われた『聖都大詩選』の模様が報告されている。
一年中を旅して過ごす吟遊詩人たちは、王国各地に散らばる神話や伝説や民話を収集し『聖都大詩選』で報告し合う。それらは『聖山の神々』を描く聖山神話に体系的に取り込まれ、叙事詩の一編として、再び吟遊詩人たちの奏でる調べに乗せて王国中に広まってゆく。
もともとは、テノリクア候家からヴィアナ候に嫁いでいた公女オリガが、跡継ぎの絶えた実家に乗り込み、テノリクア候への即位を宣言したことに端を発する。
女候オリガは、現国王ファウロスの祖母にあたる。
その息子スタヴロスを、テノリクア候の後継に立てるにあたり、血統がヴィアナ候家に移る正統性を神話に求めた。
やがて、オリガと吟遊詩人たちの手によって、――誰も知らなかった――古来から伝わる聖山神話が、一大叙事詩として編纂されていく。テノリクアの主祭神『雷神ラトゥパヌ』は『天空神ラトゥパヌ』となり、総ての『聖山の神々』の父神であると詠われた。
当然、――それまで、あまり有名でなかった――『戦神ヴィアナ』は、『天空神ラトゥパヌ』の孝行娘であるし、テノリクア候にヴィアナ候の血統が取って代わることは、歴史の必然となった。
テノリクア候の譲位を受け、父のヴィアナ侯位も得たスタヴロスは、さらに王位に就くことを宣言し、厚く遇していた吟遊詩人たちに『聖山の民』の街々を旅させ、編纂された聖山神話を詠わせ広めさせた。
磨き上げられた物語に、人々は涙し、笑い、哀しみ、神々の恵みに感謝し、神々の怒りを恐れ、魅了されていく。
自分たちが父祖の代から長く祀ってきた神様が、――自分たちが知らなかっただけで――ずっと昔から『天空神ラトゥパヌ』の子神であることを知った人々は、テノリクアを『聖山の神々』の故地として聖都と呼ぶようになった。
そして、自分たち『聖山の民』が、遥か昔から聖山神話を尊んできたことを誰も疑わなくなった頃、後に『聖山王』と諡されるスタヴロスが『聖山戦争』の開始を宣言した。
統一がなった現在においても、吟遊詩人たちは神話を奏で王国各地を旅して回る。
年に一度の『聖都大詩選』では互いに収集した情報を交換し合い、また、王太后を通じて古くから伝わる、新作が、下賜されることもある。
つまり、吟遊詩人たちは王国の諜報員であり、神秘的で荘厳な調べを奏でて詠う神々の物語に乗せ、民の常識を上書きできる優れたプロバガンダ要員でもある。
『王都詩宴』は、古くから伝わる、新作を列候に披露する場でもある。
自領に縁ある神が登場すれば熱狂し、率先して故郷に持ち帰る。
そこには、王国への参朝を歴史の必然と受け入れる物語が潜んでいる。
アイカもまた、舞台上で披露されている、王太后選定詩の荘厳な調べに圧倒されていた。
――吟遊詩人さんってスゴイんスね! 感動してます!
まんまと、王国の『カラクリ』に乗せられているが、本人はもちろん気付かない。
むしろ、この場にいる者の総てが、女王位を追贈され、既にこの世にないオリガの掌の上にある――。
「アイカ、食事を始めよう」
と、隣の席に座るリティアが微笑んだ。
「あ……、はい……」
「そう、緊張することはないぞ。楽しめば良いのだ。来年も招いてくれるとは限らないからな」
舞台上では、旧都テノリクアにあって『詩人の束ね』を務める王太后カタリナの使者から、先んじて行われた『聖都大詩選』の模様が報告されている。
一年中を旅して過ごす吟遊詩人たちは、王国各地に散らばる神話や伝説や民話を収集し『聖都大詩選』で報告し合う。それらは『聖山の神々』を描く聖山神話に体系的に取り込まれ、叙事詩の一編として、再び吟遊詩人たちの奏でる調べに乗せて王国中に広まってゆく。
もともとは、テノリクア候家からヴィアナ候に嫁いでいた公女オリガが、跡継ぎの絶えた実家に乗り込み、テノリクア候への即位を宣言したことに端を発する。
女候オリガは、現国王ファウロスの祖母にあたる。
その息子スタヴロスを、テノリクア候の後継に立てるにあたり、血統がヴィアナ候家に移る正統性を神話に求めた。
やがて、オリガと吟遊詩人たちの手によって、――誰も知らなかった――古来から伝わる聖山神話が、一大叙事詩として編纂されていく。テノリクアの主祭神『雷神ラトゥパヌ』は『天空神ラトゥパヌ』となり、総ての『聖山の神々』の父神であると詠われた。
当然、――それまで、あまり有名でなかった――『戦神ヴィアナ』は、『天空神ラトゥパヌ』の孝行娘であるし、テノリクア候にヴィアナ候の血統が取って代わることは、歴史の必然となった。
テノリクア候の譲位を受け、父のヴィアナ侯位も得たスタヴロスは、さらに王位に就くことを宣言し、厚く遇していた吟遊詩人たちに『聖山の民』の街々を旅させ、編纂された聖山神話を詠わせ広めさせた。
磨き上げられた物語に、人々は涙し、笑い、哀しみ、神々の恵みに感謝し、神々の怒りを恐れ、魅了されていく。
自分たちが父祖の代から長く祀ってきた神様が、――自分たちが知らなかっただけで――ずっと昔から『天空神ラトゥパヌ』の子神であることを知った人々は、テノリクアを『聖山の神々』の故地として聖都と呼ぶようになった。
そして、自分たち『聖山の民』が、遥か昔から聖山神話を尊んできたことを誰も疑わなくなった頃、後に『聖山王』と諡されるスタヴロスが『聖山戦争』の開始を宣言した。
統一がなった現在においても、吟遊詩人たちは神話を奏で王国各地を旅して回る。
年に一度の『聖都大詩選』では互いに収集した情報を交換し合い、また、王太后を通じて古くから伝わる、新作が、下賜されることもある。
つまり、吟遊詩人たちは王国の諜報員であり、神秘的で荘厳な調べを奏でて詠う神々の物語に乗せ、民の常識を上書きできる優れたプロバガンダ要員でもある。
『王都詩宴』は、古くから伝わる、新作を列候に披露する場でもある。
自領に縁ある神が登場すれば熱狂し、率先して故郷に持ち帰る。
そこには、王国への参朝を歴史の必然と受け入れる物語が潜んでいる。
アイカもまた、舞台上で披露されている、王太后選定詩の荘厳な調べに圧倒されていた。
――吟遊詩人さんってスゴイんスね! 感動してます!
まんまと、王国の『カラクリ』に乗せられているが、本人はもちろん気付かない。
むしろ、この場にいる者の総てが、女王位を追贈され、既にこの世にないオリガの掌の上にある――。
71
あなたにおすすめの小説
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。 〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜
トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!?
婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。
気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。
美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。
けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。
食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉!
「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」
港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。
気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。
――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談)
*AIと一緒に書いています*
転生幼女は幸せを得る。
泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!?
今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
異世界に転生したら?(改)
まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。
そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。
物語はまさに、その時に起きる!
横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。
そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。
◇
5年前の作品の改稿板になります。
少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。
生暖かい目で見て下されば幸いです。
ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。
千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。
気付いたら、異世界に転生していた。
なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!?
物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です!
※この話は小説家になろう様へも掲載しています
知識スキルで異世界らいふ
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ
子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~
九頭七尾
ファンタジー
子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。
女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。
「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」
「その願い叶えて差し上げましょう!」
「えっ、いいの?」
転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。
「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」
思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる