【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら

文字の大きさ
97 / 307
第四章 王都騒乱

88.無頼の忠誠(1)

しおりを挟む
「リティア殿下は、王都を落ちられます」


 と、ゼルフィアはいつもの目を細めた笑みを浮かべた。

 正面に向き合って座る、西の無頼の元締ノクシアスは「ほう……」と、訝しむような顔付きで応える。


「どうして、それを俺に教えるんだ?」

「ノクシアス殿には、嬉しい報せかと存じますが?」


 ノクシアスが西域の大隊商マエルを通じて、リーヤボルクと繋がっているのは想像に難くない。

 リティアが王都を離れることは、王太子バシリオスに即位の正統性を失わせることで、第3王子ルカスと組んだリーヤボルクの益になる。それはノクシアスにとっても望むところであった。

 ノクシアスは「ふん」と、鼻で笑ってゼルフィアの後ろに控えるアイカと狼たち、それに衛騎士のヤニスに目をやった。

 事実上の軟禁下に置かれたリティア宮殿にあっても、先王ファウロスの「狼たちに運動をさせよ」という勅命は生きていた。むしろ、王家の正統を受け継ぐことをアピールしたいバシリオスは、率先してそれを守る立場にあった。

 結果、リティア宮殿で最も自由に出入りできるのはアイカと2頭の狼、それに護衛の者たちということになった。


「……それで? 俺にどうしてほしいんだ?」


 と、ノクシアスは顔を狼たちに向けたまま、目だけチラッとゼルフィアの方に動かした。


「今の不穏な王都のこと。そろそろ、無頼同士の騒ぎも起きましょう」

「なるほどな……。騒ぎが起きるのはいつだ?」

「さあ……?」


 と、ゼルフィアは笑みを絶やさずに、天を指差した。


「その日になれば、天より啓示がございましょう」

「念入りなこった」


 と、皮肉めいた笑みを浮かべるノクシアスを、アイカの金色の瞳が射るように見詰めている。

 これまでの人生で、アイカは濃い人間関係を構築することなく生きてきた。好ましく思っている者同士が争うという状況は、アイカにとって初めての体験であった。

 同時に、好ましく思っていない者――この場合はノクシアス――と、交渉しなくてはいけない状況も初めてのことであり、消化しきれぬままジッと観察している。踊り巫女のラウラを攫おうとした一件のせいで、ノクシアスのことが実態以上に邪悪に映っていることも自覚はしていた。

 もし、あの一件がなければ、充分に見惚れて愛でていたであろうというくらいには、ノクシアスも美男子であった。


「分かった。準備だけはしておこう」


 と、ノクシアスは目の前の侍女を見据えた。


「恐れ入ります」

「陛下の狼たちも連れていくのかい?」

「さあ? どうでしょう」

「ははっ。侍女さんがそんなこと言うから、狼のお嬢ちゃんが不安そうに見てるぜ?」


 振り返ったゼルフィアの目に、かすかに怯えたような表情のアイカの姿が入った。駆け引きの中の言葉でしかなかったが、主が寵愛する素直すぎる娘に不安を与えてしまったことを少し悔いた。

 アイカが「エロい」と感じる笑顔で、ゼルフィアが優しく言葉を掛けた。


「……大丈夫ですよ、アイカ」

「狼たちも、陛下の遺した偉大な遺産って訳だ」


 と、ノクシアスは立ち上がって、アイカの前に腰を降ろした。

 目線を合せてまっすぐ見詰めてくるノクシアスの視線が、優しいものであったことに、アイカは戸惑った――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

転生幼女は幸せを得る。

泡沫 呉羽
ファンタジー
私は死んだはずだった。だけど何故か赤ちゃんに!? 今度こそ、幸せになろうと誓ったはずなのに、求められてたのは魔法の素質がある跡取りの男の子だった。私は4歳で家を出され、森に捨てられた!?幸せなんてきっと無いんだ。そんな私に幸せをくれたのは王太子だった−−

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界に転生したら?(改)

まさ
ファンタジー
事故で死んでしまった主人公のマサムネ(奥田 政宗)は41歳、独身、彼女無し、最近の楽しみと言えば、従兄弟から借りて読んだラノベにハマり、今ではアパートの部屋に数十冊の『転生』系小説、通称『ラノベ』がところ狭しと重なっていた。 そして今日も残業の帰り道、脳内で転生したら、あーしよ、こーしよと現実逃避よろしくで想像しながら歩いていた。 物語はまさに、その時に起きる! 横断歩道を歩き目的他のアパートまで、もうすぐ、、、だったのに居眠り運転のトラックに轢かれ、意識を失った。 そして再び意識を取り戻した時、目の前に女神がいた。 ◇ 5年前の作品の改稿板になります。 少し(?)年数があって文章がおかしい所があるかもですが、素人の作品。 生暖かい目で見て下されば幸いです。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

知識スキルで異世界らいふ

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~

九頭七尾
ファンタジー
 子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。  女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。 「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」 「その願い叶えて差し上げましょう!」 「えっ、いいの?」  転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。 「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」  思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。

処理中です...